第114話 新たな動き その二

 魔人の住む領域?国?については、以前、仮の名前を付けましたよね。

 彼らの呼称名はあるにはあるのですが、とても発音がしにくい上にやたらと長い名前なので、太濤洋にあるボルスキィ・オスロフの勢力をサブA、ベガルタ北大陸の勢力をサブB、コラルゾン大陸西方南部の勢力をサブCと勝手に仕分けています。


 サブBとサブCの連中が、それぞれ、禁忌に近いような大魔術の最終奥義を使い、他方を殲滅しようとしているわけですが、私は多少の迷いはあったものの、彼らが潰しあった後で、魔人の殲滅を図ることにしました。

 ある意味でとても姑息で卑怯な手ではあるんですが、魔人との戦いに正邪は無いと思っています。


 サブAの住人はともかくとして、サブBとサブCのこれまでの活動記録を見る限りは、彼らは魔人族以外の生き物に一切の価値を見出してはいません。

 彼らからすれば、ヒト族もその他の亜人族も等しく地べたを這うアリ以下の生き物であり、彼らの安寧な生活圏を脅かす恐れのあるただの害獣にしか過ぎないのです。


 従って、面白がって狩りをし、実験の被検体や検証場所として集落を狙っても居るのです。

 サブBとサブCの勢力争いが激化している今、彼らの意識はヒト族その他の地域から離れていますが、これが停戦若しくは終戦になれば、ベガルタ及びコラルゾン大陸のヒト族等の領域に魔人族が触手を伸ばすことは火を見るより明らかなのです。


 彼らはヒト族等の社会にとっては間違いなく敵にしかなりません。

 彼らのメンタリティでは、劣等種族でしかない多種族との共存など絶対にありえないからです。


 趣味でアリを飼う人は居るでしょうけれど、アリと一緒に共存を図ろうとする人は居ませんよね。

 もしあるとすれば、そこに何かの利を認める場合だけのはずです。


 必ずしも彼らも種族の殲滅を図ろうとはしていないようなのですが、ゴキブリと同じような嫌悪感を抱かれれば殲滅の対象にもなり得るけれど、現時点ではそこまでも行っていないという事だけのようなのです。


 これまで色々と観察をして、そのように判断できました。

 サブAについては、島嶼部から出て来ない限りは、危険因子にはならないでしょうから当座は放置ですが、サブB とサブCはヒト族等の領域と接しているだけに放置できないのです。


 そんなわけで彼らの作戦に乗っかって、私も色々と準備を始めました。

 私は飛行艇を使って少々遠出をしています。


 イスガルド世界は地球のような惑星です。

 従って、太陽に当たる恒星の周りをイスガルド世界の惑星が公転しているわけですけれど、その外側の公転軌道に前世の地球世界にもあったような小惑星帯アステロイドベルトがあります。


 どのようにしてこの小惑星帯が生じたかは知りませんが、恒星系が誕生するときに惑星になりそこねた星間物質が固まったものか、又は、何らかの事情で破壊された惑星若しくは准惑星のなれの果てなのかも知れません。

 そのアステロイドベルトをあちらこちら探し回って、12個ずつ二群に分けて小惑星を捕まえました。


 小惑星の大きさは、直径が20m~27m程度のものです。

 この程度の大きさのモノと数量ならば、楽々と私の亜空間に収納できちゃうんですよ。


 これで何をするかって?

 勿論、人工のメテオにしちゃうつもりなのです。


 彼らの領域に張っている結界は、非常に強力ではありますけれど、流石に前世の水爆の破壊力に対抗できるほどではありません。

 私が選んだ小惑星はいずれも非常に硬い物質でできています。


 おそらくは、崩壊した惑星の中心部にあった物質かもしれないと思っています。

 その大部分が合金のような金属塊なので、重量もおそらくは6万トンを超えているはずなのです。


 これ以上の大きさのメテオになると、地上に衝突した際にイスガルド世界の地殻にも影響を与えかねませんのでこのサイズにしました。

 前世での知識によれば、隕石の大気圏突入スピードは、毎秒10㎞以上のはずですが、私は上空200キロの高度から、毎秒200mの初速度を付けて落下させる予定です。


 私の記憶では、2013年に発生したロシアのチェリャビンスク州の隕石落下事故においては、 直径が数mから15mで隕鉄を含む硬い物質と見られていたはずです。

 隕石の質量は10トンから1万トンまで所説ありますが、落下速度は秒速15km以上で、隕石が分解したのは高度30kmから50kmではないかと見られてました。


 同じくロシア領内に落ちた隕石として名高いのがツングースカの大爆発でしょうか。

 直径50~60メートルの隕石が大気中で爆発して強烈な爆風が発生し、爆心地から半径約30~50キロメートルの範囲の森林が炎上、東京都とほぼ同じ面積ぐらいの範囲にあった樹木がなぎ倒された事件です。


 この時の爆発が隕石であるとすればケイ酸塩を含む隕石だったのではないかと言う説をサイエンスか何かで読んだ記憶があります。

 余計な話は置いておいて、私のメテオは空気抵抗が無ければ、理論的には約10分後に最終速度が毎秒6㎞以上になって地表に激突することになります。


 但し、実際には、200㎞の上空だと重力も減少していますし、成層圏内に入ると空気抵抗も大きいためにさほどの速度にはならないはずですけれど、その衝突エネルギーはメガトンクラスの小型水爆程度にはなるはずなんです。

 これを彼らの領域にめがけて最初に6個分散して落とし、様子を見て更にもう6個落とすつもりでいます。


 この攻撃は、多分私が張った結界でも防ぎきれませんけれど、もし彼らが生き残れれば、私は彼らから明確な敵として認定されるのでしょうね。

 但し、卑怯と言われようが、私は最後まで姿を現すつもりはありません。


 いずれにせよ、彼らの拠点が潰せたなら、後は秘密裏に個別の残党狩りをするつもりでいます。

 きっと、今の私はとっても悪い顔をしているんでしょうね。


 ◇◇◇◇


 半月後、魔人族の者が言う「アン・タンティェ」の発動計画が実施される運びになりました。

 理屈はよくわかりませんが、「アン・タンティェ」は、彼ら特有の「合」と「衝」という天体の動きに関係があるようで、計画実行日に大魔術を発動すると効果が大きくなるらしいのです。


 従って、サブBとサブCが同じ時期に、発動することになりました。

 しかもやはり理由はわかりませんが、南中時に決行なのだそうです。


 私は、その時間の少し前には、サブBの拠点の上空、高度200㎞にあって飛行艇で待機中です。

 最初にサブB、次いでサブCを攻撃する予定ですが、互いの攻撃の結果を見てからにする予定でいます。


 そうして南中時に互いの攻撃が同時に始まりました。

 互いの結界に向けて遠距離飽和攻撃の始まりです。


 攻撃が始まって多分数分間は結界がっていたようですが、ほぼ同時に全面崩壊し、サブB、サブCともに飽和攻撃にさらされました。

 然しながら、地下居住区の大部分は破壊されたものの、更なる深部にある居住区の一部は未だ機能を保っているようでした。


 そこですかさず、私がその生き残っている箇所にめがけてメテオを落とします。

 概ね7分後には、サブBの二か所で、8分後にはサブCの一か所に数ギガトン相当の爆発が起きて、彼らのアジトを吹き飛ばしました。


 土煙が物凄いです。

 所謂いわゆる巨大なきのこ雲が立ち上がりました。


 しかも「アン・タンティェ」の攻撃の後ですから、余計にキノコ雲の噴煙が巨大なんです。

 これは環境破壊になるかもしれませんね。


 でも、避けられない被害なんです。

 幸いにして核兵器ではないので放射能による被害はありません。


 もしかすると、世界の平均気温が少し下がるかもしれません。

 昔々、1833年に起きたインドネシアのクラカタウ島の噴火では、島の半分が吹き飛び、津波で周辺に大きな被害を与えましたが、同時に四度にわたる噴火で巻き上げられた噴煙は、地球を取り巻いて、二年にわたって世界の平均気温を下げたと言われています。


 或いはベガルタ北部の住人で空から降って来た二本の光の矢とその後に起きた爆発音それにきのこ雲をを見た人が居たかもしれません。

 コラルゾン大陸の南部ではその光の矢が一本でした。


 この私の攻撃の後では、サブB 及びサブCの領域ともに生存者は見当たりませんが、彼らの居住区から外出していた魔人も少なからず存在すると仮定し、用心を重ねることにしましょう。

 サブAについては、ある意味で現状は無害なので、引き続き動静監視だけに留めます。


 過去において、一度も、ヒト族等に敵対もしていない者までも殺戮するほど、私はバーサカーにはなっていないつもりです。

 サブBとサブCは、結局自分たちで潰しあって自滅しましたけれど、とどめを刺したのは間違いなく私ですよね。


 私のカルマとして、生涯この大量殺戮の罪を背負って行きます。

 私が殺したのは、サブBで数十名、サブCで十数名と言ったところだと思います。


 さてさて、この魔人対応作戦のために通算で5日ぐらいの時間を潰してしまい、弟子の養成、魔法師の研修、ヒーラーの養成にも計画の遅れ等の支障を生じています。


 そういえばお隣の親分さんからの依頼事項も一つ残っていましたね。

 我が家に帰宅したなら、早速計画の立て直しから始めなければなりません。


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