第109話 結界装置の修理 その二

 エリカでございます。

 ラムアール王国の王都の結界装置を修理しているわけですが、実のところ、王都には二つの結界装置がありました。


 一つは、王都全域を覆う結界でこちらの方は範囲が大きいのですけれど、出力の小さいものなんです。

 そうしてこの結界は、人の出入りには支障を与えるものではありません。


 今一つは、王宮の結界でこちらは範囲が狭いのですけれど結界の出力は大きなものです。

 何故に、このような二つの結界造ったかというと、王都を建設した当初は王都の郊外にも結構な数の魔物が生息していて、王都が襲われることもあったたびたびあった様なんです。


 そのために王都の周囲に高い城壁を設けて王都を守ったのですが、そのうちに結界発生装置を考案し製造した先人が現れて、これで魔物の侵入を拒むようになりました。

 本来であればこのような装置は地方都市でも使用できるようにすべきなのでしょうけれど、装置の秘密保持のためと製造者の利益を守るために手に入れるためにはかなり法外な値段を支払わねばならなかったようです。


 勿論、国外への持ち出し、販売、秘密の漏洩は禁止されています。

 王都全域の結界については、王家からの出資で結界装置が設置されましたが、設置費用が高すぎて地方へは普及しなかったのです。


 王都を守護する結界は、王宮内の王家専用の礼拝堂の地下に設置されました。

 この装置は、亜竜の魔石を利用しているためにさほど大きなものではないのですけれど、出力が弱いために十分間に合ったようですし、現状では王都周辺の魔物がほぼ退治されてしまったことから、魔物の侵攻から守る結界は今はほとんど機能していません。


 従って、この結界装置はどちらかというと修理が不要のものらしいのです。

 一方で、王宮の結界装置は、王都の結界装置が設置された後に、刺客が王宮内に潜入し、要人を狙った犯行が実行されたことから、王都の結界とは別に王宮の城壁を囲むような結界を造らせたものなのです。


 私が考えているのは、そもそも王宮の結界装置ではないのですけれど、まぁ、仕方がないので両方の面倒を見ることにします。

 王宮の結界装置については、新たに作った小型の結界発生装置で十分かと思いますが、問題は仕様ですね。


 王都の結界は基本的に魔物対応であったわけですが、さほど強くもない魔物をはじくことはできても魔人の侵入を拒むことはできません。

 それを知らずにいた頃、私が転移魔法を使っても、王都の結界も王宮の結界も機能しませんでしたから、転移魔法に対抗できるものではないんです。


 今回私が王都用(王宮用ではありません)に設置しようとする結界装置は、転移魔法に対抗できる代物です。

 無論、プログラム代わりの魔方陣に入れ込む内容により、魔物も締め出すことが可能になっています。


 魔物を締め出す魔方陣を設置した場合の欠点は、テイムした魔物であっても締め出されることでしょうか?

 無論,それに対抗する魔道具を製作して装備させることでその制限から外れることはできますけれど、そうした物を作るとあちらこちらにばらまかれることにもなりかねません。


 特に、魔物どころか魔人が利用しても侵入できるようになりますから、できればそうした例外は作らない方が良いでしょうね。

 この辺は依頼主である王家若しくは宰相とご相談ですね。


 王宮用の結界装置を含めて防御を二重にすることも可能ですが、どちらかというと無駄ですよね。

 ダブルにすることで安心を得られるのかもしれませんが、魔人に王都の結界を破られた時点で王宮の安全は保障できないのです。


 従って、王宮の結界はむしろ王族等特定の者に対する害意を持った者に絞った方が良いと思うのです。

 そもそも王宮の結界を設置した理由が刺客対策であったはずです。


 その当時でも王宮に入るにはいくつかの検問を通過せねばならないはずでした。

 仮に結界を設けてもそこを通過させるには門番を置いて通過させても良いのかどうかを判断することになるでしょう。


 そんな体制でも抜かれて刺客が王宮内に潜入したのですから、従来と変わらぬ検問体制では賊の侵入を妨ぐことはできません。

 それならば、いっそのこと、害意の有無によって通過させるか否かを結界装置自体に自動的に判断させた方が無難です。


 一部に闇魔法の行使を用いた結構面倒な魔方陣を描くことになりますが、私はその方がベターだと思います。

 今、取り敢えずは、設置すべき王宮の結界機能について、王家及び宰相へ確認が取れて、王宮用の新型結界装置を設置しました。


 新設したのは、新たに作った結界装置であり、当該装置の開放可能な部分には魔法によって鍵をかけられるようになっており、当該魔石の台座に描いた魔方陣は、将来的に魔方陣の知識がある者ならば相応に改定もできるようにしています。

 そうして、旧装置を停止し、新型装置を稼働させ、今は、旧装置をばらし始めたところです。


 この新型装置に使用しているのは、ゴブリンの空魔石で五千個分ほどの融合魔石ですが、魔方陣の効率がかなり上がっていますので、これだけで百年程は十分に耐えられると思います。

 魔方陣については永年使用による劣化という問題がありますのでずっと大丈夫だとは言えませんから定期的なメンテナンスが必要なのです。

 

 次いで礼拝堂の地下にある結界装置にも手を付けました。

 王宮結界用に用いられていた結界装置をばらして、移送し、礼拝堂にあった装置の更に下に地下施設を造り設置しなおしています。


 その際にドラゴンの魔石と称されるモノに魔力を充填しましたけれど、これだけで半月ほどもかかりました。

 やっぱりドラゴンの魔石って容量が大きいんですね。


 礼拝堂の地下にあった旧型装置はダミーとしてそのまま放置です。

 万が一、ここに賊が侵入したとしても、新設の結界装置そのものを破壊することはできないわけです。


 最終的に、王宮用の新型装置を一旦止めて、王都用の結界装置を作動させ、その上でその結界内部に王宮用の結界装置を発動させて修理は完了です。

 因みにダミーとして残した王都用の旧型結界装置については、魔方陣を一部書き換えていますので、結界装置としては満足に機能しないものです。


 王都用の新型(改造?)結界装置については、放置したままでも、人の出入りが寝ければ多分数百年は持つはずです。

 王宮用、王都用、いずれの結界装置も、放置すれば、いずれ機能しなくなりますけれど、装置の収まった部屋とは別の地上の部屋で入力用の魔石版に魔法師が魔力を込めれば相応に魔力は補給され、魔石の寿命が延びるはずです。


 王宮魔法師団の魔法師については、一月に一度、必ず王宮結界用と王都結界用の魔石板を使って魔力を注入することを義務付けてやることにしました。

 この魔石版の入力装置が故障したらどうするかって?


 それは、私にくっついた魔法師のジャンセンと錬金術師のホールマンの仕事です。

 宰相にそう申し上げておきましたら、当の二人から泣きが入りました。

 

曰く、


「命により、確かに最初から最後までエリカ殿の設置作業に居合わせました。

 然しながら、肝心の中身は一割ほどしかわかっておりません。

 これで壊れた際にあの装置の補修をせよと申されても、おそらくは全くできません。

 何とかできるようにしてはもらえませんか?」


 とどのつまり、宰相閣下からのたっての願いにより、この中年男二人をカボックに派遣させて、暫く研修をすることになりました。

 因みにこの二人はどうも頭が固そうなので、王宮魔法師団の若手一名、錬金術・薬師ギルド所属の若手一名を追加で派遣してもらうことにしました。


 中年組二人を教育したところで先が見えていますから、その二人にも相応の苦労はしてもらいますが、次代を担う若手に期待をしましょう。

 たまたま、カボックの我が家の近くに古家の売りが出ましたので、これを購入して内部を改装して新たな寮にすることにしました。


 現状の我が家でも二段ベッドを利用したりすれば、四人程度の収容は可能なんですが、この際ですから、別宅で寝起きしてもらうことにします。

 そうして、この四人の寮生を面倒を見る寮母さんも雇うことにしました。


 以前から居るマルバレータとヴァネッサの二人はそのまま本宅の方で、別宅の寮母さん二人を雇うことにしました。

 私は結構な金持ちですから少々の雇人が居ても家計には響きません。


 羊皮紙ギルドもようやく紙の生産を始めたようです。

 特許解禁の期限はまだ先なのですけれど、羊皮紙ギルドが大量の紙を生産しだしたことで、単純にその売り上げの一部が私の商業ギルド口座に入ってきますからね。


 それだけでも実は左うちわなんです。

 ラムアール国内にとどまらず、ほかの国でも羊皮紙ギルドのある所で紙の生産が始まっていますから、収入が減ることは無いのです。


 結局、延べで50日ほども王都に出かけていました。

 その間に、カボックの我が家ではさしたることはありませんでしたが、弟子のグレンとイェルチェが随分と首を長くして私の帰りを待っていたようです。


 家を空けて帰った時に、家の者が『お帰りなさい。』と声をかけて迎えてくれるのが何よりうれしいモノですね。

 しみじみと帰ってきたという実感が湧きます。


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