第107話 久しぶりの王都

 ラムアール王国の外周に沿って、結界装置を設置する作業がようやく一段落です。 

 但し、今のところドーナッツ状の結界が何とか出来た程度で、その中央部分上空には何もない訳なのでそこが危険地帯ということになりますよね。


 ですから今後は中央部の穴埋めをして行かねばならないわけです。

 この時点では、王都の優先順位が上がりますので、王都を再訪して王宮の地下にある結界装置の修理をすることになったわけです。


 事前に内緒で訪れて見てはいるのですが、そのことは素知らぬ顔で、サルザーク侯爵に申し入れを致しました。


「取り敢えず、王国の外周を覆う結界は設置し終わったので、次いで王国内の結界の無い地域を含めて結界を順次設置してまいりたいと思います。

 その際に王都の結界若しくは王宮の結界の装置との関連性もありますので、一度現物を確認しておきたいのですが。私が確認に行くことは許されましょうか?

以前、王宮から修理の申し出があった際は多忙を理由に御断り申し上げていましたので、今更必要無いと言われればそれまでの事でございますが・・・。」


 サルザーク侯爵夫妻は、口を揃えて言いましたね。


「いや、いや、そんなことはあるまい。

 そもそも修理を行える者など王都には誰もおらぬのじゃ。

 頼むとすれば其方にしか頼めまい。

 こちらから王都に打診して、その返事を其方に伝えよう。」


 そんな話になり、サルザーク侯爵にお話ししてから、半月後には王都を訪問することになりました。

 今回はメイド服姿での参内は必要が無く、私が単独で王宮におもむけば良いようです。


 まぁね、私が参内するたびに侯爵がついて行くのもおかしな話です。

 従って、今回は、サルザーク侯爵家の家紋入り袱紗ふくさと王宮から預かっている宝剣を活用させていただきます。


 王都の門を通過する際には袱紗を、王宮内に入るには宝剣を見せることになりますね。

 王都の結界装置の修理には多分いろいろな物が必要なわけですけれど、敢えて素材等は持参しません。


 王都で調達することにしますし、その経費は王宮で負担していただきましょう。

 別に金儲けでやっていることではありませんけれど、慈善事業でやっているわけでもありません。


 それなりの負担はしてもらわないと王家としてもメンツが立たないでしょう。

 但し、そのことで王都での滞在が伸びるかもしれないので、家人にはその旨を伝えています。


 今回の王宮への参内で、きっと宰相からはお金のことについても話があるでしょうね。

 王宮側も私の転移魔法は知っていますので、サルザーク侯爵から連絡が入った時点で、準備をし、そうして王都の外、サルザーク侯爵や婦人と同行する際に利用する街道脇に転移しました。


 ここから徒歩でも四半時とかからずに、王都の門に達することができます。

 一応袱紗を持っていますので、王都に入るために並んでいる列とは別の貴族用の門を目指します。


 袱紗を見せるとすぐに通してくれました。

 予想と違っていたのは、門を潜って内部に入ってからでした。


 王家の家紋を付けた馬車がそこに待っていたのです。

 何時から待っていたのかは分かりませんが、王家から侯爵家に連絡を入れた時には多分馬車の手配をしていたのでしょうね。


 因みに王家のメイドの一人で私も何度かお会いしているクラリッサ嬢が馬車の傍で待っていてくれました。

 きっと私の顔の確認のためでしょうね。


 そんなことから私は王家の馬車に載せられ、近衛騎士に守られながら王都の大路を進んでいるところです。

 一応王宮参内の予定でしたから、平民としては過ぎるほどの衣装を着てきたつもりでしたが、これで本当に間に合っているのかどうか、そちらの方が気になっている私です。


 冒険者としてのエリカなら、もう少しラフな格好なんですけれど、今回はどちらかというと錬金術師の役割が非常に大きいのです。

 そんな他愛もないことを考えているうちに王宮に到着しました。


 一応王宮の門はフリーパスですが、玄関と思しき所からは徒歩になります。

 王宮というのは馬鹿みたいに広いんです。


 玄関からだと多分、二、三キロも廊下を歩かないと内宮には辿り着けません。

 内宮で更なる確認を受けてから最初に国王様との謁見です。


 言葉遣いは違いますが、『ヤッホーっ、ご機嫌如何?』、『結界装置の様子を見に来ましたけれど見せてくださいます?』と国王様に王宮参内のご挨拶をするのです。

 物凄く短縮しましたけれど、要点はそんなことですが、実際には国王様とのこの簡単なやり取りだけで四半時はかかります。


 王宮での慣行というか礼儀というかひたすら面倒というしか無いですねぇ。

 そうは言いながらも折角サルザーク侯爵のメイド長から教わった礼儀ですので、間違いのないように実践するのみなんです。


 実は、王宮に頻繁に訪れるになって、メイド衣装を貸し与えられて間もなくメイド長が率先して教えてくれました。

 やはり、侯爵家のメイドの格好をしている者が王宮で失礼をしてはいけないという事でしょう。


 国王様へのご挨拶が済むと、今度は別室で宰相のクルーベル侯爵様と打ち合わせなんです。

 クルーベル宰相が言いました。


「エリカ嬢には、度重なる国難への対応について、その貢献を誠に感謝している。

 王家に成り代わりまして厚くお礼を申し上げる。

 此度はまた、王都および王家の結界装置の確認に来たという話であるが、そもそも、サルザーク侯爵からはこの王国の外周に沿って魔人対策用の結界装置を設置しているとか。

 本来であれば国がなすべきところを個人にやらせているとことに宰相としては忸怩じくじたるものを感じているのだが、生憎と国が抱える魔法師や錬金術師のギルドでも大規模結界装置を造れる者も修理ができる者もおらぬ状況じゃ。

 ここは其方にお願いするしかないのじゃが、その労についてはきっと報いるように手配する。

 それとは別に此度の調査、場合によっては設備の修理や改修などが追加としてあり得ると思うのだが、見込みとしてはどれぐらいの日数と費用になりそうか教えてはくれぬか?」


「生憎と、王都若しくは王宮の結界装置を私は見ておりませんので、どれほどの時間がかかるかは不明です。

 また、仮に修理が必要な場合、その修理に必要な素材を入手する必要が御座います。

 生憎とどんなものが必要かは現段階では不明でしたので、準備することが叶いませんでした。

 従って、必要とする素材が生じた場合、その調達をお願いできましょうか?」


「あぁ、もちろんじゃが、必要なものが有ればすぐに言うてくれ。

 そのために調達の担当者を其方に付けよう。

 して、それは明日からでも良いのか?」


「いいえ、叶うならば今日これより結界設備そのものを確認いたしたく、できればその担当者にも随行願わしく存じます。」


「なんと早速にか。

 分かった。

 すぐに手配いたす故、四半時ほど待ってくれ。」


「後は、王宮の魔法師一名、それと専属の錬金術師が居ればその者もお願いできましょうか。

 その二人は向後こうご、王都にある結界装置を維持管理をしていただくことになります故、それなりの人物をお願いします。

 軽輩者では役には立ちません。

 この両名、遅くとも明日までには選抜方お願いします。」


「おう、分かった。

 明朝までには魔法師と錬金術師を揃えておこう。

 後、其方の居所と従者が必要じゃな。

 居所は王宮内のしかるべきところに用意する。

 従者は侍女を付ける予定じゃが、当座要る物や人材は無いか?」


「住まうところをご用意いただけるならば、できる限り結界設備に近いところをお願い申します。

 食事はなんでも結構で、好き嫌いはございませぬが、できますればゲテモノの類はご勘弁を。」


「ふっ、分かったそれも侍女になるものに言うておこう。」


 あ、宰相が微笑ほほえんだ。

 へぇ、そんな顔もできるんだぁ


 それから四半時後に調達担当者がやってきた。

 カバンを肩から斜めにかけているところ見ると筆記具等を持参したのだろう。


 多分五十路いそじに入ったであろう男性だ。

 その男性と一緒に結界設備までの案内人も衛士を同道してやってきた。


 それからすぐに宰相との会見室を出て、王宮の地下施設に向かった。

 ある意味で防衛のかなめなので、いくつもの重厚な扉と迷路を経て、最奥部の地下室に到着した。


 うーん、遠すぎるよね。

 最寄り地表からここまで最低でも半時近くかかるというのは、何かあっても対応できないのじゃないかな。


 警護が必要なのは認めるけれど、無駄に過ぎては邪魔になると思われる。

 維持管理をする者が地表に住んでいれば、最低でも通勤に片道1時間近くかかることになる。


 その者が王宮に居なければもっと時間がかかることになるでしょう。

 まぁ、後で何らかの改善方法を考えましょうか。


 それにしても面倒な話だねぇ。


 ◇◇◇◇


 ワシは王宮内の調達部で一級調達吏を命ぜられているバンス・ミューロンだ。

 ミューロン家は、代々、王宮の官吏として働いており、我が家も男爵位を賜っており、領地を持たぬ法衣貴族の端くれなのである。


 宰相からの仰せにより、何やら、王都を守る結界の確認修理に来た技術者に同行して、必要な素材を調達せよという。

 何故、管理職にも近いこのワシが選ばれたかというと、そもそも王宮結界装置の存在そのものが秘密なので有り、その設置場所はもちろん、修理に要する部品なども知られてならないものなので、ワシが選ばれたようじゃ。


 従って、ワシが見聞きしたことは生涯秘密にしなければならないじゃろうな。

 そのような要職に選ばれた名誉で晴れがましく思っていたところなのじゃが、当該技術者のところに来てみれば、何とまだ若い女であった。


 ウーム、この者が美人であることは認めよう。

 が、仮にも王都で最も重要な設備であるはずの装置を確認し、修理を任されるものがこのような若輩者とは何かの間違いではないのか?


 ワシは、そう思ったのじゃが、側に宰相が居て紹介をなしてくれるのだから本物には違いないのじゃろうな。

 不承不承ながら、ワシはそのエリカと名乗る技術者に付くことになった。

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