第102話 防護のための魔道具 その二
一応直径60センチ程度の人工魔石を準備し、それに魔力を限界近くまで充当することができ、なおかつ、魔人達の使っている結界の魔方陣を参考にして新たな結界発生装置を作ることができました。
本当は、分業すること等により、他所でも似たような品を造ってほしい訳なのですが、生憎と廃物の魔石を融合させて人工魔石を作ることや、それに魔力を充当すること、更には精緻な魔方陣を準備することが、一般の魔法師や錬金術師ではできそうにないかもしれません。
因みに錬金術の弟子であるグレン・ドーセットに、あくまで他の者には内緒だよと断ってから、くず魔石の融合ができないかどうかやらせてみましたが、無理のようでした。
まぁ、彼の場合は見習いですからね。
端からできるとは思ってもいませんでしたが、もしかしたらという思いでやらせてみました。
次いで、私の元を巣立っていったレーモンに携帯無線機で連絡を取り、同様に秘密厳守を条件に要領を説明して試してもらいましたがやはりだめでした。
カボックの錬金術・薬師ギルドに相談することも考えましたが、リリーによれば魔石の融合はどうもこの世界では知られていない技術のようです。
ギルドは国に関わりなく、情報交換をしていますので、兵器転用にもなりかねない魔石の融合技術が他国に流出すると危険です。
ギルドには相談しないことにしましたが、もしするとなれば国の了解を得てからの方が良いでしょう。
魔力の充当については、魔法師ギルド向けの話になるけれど、例えばゴブリンの魔石程度に魔力を充当するにしても、依頼料が高価になりすぎるために、これまで試したことが無いはずという情報をリリーから得ました。
確かにゴブリン魔石に魔力を充当して再生利用することが簡単にできるなら、これまでもやっていたはずですよね。
治癒魔法と同様にそこに金儲けが関わってくると費用対効果のコスパが悪いので誰もしないようです。
確かに魔法師の連中は、左程のことができないのに結構
灯りの魔道具用の魔石如きを再生するために魔力を使うようなことはしないのでしょう。
まぁ、領主なり国王からの依頼ともなればそれなりに動くかもしれませんが、彼らは絶対にただでは動きません。
安い労賃であれば私が出しても良いのですけれど、絶対にそうはならないのが目に見えていますから、私から魔法師ギルドに接触するのは避けることにします。
その代わりにサルザーク侯爵のところに行き、情報交換をすることにしました。
情報交換とはいいながら、私から伝える情報がほとんどを占めましたけれどね。
私からは、魔人同士の戦争についても侯爵にお伝えしましたが、情報源は秘匿しています。
私が飛行艇を使って監視しているなどと言えばすぐに欲しがる人達ですからね。
いくら親しくても出してはいけない情報もあるんです。
私の話を聞いて、サルザーク侯爵が言いました。
「エリカ嬢の話では、魔人同士が争っている最中なので、当座、我々のところへは魔人が現れないだろうということなのだね?」
「はい、そのように考えています。
但し、先ほども申し上げたように少なくとも二つのグループが興亡をかけて戦っていますが、このほかにも他の大陸等に魔人が存在している可能性もゼロではありません。
これまで私が討伐した魔人がどのグループに属していたかは定かではありませんので、仮に抗争中の2グループ以外の魔人であった場合、引き続き厳重な警戒態勢は必要でしょうね。」
再度、サルザーク侯爵です。
「ふむ、エリカ嬢の言うことはわかるのだが、如何せん、我らには魔人と対抗する手段がなさそうだ。
いまのところ、魔人と対抗できるのはエリカ嬢以外には居ないのじゃないのかね?」
「そうかもしれませんね。
でも、私も万能というわけではありませんし、前にも申し上げたように複数の魔人が同時多発でゲリラ的な攻撃を行えばそれを防ぐことができません。
ですからお国の方でも対策をして欲しいところなのですが・・・・。」
すると、またまたサルザーク侯爵が懸念をぶつけてきます。
「それなんだが、エリカ嬢の話では王都若しくは王宮の結界ですら、魔人の侵入を防げないのではないかと懸念を漏らしていたようだね。
王宮の結界については、我々が保有する最高の結界であり、あれ以上のものは作れないとされているのだが、そこのところはどうなんだろうね?」
うーん、私は苦情担当係や困りごと相談所ではないのですけれどねぇ
「王宮の結界がある意味でざるに近い能力でしかないのは私も確認しています。
少なくとも私程度の能力を持っている魔人が一人居れば、内部に気づかれずに侵入し、結界発生器そのものを即座に破壊できるでしょう。」
「つまりは、エリカ嬢はそれができると?」
「試してはいませんが、やろうと思えば多分できますね。
もしかして、侯爵様はそれを試すことをお望みですか?」
「いやいや、そんなことは微塵も考えていないのだが・・・。
エリカ嬢は、今ある結界を強化することができないのかね。」
「今日お邪魔したのは、その件でご相談があってまいりました次第です。
今、この場で現物をお見せすることは当然にできませんが、おそらく王宮で使われている結界発生装置と同等以上の結界発生装置が造れるものと考えています。
但し、それには非常に大きな魔石が必要になります。
私の見るところ、王宮の結界発生装置にはかなり大きな魔石が使われていると思いますが、侯爵様はご承知ですか?」
侯爵の傍にいるエマ夫人が口を開きました。
「それについては私から教えましょう。
王宮の結界発生装置に使われているのは200年程前に討伐された地竜の魔石です。
大きさは一尋の半分よりも少し大きいぐらいかしらね。
多分ですが、この大きさの魔石は他の国にも中々無いはずですよ。」
「逆に言えば、同じものは入手が難しいということでしょうか?」
「ええ、その通りよ。
もし同じようなものを持っているとすれば、ローゼル帝国かアルダイル皇国辺りは持っているかもしれませんね。
でも、どのような魔石で結界を作っているのかについては、それぞれの国で秘密とされているからわかりません。
ラムアール王国でも同様ですけれど、あなたはこれまで何度も王国の危難を救ってくれたお人ですから教えましたけれど、王国の秘密ですから他言無用ですよ。」
「わかりました。
その件については、誰にも言いません。
で、これからお話しすることも大事なお話でございますけれど、実は王宮で使っている魔石以上の魔力を持った魔石を王家が保管していますよね。
私が討伐した魔人の魔石がそうです。
これまで延べで魔人六体の魔石を入手していますが、場合により、あれを用いれば同じような結界発生装置は作れないのでしょうか?」
私はあえて、アルファ島で漁夫の利で得た魔石の存在を隠しています。
利用できるとなれば、目の色を変えるのが人の
言わずに済むことは黙っておきましょう。
エマ夫人が答えてくれます。
「確かに、陛下の話では王宮にあるドラゴンの魔石以上に力を感じさせるものだとか・・・。
でも、私の覚えている限り、あの結界発生装置は、使用する魔石の性質や発する力に合わせて魔方陣を作っていると聞いたことが有ります。
180年以上も昔に、伝説にもなっているカロウゼン大魔法師が魔法陣を設計し、同じくラムアールの至宝とまで唄われたエミゼル錬金術師が造った装置なのです。
現在の魔法師では、魔石の質や力に応じた魔方陣を設計できるかどうか不明ですし、同様に現代の錬金術師では装置の修理は何とか行えても、新たに作り直すことはできないだろうと言われているものなのです。
ですから、仮に似たようなものを作っても、あくまで似て非なるモノではないのかしらね。
もしや、エリカ嬢ならば作れるのかしら?」
此処でも精神年齢での老婆は平気で嘘をつくのです。
「そうですね。
試しては居ませんが、多分作れるかもしれません。
但し、魔人の魔石は非常に目立つような気がします。
魔石の発するオーラが独特ですから、もしあれを結界発生装置に使うと闇夜の光のように魔人の標的になる恐れが御座います。
ですから、王宮にお渡ししたのは二個まで、それ以上は目印になりかねないと思って私が保管しています。」
「それでは、エリカ嬢が標的になるのではなくって?」
「私の場合、魔石のオーラを遮断する別の空間に保管していますから、そこから出さない限り大丈夫だと思います。」
「えっと、インベントリ?だったかしら?」
「いいえ、あちらは結構開け閉めが頻繁ですので、力場というかオーラが漏れることもありますので、まったく異なる空間に作った倉庫ですね。」
「あら、そうなの?
で、それをいつも持ち歩いている?」
「はい、そうですね。
家に置いておくのも不用心ですから・・・。
それよりも、先ほどエマ様が申された通り、魔石の性質に応じた魔方陣を描くのは確かに難しいでしょうね。
では、その性質が一定で、力のみが大きい場合はいかがでしょうか。
それでも現代の魔法師や錬金術師には扱いきれませんか?」
「うーん、エリカ嬢並みの錬金術師や魔法師が居れば別なのでしょうけれど、あまり期待しないほうが良いのじゃないかしら。」
「そうですか・・・。
実はサルザーク侯爵領全体を覆うような結界は間違いなくできると思います。
但し、その一つを作るのにかかりっきりになっても三か月近くを費やすことになるのだろうと思います。
仮にラムアール王国全体を結界でカバーしようとするならば、おそらくそのような装置と魔石が最低でも20個近くが必要になるかもしれません。
私一人でその量を作るとなると他の仕事ができなくなるでしょう。
ですから、王国側で結界発生装置を作れそうな人物を手配できないでしょうか?
一つは、灯火に用いる魔石で使用済みのものを用いて、融合させることのできる錬金術師です。
次いでその融合させた人工魔石に魔力を充てんし、色が黒くなり爆発寸前にまでできるような魔法師ですね。
この二つの作業ができる者が手配できれば、分業化できると思います。
但し、能力的にはかなり高いものが要求されます。
錬金術師は、半時の間に20個ほどの廃魔石を融合できなければなりません。
当初は慣れていないでしょうから多少遅くても構いませんが、少なくとも半時で二つの魔石を融合できないようであれば作業に当たらせられません。
魔法師も同様ですね。
廃魔石一つに魔力をほぼ満杯まで充てんするのに、半時もかかっているようでは使い物になりません。
最終的に魔力を充てんするのは、数万個以上の廃魔石の融合体になるでしょうし、少なくとも1年以内にそれができるようにならなければ分業は難しいでしょうね。」
侯爵が言いました。
「なんと、そんなことを・・・。
因みに、魔石の融合など聞いたことも無いのだが、エリカ嬢はできるということなのだね?」
「はい、御目にかけましょうか?」
そう言って、私は用意していた新品のゴブリンの魔石一個と廃魔石三個をテーブルに置いた。
「これは、ここに来る前に購入した灯火の魔道具用の魔石です。
ゴブリンの魔石なのですけれど、少し黄色ががって見えるのが特徴です。
この色が使っているうちに徐々に消えて透明になるとほぼ魔力が無くなって灯火用の魔道具には使えなくなります。
使えなくなった魔石は、迂闊なところに置くと、魔素を吸収し、それを魔物が吸収したりすれば上位種にも変化したりしますので、それぞれの町等で指定された投棄場所に廃棄することになっています。
その廃魔石が、こちらの三個です。」
テーブルの上に並べることで、違いを明確に知ってもらいました。
大きさも色も微妙に違う代物です。
「これはカボックの街で廃棄されたものを今朝方拾って来たものですが、このうちの一個に魔力を充てんしてみましょう。」
目の前の廃魔石一個を手に取り、魔力を充てんすると三秒ほどで、満タン近くになったので止めました。
サルザーク夫妻は魔石の色の変化に目を白黒していますね。
「今一つ、残った二つの廃魔石を融合してみましょう。」
私は二つの廃魔石を融合させてみた。
これも手慣れたもので、5秒前後で作業を終える。
二つの廃魔石は融合してほんの少し大きくなり、ほぼ透明な魔石が生じたのです。
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