第100話 魔人の領域の監視 その五

 エリカでございますが、アルファ島でのサブBとサブCの戦闘が終了して、双方ともに根拠地では剣呑な雰囲気になっています。

 私の放ったノミ?、ダニ?型の超小型ゴーレムはとっても良い仕事をしてくれています。


 サブBとサブCの中枢部に潜り込んで静止画像と音声を送ってくれるのです。

 静止画像はドット数も少ない上に30秒か40秒に一回程度の画像を送れるだけですから、流石に動いている人物等の特定はなかなか難しいのですが、例えば会議室で会議をしているような場合には結構特定ができますよね。


 音声の方は何とか拾えていますが、結構ノイズが多いので、ノイズを除去する魔法陣を受信側の魔道具に取り付けたら、周波数等を選択することで明瞭に聞けるようになりました。

 魔人の音声以外のものを全てシャットアウトすることもできますが、何か異常が発生した際に分からないと困ることもあるかもしれませんので、その他の音量を六分の一程度に絞っています。


 私が聞く場合にはノイズをカットした状態ですが、録音はノイズを含めて全ての音を記録するようにしています。

 情報収集に4体のゴーレムだけでは不足しますので、サブAには6体、サブBとサブCには各26体のゴーレムを追加配備しました。


 超小型ゴーレムは小さいだけに動力源も小さいので余り動き回るようなことはできないのです。

 一応周囲の魔素を吸収して動力源にするようにしていますけれど、それでも監視と通信をメインにすると、1日に2回の跳躍(1回あたり最大1.5m程度)ができる程度です。


 多少って移動したりはできるのですが、速度も遅いので、精々背中とか腰に取り付いたゴーレムが半日かけて肩まで移動できる程度でしょう。

 そのゴーレム達によって得られた情報では、サブBとサブCともに、アルファ島(サブBではシュデランス島と呼び、サブCではオセルマ島と名付けているようですが、紛らわしいのでアルファ島と私は呼称しますね。)での戦闘で多くの親しいものの命が奪われたことにかなり怒っているようです。


 サブB(リゼル侯魔国と称しています。)は、サブC(フィデルアン伯魔国と称しています。)に対しての報復を声高く叫ぶ者が過半数を占めていますし、同じくサブCもサブBに対する報復を叫ぶ者が三分の二以上を占めています。


 どちらも直接民主制のような統治システムを持っており、統領ボスはいますけれど、魔王のような絶対君主はいないようです。

 どちらかというと大事な案件は衆議で決めているようです。


 あまり大きな人数ではないからできる方法ですよね。

 アルファ島での戦闘は、それぞれが必ずしも予期したものではないものの、現地指揮官の裁量で始められた紛争でした。


 当然のことながら、戦闘の勃発とその結果については、それぞれの国民(?)に知らされたわけですが、その結果が「敵を討つべし」の方向になったようです。

 彼らの同族意識は極めて高いようですが、それなのに二つに分裂してしまったことが私には解せない話ですけれど、主義主張は譲れないという狂信的なところが魔人の特徴なのかもしれません。


 それと猪突猛進?

 一旦走り出すと止まらない?


 戦場で部隊が4割まで死傷すれば撤退するというのが常識だと前世の自衛隊の元将官だった方に聞いたことが有ります。

 旧大日本帝国軍は多くの戦場で玉砕と言って、死ぬまで戦ったようですが、元米軍将校に言わせるとあれはとってもクレージーなんだそうです。


 まぁ、国民性の違いというのか、背負っているものの違いなのかもしれませんが、日本人には武士道の精神が根強く残っています。

 「武士道」については新渡戸にとべ稲造いなぞうが英語で書籍を出して紹介していますけれど、西洋の騎士道とは異なり、欧米人にはなかなか分かりにくいものだそうですよ。


 その辺はさておいても日本人は世界的に見ても非常に特徴的な民族であるようですね。

 米国などではいろいろな理由で盛んに暴動が発生していますけれど、私の生きていた時代においては日本で暴動はなかったはずです。


 それと列車に乗る時や会場への入場の際にきちんと列を乱さず並ぶのは外国人の目にはかなり奇異にうつるようです。

 特に災害時などにおける人々の行動で他国の人々とはかなり異なる部分があるようですね。


 肉食系と草食系の違い?

 いえ、江戸時代の頃ならともかく、日本人も情緒面では別として随分肉食が増えましたよね。


 こうした違いが出るのは何故でしょうね?

 小さい頃から集団生活に慣れているからこそのメンタリティの違いなんでしょうか?


 またまた余計な話になっていますけれど、アルファ島の紛争から二か月後ついにサブBとサブCの間で本格的な戦闘が始まりました。

 戦闘域は、主として陸域が多いのですけれど、海域にも及びます。


 このために、コルラゾン大陸とベガルタ大陸の間にある海域西部はほぼ戦闘海域になってしまい、海路がほぼ遮断される事態になりました。

 何しろコルラゾン西方南部域とベガルタ大陸北部域の間を航行する船はいかなる船であっても魔人の攻撃にさらされるのです。


 魔人は、魔人領域とは関係のないヒト族であろうと、一顧だにせず外敵と見做して攻撃するのです。

 元々ヒト族と魔人領域との交易は全くありませんでした。


 でも、その近辺にある領域に住むヒト族とヒト族間での細々とした交易はあったのです。

 この戦闘が始まってこの周辺海域における海上交易は完全に途絶えることになりました。


 現状で言えることは、当面魔人によるヒト族への侵攻は無いかもしれないけれど、この戦争で勝ち残ったものがヒト族の領域に侵攻する恐れが高いということです。

 魔人の歴史から見ると、最初に植民地としてサブBの根拠地が魔人の手により作られましたけれど、そもそもはヒト族の国家がいくつかあった場所なのです。


 魔人達はアリの巣でも踏み潰すようにヒト族を蹂躙、抹殺して、そのあとに根拠地を作ったのです。

 サブBから分かれたサブCにしてもコルラゾン大陸西方南部に在った諸国家を消滅させて根拠地を作っています。


 魔人達は捕虜とか奴隷を持ちません。

 無能な下等生物に仕事をさせること自体を嫌っているので、生かしておくということをしないのです。


 そのために魔人達が出現すれば集落も都市も国さえも滅びてしまうのです。

 魔人とは、ヒト族にとっては天敵のような存在ですね。


 でもボルスキィ・オスロフに棲むサブAの魔人達は近くにヒト族がいない所為かもしれませんが今のところ穏健に見えますよね。

 むしろ、サブBなりサブCなりがボルスキィ・オスロフに戻ってくることを心配しているように見えます。


 戦争中のどさくさに紛れて私が双方を攻撃することも一時考えましたけれど、どうも、そうしたことを実行すること自体が私には性格的に難しいみたいです。


 究極的にはヒト族を救うためという立派な大義名分はあるのでしょうけれど、私の場合、正当防衛や緊急避難ならば身を挺しても動くけれど、さほどの緊急性が無いのであれば動きたくないのです。

 日本人の平和かぶれなのか、あるいは単なるものぐさなんでしょうかねぇ。


 前世の一時期、日本にミサイルを撃ち込まれるような段階においては、防衛のために敵国等を攻撃しても良いか否かについて国会でも議論があったようです。

 当時の日本は、例えば長距離ミサイルや爆撃機などの兵器を自衛隊は持っていませんでした。


 憲法が自衛権を認めつつも、戦争行為や他国を侵略することを認めていなかった所為でもあります。

 長距離ミサイルは国外領域を狙うものであり、長距離爆撃機も同様なので自衛権の行使には不要とされていたのでした。


 それを変革しようとした政権与党の動きが一連の議論の発端でしたね。

 でもその後いろいろとあって、与党が思うような方向には必ずしも動いていなかったようですけれど、・・・。


 その議論の中に、単に自国が狙われる潜在的な恐れがあるからといっていきなり先制攻撃をするという理屈は無かったと思うのです。

 私は、転生という「ずる」をしてこの世界に降り立ちました。


 ある意味でこの世界に属していながら、未だに他人事のような気分が抜けないので困っているところです。

 今いるラムアール王国にしても生まれ育った故国というわけではなくって、取り敢えず一時的に住んでいる場所に過ぎません。


 私の寿命はおそらく500年ほどになるのでしょうから、カボックに居られるのはせいぜい30年か40年程度、それ以後は私の長寿がばれないうちに別の場所に移動する必要があるんじゃないかと思っています。

 エルフなどの長命種族もいるのですけれど、彼らの場合、普人族の中ではめったに住まないのです。


 まぁ、奴隷になって普人族の中に居るエルフも少なからずいますけれど、それ以外のエルフはヒト族と折り合いが悪いのでしょうね。

 エルフは、短命種族であるほかの種族をどちらかというと見下しているためにうまく共存できないのだと思います。


 まぁ、殺し合いをするほど全面的な敵対をしているわけではないのですが、往々にして普人族の一部がエルフに対してちょっかいを出しては報復され、それとともに普人族全体が嫌われているというのが実情のようですね。

 そんな中で100歳を超えても若々しい私がいたなら誰しもが普人族ではないと気づくでしょうし、トラブルの種にもなります。


 エルフと普人族もちゃんと付き合えば共存できるはずですけれど、往々にして人は自分とは異なる能力や血を持つ者を排斥するものなのです。

 優秀な者の中に劣った者が居るとうとんじられます。


 一方で、能力の低い者の中にことさらに能力の高いものが居る場合は、その能力の高いものがねたまれ、うとまれます。

 「君子は何事においても中庸ちゅうようむねとす」若しくは「過ぎたるはなお及ばざるが如し」という古の教えがありますけれど、私の能力はどう見ても「出過ぎたくい」に当たりそうなので打たれる前に目立たないように工夫をしなければならないですよね。


 せっかく得た仮の住処ですから、私としてはできれば平穏に過ごしたいものなのです。

 そんなことも考えて、カボックに住むのは30年前後までと決めています。


 それから先は、このコラルゾン大陸はもちろんのこと各大陸を渡り歩いても良いのかなと思っています。

 定住できない極地を除いて大陸は6つですから、概ね30年前後で移動して一回りするだけで200年ほどが過ぎますよね。


 200年も経てば、ラムアール王国に戻っても知り合いは長命種を除いて多分居ないと思うのです。

 捕らぬ狸の皮算用ですけれど一応の将来計画はそんなことを考えているのですよ。


 但し、色々な意味合いで周囲の人との縁ができましたので、それらの人々は守ってあげたいとは思いますけれど、ラムアール国民全てかと云うとそうではないのでしょうね。

 たまさか私に縁のある人々を助けたことによる反射的な利益を受けているにすぎません。


 そうは言いながらも大勢の人が困っていたら、見て見ぬ振りもできない性格ではありますけれどね。

 いずれにしろ、サブB及びサブCの魔人のいずれか一方が勝ち残り、若しくはこの二つの派閥が講和を結んで戦闘が集結するまでは様子見に徹することにします。


 その間にも魔人が少なくとも私の知る範囲に現れるのであれば、適宜対処することにします。


◇◇◇◇


 サブBとサブCの間に全面戦争に近い戦闘が始まって四カ月になりますが、状況はどちらかというと膠着状態で双方に死傷者が漸増ぜんぞうしているようですね。

 主として根拠地近傍でのゲリラ戦が展開され、たまに部隊編成による大規模魔法の攻撃もかけますが、さすがに根拠地の守りは固く、数十人規模の部隊による集中攻撃でも一部の障壁を崩すだけに終わるのです。


 但し、敵の根拠地に攻撃をかけるために出張った部隊がその都度反撃を受けることから守る側よりも損害を受けているのです。

 尤もそういう状況が繰り返されても、彼らが愚かなのかもしれませんが、双方とも引こうとはしません。


 そんな状態が続いているわけなので、私の方は魔人の監視をほぼ自動監視にしながら、別の仕事をこなすことにしました。


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6月3日、一部の誤字や間違いを修正いたしました。


 By @Sakura-shougen


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