第97話 魔人の領域の監視 その二

 ベガルタ北部の魔人数の変動が意外と多いことに気づきましたが、その理由についてはわかりません。

 何らかの対外活動をしているとは思われるのですけれど、その対象地域がどこなのかわからないのはちょっと不安ですよね。


 周回衛星のセンサーは意外と感度が低いので、魔人が一定の場所に留まらないと感知できないのです。

 飛行艇に備え付けたセンサーはかなり感度が高いので、移動している魔人も捉えられるのですけれど、周回衛星の方はそこまで精緻ではないんです。


 周回衛星を小型軽量化するために色々と無理をした結果ですね。

 衛星を大型化すると飛行艇で一度に12基も運搬することができないから小型軽量化したわけですが、ある意味でもう少し大型化して感度の高いセンサーにしておいた方が良かったのかも知れません。


 いずれ1年後くらいには周回衛星を交換する必要が生じると思いますので、その時期に合わせて計画的に大型化するようにしたいと思います。

 ところでベガルタ北部の調査を打ち切った翌日に、如実な変化が生じました。


 ベガルタ北部の魔人200名ほどが一斉にアドリアル海(コラルゾン大陸、ベガルタ大陸、それにコラ大陸に囲まれた海域)西部にある島へ移動したのです。

 勿論空間転移によるものなんですけれど、幸いにして、周回衛星の一つがその転移直前に当該上空を通過し、継続的な常駐状態が出現したためにそこに跳んだものと判断できました。


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 生憎とラムアール王国自体が海岸を持たない国ですので、海図などの資料には縁がなく、島の情報はありません。

 やむを得ないので島名が分かるまでは、この島を「アルファ」と名付けておきます。


 この大移動(?)が始まるまでは、このアルファ島が魔人の勢力圏だとはわかりませんでした。

 但し、もう一つ異常なのは、淡路島よりも少し大きめのアルファ島の南部と北部に分かれて魔人が存在することと、約200体の集団は、島の南部側に集中し、北側には別の勢力であろうと思われる約150体が集中していることです。


 ベガルタ大陸北部でこれまで確認していた小規模な転移は20体前後ですから、今回の転移が約200体ですので、以前からこのアルファ島に移住を繰り返していたのならば、従前からベガルタ大陸の魔人たちの勢力圏と言うことになるのでしょう。

 但し、合計すると350名ほどになる移動は初めてですし、少なくともここに魔人の住居があったのなら、これまでの周回衛星の調査で分かっていたはずなんです。


 もうひとつコラルゾン大陸西方南部の魔人集団の一部が100体以上も減っていることがその後の周回衛星の情報で確認されました。

 このことから推測できるのは、コラルゾン大陸西方南部の魔人集団がアルファ島北部に占拠しており、ベガルタ大陸北部の魔人集団がアルファ島南部を占拠しているのではないかということです。


 何だか突然に魔人の住居地が増えたような感じですので、ここ二日ほどは休養の予定でしたけれど、急遽予定を変更して、このアルファ島上空に調査に行くことにしました。

 弾道軌道で時間を短縮するのは変わりませんが、距離がおよそ3000㎞と近くなりましたので最高到達高度は大分低くなりますね。


 異常を感知してから30分後には、私の乗った飛行艇は姿を隠したままアルファ島上空に配置していました。

 2000m上空から下界を監視していますと、魔人の活動がすごく活発なのが分かります。


 おまけに南北双方の勢力がドンパチやっているみたいで、私が現場上空に達してから30分ほどの間に、40体から50体近くの魔人が消えています。

 転移なら私の能力やセンサーで感知できますけれど、転移ではなくその存在が消えていますので、つまりは消滅したということじゃないかと思います。


 アルファ島の南部勢力と北部勢力が戦闘を行っていて、その中の数十名が死傷しているということなのだろうと思います。

 戦闘の場所は、アルファ島の中央東側の平野部がメインのようです。


 そこにかなりの魔力擾乱が感知できます。

 大量の魔力が攻撃のために使用され、一部の地形が変わるほどの大きな威力の魔法が発動されているようです。


 さながら前世における大砲やミサイル攻撃を上空から眺めているようなものですね。

 どちらもバリアを張りながら攻防をしているようですけれど、攻撃が集中されると維持できないバリアもあるようで、魔人が単独もしくは少数で突出していると狙われ、集中砲火を浴びて、消滅しているようです。


 その意味では、最前線付近の少数勢力が狙われやすいようですね。

 この戦闘は丸々一日続いて自然停戦状態に入りました。


 現状では、どちらも大規模集団に対する攻撃の決め手がないものと思われます。

 「メテオ」を降らせるなどの大規模魔法を使える者が居ないのか、それとも前世における核兵器のようにそんな危険な魔法は使ってはならないのかがちょっと不明です。


 今のところは大口径の砲弾の打ち合い程度に収まっていますが、あるいは秘密兵器的な魔法をそれぞれが温存しているのかもしれません。

 先ほども言った魔人の増減から考えて、北部の敵対勢力はコラルゾン大陸西部のお団子の南端部に住む魔人勢力なのでしょうかねぇ?


 そもそも魔人が集団で居住していることを知ったのはごくごく最近なわけで、そのメンタリティも生活様式も不明ですので、彼らが何を原因として争っているのかは不明です。

 単純に考えれば勢力争いなのかもしれません。


 いずれにしろ魔人勢力を区別する必要が出てきましたので、太濤洋にあるボルスキィ・オスロフの勢力をサブA、ベガルタ北大陸の勢力をサブB、コラルゾン大陸西方南部の勢力をサブCと仮定することにしました。

 このアルファ島の北部に居る勢力がサブCなのかどうかはいまだ不明です。


 また他の大陸に、散らばっている少数勢力がいずれに属しているのか、あるいは単独の勢力なのかも不明ですし、盛んにラムアール王国周辺に出没していた魔人達がいずれの勢力に属していたのかも不明です。

 いずれにしろ魔人全部を危険存在と仮定するのは、これまでの経緯からやむを得ないとは思いますけれど、本当に全部を敵に回しちゃうと絶対に袋叩きに会いますよね。


 魔人からすれば、人と亜人の社会は虫けらぐらいにしか感じていないのかもしれないので、これまで積極的には手を出してはいないのでしょう。

 でも、魔人にとっても強敵が存在すると知れば、彼らは牙をむくかもしれません。


 ありんこが敷地の片隅に巣を作っていても、そこの住民は余り気にも留めないでしょう。

 でもそのアリが、大事な住まいを食い荒らし、大事に育てた作物に大きな被害を与える存在ならば、駆除を始めることになるのでしょうね。


 彼らにとってヒト族は駆除にも値しないそんな存在なのだろうと思います。

 彼らがヒト族よりも優秀な存在かどうかは私にもわかりません。


 しかしながら普通の人間にとって魔人とは、強大な魔法を使える神のような抗えない存在なのです。

 私に抗える力があるかどうかも今の段階では明確ではありません。


 少なくとも数体の魔人は討伐しましたけれど、だから「無敵」とは言えないでしょう。

 また、魔人という存在をこの世から消してしまってよいものなのかどうかについても今は迷っています。


 少なくとも私を転生した神様が存在するのなら、この世界にも神様がいるはずですよね?

 その存在が創造神であるのならば、この世界を創造した際に魔人も必要と考えてこの世に出現させたのじゃないかと思うのです。


 前世でも多くの生命種が絶滅を繰り返していましたから、絶滅も運命の一つなのだろうとは思うのですけれど、私がその絶滅の原因にはなりたくはないなという単なる私の我がまま敵な感情なのですけれどね。

 例えば、魔法で宇宙空間に小惑星を転移させ、大気圏外から魔人の住居地を狙って落とせば、多少の結界があってもその膨大な衝突エネルギーで、住処を消し去ることは可能でしょう。


 おまけに直前まで小惑星に隠ぺいをかけ亜空間で隠しておけば、衝突直前まで魔人達に気づかれずに済むような気もします。

 その結果として大勢の魔人を無差別に殺戮してしまうわけですが、それを為した者がヒト族だと知れば、生き残った魔人は間違いなく復讐に走るでしょうね。


 単なる天変地異だと思ってくれれば良いのですけれど、破壊された場所が魔人の住処だけであれば、絶対に疑念を持つはずです。

 こちらの正体を隠しておけば良いのかもしれませんが、周囲に対して無差別に報復に出られるのが怖いですよね。


 そうかといって、私がやりましたとか申し出るわけにも行きません。

 でも魔人との戦いは、いずれ進退きわまった状況におちいるんじゃないかと思っているんです。


 互いに存亡をかけての戦いなんて嫌ですよね。

 そもそも,私は別に魔人との戦いに駆り出された英雄じゃないのでしょう?


 孫や曽孫が話してくれたラノベの中には、英雄として異世界に召喚され、魔王を倒してハッピーエンドと云うお話が有ったように記憶していますけれど、少なくとも私が出会った神様は生前の功績恩恵云々をお話ししてくれただけで、そんな話は一言もしていませんでしたから、私の転生の目的じゃないはずですよね。

 でも、自分の生活環境が侵されればそれを自衛しようと思うのは、生物として当然の反応です。


 相手が強敵であろうと厄介な相手であろうと関係は無いのです。

 障害を取り除くために努力をする。


 それが人生なんだと思っていますよ。

 ですから魔法なんて無かった前世では、知識と科学の力でより良き社会を目指して多くの人々が頑張ったのだと思います。


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 文章上の齟齬がありますので、前話で、『ベガルタ大陸北部の集積地の魔人数が、・・・・最大1430体…』としていましたが、『1030体』に変更します。


 By @Sakura-shougen



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