第95話 攻勢をかけるために
戦争に加担したくはありませんでしたけれど、親しくなった人々を守るためには早めに動いておかねばならないこともあります。
そのために戦闘用のゴーレムを作りましたし、光線銃?ビーム砲?も作りました。
指向性の小型クラスター弾である対人用「クレイモア」も作りました。
それにエルメリアに手伝ってもらうために飛行艇も製造しました。
この飛行艇、高速移動ができる上に人の目から姿を隠すことができますので、とっても使い勝手が良いんです。
それに対魔人用の特殊な狙撃銃も作り、それを運用するための戦法も見出しました。
何だか私が超殺人マシーンに変化したかのようですけれど、私自身は変わっていないと思いたいですね。
でも、防戦一方ではまずいこともわかっています。
いくら武器を用意したにしても、使える人員は私とエルメリアだけなんです。
広大な王国の四方で大規模な戦いが起きれば、ラムアール王国軍も対応できなくなりますし、私とエルメリアが最新兵器で武装していたって、対応できなくなるのは目に見えています。
座して滅びを待つだけの女にはなりたくありません。
私が医者を目指したのも、放置できない患者が多数いるのを何とかしたいと考えたからにほかなりません。
まぁ、外科医ではなくっても内科医でも良かったのですけれど、緊急性が高いのは普通外科医なんです。
内科医の場合は、往々にしてじわじわと押し寄せて来る病魔との戦いです。
でも外科医は寸刻を争う場面での治療が多いんです。
まぁ、脳外科医になったのは、たまたまそのコースに乗ってしまったからですね。
本当は救急救命医を志望していたんですよ。
でも、脳外科を目指す者が同期生に居なかったために、指導教授からお願いされちゃったんですよねぇ。
うーん、前世の私って、人のお願いを無碍に断れない
いろいろ考えて、もぐらたたきのように相手が出て来るのを待つだけでは、手が回らなくなるのは目に見えていますから、ここらで攻勢をかけてみるのも一つの手かなと思いました。
危険性はもちろんありますよ。
でもこれまでの魔人との戦いは、ラムアール王国内かその周辺に限られています。
逆に言えば、そこから離れた場所での監視の目は薄いのではないかと思うのです。
早い段階で彼らのアジトや本拠地が分かればそこに攻撃を仕掛けることも可能です。
そのために、私は飛行艇を駆って、ラムアール王国以外の国を上空から監視する作戦も視野に入れました。
飛行艇は、ピンホールを開けた亜空間内に潜ませて、なおかつ認識疎外の魔法もかけていますので滅多なことでは、見つかることが有りません。
これまで行ったことのない場所に行くには、時空属性の転移魔法は使えません。
また闇属性の影空間転移については、魔人が使っている可能性が高いだけに、今のところは使用を制限しています。
そんなことで、ある時点からは精霊空間を回廊として利用する移動方法を使うケースが多いのですけれど、実はこの方法も妖精や精霊に無理を強いているかもしれませんから、緊急性の高い時でなければできるだけ使わないようにしているんです。
なので、飛行艇を利用しての探索を始めるのが簡単かもしれません。
取り敢えず、ルートゲルデ王国、ヴィルトン公国、それにローゼル帝国については、すぐに動き出す可能性は少ないとみて、アルダイル皇国方面から探るのがベターでしょうか?
順番としては、次いでアブリビル王国、タンデロンド王国、ベルンタイト王国を優先して探索するのかなと思っています。
それらが終わったなら、友好国ではあるのですけれどフェリベル王国を、次いでヴィルトン公国とローゼル帝国の順でしょうか。
それらの範疇に魔人の痕跡がなかった場合は、さらに探索範囲を広げなければなりませんが・・・。
多分、かなりの探索時間が必要ですね。
もしかすると他の大陸に生息している可能性だってあるわけですから。
因みに、コラルゾン大陸の南にはベガルタ大陸が、東方向には地峡を有する大陸があって北部をブルタン大陸、地峡部を経て南部をコラ大陸と呼んでいます。
ベガルタ大陸はひし形の形状を呈しており、コラルゾン大陸の1.3倍ほどの面積があります。
南北アメリカ大陸にも似た形状のブルタン大陸とコラ大陸は、その二つを合計するとコラルゾン大陸の1.8倍ほどの面積になります。
このほかにも、さらに東方向にはブレガルトとエゾニアという二つの大陸があり、コラルゾン大陸の西側の海でつながっているらしいとは言われています。
でも、実は船で航行するにはあまりにも広い海で危険なことから、コラルゾンの西側海域での交易はこれまでありません。
逆に言えばコラルゾン大陸の西側海域は人跡未踏の領域にもなり、あるいは魔人の住む島などがある可能性もあります。
色々と考えあぐねた末に、私は錬金術でこの惑星を周回する偵察衛星を作ることにしました。
飛行艇は、流体力学や航空力学に基づく翼理論で浮く機体じゃありません。
魔石を利用した魔方陣による魔法で空を飛ぶ機械です。
一応、流体力学もそれなりに参考にはしましたけれど、私の元々の専門は医学であって、機械工学じゃないですからね、
21世紀の文明の利器とは勝手が違うモノなんです。
従って、飛行艇の飛行空域は大気圏内に縛られません。
宇宙にまで達することができるんです。
先日、気密性能の確認を兼ねて、カボック上空へ飛翔してみました。
ひたすら上空を目指したわけですが、高度千キロまで達したので検証は十分と判断して地上に降りてきました。
赤道上空に停止衛星を設置するなら、前世の地球の場合は地上約3万6千㎞だったのですけれど、千㎞上空にまで飛翔して観測した際に、この惑星の大きさを簡易計測で確認したなら地球よりも直径が大きいようなんです。
地球の場合は、直径が約1万2千8百㎞だったはずですけれど、カボックのある惑星は直径がどうも2万㎞を超えるようです。
従って、地球と同じように静止軌道を選ぶとすれば5万7千㎞ぐらいの高度になりそうですね。
でもそんなに遠いと監視衛星の役には立ちませんので、GPS衛星や偵察衛星のように低い高度を周回する衛星にします。
取敢えずの案では、144個の周回衛星で地上約百㎞の上空から地上を監視するようにするつもりです。
少なくとも衛星ごとに200mの高度差をつけるので、周回軌道が近接しても互いに衝突することはないと思います。
もう一つ大事なことは地上を監視すると言いながら、軍事偵察衛星のような高性能のカメラをつけているわけではありません。
作るのに苦労はしましたが、魔人の残した魔石に反応するパッシブセンサーを作り上げました。
但し、探知範囲はせいぜい500キロ程度でしょうか。
約百キロ上空から500キロ圏内の魔人の探査を行う監視衛星に特化したのです。
移動する周回監視衛星ですので、周回しつつ徐々に西へ移動しながら地上を観測することになります。
衛星一基でも相応に時間をかければ惑星全体の観測は可能ですけれど、生憎と対象は魔人なので動いている前提で物事を考えねばなりません。
そこで、この際できるだけ精査するために144基と言う数量を用意したのです。
一基作ってしまえば、あとは魔法で複製できてしまうんです。
魔法って便利ですね。
そうして、前世の軍事偵察衛星ほどの分解性能はありませんけれど、一応カメラはついていますので、観測を続けることによりデータの蓄積があれば広域の気象予報ぐらいはできるようになるかもしれません。
そうして12基ずつの監視衛星を百キロ上空に運んでは順次周回軌道に乗せています。
開始してから12日目には144基の監視衛星が、惑星上空で監視を始めました。
で、肝心のセンサーですけれど、しっかりと機能しています。
ひょうたんにも似たコルラゾン大陸の西側の塊の最南端部にまとまった反応があったほか、南のベガルタ大陸の北部地方にかなりの集積地が認められました。
そうして、このほかの四つの大陸(ブルタン、コラ、ブレガルト、エゾニア)にも相応の数の魔人が居るようですが、この中ではベガルタ北部の密集地が一番多いようです。
更にコルラゾン大陸の西方の未踏海域に島嶼群があり、そこに魔人が多数存在していることが分かりました。
コルラゾン大陸の西端から少なくとも6千㎞以上も離れた孤島のような島嶼群です。
最も近いエゾニア大陸東端からでも5千5百㎞ほどの距離がありますので、大航海時代よりも遅れているこの世界の航海術では到達するのは難しいかもしれません。
あれ?
魔人はどうやってこの大海(後で調べたら
うーん、もしかすると魔人は空間転移以外にも何らかの優秀な移動手段を持っていると考えた方がいいのかもしれませんね。
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