第93話 帝国軍の侵攻
エリカです。
悪い予感はあたるものですね。
いまだこちらの準備が整ってはいない段階なのに、ローゼル帝国軍が侵攻を始めたようです。
例によって、サルザーク侯爵から緊急情報の連絡が入りました。
必ずしも「出てくれ」とは言わずに、情報だけを伝えて来るずるいやり方です。
でも、止むを得ませんので、エルメリアも一緒に連れて行くことにしました。
飛行艇を使うので、エルメリアは飛行艇から絶対に出ないことを申し渡して出撃させます。
万が一の場合には、エルメリアに戦線の一部を受け持ってもらうための非常手段なんです。
飛行艇が不可視になるような特殊な結界を張っていますので、外から見ただけでは何も見えません。
堪が良く、相応の力量のある魔法師が近距離に居た場合、あるいは、飛行艇が発する魔力で何かがあることを察知するかもしれません。
なので、原則として飛行艇の高度を地上から300尋以上に取ることにしています。
地上からこれだけ離れていると、余程のことが無ければ察知は難しいのじゃないかと思っているんです。
まぁ、それでも私のような標準から外れた例外はありますけれどね。
それでも飛行艇が高速で動き回れば位置を特定するのは難しいし、魔法による攻撃も難しかろうと思うのです。
飛行艇は、二隻建造しました。
一隻にはエルメリアが、もう一隻には私が乗ります。
操縦は魔力で行いますのでさほど難しいことはありません。
エルメリアも十分ほどの慣らし運転で上手に操縦できるようになりました。
飛行艇には亜空間波の電話を設置していますので、この二隻の間では常時意思疎通が可能なのです。
エルメリアが乗っている飛行艇には、石ころ風のクレイモアを500発ほど搭載しています。
下方に向けている投射機は、一秒間に5個ほど連続してクレイモアを射出できますので、毎秒50mほどの速度で水平飛行しながら敵集団の上にばらまけばかなり効果が高いことになるんじゃないかと思っています。
但し、エルメリアについては飽くまで予備軍です。
できれば、後味の悪い人殺しはさせたくはないのです。
そうは言いながらも手が足りなくなれば、エルメリアにも無理をしてもらうことになります。
そのためにここのところ、三日連続で、夕食後にエルメリアと話し込みました。
エルメリアは実にさばさばとしていて、私の言うことなら何でもするとは言ってくれています。
でもね、やっぱり人殺し、それも大量殺戮を強いるのは気が滅入ります。
そうして計ったように次から次へと周辺国からの侵攻があるのは絶対に偶然じゃないですよね。
まぁ、二度の騒乱でラムアール王国が疲弊しているとみられた可能性は無きにしも非ずですが、これでアルダイル皇国まで侵攻を始めたら、絶対に背後に魔人の連中が居るはずです。
できればその
私の索敵範囲がもっと広がればよいのですけれど、さすがに神様でもなければこの惑星全部の索敵は無理でしょうね。
未だ不十分ではありますが、アラクネ型六本脚ゴーレムも七割程度の完成度で出動準備をしています。
取り敢えず、このゴーレムは二十体を用意しています。
かなり図体の大きい代物ですね。
体高は5mに近いです。
胴体部は中央部にあって直径4mほどの円盤状で横から見ると高さが2mほどの紡錘形に見えるかな?
その中央に上部に円錐形の出っ張りがあって、腕が四本ついている感じ。
脚はヒトデのように放射形状も考えたのですけれど、一応、蜘蛛のように(蜘蛛は八本脚でしたね。)横に三本ずつ並んでいる感じですね。
脚の部分を含めると横幅は7mに近いかもしれません。
長さはやっぱり7m前後。
地面に多少の凹凸があっても、2m程度までなら
移動速度は平地ならば毎時50キロ程度の速力が出ますね。
因みに光線銃の類は、武器として分離せずに、腕自体に組み込んでいるのと、円錐形の前面と後面に一つずつ銃口が覗いています。
従って、このゴーレムは6丁の機関砲で周囲にビームを発射できる仕組みになっているんです。
重量はおよそで300キロぐらいのものですけれど、こいつの脚で押さえつけられたら、たとえ
素材がアダマンタイトでできており、強度的には非常に硬いから、人が大剣で叩こうが突こうがおそらくは何の傷も生じないでしょう。
魔法ならば、よほどの威力が無いと破壊するのは無理かな?
せめてメテオなどの魔法で高空から大きな岩を降らせるぐらいのことをしないと破壊するのは難しいだろうと思うのです。
因みに雷撃も地面にアースされているんで内部に損z法が及ぶことはありません。
多分その意味では、ほぼ無敵の怪物になるんでしょうね。
問題は自律機能なんですけれど、簡単な命令は実行できるけれど、高度な自律判断はまだちょっと無理なんですよね。
まぁ、敵を殺せと言えば敵と認識したものを殺戮できるんですよ。
でもその敵を認識させるのにかなり明確な指示をしないと、周囲に居る味方も撃ち殺してしまいそうなんです。
従って、できれば敵しか居ないところで使いたいものですね。
若しくは、敵さんが明確に識別できるような風体をしているとか・・・。
白装束とか黒装束とか明確に区別できるものがあるとものすごくやりやすいのだけれど、きっとそう都合よくは行かないんでしょうね。
いずれにしろ敵味方が混戦状態のところには投入できそうにありません。
取り敢えず、ゴーレム部隊は私の亜空間倉庫に保管中でいつでも出動はできるようにしています。
国境に集結しているローゼル帝国軍の数は、
ラムアール王国の全軍を集めてもそれだけいるかどうかですよね。
放置すれば苦戦し、さほど間を置かずに敗退するのは、ほぼ間違いありません。
なので、エルメリアを連れての出陣なのです。
ローゼル帝国軍が侵攻してきそうな地域は、ラムアール王国東部のヒュッテ辺境伯領になり、その国境であるブラバス丘陵に大軍が集結しているんだそうです。
国境線で越えられそうな峠道等の場所は、ほかにも数か所あるのだそうですが、今のところそちらへの進軍は認められていない様子です。
問題は、ラムアール王国の南東部に位置するアルダイル皇国の動きですよね。
仮にローゼル帝国の動きに連動していれば、南東部もほぼ同時期に侵略される可能性があるんです。
そうなれば、総力を挙げたにしても、ラムアール王国に勝ちはないでしょう。
その不足分を私とエルメリアでどれだけカバーできるかなんだけれど・・・。
まぁ、出たとこ勝負かな?
魔人さんがこの時期に直接行動に出ないことを祈るしかありません。
彼らが動けば、エルメリアでは魔人対応ができないから、私が対応するしかない。
取り敢えず大きな侵攻軍に対しては、大きな威力の魔法でもぶっ放して、敵を脅しておき、ゴーレムを投入してやるぐらいしか方法が無いかもね。
それこそ大量殺戮の殲滅戦になるかもしれないけれど仕方がないでしょう。
可能な範囲でエルメリアにはゴーレムの指揮を執ってもらうことで一応の話はつけているのです。
カボックからブラバス丘陵まで飛行艇で行ってもさほどの時間はかかりません。
むしろ飛行艇ごと亜空間転移を使ったりすると、魔人に察知されるかもしれないので、用心のため転移魔法は避けているのです。
サルザーク侯爵から緊急連絡が入って一時間後には、私とエルメリアの乗る飛行艇二隻がブラバス丘陵上空に達していました。
一応、辺境伯軍が防戦に回っているのですけれど、大軍が相手なので籠城戦をしているようです。
既に、丘陵のはずれにある砦の二つが大軍に包囲されて攻撃を受けている最中ですね。
この時代、宣戦布告なんてないのでしょうね。
侵攻自体が敵意の表明で、ある日突然に戦いが始まるのでしょう。
まぁ、その前に大軍が集結した時点で警戒はするんでしょうけれど・・・。
ですから私たちも、援軍として一々名乗りをあげたりはしません。
エルメリアはそのまま上空で待機、私は石ころ風クレイモアの散布を始めました。
飛行艇に装備されている投射機からではなくって、私の亜空間倉庫から魔法を使って直接放り投げて行きます。
飛行艇からの投射装置はほぼ真下にしか投射できませんが、私の亜空間倉庫からなら飛行艇の進路方向で100尋ほどの幅で任意の地点に散布が可能なんです。
上空300尋から散布されたクレイモアは、地上8尋から9尋程度で盛大に破裂し、大量の金属片を周囲にばらまきます。
一発でも密集している数十人の兵士が傷ついてなぎ倒されているのが分かります。
頭部への直撃等で即死している者もいるようです。
むごいようですけれど、敵を倒さねば砦の将兵が死ぬことになります。
最初の5分ほどで、攻撃側の勢いが完全に止まりました。
わずかの間に全軍の半数に近い将兵が傷ついてしまえば、事の異常さに指揮官は気づきます。
指揮官が命令をしなくても前線の部隊がおよび腰になっていました。
いきなり空中から爆発物が現れ、次々に破裂して甚大な被害を与えて行けば、新手の魔法かと怖気づくのが当たり前です。
しかも、このクレイモア、脅しの目的もあってかなりでかい音で破裂するんです。
そんなのが連続していれば誰しもが逃げ腰になるのは当たり前です。
砦に取り付いていた兵には被害はないのですけれど、彼らにそんなことはわかりません。
たちまち蜘蛛の子を散らすように帝国軍が引き始めました。
後にはおびただしい数の死傷者が残されていました。
取り敢えず一旦は追い払ったわけですが、これで帝国軍が諦めるかどうかですね。
後、魔人や、南東部の皇国軍の動きはどうなっているのかです。
私の飛行艇を使った攻撃で死亡したのは死傷者のうちの精々2%か3%どまりですが、大怪我を負って動けなくなっている者が約二割、利き手や足を負傷してほぼ戦闘不能に陥っている者が約五割、多少のけがはしていてももかろうじて動けるので血を流しながらも撤退しているのが二割程度かと思われます。
死者を含めて、総数では二万五千人を超える将兵が動けない状態にあるようですね。
さて残り三万余りの軍勢で、もう一度攻撃を仕掛けて来るかどうかですが、クレイモアはまだ在庫がありますけれど、眼下の惨状を見ると、私としてはできれば使いたくはありません。
私は武人じゃないんですよ。
前世では人の命を救うのが使命であった医者のはずなのに、異世界に生まれ変わってやむを得ないとはいえ、大勢の人を死傷させています。
魔物を退治する時には感じなかったんですけれど、とても嫌な気分です。
これまでの二度の攻防でも幾多の兵をやむなく殺しましたけれど、数は極力限定していました。
でも、今回はさすがに数が多いんです。
多かろうと少なかろうと人の命には変わりないんですが、大量の死傷者を見てしまうとやはり受け取り方が違うんです。
暫くはトラウマになりそうです。
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