第92話 侵略への対抗手段 その二
エリカです。
ビーム銃?レーザー銃?それとも光線銃なのかしら?
呼称は別として、一応、小銃タイプのものを作りました。
拳銃のような小型のものは作りませんでした。
狙いを外す嫌いがあるので、拳銃タイプはネグレクトです。
造ろうと思えば造れるのですけれど、拳銃を使うような近接戦闘にならないことが、魔法師や錬金術師の戦闘だと思うのです。
薬師は・・・。本来、戦闘向きじゃありませんよね。
まぁ、剣を持っての戦闘もできなくはありませんけれど、全体像が見えなくなったら単なるバーサーカーですよね。
女性たるもの何時なんどきたりとも冷静であるべきです。
さもなければ前世で外科医なんかやってはいられませんでした。
若い頃は当直で夜勤もしていましたから、急患なんかが運ばれてきたなら、それこそ戦争ですね。
寸秒を争う判断と処置が必要になるからで、多重衝突事故で一度に重傷患者が7人も運ばれてきた時は、本当に大変でした。
最初にトリアージをやって、重症でありながらも比較的軽症の人については別の病院に運ぶように救急隊員にお願いしました。
その代わり、私の勤め先の病院に重症者ばかり4人も受け取ることにしたんです。
これは当直医師の私の判断でした。
この時ばかりは、同じく夜勤に入っていた副婦長さんがかなり険しい顔をしていましたね。
長年の経験則で二人までは何とか出来ても、その倍の数では多分死人が出ると思っていたと後で聞きました。
深夜にも関わらず動ける医師にもわざわざ出張ってもらい、修羅場を何とか乗り切った時には夜が白々と明け始めていました。
この治療に関わった人は、全員が目の周りにクマを作っていました。
私も多分疲れすぎていたのでしょうね、それから三時間ほどは、手足が思うように動かないという経験を始めてしました。
さすがに年を取ってからはそんな無茶はできません。
若かったからこそできたことなんでしょう。
今の私ならば、二徹、三徹ぐらいまでなら簡単に行けそうな気がします。
そういう意味では、若返った利点を大いに感謝し、十分に堪能していますよ。
またまた、余計な話にずれてしまいましたが、武器の製造はこれでは終わったわけではありません。
あまり考えたくはないのですけれど、ローゼル帝国とアルダイル皇国については、ラムアール王国との兵力差が三倍程度あるそうなので、最悪の場合、六倍から七倍程度の軍隊が押し寄せてくる可能性もあります。
ラムアール王国で動かせる軍隊は、正味で4万を切ります。
王都を含めてすべての守りを捨てたなら、5万から6万程度になるかもしれないというのがサルザーク侯爵夫妻の見方です。
まぁ、王国滅亡を
侯爵夫妻の情報を信頼すれば、帝国と皇国はそれぞれ12万ぐらいの軍勢を動かせるということになりますね。
近代戦闘については、ランチェスターの法則というのがありますよね。
うろ覚えですが、『戦闘力=武器の質×兵力数の2乗』だったと思います。
普通に源平合戦の頃のように名乗りを上げて一騎打ちで戦えば、よほどの豪傑が居ない限りは、確率的に数の多い方が勝ちます。
但し、その数の差がやたら大きい場合は、より大きな戦闘力の差となって結果が出ます。
見方が多ければ多いほど味方の死傷者は少なくて敵軍を
日本と帝政ロシアが戦った時は、ロシアの将軍は兵力差が三倍になってから初めて動き出そうと考えていために、勝機を逸しました。
一方の明治の帝国陸軍さんは愚直とも言えるほど突撃を繰り返して、何とか局地戦で勝利を得たのです。
精神論で云う「為せば成る」の貫徹精神の賜物だったようですが、そのかなり後で武器効率の上がった米軍相手にはこの戦法は通じなかったようです。
特に米軍は、できるだけ遠距離から攻撃を加えて相手の力を削いでから攻撃に移るという方式を取りましたので、日本軍は武器で劣り、数でも劣ったので最終的に負けました。
ランチスターの法則以前の話で戦略の差かもしれません。
もう一つの敗因があるとすれば、日本が武器弾薬と同様に兵士も消耗品と考えたことでしょうか。
米軍は将兵の命を大事にしました。
それゆえにダメージコントロールに力を入れていましたし、戦闘機その他の防弾効果も高かったので、緒戦こそ叩かれましたが、後に武器の性能差で日本軍を圧倒できました。
多分失敗から学ぶ知恵が米国の方にあったのだと思います。
日本軍はと言えば、日露戦争に際して、旅順要塞を陥落させるのに数万の兵士が無駄死にをしました。
当時の日本軍は、近代的な要塞戦を経験していなかったのでしょうね。
要塞に籠っているロシア側から見ると、兵隊さんが同じ道を辿って突っ込んでくることが分かったそうです。
基本的には突撃ラインは稜線ではなくって、谷合の低い部分ですね。
皆が同じ道を辿ってくるものですから、それこそ倒れた戦友の屍を乗り越えて突撃を敢行したようです。
明治の頃の戦争は、意外と
負傷者を後方へ運んだり、遺体を回収するために時々現場限りの停戦をしていたそうです。
日本兵が使っていた銃は、数発の弾丸を込められる連装式でしたが、ボルトアクション方式の銃を使っていましたので単純に単位時間当たりの発射数は少ないんです。
一方の、ロシア軍はこの時すでに機関銃を要塞に据え付けていました。
何度か日本軍の攻撃があると、さすがにパターンが読めてしまい、わざわざ銃座の位置を変えてまで待ち構えるようにしたようです。
哀れ日本兵は、待ち構えるロシア軍の十字砲火を浴びて、突撃のたびに多大な死傷者を出したということです。
私が造った銃もある意味では機関銃に似た連発式の光線銃ですが、扱う人数が決定的に足りません。
今のところ、動けると想定できるのは私とエルメリアの二人だけですもの。
他に銃を渡してはどうかって?
うーん、やっぱり危険な武器ですし、扱う者は厳選したいですよね。
危険な武器ほど危ない人には渡したくないものです。
そのためにゴーレム兵士を作り出したいのですが、同時並行的に大量抹殺兵器も作ります。
使う場面というか、出しどころは十分に吟味しますけれどね。
やはり使うなら爆薬でしょう。
粉塵爆発、蒸気爆発なども考えられますけれど、あまり大仕掛けにならないものなら普通に火薬が手頃です。
私の錬金術で空気からニトロ化合物が生成できますので、かなりぶっ飛んだ爆発物が作れるんです。
扱いは面倒ですけれど火薬を用いれば、相手の戦術を打ち破ることが十分に可能です。
何しろ敵が使うと想定されるのは、ナポレオンの時代以前の重騎兵と弓と槍衾がメインです。
この世界には魔法が存在しますので、魔法師団による魔法攻撃も想定されます。
但し、王宮魔法師団の力量を見てもわかる通り、百メートルも離れると威力が無くなりそうです。
帝国ではこの欠点を克服した魔法師の集団による合成魔法で距離を稼ぎ、概ね倍から三倍ほどの距離にまで攻撃をかけられるそうです。
このため帝国の魔法師団は大陸随一と名高いそうだと侯爵夫人に教えてもらいました。
この場合でも、距離にして200から300メートルを超えると攻撃も難しくなりそうですね。
では、こちらはその外から攻撃できるようにしましょう。
地形にもよりますが、地雷のように爆発物を設置するだけで、敵の進軍を止めることが可能でしょう。
この世界に戦車もあるみたいですけれど、キャタピラで動く重量物ではなくってチャリオットですから、さほど気にする必要はありません。
重戦士の変わり種ぐらいに思って置けば、対応はさほど難しくありません。
特に馬が傷つけられたらチャリオットは無用の長物に変わり果てます。
従って、想定されるのは、対人用の地雷ですね。
クレイモアのように指向性の地雷が望ましいのでしょうが、これも無差別に爆発すると困りますので、敵味方の識別が可能になればといろいろ試行錯誤している最中です。
因みに戦が終わったなら、その時点で一斉に爆破処理をするつもりでいます。
前世なら差し詰め無線を使うところなのでしょうけれど、ここでは亜空間波動を使います。
無線ならばいろいろと電波障害が有ったりするわけですけれど、亜空間波動はそれが無いんです。
ですから、山や岩などに遮られる位置であったり、地中深く埋まっていたりしても、ちゃんと指令が感知できまるんです。
石ころに似せたクレイモアタイプの地雷を取り敢えず五千個ほど用意してみました。
敵味方識別の方式はいまだ模索中ですが、地雷原を作って味方にはそこに行かないように知らせておけば、それだけで戦果が上がるはずです。
地雷設置については、私が時空間魔法もしくは精霊魔法による転移で、戦略上重要な通路等にばらまく予定です。
もう一つ空中機動艇(飛行艇?)を作って、エルトリアに乗ってもらおうかと思っています。
場合により、石ころ風クレイモアを空中から散布してもらうことになるかもしれません。
部隊が居る場所であれば、地上の人体を感知すれば爆発しますので、航空爆弾代わりになりますよね。
うーん、飛行艇を使うなら攻撃の幅が広がるから、この地雷をもう少し量産することになりそうですね。
それらとは別にゴーレム作成が佳境に入っています。
取り敢えず、ドラム缶様の胴体に頭部と手足をつけただけのかなり見てくれの悪いゴーレムができました。
確か前世で、歩行ロボットのアシモ君は、時速にすると1.6キロぐらいの速度で動いたはずですけれど、私の作ったゴーレムは、見栄えは別として、時速12キロで移動できます。
但し、二本脚で歩くのじゃなくって四つん這いですね。
二本脚だけの移動だとバランスが取りにくいんです。
そのうちに改善はしますけれど、今の段階では四つ足だと安定性が高いんですよね。
思い切って、攻殻機動隊の、・・・・。
う~んと・・・。
何コマだっけか?
あぁ、そうそう、「タチ〇マ」だったっけ。
あれは確か四本脚で二本の腕がついていたはずですよね。
うーん、多足系のクモ型ロボットなら取り敢えず悪路でも高速移動ができそうな気がしますねぇ。
こちらでは表面が平らな舗装道路なんぞほとんどありません。
最終形はターミネーターに人造皮膚を張り付けたような人型ロボットが望ましいのですけれど、取り敢えずはやっつけ仕事でも実戦で使える奴が必要なのです。
そんなこんなで、アラクネっぽいロボットを作ってみました。
六本脚で腕が四本ついてます。
腕を四本にしたのは武器を持たせるのに腕が多い方が有利と考えたのです。
75%ほどの完成度でエルトリアに見せたら正直に感想を述べてくれました。
「何というか・・・。
かなり不気味ですね。
夜暗いところで遭遇したら、お漏らししそうです。」
まぁね、敵が怯えてくれるだけでもめっけものかなぁ。
少しメゲながらもそう思うことにしました。
今日も、我が家の地下工房で、いろいろ武器製造に励む私です。
あれ、マッド・サイエンティストの仲間入り?
今のところ、自律判断能力をつけるのが難しいんです。
正直なところ、できればもう少し実戦投入まで時間が欲しいなあぁと思っています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます