第91話 侵略への対抗手段 その一

 ラムアール王国は云わば中つ国です。

 大陸の中央というわけではないのですけれど、内陸部にあって周囲を山地に囲まれた盆地状になっています。


 その周囲はすべて別の国が統治している地域です。

 概ね北東方向にあるのがルートゲルデ王国で、もともとはラムアール王国とは仲の良い国でした。


 魔人が介入した所為(?)で紛争が生じ、双方に死傷者が出る事態になったので、一時的に国交が怪しくなりましたけれど、魔人の討伐と前線指揮官との折衝、王宮にまで出向いたことで、早めに回復できて本当によかったと思います。

 そうして、北から西北西にかけて国境を接する国が、アブリビル王国です。


 こことは、あまり仲が良いとは言えませんが、民間交易は堅調に続いている国でもあります。

 ラムアールからは、主として鉱石類と工芸品や織物製品が輸出され、アブリビルからは海産物の干し物と香辛料が輸入されています。


 因みに香辛料はアブリビルの特産ではなく、海を隔てた別大陸から仕入れたもののようです。

 アブリビルとラムアールの仲があまりよろしくないというのは、塩の交易に関して、このアブリビルとさらにお隣のクレフォール都市連合がカルテルを組んで、塩の値段を釣り上げているからです。


 商人が値を釣り上げているわけではなく、国の施策として、ラムアールに輸出する塩にだけ高い関税をかけているのです。

 理由は不明なのですが、アブリビルの現国王が就任してから、なぜかラムアール王国への塩の関税を大きく引き上げたのです。


 クレフォール都市連合はラムアールとは国境を接してはいませんが、アブリビルとクレフォール都市連合がいずれも海に面しており、この近辺では製塩業の中心的産地として名高いのです。

 このため、ラムアール王国は、関税が不当に上げられて以降、対抗手段として、この二カ国からの塩の輸入をやめて、北のフェリベル王国や西のダンデロンド王国等から塩を買い取るようになっているのです。


 但し、フェリベルもダンデロンドも、そもそもが塩の生産国ではないので、そこからの輸入も経費が高く付くことになるのですけれど、少なくともアブリビルとクレフォール商業連合から高い関税を払って購入するよりは、ましになっているのです。

 こうした経緯により、二か国とはあまり仲が良くありません。


 ラムアール王国の南西部に国境を接する国が、ベルンタイト王国で、エルメリアが犯罪奴隷に貶められた件で私が調査に訪れた国ですね。

 このベルンタイト周辺の国々はいずれも小国家の集まりなので左程の兵力はありません。


 ラムアール王国の南方に位置するのがヴィルトン公国であり、やたら周辺国に突っかかる土佐犬やドーベルマンのような国ですね。

 総兵力から言うと左程大きな脅威にはならないはずなんですけれど、往々にして戦力の一点集中を図ってきますので、危ない国なんです。


 まぁ、こことの紛争についても早めに対応してよかったなと思っています。

 西方のタンデロンド王国は、あまり大きな国ではないのですが、精鋭の将兵で有名であり、ここと北西のアブリビルが万が一にでも侵攻してくると、ラムアール王国も苦戦を強いられることになりかねません。


 最終的に体力勝負になれば、国力の大きいラムアール王国に軍配が上がるでしょうけれど、それ以外の一番の難敵は、東のローゼル帝国と南東にあるアルダイル皇国ですね。

 この二つの国は、コラルゾン大陸でも有数の大国であり、互いに国境を接していることからしばしば二国間で紛争を起こしているために、ラムアール王国が攻められることは今のところないのですけれど、仮に二か国が共同で侵攻してきたなら、ラムアール王国は持って三か月、王国が滅ぶことになるでしょう。


 帝国又は皇国が、相応の兵力を繰り出してくるだけで現状の戦力では敗戦必至なのです。

 いさかいというものは、大なり小なり人が生きていると起こり得るものではありますが、それにしても平和な世界というのは難しいのですね。


 私は平和主義を標榜ひょうぼうしていますが、生憎あいにくとガンジーさんみたいな人格者ではありませんから、自身を守るため、あるいは、身近の人達のささやかな幸せを守るために、理不尽な侵略には抵抗したいと思います。

 但し、今回の短い期間で発生した紛争が同時多発で起きるとなれば、さすがに対応ができません。


 数万の軍隊がまとめて押し寄せてきたなら、多くの人の命を奪うことになりますけれど、私の魔法で打ち破る手段はあると思っています。

 でも、数万の軍隊が数十、数百に分かれて、様々な場所で動き始めたら、私一人では対応できなくなります。


 フェリベルの場合は、ある意味で小部隊が相手でしたし、部隊としてまとまっていました。

 ヴィルトンの場合は、万の軍勢でしたが、動きが単調である上にやはりまとまっていたので、攻め手と大将格の者の命を奪うだけで退却させることができました。


 でも、西側のアブリビルの軍やダンデロンド王国の精鋭部隊が侵攻を始め、さらにこれに呼応するように東側の帝国又は皇国のいずれか、若しくは、その両方がラムアール王国に侵攻を始めたなら、ラムアールの軍勢は分断せざるを得ないでしょうし、私も両方への対応は難しいかもしれません。

 少なくとも、ラムアール王国の民人たみびと達が大きな被害を受けるのは避けられないと思います。


 色々と悩んだ末に、あまりやりたくはないのですけれど、戦争用の魔道具を新たに開発することにしました。

 この魔道具はできれば使いたくはないので、弟子達にも開発していることすら内緒にします。


 但し、いざとなれば、エルメリアには手伝ってもらうことになるでしょうね。

 二正面作戦(もしくは三正面以上?)では、私一人での対応はできないと思うからです。


 まして通常の軍隊以外にも魔人の連中が密かに侵攻してくる可能性もありますけれど、魔人に対抗できるのは今のところ私一人だけですよね。

 ですからエルメリアには、魔道具により通常兵力のお助けマンを演じてもらうつもりなのです。


 エルメリアだけで足りるかというと、一人で多方面に対応することはやはり無理でしょうから、そのためにも人型のゴーレム?アンドロイド?を製造し、それらに魔道具の武器を持たせるつもりでいます。

 間に合うかどうかはわかりませんが、取り敢えずはできるところから始めるしかありません。


 武器を作り、人型の戦士を作っても、私は死の商人にはなるつもりはありませんから武器を他人ヒトに譲ったりはしませんよ。

 王国から仮に打診があっても提供はしないつもりでいますが、ゴーレムが間に合わなかったら、場合により武器の提供も行うかもしれません。


 その場合は、遠隔により武器を使用できなくする機能をつけることにします。

 戦が終われば無用の長物になり果てるよう細工するつもりなんです。


 人を守るために戦に身を投じるとしても、無用の戦闘は絶対にしないという気概が無ければ、魔道具も人型ゴーレムも作れないと思います。


 私が倒した二人目の魔人のように、魔物を使役し、利用することも一時的に検討はしてみましたが、万が一にでも制御不能になった場合のことを考えると、魔物の投入は諦めるしかありませんでした。

 パティやマッティのように気心の優しい神獣が居たなら協力をお願いしても良いかもしれませんが、おいそれとは見つからないでしょうね。


 妖精たちは人間界に可愛い悪戯はしますけれど、基本的に人の世の流れには無関心です。

 ですから、彼らの姿が見え、精霊空間に入り込めるという特殊な能力を持つ私に対して、相応の協力はしてくれても、人のためにその存在を掛けて戦うようなことはしません。


 ですから、取り敢えずは私とエルメリアだけで頑張ることになりそうです。

 人型のゴーレムがうまくできたなら、すごく大きな戦力にはなると思いますが、私が構想として持っているのは自律型アンドロイドなんです。


 私を含めて具体的な命令を下す者が居なくても、自分で判断して的確に動き回れる存在を生み出したいのです。

 前世の21世紀でも簡単にはできなかったことを、科学知識の裏付けがないこの世界で作り出すことができるかどうか、はなはだ不安で、自信なんかまるでありませんけれど、やってみるしかありません。


 これから暫くは、我が家の地下三階にある秘密工房での夜更かしが多くなりそうです。

 武器となる魔道具については、前世にあった銃砲の類を考えています。


 別に金属製の弾丸を発射するものでなくても構わないのです。

 発射した先に目標が在って、それに到達した時点で相当な破壊力が顕現できるようなものであればなんでも良いのです。


 小銃タイプのレーザー銃は、比較的簡単に作れました。

 光魔法の応用ではあるのですけれど、魔石からの魔力をシリンダー内で圧縮し、レーザーのように銃口から発射する方式です。


 レーザー光は、一射あたり、最大で3秒ほども持続できますので、例えば百尋もの距離で離れている敵に対して、薙ぎ払いのような使い方が可能です。

 レーザーブレードでもいうのでしょうか、猛烈に熱い光の筋がその進路上にある何でも切り裂いてしまいます。


 但し、これを人に使用するのはさすがに残酷に過ぎるような気がしますので、十分の1秒の点射で連発する銃にしました。

 このレーザー光が標的に当たると、直径が三センチほどの穴を穿って、一尋の厚みのある大岩も簡単に貫通するほどのエネルギーがあります。


 重戦士辺りに対抗するには十分な威力でしょう。

 そうしてこのレーザー銃ですが少々のバリアーは貫通してしまいます。


 エルトリアに最大出力の魔法結界を張らせて実験をしましたが、魔法で生まれたレーザー光ながら、その特性は魔法というよりも物理攻撃になるようで、対魔法結界では防げないことが分かりました。

 物理攻撃に対する防御は、鎧、楯などが代表的ですが、魔法を使った対物理結界でも、例えばバリスタあたりの質量の大きな攻撃は一般的には防げないんです。


 多分、王宮の魔導士でもバリスタを防げる結界を張れる者は居ないんじゃないかと思いますよ。

 私の場合は、バリスタ程度ならおそらく余裕で防御できますが、レーザーの場合は偏光や散乱させることはできても完全に防御するのは難しいですね。

 もしやるとすれば、射線に鏡を作って反射させるのが一番簡単です。


 但し、よほど硬くて熱に強い金属の鏡面じゃないと無理そうです。

 実験では、ヒヒイロカネの鏡面仕上げではレーザー銃の連続照射に耐えることができました。


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 6月25日、一部の字句修正を行いました。


  By @Sakura-shougen


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