第86話 閑話 魔法に関する考察 その二

 前回に引き続き、魔法に関する戯言ざれごとのようなお話です。

 魔法を使えるのは、亜人を含めたヒト族だけでなく、魔人も使えますし、魔物でも使える存在があるみたいですね。


 ゴブリン退治の際に、魔法を使うゴブリン・メイジという種が居ましたし、他の魔物でも魔法を使う種がいるようです。

 そうして、神獣であるパティとマッティもどうやら魔法を使えるようですから、ヒト型生物だけの特権という訳ではないようです。


 そうして魔物に関連するのは、魔石ですね。

 魔物には魔石があります。


 魔石を持っていないものは、魔物ではなくってただの獣です。

 スライムですら小さな魔石を持っています。


 一般的に魔物が強いほど魔石は大きいのだとか・・・。

 これも理由は不明なんですよね。


 ヒト族の魔力溜りのようなものが、魔物にもあってそれが魔石に変化しているのかもしれません。

 私達錬金術師は、この魔物由来の魔石を魔導具に使っているのですけれど、多くの場合、魔法発動の源や魔法を維持するために使っています。


 例えば私が造る携帯型ライトは、くず魔石と言われる普通のゴブリンの魔石を用いています。

 魔法陣で魔石に込められた魔力を引き出せるようにするんですが、同時にこの魔石には一定量まで魔力を込められるんです。


 但し、余り魔力を込めすぎると、魔石自体が壊れてしまうので魔石によって容量があるみたいですね。

 例えば懐中電灯替わりに造った携帯型ライトの場合でも、魔法陣との相性のようなものがあって魔石によっては効率の悪いものと良いものがあるので、魔石自体に魔法属性がそれなりにあるのかもしれません。


 大きさの問題で言えば、もう一年近くも前のことになりますけれど、ゴブリンの集団を退治した際に得られた魔石は、確かにキングのもの、ジェネラルのもの、メイジ、アーチャー等の順で大きかったですね。

 後でギルマスが言っていましたけれど、ジェネラル以上の魔石は主として軍事方面に使われるのだとか。


 尤も、ゴブリンの場合は、往々にして無属性のモノが多く、メイジ以外のモノは魔法師用には使えないのだそうです。

 生憎と攻撃魔法用の魔導具は造ったことが無いので、魔石の大きさで発動する魔法がどの程度違うのかは私もわかりません。


 護身用で持ち運びの簡単な拳銃擬きの魔導具を検討してみてもよいかもしれませんが、人殺しの道具として真似されては困りますので、前世では暴徒鎮圧用に警察等が使っていたゴム弾発射装置のようなものが良いかもしれませんね。

 それはともかく、魔石に魔力が込められのであれば、逆に魔力が乏しくなった時に魔力補給用に使えないのかと思いましたけれど、今のところそのような魔導具は無いようです。


 現状では、魔力の補給はもっぱらMPポーションに頼っているようですよ。

 いずれにせよ魔力と魔石は密接な関係がありそうですね。


 では、魔素はどうなのでしょう?

 単なる空想上のものなのか、それとも実在するものなのかですね。


 実在するとすれば、空気のような元素若しくは分子めいたものなのか、それとも磁場や重力場のような空間を占める力場なのかです。

 これとは別に、とある書籍に瘴気のことが記載されていました。


 魔物の起源に関する理論の一つのようですが、瘴気が貯まりやすい場所に生き物が長時間居ると魔物に変化するという推論です。

 何もないところから魔物が生じるというのもおかしいですから、何か元となる物があって、其処に突然変異の様な変化が起きたという考え方が分かりやすいのでしょうけれど、これも実は十分に検証されたものではないようです。


 リリーに確認してもらったら、アカシック・レコードには、魔物の起源についても「…とされている。」の記載がありました。

 確かに生物の進化などは一朝一夕に起きるものではなく、かなり長い年月を経た遍歴になりますから、それを確認することはなかなかに難しい筈です。


 一方で、口承の言い伝えではありますけれど、ゴブリンなどは個体数が増えるとその中に強い個体が生まれるというものがあります。

 確かに一定数を超えた際にそれらを統率する個体が生まれ、ジェネラルになったり、キングになったりすることがかなりの確度で確認されているようです。


 理由は不明ですが集団としての生命力がボスを生み出すのかもしれません。

 その際に多数のゴブリンの活力というか力を一部受け継いでくるために、集団の数が多いほど強いボスが生まれるという理屈がなり立ちそうですね。


 もう一つは魔物若しくは魔石を食らうことにより、魔物は成長するという考え方です。

 こちらは集団ではなく、個としての力量に差が出てくることになります。


 森の中で強い魔物は他の魔物を食らうことで、森の中で一番強い魔物になれるという弱肉強食の世界ですね。

 一方で気になるのは魔人の残す魔石でしょうか。


 あれは魔物の者と異なって、ものすごく魔力が凝縮されているように思えます。

 国王様曰く、王宮の宝物庫にあるドラゴンの魔石に比べると、大きさは最大径で四分の一ほどなのに、察知できる魔力の大きさはドラゴンの魔石に匹敵するほどだそうです。


 残念ながら、私はドラゴンの魔石というものを見ていませんから比較のしようがありませんけれど、魔人の魔石の放射エネルギーが大きいのは確かです。

 そのために三個目以降の魔人の魔石を王家に提出するのを見合わせているぐらいなのです。


 私の亜空間の保管庫の中ではそのエネルギー輻射を隠せますけれど、王宮の宝物庫はどうなのでしょうね?

 数が多くなると放射エネルギーの量から魔人に察知される可能性もあるかと思い、今のところは王家の宝物庫にこれ以上の魔人の魔石を集中させないようにしている状況です。


 取り敢えず、王都に今のところ異変はありませんけれど、前にも言ったように王都が魔人により急襲された場合、王都の結界では防ぎきれないだろうと思っていますので、できるだけ早く私が介入したにしても相応の被害が出るのを防ぐことはできません。

 ましてゲリラ的攻撃をされれば防ぎようが無いんです。


 魔人については被害が出るのを承知の上で、可能な範囲を討伐するしか方法がありませんね。

 あ、魔人討伐の話ではなくって、魔法の考察ですよね。


 前世の私は武道についてほとんど何も知らなかったのに、現世で上級者のような剣技や動きができるのは、そのために必要なスキルと相応の訓練の成果なのだろうと思います。

 私の場合、左程の訓練をしていたわけじゃないのですけれど、経験値のようなものの加算される割合若しくは獲得効率が非常に高いようです。


 だから比較的早い段階で剣豪のような技術を得てしまうのだと思います。

 魔法も同じような感じで、魔法師達研修生が魔力錬成で保有魔力を増大させたように、私も魔法師達の訓練研修に付き合っているうちに魔力のコントロールがより上達しているようです。


 数値化は難しいのですけれど、同じ魔法を使って魔力の使用量が減少しているみたいなんです。

 私の場合、魔力を使ってもすぐに回復してしまうようなので、実は小さな魔力使用量では数値に現れてこないのです。


 但し、体感的に以前と比べて使用する魔力が少なくて同等の効果を発揮できるようになったと感じているだけです。

 私の場合、MPポーションを飲んで魔力補給をするような必要性はこれまでありませんでした。


 魔人との戦いでも大きな魔力を使用していますけれど、左程の時間をおかずに補充できているのです。

 では、この魔力の補充は如何にしてなされているのかですね。


 魔素と呼ばれるモノが、周辺にあるものとした場合、仮に私の身体が魔力を補給するために魔素を吸収しているのだとすれば、魔法を使った際に私の周囲で魔素の濃淡が生じるはずですよね。

 残念ながら私にはその魔素の濃淡を明確には感知できません。


 リリー曰く、魔物が多く存在するような場所では魔素は濃い筈だと言うのですが、生憎と定量化できないもののようです。

 あれ、この魔素って、先ほど出てきた瘴気に似ていませんか?


 魔素って濃くなると瘴気に変わる?

 それとも魔素が何かの原因で変質したものが瘴気?


「瘴気」という言葉は「害悪」をイメージさせますよね。

「魔素」は、魔法のもとみたいな感じで良くも悪くもない中立的な媒体にしか過ぎませんが、瘴気は悪いものを生み出すもとという感じでしょうか。


 面白いのは頻繁に私の亜空間に入っているパティとマッティです。

 彼らは魔素というか周囲の環境に以外に敏感なんです。


 彼らは私の亜空間での生活域について過ごしやすい環境だと言っているのです。

 つまりは彼らが必要としている何かが私の亜空間内にはあるということですよね。


 私が、何もせずとも「魔素」と呼ばれるものは亜空間内にも生成されているようですし、パティとマッティの感触では家の中や庭などの環境よりも過ごしやすい場所になっているようですので、ある意味で良性のものなのでしょう。

 瘴気とは、この亜空間内の環境の対極にあるものなのかもしれません。


 魔法も武術も経験を積むに従ってより上達できるようなので、私もより精進をして行きたいと思っています。

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