第82話 魔人対策の問題点

 エリカです。

 目下、脳細胞を懸命に働かせて問題を解決しようとしています。


 単純に言って魔人対策なんですが、現状ではこちらの動向が魔人側にばれる可能性が高いので転移魔法が使えないという状態に陥っています。

 別に絶対使えないという状況ではないんですよ。


 相手に気づかれない可能性もゼロではありません。

 但し、私が魔人の転移魔法が察知できるように、魔人も私の転移魔法が察知できると見た方が間違いないのです。

 

 転移魔法で魔人との追いかけっこをした際には、間違いなく私が最寄りのブロックに跳ぶと向こうが逃げましたから、私の転移を魔人が察知しているのは確実なんです。

 その上で、向こうもこちらが転移を察知しているものと判断して転移とは別の方法で最寄りに仲間を潜ませるという奸計かんけいを使ってきました。


 そのために最終的には三体もの魔人を相次いで討伐してしまいましたが、ある意味でフロックに過ぎません。

 魔人側が多数いて私に対する対策を本格化したなら、私の不意打ちのような魔法攻撃は効かない可能性もありますし、逆に私が集中砲火を浴びる恐れさえあります。


 ですから未だ残っているラムアール国内の転移拠点と監視網を増設したいのですけれど、そちらの作業も今は中断しています。

 このジレンマを解消するためには、複数の魔人が出現した場合の対策と、魔人に察知されない転移方法等を見出す必要があります。


 魔法というのはある意味でイメージの問題でもあるようなんです。

 自然界にある炎しか見たことのない者は、高温の炎を生み出すことが中々できません。


 尤も、誰かが例えば白や青白い高温の炎を魔法で産み出して、その効果を見せたなら、あるいはそのことでイメージが湧いて当該見せられた者の魔法能力が向上するかもしれません。

 今現在私のところに研修に来ている王宮魔法師団や領軍魔法師の連中は、氷の槍を魔法で作れるということを知りませんでした。


 まぁ、知っていても魔力量が少なすぎて生み出すことができなかったわけですけれど、我が家に下宿しながら鍛錬を続けて行くうちに水属性の魔法師は概ね氷の槍を造り、土属性の魔法師は岩からバレットを生み出せるようになりつつあります。

 土属性魔法師にはさらに進んで土で槍衾(やりぶすま)を造れるように訓練させているところですし、水属性魔法師には水流で岩を穿孔(せんこう)し、金属を切断する訓練をさせているところです。


 このまま推移すれば、予定通り、研修を請け負ってから一年後には、四人ともに卒業して原隊復帰の上で同僚や後輩を教育してもらえることになるでしょう。

 余分な話になりましたが、彼らの中にイメージとそれに必要な魔力量が備わったので想定された魔法が発動できるようになったわけです。


 このように魔法の発現というのは、ある意味で自由な発想のもとに生み出せるものなのです。

 私は魔力量だけは魔人と同等以上に保有していそうですから、それに見合うイメージで新たな魔法を生み出せれれば、複数の魔人であっても対抗できるかも知れません。


 結界で囲って内部に閉じ込めた上で加熱する方法は、これまでは有効でしたけれど、今後は、魔人が対抗策を見出す可能性も有り得ます。

 従って、第二、第三の討伐方法を探さねばなりません。


 それが目下の問題点の一つで、もう一つは魔人に悟られずに転移魔法と同様に移動する手段はないかどうかです。

 今検討中なのは、亜空間に私が入り、ピンホールを開けて外部映像を写真宜しく覗き見る方法です。


 亜空間自体を結界で囲い込むことで余分な放射エネルギーは隠します。

 ピンホールの穴が唯一の弱点になりかねませんが、その程度の危険は止むを得ないでしょう。


 但し、当該亜空間を生み出すには、私自身がその場に移動していなければならず、別々の亜空間内を転移するという方法は使えそうにありません。

 亜空間魔法は飽くまで私が起点であり、そこを離れて別途の亜空間を生み出すことができないのです。


 「亜空間におけるピンホール」は、飽くまで近接の監視方法の一つと考え、ピーピング・ホールと名付けました。

 張り込みにはとっても便利な魔法だと思いますよ。


 ピンホールですから亜空間で見える映像はさかさまになるんですけれど、のぞく際にはレンズを組み合わせて正常方向に直しています。

 リリーが調べてくれたアカシック・レコードでは、詳細な方法はわからないないものの、影空間を使った移動と精霊空間を使った移動の二つの遷移方法があるらしいということが分かりました。


 影空間も精霊空間も、おそらくは私が使っている亜空間とは異なる時空間です。

 私自身には時空魔法の素養がありますので、そうした空間を見つけることはできるかもしれませんよね。


 で、先日来から色々と試行錯誤していますが、なかなかに難しいんです。

 精霊空間は精霊魔法に通じるのかもしれないので、エルメリアに色々と精霊魔法のイロハを教えてもらいながらの試行錯誤です。


 更に精霊魔法については、神獣であるパティとマッティの意見も色々と聞いています。

 意思疎通はそれなりにできますけれど、生憎と学者の様に体系的なものを知っているわけではなく、パティとマッティから伝えられるものは経験則的なものです。


 最近姿を消して外出できるようになったのもどうやら精霊魔法の一種の様です。

 私の隠形と認識疎外は、時空魔法と闇魔法の組み合わせのようなものですけれど、それとは異なる方法であるパティとマッティのやり方も大いに参考になりましたし、精霊魔法の訓練にもなります。


 もう一つの影空間ですけれど、どう考えても分類としては闇属性魔法の可能性が高いですよね。

 ですから、もしかすると影空間については、魔人が知っていて既に使っている可能性があるやもしれません。


 従って、影空間を利用する遷移を使う場合には、要注意ですね。

 弟子や研修生の面倒を見る傍ら、内職の様に研究と模索を続けています。


 勿論、飯の種であるポーション作りや魔道具作りなども継続していて、製品は錬金術薬師ギルドや商業ギルドに提供していますよ。

 ポーション作りや魔道具作りなどの方は、片手間で出来る仕事ですから左程苦労はしていません。


 今現在、思案中の魔法は、ある意味で自動的な防御や自動的な攻撃方法です。

 勿論私の魔力を使わないと発動しないものですけれど、私が一つ一つ認識して発動していたなら対応が遅くなるのは目に見えています。


 こちらの世界に転生してから若返りましたから反応速度も極めて速くはなりました。

 でもそれでは多数の敵を相手にするには不十分なのです。


 索敵し、敵を発見したならその位置の確認、更には攻撃手段の選択と発動とを一連の流れを一瞬で発現しないと命取りになります。

 学生時代に習ったプログラムのアルゴリズムが役立ちそうです。


 色々な場合分けをしてサブルーチンを造り、予め想定する事案に適合する場合には、自動遂行プログラムへの移行ができるように条件反射をさせるんです。

 これを体内のプログラムとして想定すれば、私自身が自動的に敵を見つけて攻撃するシステムとして使えます。


 勿論これを実行する際にバグがあってはなりません。

 敵ではなくって味方若しくは一般人を傷つけては意味がありませんからね。


 困るのは人質を取られて盾にされるような場合ですが、それについても種々のヴァリエーションを考えて、ある程度は対応できるようにするつもりです。

 ただ、場合分けがものすごく多いんです。


 こんな時は前世の私が亡くなる前に存在していたAI機能が欲しくなりますね。

 人間の代わりに機械が判断してくれる奴です。


 使い方によってはかなり危険な代物ですけれど、本当に困ったときには助けになるかも知れません。

 どちらかと云うと前世では、私は好きになれなかったモノでもあります。


 AIは、人の知性を軽んじる一面もあるからです。

 特に創造性や技能面で所謂真似をして新たなものを生み出す傾向が強いのは何となく好きになれませんでした。


 私が亡くなる直前には、AIが人間の代わりに脳外科手術を行うまでに進化していましたが、残念ながら想定にないことが発生すると手術を取りやめてしまうポンコツでした。

 手術中の患者を放り出して停止してしまうんですから本当に困ります。


 そうは言いながらも突発事案を無いものとしてそのまま手術を強行されても困りますけれどね。

 機械は飽くまで機械であってプログラムされたこと以外はできないということなのでしょう。


 私が今試行錯誤している自動対応の生体プログラムも想定事態から外れると私に判断を預けて来る代物です。

 自動であろうとなかろうと、私自身が自分の意志で行うことですから、多少遅れようと事態の把握はできているはずですけれど、咄嗟とっさの判断がどれだけできるかは未知数ですね。


 私が戦闘に特化した武人であるならばともかく、多少チート能力を持った一歳児のようなものですから、未だに自分の能力を十全に発揮できているわけではないんです。

 欲を言えばもう少し対人(対魔人?)戦闘の経験が欲しかったですね。


 この際なので錬金術で遠距離射撃用の狙撃銃も製造してみました。

 火薬と魔法を使った特殊銃なので、無音ですし、標的さえ見えれば3キロ先からでも超音速での狙撃が可能です。


 魔人の物理耐性がどの程度のものかは知りませんが、3キロ先から射撃して1m厚の硬い岩を打ち抜ける威力の銃弾にどこまで対抗できるのかでしょうね。

 しかも弾丸は、元医者としては使用するのにとても抵抗感のあるホローポイント弾です。


 そうして色々苦労した挙句に編み出した戦法が、影空間若しくは妖精空間からの狙撃戦法です。

 どちらの空間も見える範囲にある空間であれば遷移が可能なので、ピーピング・ホール(この場合は亜空間ではなくって影空間若しくは妖精空間になります)から見える範囲に移動を繰り返して長距離遷移ができるようになりました。


 但し、影空間と精霊空間利用の遷移は、時空間魔法から派生する転移魔法と異なり、行ったことのある場所に転移という手法が使えません。

 転移魔法若しくは遷移魔法は便利ですけれど、それぞれにメリットデメリットがあるようです。


 自動判別と攻撃を瞬時に行うプログラムも一応は実行段階ですが、実は試す機会が無いんですよね。

 本番で使って失敗して自滅というのは一番困るパターンですけれど、致死性の攻撃なので試験がなかなかできないんです。


 止むを得ないので、最後の手段として取っておきましょう。


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 1月29日、一部の字句修正を行いました。


  By @Sakura-shougen




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