第80話 マサキの出番です
おげんきでございますか。
エリカです。
ラムアール王国内のあちらこちらに転移のための拠点整備を行っていると、色々なところで様々な病気にお目にかかったり、噂を聞いたりすることになります。
前世の地球でもありふれていたような病気もありますし、この世界特有の病気もあります。
風邪やインフルエンザはこの世界にもありますし、人獣共通感染症(ズーノシス)と呼ばれる脊椎動物と人間の間で通常の状態で伝播しうる疾病(感染症)もあります。
当然に、非ズーノシスと呼ばれる動物・人間間では感染しない病気もあるようです。
そうして怖いのは魔物から感染する病気でしょうか?
魔物自体が保菌体ですけれど、魔物が発症することはありません。
魔物に襲われた人間が何らかの異常を発生するのです。
一番典型的なものは、バジリスクやコカトリスの影響で石化される症状でしょうか?
どこやらのおとぎ話の様に目から出る不可視光で感染したりはしませんが、ブレスに
これだけでは感染するのはブレスを掛けられた当人だけの話で感染症には見えないのですけれど、実は。ブレスに含まれる病原体は吹きかけられると生体の皮膚から体内に侵入しそこから石化を始めます。
この浸透途中に別の者が触れたりするとその人も感染するのです。
ブレスが吹きかけられて10分程度で病原体は体内で変化し始めますので、勘背が危険であるのはその10分程度の間だけですが、初期の頃は、それが分かっていないために被害者を助け出そうとした救出者が感染したものです。
特に体表に傷を負っているような場合にブレスを受けると、感染速度が異様に速いことから1日で半身が石化するほどです。
単純な話、石化のプロセスが始まると助からないと言われています。
但しウイルスなりの病原体が原因であるとすれば、その対抗薬も造れそうですし、私の治癒魔法で病原体の殲滅も可能かもしれません。
しかしながら、その手当ができるのもブレスを浴びて半時間以内でしょう。
既に石化してしまった部分を元に戻すのはかなり難しいと思います。
尤も、ここは異世界です。
どうやらエリクサーなる万能薬があって、それを服用すると助かるという噂があるのだそうです。
そのエリクサーを誰が造っているのかと云うと、実はそれを造った人物は知られていません。
何でもダンジョンの奥深くに宝物として存在していることがあり、それを入手した冒険者がオークションに出したことがあるそうです。
因みに、このラムアール王国にも「神の雫」と呼ばれる容器入りのエリクサーを王家がひとつだけ保管しているという話を、サルザーク侯爵夫人からたまたまお聞きしました。
容器一つで一回分なのだそうで、余程のことが無いと使えないんだそうですよ。
一体どんなものなんでしょうねぇ。
その話を聴いて私の好奇心がざわついたので、早速、王宮に忍び込んでみました。
決して盗むつもりはありませんが、可能ならば確認をしてコピーを造っておきたいですよね。
王宮には結界が張ってありますし、警備も厳重なんですけれど、私なら気づかれずに難なく侵入できちゃいます。
姿を消したままあちらこちらと動いて最終的には、王妃様に闇魔法を掛けてそのあり場所を聞き出しちゃいました。
ドアの外には衛兵さんが二人も居るところで、金庫を開け、中に入っていたエリクサーを確認しました。
鑑定によると確かにエリクサーのようですが、有効期限が5年以上も前に切れていますね。
ですからこのエリクサーでは本来の効能は引き出せないでしょう。
鑑定によって成分が分かり、同時に作成に必要な素材が分かりました。
作成者のお名前がついているんですが、・・・。
えーっと、これは「アリシア神の娘ヒメラ」となっていますね。
やはり、これは神様が造った霊薬なんでしょうかねぇ。
でも、素材と成分が分かれば私にも作れるかもしれません。
素材が結構面倒な代物ですけれどね。
素材には希少な薬草等がありますけれど、こちらの方はリリー曰く私ならば比較的簡単に見つけられるそうです。
問題は、「世界樹の朝露」、「シーサーペントの鱗」、「アラクネーの足の一肢先端に生えている繊毛」でしょうか・・・。
「世界樹」って伝説にある世界中に根を張って世界を支えているようなあの世界樹でしょうか?
ただ、ラノベにも世界樹ってあったような気がしますねぇ。
確かエルフの里にあるとか、何とかという樹木の精霊が守っているとか・・・。
念のため、弟子たちに聞きましたけれど知らないそうですし、エルメリアも知らないそうです。
但し、エルフのローランド・グレアムさんが知っていました。
エルフが守護神と崇めているのが世界樹と呼ばれる大樹なんだそうで、エルフの里にあるそうですが、ヒト族が傍に近づくことはできないだろうと言われてしまいました。
まぁ、場所さえわかれば何とかできそうな気がしますけれど、きっとエルフの里そのものが色々と面倒なのでしょうね。
シーサーペントの鱗というのも、シーサーペントがどこにいるかわからないと入手が難しいのじゃないでしょうか。
リリー曰く大きな海洋に棲んで居るのだそうですけれど位置を特定するのは難しそうです。
あともう一つ希少な素材としてアラクネーの足の第一肢に生えている毛ですが、アラクネーって、確か蜘蛛とヒトのキメラでしょう?
それって本当にいるんですかねぇ。
リリー曰くアカシックレコードでは一応存在しているらしいです。
場所は不明です。
アカシックレコードって、ちょっと不親切ですね。
まぁ、リリーのレベルに寄るのかもしれませんが・・・。
ここは異世界なんで、何でもありといえばありかなぁ。
暇が有ったら是非とも探してエリクサーの製薬に挑戦してみたい逸品ですね。
王家にあったエリクサーを、一旦、私の亜空間に引き入れてコピーができるかどうか試してみましたけれど、元々期限切れの劣化版でしたから、複製することで余計に劣化したみたいです。
勿論このコピーの成分を抽出して再生するというような方法もできませんでしたね。
やはり一度は、自分の手でエリクサーを造らないとイメージも沸きませんのでコピーも難しいようです。
エリクサーの話は別として、集落の半数の者が視力障害を引き起こしているところがありました。
原因を調べてみると、多分トラコーマと呼ばれるクラミジア由来の感染症だと思われます。
通常は体液に触れることで感染しますけれど、このクラミジアは特殊で水中で30分ほども生き続けるために、クラミジアが存在する水に触れることで生体に移り、眼に障害を引き起こすようです。
クラミジアの場合、性交によっても感染しますから、感染者は隔離が必要ですね。
今のところ辺境のこの集落だけにとどまっていますけれど、交易商人などもやって来るようですので、相応の感染防護措置と治療が必要です。
生憎とカボックからはかなり離れた遠隔地ですので、聖ブランディーヌ修道院の修道女たちを連れては行けません。
止むを得ませんのでサルザーク侯爵にお願いし、紹介状を頂いて現地の領主フェルマータ子爵のところへお邪魔しました。
勿論、エリカではなくマサキに変装していますよ。
そうして集落(ヴァルアル村)の現状を説明し、感染防護のための支援と封鎖措置をお願いしました。
お薬は私とファラが造った二種類の抗生物質を用意し、点眼薬若しくは内服薬として使います。
視覚障害を起こしている方で、軽度の者には点眼薬を使用し、重度の者には治癒魔法で目の表皮を一旦除去してから癒すことで治療しました。
困ったのは性交の制限ですね。
これが守れないと感染は止められないんです。
止むを得ず男女を隔離する措置にしましたよ。
夫婦であろうとクラミジアが根絶されるまでは接触禁止です。
この間の食事等については、近隣の集落からお手伝いでおさんどんに来てもらいました。
この人たちには感染防護の知識を教育して極力患者には近寄らないようにさせています。
患者の中に幸いにして妊婦は居ませんでしたが、妊婦が居たりすると産道経由で子供が感染する恐れもあるのです。
このヴァルアル村での感染症治療には半月ほど要しました。
従って、この期間は、私が工房を留守にしていました。
細かい説明はしていませんけれど、ウチの者はそれなりに納得していてくれています。
全てが終わって子爵様に報告に行きましたら、報奨金として金貨20枚を頂きましたよ。
治療費と半月分の拘束代金としては少し安いかもね。
でも元々ボランティアのつもりでしたからね。
貰えるだけめっけものということでしょう。
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1月15日、一部の誤字修正と字句修正を行いました。
By @Sakura-shougen
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