第79話 色々とやってみる?

 エリカです。

 魔人相手の鬼ごっこは、危険が伴います。


 あまり頭を使わない魔物であればともかく、相手はヒト族と同等以上に賢い生き物ですから、こちらも十分に注意を払う必要があります。

 私の方は今のところ尻尾を掴まれてはいないと思うのですが、相手も色々と探りを入れている状況と思われるのです。


 これまでに討伐した二体の魔人の消息を探している可能性もあり、特に破壊された基地の在り処ありかを仮に知っていて確認しているならば、キメラを造っていた名無しの権兵衛さんは既に何者かにられたものと見做みなている可能性が大でしょう。

 名無しの権兵衛さんと親しいモノであれば、いずれはその行方を捜すでしょうし、居場所や基地を知っているならばそこを訪ねることでしょう。


 但し、魔人がどちらかと云うと個人主義や秘密主義であって、仲間とあまり交流していない可能性も勿論ありますよ。

 一体目の魔人インサファルメラと二体目の名無しの権兵衛さんは、少なくとも互いに連絡を取っていた様には思えないんですよね。


 仮に、何らかの計画に沿って組織的に動いていたのであれば、互いの動きは知っていたでしょうから、二体目の権兵衛さんの「研究所?」若しくは「基地?」はそれなりに隠蔽はしていましたけれど、もう少し敵対者に用心していたのじゃないかと思います。

 インサファルメラの場合は、完全にヒト族を見下していてそもそも相手にしていない風で油断の塊みたい感じでしたけれど、二体目の名無しの権兵衛さんがインサファルメラの討伐を知っていたなら、いくら何でももう少し用心をしていたと思うのですよ。


 その意味で、今、まさに効果の上がらない鬼ごっこをしている相手は、自分たちの脅威となる存在をそれなりに承知しています。

 だからヒト族の近場に居ながら、特段の悪さもせずに様子を窺っているのだと思います。


 有り得るシナリオとしては、この三体目の誰かさんが一体若しくは二体の同族の消息不明を知り、その原因を探るためにかなり用心深く動いているのじゃないかと云うことです。

 そうして彼又は彼女が空間転移をすると、それに反応して空間転移をしてくる何者かをみつけ、当座の脅威となる対象の絞り込みを掛けようとしているのじゃないでしょうか。


 でもなかなか思うように絞り込めないので、次に打つ手は、協力者を増やし、複数で絞り込みを掛ける可能性が出てきますよねぇ。

 一体が囮になっている間に、もう一体が密かに監視をするという方策で具体的な対象の絞り込みを図るような手法です。


 相手は8ムロから10ムロ程度の距離で私の転移を捉えているみたいですので、その逆手を取って、それよりも遠距離に一旦出現して、そこから徒歩もしくは飛行で接近する場合、一体どこで気づくかを試してみたいですね。


 勿論、相手も同様の方法で私に接近してくる可能性はあるということです。

 私の脳内センサーの場合、現状で概ね12ムロ(約20㎞)程度までなら、魔人の存在を確認できるのじゃないかとは思っているのですけれど、これまでは専ら魔人が転移してきた時点で気づいていましたのでその限界がまだよくわからないんです。


 仮に私の脳内センサーよりも魔人側のセンサーが優秀であれば危険性が増すことになるのですけれど、少なくともこちらの転移については8ムロから10ムロ程度以内でなければ向こうは気づけない状態にあるようです。

 この距離を調べるために、転移を使って監視ゴーレムを設置している一マスごとに転移を繰り返して接近したわけですけれど、徒歩もしくは飛行によりじわじわと近づいた場合も同じなのかは念のため確認しておく必要がありますね。


 特に、インサファルメラの場合、隠密と認識疎外を掛けていた私のすぐそばに出現したにも拘らず、私を認識していなかったという事実があります。

 魔人が、隠密と認識疎外で私の姿を認識できずとも、転移魔法の発動の痕跡等を感知しているだけなら、手立てが増えるかもしれません。


 という訳で、今回は10マス(約46㎞)離れた場所に一旦転移し、そこから隠密と認識疎外を掛けたまま、ほとんど地上すれすれを高速で飛行して魔人の出現地点に向かって接近中です。

 但し、目標の魔人まで6マス(約16ムロ:約32㎞)ほどまで近づいた時点で別の危険な存在に気づきました。


 私の進行方向やや北側、距離約21㎞の地点に存在する鮮紅色の危険を感じ取りました。

 この感覚は9割がた魔人ですね。


 そうしてこの魔人の存在は、監視ゴーレムの設置場所の索敵範囲内にもかかわらず、監視ゴーレムは空間転移の痕跡を察知していませんでした。

 従って、この危険な存在は、空間転移以外の手法でこの区域にやってきたということになります。


 6マス向こうの区画には、魔人らしき存在を私が設置した監視ゴーレムが今現在もカメラの片隅に捉えていますので、別のもう一体が出現したことになりますね。

 やっぱり、向こうさんも色々考えているわけです。


 しかし、これは結構難しいことになりましたね。

 一体を相手にしている間にもう一体が参戦してくる可能性もありますし、魔人の集団に私という敵性存在が確実に知られることになります。


 おそらくは監視ゴーレムの配置以外の場所に転移した上で、センサーが感じ取れない方法で移動してきたのだと思います。

 生憎と監視ゴーレムに設置しているのは主として空間転移を確認するためのセンサーであって脳内センサーよりは能力が劣る者なので、察知できないとしても止むを得ません。

 

 いずれにせよ、その移動方法はわかりませんし、今魔人がいる二つの区画にはどちらもセンサーが仕掛けてありますけれど、進路方向やや北側に新たに見つけた魔人らしき存在は、私の監視ゴーレムのカメラでは捉えられていないのです。

 さてこれは問題ですね。


 どう対応すべきなのか?

 これまで私は、魔人と正面から力づくでぶつかったことがありません。


 相手が攻撃を仕掛ける前に、ほとんど奇襲と言っても良い方法で相手を封じ込めて滅したのであり、相手の攻撃をまともに受けたことが無いわけですので、正面から力押しした場合、相手の攻撃に耐えられるかどうかは不明なのです。

 取り敢えずどちらか一体は不意を衝くことで仕留められるかもしれませんが、そのことがもう一体に知られると、攻撃されたり若しくは逃げられたりすることになりかねません。


 そうして二体でだめならと二倍三倍の勢力で押し出して来られたら、流石に私一人での対応は難しいかもしれないのです。

 そうかといって放置もできませんよねぇ。


 向こうが手出しをして来なければ良いのですけれど、これまで倒した二体の魔人が、いずれもヒト族に対する攻撃を当然のように行ってきましたから、現段階では人気の無いところでの鬼ごっこで済んでいるとは言え、今後集落等を襲撃されて誘い出されるような場合があれば、流石に手をこまねいているわけにも行かないでしょう。

 さてさて、どうしたものか・・・。


 ◇◇◇◇


 結局、悩んだ挙句に奇襲作戦を決行することにしました。

 センサーで明確に位置を捉えている遠い方の直近に転移し、その直後に敵の周囲に結界を張って閉じ込め、内部を高熱に晒します。


 その魔法を放って、隠密と認識疎外の魔法を継続したまま、近傍の土の中に隠れます。

 仮に、もう一体がその現場に駆けつけて来たなら、地上に出て、再度攻撃を成します。


 もう一体が現場に跳んで来なければ今回はそのまま様子見です。 

 仮に二体を片付けることができたならそれ以上の永井は無用ですので一時撤退するつもりです。


 彼らが仲間内と連絡を取って来ているなら、別組が再度出張って来るでしょう。

 その監視に当たることになりますね。


 何だか、行きあたりばったりの作戦ですが、この時点では最も良い方法だと思っています。

 勿論、魔人と全面戦争覚悟の上での先制攻撃ですよ。


 少なくとも前例二体の行動から見る限り、彼らのメンタリティにヒト族と話し合うような余地があるとは全く思えないのが残念です。

 そうして、私は跳びました。


 狙いは東を向いて立っている魔人―甲の背後ですけれど、真後ろではありません。


 ドンピシャで狙う魔人の約5m背後に遷移、直ちに魔人に結界を張り、即座に1万度までの高熱を発生させます。

 次いで、最寄り地面に潜る間もなく、私の背後に空間転移で別の魔人-乙が現れましたので、これにも対処します。


 同じく同様の措置をした途端、他所外のことにもう一体が左手方向に出現したのが分かりました。

 間髪入れず、これにも攻撃を加えます。


 味方だったらどうする?

 いいえ、センサー内では真っ赤になった敵愾心がのぞき見えますから絶対に味方などではありません。


 思いがけず三体の魔人と対処してしまいました。

 その時間は多分二秒までかかっていないように思います。


 私は、対処が済んでからすぐに地中に潜り、身を隠しながら観察します。

 三体とも燃え尽きたのはその五分後ですけれど、それから1時間は辛抱です。


 1時間して別勢力の介入も無いと判断して私はそこから転移しました。

 勿論三体分の魔石が私のインベントリに入っていますよ。


 今回は何とか無事に片づけることができましたが、次回も無事とは限りません。

 一対多数の戦い方について検討しておく必要がありそうです。

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