第71話 拠点登録と怪しげな気配
エリカでございます。
キメラについての王家への報告は、侯爵様から王宮が管理する通信機器で一応の報告がなされましたけれど、その5日後には侯爵様が王宮に直接出向くことになりました。
その関係で、とばっちりが私にも来てしまいました。
まぁ、タクシー代わりが主な役割なのですけれど、討伐者兼目撃者としての証言が報告には必要なのだそうですよ。
公爵にはほぼ全てをご報告していますから、多分、新たにお話しできることはそうそうはない筈なのですけれど、まぁ、仕方がないでしょうね。
ということで、私も王宮へ参りましてお偉方にお話してきました。
勿論、やせぎすの中年女性「キヨ」の姿で初お目見えです。
侯爵の報告では、討伐者が「エリカ」とされていたのに、サルザーク侯爵とともに参内したのが別の女性であったことから、国王様も宰相様も目を白黒させていましたけれど、まぁ、侯爵様から説明を聴いて、呆れはてたのか無駄に考えるのを止めたのようですよ。
結局のところ私が変装していることについては、それ以上の特段の質問はございませんでした。
尤も、傍に控えていた魔法師団の団長さんが、後に側近に対して「あの変装はちょっとやそっとでは見破れない。」と言ったとか言わなかったとか云う噂があると、研修に来ているビアンカ嬢から教えてもらったのはそれから一月後のことでしたね。
私と侯爵の報告に基づき、王宮でも内々にキメラ対策と魔人対策を検討することになっており、特に王都内での警備を厳重にすることにしたようです。
まぁね、転移魔法が使える魔人はどこに現れるかが全くわかりません。
ある意味でテロのし放題なわけなんですけれど、王宮には一応の結界があって簡単には侵入できないそうなんですよ。
でも、念のために私が試したら割合簡単に出入りができちゃいました。
王宮のとある部屋(会談場所)から王宮外の王都内某所に移動し、瞬時に戻ってきたので余り気づかれてはいないのですけれど、私を注視している人がいれば、一瞬だけ私の姿がぶれたはずです。
結界があるために、確かに王宮内部に出たり入ったりするのに若干の違和感のような抵抗はありますけれど、私ぐらいの魔力があるとなんの障害にもなりません。
リリー曰く、魔人にそれほどの魔力があるかどうかは疑問だということなので、取り敢えずは結界があっても要注意ですよということだけ申し上げておきました。
その旨を申し上げましたら、国王様も宰相様も真っ青になっていましたね。
何れにせよ、無事に王宮への報告も終わって、私はカボックへ戻りましたよ。
◇◇◇◇
キメラ騒ぎが起きてから三か月、魔人の暗躍を私なりに少し心配していましたけれど、今のところは何事もなく推移しています。
でも念のために、私の拠点登録作業は続けています。
概ね、集落がある場所に限定していますけれど、大きな都市の場合には南北とか東西とかに二か所以上の拠点を設けることもあります。
拠点としての登録ポイントは地上や地下にもありますけれど、概ね上空が多いですね。
大体、地上高で200m程も上空だと障害物が一切無いんですよ。
毎日、夜のお仕事で一刻(約二時間)ほどあちらこちらに跳び(飛び?)回っています。
でもラムアール王国って結構広いんですよね。
これまでで300か所ほどの拠点登録ができました。
300か所もどうやって覚えるのかということなんですけれど、そこはリリーが支援してくれますし、若い身体(脳?)の所為か物覚えも良いんですよね。
多分一度行った場所なら忘れないと思います。
転生の際の特典で私の記憶力が上がっているのかも知れませんし、あるいは、空間魔法の転移能力にそもそも含まれるスキルなのかもしれませんね。
それ以外にも、私が医学生だった頃の知識や診療医師としての経験知識がそのまま引き継がれているのにはびっくりです。
生前にはうろ覚えだった筈の80年近く前の医学生時代の教科書の一節が思い浮かびますし、10年ほど前に見たことのある医療雑誌の論文が一言一句思い起こせるんです。
当該論文は、フランスの大学教授の手になるもので当然のことながら、仏語と英語でしたけれどね。
少なくとも私の死期が近づいた時点では、脳軟化症までは行かずとも、かなり記憶能力が低下していたのを覚えていますから、とてもそんな論文なんかを思い出せるはずもありませんでした。
まぁ、そんな昔話は置いておきましょうね。
弟子や研修生の方も順調に育っていますよ。
少し早いかもしれませんが、多分弟子二人は、錬金術師と薬師の試験に合格するレベルになっていると思いますので、二月後になる後乾季(ナブラ)四の月には、受験をさせようかと思っているところです。
魔法師研修生四人も日々努力している成果が表れ始めています。
もう三か月もすれば、おそらく「アイスランス」や「剣山」ができるようになるのじゃないかと思います。
コックとメイドの二人もしっかりと仕事をしてくれていますし、エルメリアもすっかり家に馴染んで、メイドの仕事と魔法講師のお仕事に精を出しています。
聖ブランディーヌ修道院の講話及び選抜した五人のシスターの育成も順調です。
選抜した五人については、ハイヒールが扱えるようになりましたし、外傷縫合などの簡単な外科治療であればできるようになっています。
この五人がより成長して治癒師として後輩を指導できるようになれば、聖ブランディーヌ修道院での私の仕事は無くなりますね。
但し、そうなるには、少なくともまだ二~三年先になるでしょうけれど・・・。
ところで今日はラムアール王国の北東方向にある辺境の村ボルネに来ています。
勿論丑三つ時の訪問ですから起きている人は非常に少ないんです。
村の灯りも見えませんね。
門は締まっていますが、センサーで確認する限り、門番さんは起きているようです。
ラムアール王国内の北東方向の拠点登録はここで終わりですけれど、念のためいつもやっているように索敵を掛けましたら、私のセンサーの圏内ギリギリのところに反応がありました。
脳内マップでは鮮紅色の点で表わされ、この色合いと大きさには見覚えがあります。
例のキメラ騒動に際して、ボランディア周辺に現れた魔人のように思えるのです。
本当は、このボルネを登録したらカボックの我が家に戻る予定でしたが急遽予定変更です。
ボルネはどちらかというと山間の村で三方を険しい峰に囲まれた盆地ですので、街道は南西に伸びている道が一つだけの集落なんです。
西北西の高峰を超えると隣国の領域に達しますが、生憎と交易路はありません。
峻嶮な山岳地帯故に道路が無いのです。
脳内マップから見ると、ボルネの西北西側の山地の中腹付近に反応があります。
魔人である可能性が高く、十分注意して接近しました。
どうやら山肌に居るわけではなく、山腹の地下空洞に居るように思われます。
しかもご丁寧に結界を張ってあります。
でもこの結界なら気づかれずに内部に侵入できると思います。
飽くまで私のセンサーの感覚上の話ですけれど、結界の格子の隙間が結構大きいのです。
大きな犬なら感知できますけれど、子犬ならば感知できない場合もありそうです。
私の場合、そうした格子状の結界を生身で越えるわけじゃありません。
空間転移で格子の穴をすり抜けるだけなんです。
これがより緻密な結界になると転移魔法そのものを無効化しますし、無理押しで転移すれば警報が鳴るようにもできますね。
王宮の結界の場合、警報も出さずに出し抜いてしまいましたけれど・・・。
それと比べて同等かやや上のレベルの結界ですけれど、警戒センサーを惹起させずに潜り抜けられそうです。
後は索敵に引っかからなければ良いわけで、隠形で気配を消しました。
相手が私よりも高い能力を持っていれば感知できるかもしれませんが、少なくともボランディアに現れた魔人であれば、あの時の隠形の私に気づかずに立ち去りましたから、索敵能力はさほど高くは無いと思っています。
そうした判断で虎口に踏み込むことにしました。
鮮紅色の敵は独りだけですが、他に暗赤色の気配があります。
同じ地下の空洞内に存在すると思われますので、ひょっとするとキメラかもしれませんが、私がボランディアで確認したキメラとは色合いが異なります。
何と表現したらよいのかわかりませんが、ボランディアの周囲に居たキメラは動かずとも活性化していました。
でも、いまその二百メートル程度の近傍に居て、以前見たキメラにあったような活性化が認められません。
未だ、エネルギーが足りずに動けない状態に近いのかもしれません。
弱っている魔物?
瀕死の魔物?
そんな感じなのです。
そんな存在が少なくとも十体は空洞内に居そうです。
きちんと相対位置を確認しつつ、空洞内に転移してみました。
当然に鮮紅色の存在や暗赤色の存在から離れた場所です。
転移した場所は、倉庫のような感じですね。
私は明かりをつけずとも闇の中を見ることができます。
目に見えない赤外線やらも感知できますし、レーダーのように紫外線レベルの光波を発信し、受信できるんです。
従って色合いは別として、モノクロ世界ながら物の形が闇夜の中で明瞭に把握できるわけです。
これって暗視スコープよりも便利ですよ。
暗視スコープは熱源を感知して温度差を映像で見るものが多いですからね。
さしづめ、闇の中で忍び寄る「くノ一」でしょうか。
私の感性は古いですからね、すぐに時代劇が浮かんじゃいます。
忍び装束もつけてはいませんけれど、周囲に見られないように隠形で姿を隠して空洞内を絶賛調査中です。
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