第69話 ボランディアの異変
カボックの冒険者ギルドに一月ぶりに顔を出しました。
受付のミリエル嬢も相変わらず元気そうです。
今日は情報収集の目的がありますので繁忙期は避けています。
冒険者ギルドの場合、通常ギルドを開いてから一時(二時間)ばかりの間が一番込み合っていますが、三時間後ぐらいの昼前には来場者がすとんと落ちるのです。
その後で昼食時には少し増えて、陽が落ちる前に再び盛況になるのが普通ですね。
ですから私が冒険者ギルドを訪ねたのはお昼前、狙った通り、ギルドは閑散としていました。
入り口のスイングドアをくぐった私を目ざとく見つけたミリエル嬢が声をかけてきました。
「エリカさん、いらっしゃい。
今日は何か依頼を受けてくれるのかな?」
「残念ですけれど、今日はギルドに何か情報が入っていないかどうかを確認に来たの。
ボランディアでキメラが出たような噂を聞いたのだけれど、本当なのかしら?」
ちょっと暗い表情を見せてミリエル嬢が言いました。
「はい、その噂は本当です。
シューマーにあるギルド支部からウチにも応援要請が届いていて、今掲示板に張り出している最中です。
今のところ、討伐できたのは一体のみですが、別のキメラについて複数の目撃情報があって、多少の被害も出ているようなのです。
商業ギルドにもボランディア方面への交易については警戒を厳にするよう注意喚起を行っているところなんです。」
「ウン・・・。
で、そのキメラってどんな魔物なの?」
「討伐されたのは、フォレストウルフとレッドバイパーのキメラだったようですけれど、上級クラスの冒険者が二人含まれる12人の臨時パーティでようやく退治できたんだそうです。
対応した冒険者のうち半数が大なり小なり怪我をしていて、二匹目のキメラ対応には戦力が足りないという情報なんです。
因みに別の目撃情報のものは、ブラックオーガとリザードマンのキメラじゃないかと推測されていますけれど、このほかにもコボルトと大黒猿のキメラの情報もあるようなんです。
もしこれらを含めると三匹もキメラが出現したことになりますが、これまでの記録を調べてもキメラがそもそも二体も同じ地域に出現することなどあったことがないので、各地のギルマスも対応に困っているところですが、放置するわけにも行きません。
取り敢えず、近隣の冒険者ギルドから上級クラスの冒険者を率先して派遣するようにしているところです。
あ、そう言えばゴブリンスレイヤーのエリカさんなら対応できるかも・・・。
討伐隊への参加の方は如何でしょうか?」
「ウーン、今日のところは情報収集だけかなぁ。
この件で他に新たな情報があれば別途教えてもらえるかしら?」
「えぇ、それは構いませんけれど・・・。
エリカさんがギルドに来なければお話はできませんよ。
私の仕事は受付であってメッセンジャーじゃありませんので。」
「うん、わかった。
明日もこの時間に訪ねて来るようにするわ。
何か新しい情報があればその時に教えて?」
「了解です。
ところで別のクエストの受注は?」
「今回は無しね。
ごめんなさい。」
ミリエル嬢から得られた情報は、シューマーに支部があることと、別種のキメラの目撃情報かな。
場所的には、シューマーから離れたところにあるボランディアに間違いないようですね。
エルブルグにも冒険者ギルドがありますので、多分、応援のメインはそこが中心になるのでしょうけれど、カボックも近いので応援を繰り出さなければいけないのでしょう。
上級者となれば、多分数は少ないでしょう。
カボックでのゴブリンの巣を退治した際は、確かギルマスを含めても三人だけでした。
リリー曰く、キメラの場合は、合体したことによる相乗効果で、元の魔物の倍以上の生命力と凶暴さを発揮するそうで、普通の魔物の三倍程度の強さを持つと想定していた方が良いとのことでした。
特にキメラの場合は、傷を負っても再生能力があることが多いのだそうです。
退治するには、再生不能なまでのダメージを与えることが重要なのだそうです。
幸いにして今のところは一部商人や冒険者の被害だけで、住民への被害は発生していないようなのですが、ボランディアの集落が襲撃されるような事態になれば、エルメリアを連れて行って対応しなければならないかと思います。
今のうちにボランディアまでの道筋だけでも転移魔法の拠点登録ができるように確認しておいた方が良いのかも・・・。
今晩の内職ですね。
王都周辺ではいくつかの拠点登録をしましたけれど、そう言えば灯台下暗しでエルブルグの周辺はまだ行っていないところがあるんです。
シューマー、ザルバ、ボランディアにはいずれも訪れたことがありません。
こちらで一般の人が入手できる地図は、かなりいい加減なものが多いので、距離や方向が余り当てにならないので困るんですけれどね。
どちらかというと道なりで大枠の方向と距離が記載されているような感じです。
イメージとしては日本の古代の
感覚的にはイメージができても、いざ使おうとすると色々不具合が出るような感じです。
何れにしろ、即時対応ができるように、暇があるときに、他の場所もできるだけ登録拠点を確保しておきましょう。
その夜、皆が寝静まってから私一人で外出です。
認識疎外を掛けたまま、エルブルグへ転移、そこから空中を飛行しながら西方向へ道なりに進みます。
月明りで周囲の風景は良く見えますが、リリーの情報で自分の居場所が脳内マップで表示されるので行く先を間違える心配はありません。
冒険者ギルドのあるマーシュ―を登録、更にその西にあるザルバも登録して、ボランディアに近づいてゆくと、脳内マップで表示されるボランディアの周辺に赤い表示が四つも出現しました。
かなりの強度の鮮紅色ですので要注意です。
少なくとも接近する者があれば全て害するとの強固な意思を持った存在でなければ、このような鮮紅色の表示にはならないと思います。
これがキメラとすれば、ギルドで知った情報と異なり、少なくとも四体も居ることになります。
この四つの表示は間違いなく周囲の人間等に対して強い敵意を抱いている存在であることは間違いありません。
そうしてその位置取りが、ボランディアの集落を中心に概ね東西南北に拡がっており、今のところ動いては居ませんが、万が一集落を目指して動き出せば、集落は全滅する可能性もあるでしょうね。
現時点で確認できる住人は脳内マップで確認できる限りボランディアの集落に239名です。
この中に上級の冒険者が居るのかどうかは不明ですが、四方向から一斉に襲撃を受けては、上級冒険者が一人や二人では絶対に対応しきれないでしょう。
ウーン、仕方がないですね。
四つの赤い危険表示をそれぞれ確認して、要すればキメラを殲滅しておきましょう。
但し、これにも何か人為的なものを感じますよね。
四つの危険存在が四方に分かれて集落の外にほぼ均等に配置されているというのは、誰かが統率している可能性が大きいのです。
ボランディアの東方向に存在する一体目に接近します。
姿形から見て、ギルド情報にあったブラックオーガとリザードマンのキメラのようですが、かなり大きいですね。
リザードマンで2m半ほど、オーガだと3mぐらいの体長になるんだそうですが、このキメラの体長は5m近くもありそうです。
色はほぼ真っ黒で闇の中に溶け込んでいますが、赤外線の透視も可能なので私にはバレバレなんです。
ほかのキメラに気づかれると厄介ですので「見敵必殺」ならぬ「見敵即殲滅」ですね。
最初にキメラの周囲に結界を張り、その内部を風刃で切り刻み、最後は高温で焼き尽くします。
三秒でキメラは消滅です。
同様にしてボランディアの周囲にいる他のキメラ三体の殲滅を行いました。
確かに表皮が固いので、これを傷つけるのはかなり難しいかもしれませんし、力があり、生命力も大きくて再生能力が高ければ、普通の冒険者に対応は難しいかもしれません。
少なくともキングゴブリンを簡単に掃討できる力量が必要かもしれません。
最後の討伐を行ったボランディアの西の場所でそんなことを考えていたら、背後に新たな気配が生じました。
四体のキメラよりも強者のような気配ですね。
あるいは黒幕の登場でしょうか?
私は振り返りました。
私の気配遮断と結界を張っていたことが功を奏して、相手は私の姿を確認できていないようです。
私の目の前に居たのは、気持ちの悪い紫色を呈する大きな角を頭部に生やした赤黒い顔の魔人族でした。
リリーが魔人族と教えてくれましたので間違いは無いでしょう。
先日出遭った魔人族のインサファルメラよりも少し大柄な体格で、黒っぽい衣装のデザインが似ていますので、この衣装はもしかすると魔人族のトレンドなのでしょうか。
いきなり背後に出現しましたので、この魔人族も転移魔法が使えそうです。
何かを探しているようですね。
あ、瞬時に消えました。
今度は脳内マップで北方向のキメラを討伐した位置に出現しましたね。
左程間を置かず今度は南の殲滅場所です。
そうして最後に東方向の殲滅場所に跳んで、すぐにいなくなりました。
生憎と転移魔法で魔人族が跳んだ先は不明です。
私の脳内マップに描かれる範囲なら確認できますけれど、範囲外に跳ばれると探知はできません。
当初から見ると脳内マップの範囲は広がりましたけれど、例えば今いる位置からザルバやシューマーにまでは及ばないんです。
取り敢えずのキメラの排除はできましたけれど、魔人族が背後にいるとなると要注意です。
キメラが彼らの手になるモノであれば、再度、キメラが多数現れる可能性があるからです。
それにしても魔人族って厄介ですね。
今夜のところはこれで撤収ですね。
明日は侯爵にお目にかかって色々と報告しなければなりません。
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10月31日及び11月22日、一部の字句修正を行いました。
By @Sakura-shougen
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