第67話 エルメリアとの打ち合わせ
私はエリカ。
私の前にはエルメリアが居る。
死んでもおかしくないような大怪我を治してはやったが、エルメリアについては少なくとも
主として怪我をした後の療養がほとんどなされていなかった上に、劣悪な環境下で満足な食事も与えられていなかったことから、体力が極端に落ちていたことが災いしている。
奴隷として買い取ったわけだが、この欠損部を治癒しただけの状態では、体力的に自分の身の回りのことをするだけでも大変なのだから、現状はメイドとしての仕事がまともにできるような状態ではない。
エルメリアについては、三階にあった倉庫代わりの予備室を改造して寝室とし、そこに住まわせることにしたので、同居人でメイドのマルバレータとヴァネッサが主に面倒をみてくれるし、薬師見習いのファラや魔法師のビアンカも色々と気遣ってくれているようだ。
彼女が犯罪奴隷であったことは同居人たちには取り敢えず伏せているが、そのうち機会を見つけて同居人たちにも事情を説明しておこうとは思っている。
現在のところは、エルブルクでメイドとして採用した病弱なエルフ女性だということしか説明していないし、エルメリアにも余計な話はしないよう口止めしている。
エルメリアについては、体力が元に戻るまで軽作業しかさせないようにしているが、体力が戻った時点で、一度彼女の郷里に戻す必要があると考えている。
そのことを確認するために私がエルメリアの部屋を訪れたのだった。
エルメリアは頑張り屋さんなので、呼べば四階の私の部屋まで這ってでも来るだろうけれど、無理はさせたくなかったのだ。
エルメリアは伸び放題だったブロンドの髪をマルバレータに切りそろえてもらって、背後でまとめている。
いわゆるポニーテールという髪型ですね。
エルフの特徴は何と言っても少し長い耳でしょうね。
私も種族的にはハーフエルフなのだけれど、耳が長いわけではなく、十分にヒト族で通用する外見なのです。
ですから商業ギルドや冒険者ギルドそれに錬金術・薬師ギルドの登録はヒト族で通しています。
各ギルドで水晶玉の魔導具に触れた際に表示される情報が。おそらくは隠蔽のスキルで「ヒト族」と表示されるので、それに統一されてしまっていますから、誰も疑いの目を向けません。
エルメリアと同様に耳が長い外見だったならきっと疑われたことでしょうね。
そんな余計な話はさておき、エルメリアの意向確認です。
「エルメリア、貴女は未だ体力が回復していないので、まだまだ先の話にはなるけれど、いずれ貴女を故郷であるノウヴァロームへ連れて行こうと思っています。」
エメラルド色の透き通った瞳を私に向けながらエルメリアが不審気に言いました。
「あの、・・・。
ノゥヴァロームで私に何をさせようと仰られるのですか?」
「特段に貴女に何かをさせようという意図はありません。
貴女の場合、突然の襲撃にあって大怪我を負い、一切の状況が不明のままで奴隷に落ちてしまったから、貴女のご家族には何の情報も伝わってはいないでしょう?
取り敢えず、貴女を
エルメリアに話をしているこの時点では、盗賊連中の殲滅も私が動いて終わっていましたけれどね。そのことは敢えて知らせません。
あれは「エリカ」ではなく「キヨ」がなしたことですから、「エリカ」は余り関わらない方が良いのです。
「でもあなたは九死に一生を得て、今は生きているわけですから、無事な姿をあなたの家族に見せて上げなければいけません。」
「でも、私は奴隷としてエリカ様に買われた身です。
しかもエルフの里の治癒師でも治せない欠損した右足と潰れた片目を治していただきました。
このご恩はエリカ様が亡くなるまで奉仕を続けることでお返しすべきものだと思っています。
ノゥヴァロームへ戻るのはそれが済んでからでも構いません。」
私は、エルメリアの部屋以外に音が漏れないように内部に結界を作りました。
これで、中の話は外に漏れることはありません。
「これから話すことは誰にも話してはいけません。
宜しいですか?」
エルメリアは躊躇なく頷きました。
「エルメリア、貴女は私を普通のヒト族と思って、精々百年に満たない寿命と考えていますね。
でも、残念ながら私は普通のヒト族ではないのですよ。
私はハーフエルフとでも言うべき存在です。
ですから私の天寿はこれから少なくとも500年ほど先の話になるだろうと思うのです。
エルメリアはエルフですからこれから800年ほども生きられるかもしれませんが、貴女のご両親が500年後に生きているという保証はできないでしょう?
ですから早い時期に貴女が無事に生きていることだけでも知らせておあげなさい。
手紙という方法もあるでしょうけれど、実際に元気な顔を見せてあげることでご両親やそのほかのご家族も安心されるでしょう。
その後のことはそれから考えればよろしい。
貴女はわずかに銀貨1枚で買われた奴隷です。
それに貴女に刻まれた奴隷紋は私が解除していますから、貴女には何の制約もありません。
貴女が望むなら私はいつでも開放しますよ。」
「私は、エリカ様に助けられたこの命をエリカ様に捧げます。
故郷に行く必要性は左程あるとは思いませんが、エリカ様が一度は戻れと仰せならば従います。
でも、家族に顔を見せて事情を説明したならばすぐにエリカ様の元へ戻ります。
奴隷紋の有無にかかわらず、私はエリカ様の
「そう?
分かったわ、
私に恩を返したいということならば、あなたを私の従者として雇います。
私の従者として動けるように、まずは身体を元通りにするのが最優先ね。
それができたなら、ノゥヴァロームへ私も一緒に参りましょう。
貴女の雇用主としてご家族に挨拶だけでもしておきます。
それと、ノゥヴァロームヘ行くにしても、普通に旅をしていたのでは何か月もかかりますけれど、私が一緒に行けば多分一日か二日で往復できるでしょう。
そうして戻ってきたなら、貴女は私の補佐役として、今いる魔法師の研修生四人の講師役をしてもらうつもりでいるのです。
彼らもかなり魔法が制御できるようにはなりましたけれど、まだまだ力不足なところがあります。
エルフとは魔法のやり方が違うかもしれませんが、できれば彼らにも教えて差し支えない程度の知識を与えてやってください。」
「はい、・・・。
但し、ヒト族が使うのは属性魔法ですよね?
エルフが得意と言われているのは土属性と水属性魔法ですけれど、実のところ精霊魔法の方が得意なのです。
精霊魔法についてはヒト族は使えませんよね?
エリカ様はもしかして使えるのでしょうか?」
「精霊魔法?
使えないわけじゃないけれど、精霊さんにお願いするよりは自分の魔法を使った方が手っ取り早いでしょうね。
そうして私の魔力保有量がかなり大きいので、貴女が使う精霊魔法よりもひょっとすると威力が大きくなるかも。」
「あぁ、そう言えばエリカ様は空間魔法が使えるのでしたね。
転移魔法は伝説になるほど魔力使用量が膨大な魔法の筈です。
エルフの長老でも使える者は居ないと聞いています。
ですからそれを使えるエリカ様はエルフの中でも大魔法師で通用いたしますね。」
「そうかしらね?
でもいずれにしろ、私が長寿であることは同居人たちには内緒にしてください。
因みに、魔法師の研修生達は私が転移魔法を使えることはおそらく承知していると思いますけれど、表向き転移魔法が使えることは隠しています。
公然と聞かれたなら私が転移魔法を使えることは否定します。
幻影の魔法も同じですね。
見たという人が居ても実際に証明ができなければ、意味がありませんからね。
エルメリアが見たと言っても私は否定しますよ。」
そう言って私は微笑んだ。
エルメリアは苦笑しながらも頷いた。
「エリカ様のことは、できるだけ人にはお話ししないようにいたします。
能力も種族も含めての話です。」
「そうね、従者は主人のことは言いふらさないものよ。
特に秘密の多い主人であればなおさらです。
でもね、私がこれまで色々とやらかしたおかげで、錬金術師や薬師としてのエリカはかなり名前が売れてしまっています。
それでも、貴女の場合は、私について聞かれてもできるだけあいまいに答え、できれば私の能力については言及しない方が良いでしょう。
魔法の研修生に関する講師の役割については、貴女の身体がしっかりと回復してからまた相談しましょうね。
そうして、貴女の場合、魔力が多そうなので、移動に使う馬無し馬車を動かせるかもしれませんね。
こちらも体調が良くなってから試してみましょう。
馬無し馬車を動かせるならば移動が便利になります。
何にしても貴女の調子を取り戻すのが最優先。
次いで貴女の郷里であるノゥヴァローム訪問、そうして魔法師達の研修の順番ね。」
「はい、承知いたしました。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
10月12日、一部の字句修正を行いました。
By @Sakura-shougen
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます