第66話 躾と懲罰

 少し落ち着いてから、エルメリアから詳しい話を聴きました。

 要は盗賊に捕らえられて犯罪奴隷におとしめられたようですが・・・、道理に合いませんよね。


 リリーの話によれば、奴隷の中でも犯罪奴隷にするためにはそもそも国の承認が要るのだとか・・・。

 何の罪もない者が襲われて被害者になったあげく、犯罪人に仕立てられるなど絶対にあってはならないことだと思います。


 私も昭和生まれの古い世代でしたからの映画を子供のころから良く見ました。

 私の子供の頃は、「総天然色」というキャッチコピーで白黒モノクロ映像がカラー映像に変わった時代でもあるんです。

 

 カラー映画は、私が生まれる前(1930年代)から在りましたけれど、生憎と経費が高くつくために、製作本数が少なかった時代なんです。

 前世の日本で最初にカラー映画が作られたのは1951年の筈ですので私が1歳の頃でしょうか?


 それから徐々にカラーの映画が増えて行き、白黒映画がほとんど無くなりましたけれどね。

 私の場合、近くにあった映画館の興行方針の所為なのか、新作を見るのは稀で、大抵は古い映画を見ていましたから白黒映画も結構見ていた記憶があります。

 

 アニメのカラー映画では、「安寿と厨子王丸」という映画があったのを記憶しています。

 色使いがとってもきれいだったのを覚えていますよ。

 

 そうして映画館でよく年末に上映されたのが「忠臣蔵」でした。

 テレビの無い時代ですから、ポスターが主な広告媒体でしたね。


 ポスターには、「オールスターキャスト」とか記されていて、当時有名だった俳優さんが軒並み出演する映画だったように記憶しています。

 勧善懲悪で有名な映画は、「怪傑黒頭巾」とか「鞍馬天狗」とかも有名でしたけれど、やっぱり「水戸黄門」が人気の上では一番でしょうか。


 「水戸黄門」は、その後、テレビドラマでも放映され、長寿番組だった所為か主役がどんどん変わって行きましたね。

 面白いのは、かたき役というか悪役を昔演じていた人が意外と主役をすることもあるんです。


 まぁ、脇役として敵役も数多く演じていたということでしょうね。

 初代黄門役の〇形龍之介さんなんかは、私の記憶では忠臣蔵で上野介役も演じていたはずです。


 余分な話が長引きましたが、私も古い女ですから、このエルトリアに関わる悪事は許せないという思いで一杯なのです。

 取り敢えず、エルトリアについては保護できましたけれど、多分、同じようなことが多々起きているのでしょう。


 私の力で根絶は難しいかもしれませんけれど、手の届く範囲で助けられるように努力はすべきだと思います。

 私の友人も国境無き医師団で頑張っていたのは、無力ではあってもできる範囲で多くの命を救おうとする気概があったから続けられたのだと思います。


 彼女も比較的に若い内に亡くなりました。

 戦場ではなくって、羽田から帰る高速道路で交通事故に遭って死んだのです。


 知人が亡くなるのはどんな時でも悲しいものです。

 前世では長生きしたばかりに多くの知人が先に亡くなり、葬儀に参列することになりました。


 今若い身体に私の魂が宿って、何をすべきなのかはまだ定まっては居ません。

 でも、世の中の不条理を正せるのならば、それも私に与えられた役割じゃないかと思います。


 ですから、エルトリアが奴隷になった経緯を追い、かつ、必要な是正をできる範囲で成して行きましょう。

 最初に向かったのは、エルトリアを競りにかけた奴隷商人のところです。


 彼らにはマーカーを付けており、移動してもその位置がわかります。

 彼らは未だ領都エルブルクに居ました。


 彼らが夜に寝静まるのを待って、奴隷商人のリーダーや側近にあたりをつけて闇魔法で情報を聞き出しました。

 奴隷商人ブラシドーレがエルトリアを購入したのは、同じ奴隷商人であるコルネリウスからでした。


 ブラシドーレは、エルトリアが違法な犯罪奴隷であるとは認識していませんでしたが、コルネリウスとは古くからの付き合いで貸し借りが発生しているために、負担になりかねないエルトリアを引き受けたのです。

 コルネリウスは、隣国であるベルンタイト王国で主として活動しており、拠点はベルンタイト王国の王都ベルモスにあるようです。


 この追跡調査は、少し長引きそうなので、私の調査活動は主として夜間に行うことにしました。

 ベルンタイト王国は、ラムアール王国の南西部にある国で、ラムアール王国に比べると半分ぐらいの大きさの領地を有する王国です。


 リリー曰く、ベルンタイト王国は少し山がちであり、生産性は余り高くないようですね。

 エルトリアが属していたエルフの部族が棲む地域は、そのベルンタイト王国よりも北西部に位置していますが、ベルンタイト王国とは国境を接しているわけではありません。


 ベルンタイト王国の北側にあるバイランド公国がエルフの部族が棲む森であるノゥバロームの地域に接している国です。

 ですから、ベルンタイト王国を活動の基盤にしているコルネリウスも中間の奴隷商人である可能性が大きいですね。


 エルトリアはバイランド公国との境界付近で盗賊と戦い、捕らえられたことがわかっています。

 生憎と捕らえられた後のバイランド公国での出来事は、エルトリアが高熱を発して人事不省であったので、その様子がわからないのです。


 エルトリアが気づいた時には犯罪奴隷として奴隷商人であるブラシドーレの保護下に居たようです。

 私は、夜間、長くても1時間半程度を条件にして、空を飛びながら見える範囲で転移魔法を繰り返して、ベルンタイト王国の王都ベルモスを目指しました。


 夜間のため、警戒しながらの移動でしたので時間はそれなりにかかりましたけれど、二晩でベルモスに到達しました。

 生憎とコルネリウスの顔も住居もわかりませんから、その日の調査はそこまでです。


 翌日の夕刻前に時間を作り、転移魔法でベルモスを訪れ、奴隷商人コルネリウスの住所などを調べました。

 当人が自分の家に居るのを確認して、夜になってからまたベルモスを訪問です。


 この奴隷商人コルネリウスですが、灰色ですね。

 エルトリアを入手したのはバイランド公国の奴隷商人マルティヌスから譲られたからです。


 コルネリウスも、マルティエストとのしがらみがあって負担になると分かっていても受けざるを得ない立場だったのです。

 そうしてバイランド公国に近いだけにマルティヌスが公国の役人と手を組んで後ろ暗いことをしているのを薄々感づいていたのです。


 特に犯罪奴隷の場合は、奴隷紋による契約魔法で聞かれたこと以外は話すら簡単にはできないようになっていますから、自らの境遇を告げ口できないようになっているのです。

 その代わり、犯罪奴隷にするためには公的な立場にある役人が犯罪奴隷であることを認める手続きが必ず必要であり、その役人の目の前で犯罪奴隷の奴隷紋をつけなければならない決まりになっているのです。


 然しながら、マルティヌスが特定の役人と不正を働いているとの噂は闇の世界で多少知られており、少なくともコルネリウスはその噂を聞いていました。

 然しながら過去の柵からも、敢えてその暗闇には目を瞑っているコルネリウスだったのです。


 このコルネリウスにも相応のしつけが必要と思われますけれど、取り敢えずは後にいたしましょう。

 その翌日の夜には、バイランド公国の公都イクスバタンを訪ねて転移のための拠点登録をしました。


 そうしてその翌日にイクスバタンで情報収集して、マルティヌスとその関連の人物を探り当てました。

 端的に言って、マルティヌスとその関連の人物達は、真っ黒です。


 マルティヌスは、盗賊団と手を組み、北のノウヴァロームや西のクレタルド王国などから奴隷狩をして違法に奴隷を入手しているのです。

 その存在が明るみに出ると拙いので、原則としてそれらの奴隷は全て犯罪奴隷にしているのでした。


 勿論、マルティヌス一人でできることではありません。

 犯罪奴隷であることの証明のために加担する役人が二名もいるのです。


 役人の一人はエフェルケ、今一人はパーテルと言います。

 この二人は高額の礼金をせしめるために嘘の証明を行い、公的記録を残しているのです。


 その裏帳簿をマルティネスの屋敷にある秘密の金庫から入手しました。

 その裏帳簿には金のやり取りの記録があり、盗賊団に渡した金、エフェルケとパーテルに渡した賄賂の金額、そうして奴隷の引き渡し先についても記録されているのです。


 これだけで犯罪の証明は終わりかというとそうではありません。

 少なくとも犯罪奴隷たることを証明する役人が奴隷商人から賄賂を貰っていたことは重要な裏付け証拠にはなりますが、それでも自白と客観的な証拠が必要なのです。


 このために、犯罪奴隷の奴隷紋をつけられたばかりのクレタルド王国の女性を確保しました。

 彼女は、クレタルド王国の貴族であるモーゼル男爵の次女レメルであり、たまたま、近隣の町を訪ねた際に盗賊団の襲撃に会い、拉致されて男たちの慰み者にされた挙句に奴隷に落とされたのです。


 犯罪奴隷の奴隷紋がある限り、レメルはいかなる状況であっても詳細に尋ねられない限りは身の上話をできないように制限されていました。

 彼女を救出し、証拠の裏帳簿を入手したのは、私が扮装した謎の老女である「キヨ」です。


 キヨは、バイランド王国の警備を預かる公都騎士団に出頭し、救出したレメルとともに証拠書類を引き渡しました。

 当然のことですが届け出先の人物を選んでいますよ。


 訴えた先は、公都でも高潔として知られている騎士団長ホールデン殿の麾下にある部隊の屯所です。

 キヨの訴えによりすぐさま司直の手が入り、関係者が翌日までには捕縛されていました。


 本来ならば犯罪奴隷に落ちたレメルは身の上話ができませんけれど、キヨは奴隷紋の解除ができるのでそれを成しても良いかとホールデン殿に伺いを立てて、その結果、奴隷紋を消去し、レメルから詳細な事情を聞き出すことに成功したのです。

 被害者レメルが隣国クレタルド王国の貴族の子女であると知ったことから、そのまま放置はできず、すぐに公国王にまで報告が上がり、直ちに厳正な捜査が開始されたのでした。


 奴隷を管理する役所は、商工大臣の下部組織であり、大臣にまで責任追求がなされたのは言うまでもありません。

 実のところ、大臣はそのような不正の事実を知らなかったわけですが、部下の管理不行き届きを理由に処分をされたのでした。


 レメル嬢はクレタルド王国に丁重に送り返されたものの、身を汚された貴族子女に明るい未来はありません。

 彼女は修道院に入れられ、一生を神にささげる修道女になりました。


 まぁ、それでも犯罪奴隷のままで一生を過ごすよりはマシでしょう。

 キヨは、一両日の間、騎士団の事情聴取に応じましたが、その後で、北と西に跋扈ばっこする盗賊団を根絶やしにしました。


 一日遅れでアジトに辿り着いた公国騎士団は、首と胴が泣き別れした百を超える死体を発見することになりました。

 実は、その前日の夕刻に公国騎士団にはキヨと名乗る人物から盗賊団のアジトに関する投げ文の通報があったのでした。


 アジトに駆け付けた騎士団の将兵達は、ぶつぶつ文句を言いながらも死骸の処理に多忙を極めたのでした。

 それでもあちらこちらに散在していた盗賊どもをアジトに集めてから殺害しておいたのだから、随分と手間は省けているはずですよ。


 あなた方司直がきちんと盗賊どもを取り締まっていないからこんなことが起きるのです。

 警察の権限を有する騎士団員は、もっと仕事に精励すべきです。


 そうしてさらに、公国にも自らの役人の管理不行き届きにより、被害に遭った多くの者を可能な限り追跡して助け出す仕事が生まれました。

 公国王が、その命令を配下に下していましたので、後は任せることにしましょう。


 エルトリアについては・・・。

 名前も譲渡先も裏帳簿に記載してあるし、いずれは私(=「マサキ」)のところへ調査の手が届くかも知れませんが、それまでは放置しておきましょうか。


 但し、エルトリアの処遇については、エルトリアの希望を聞いて、場合によってはエルトリアの故郷への帰還も許してあげるつもりです。

 何せ金銭的には銀貨二枚しかかかっていませんからね。


 手放すのも至極簡単なのです。

 因みに事情を薄々知っていた奴隷商人コルネリウスはそれなりの罰金刑がベルンタイト王国から課せられました。


 同じくブラシドーレについても、ラムアール王国から厳重注意がなされたようです。

 関連して、私のもとにはサルザーク侯爵から問い合わせがあり、エルブルクまで出向いて説明をする羽目になりました。


 エルトリアは、一旦は故郷に戻ることを表明したのでノゥバロームに送りましたけれど、両親等家族に無事であることを知らしめてからすぐに私とともにカボックに戻って来ました。

 私は必要が無いと言ったのですけれど、苦境から救い出してくれたお礼のために今後とも私の身の回りの世話をしたいと申し出たからです。


 こうして我が家にはエルトリアも居つくことになりました。


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 10月12日、一部の字句修正を行いました。


  By @Sakura-shougen

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