第50話 治癒師ギルド
もう一つ厄介なところが私に盛んに接触しようとしています。
治癒師ギルドです。
まぁ、ケアノス正教会ほど
生憎と私の方は彼らを避けていますから、我が家に訪ねて来た時は地下の工房に避難していますので、これまでは彼らがどれほど頑張っても私と直接に面会することはできなかったのですけれど、メイドとコックが留守番を始めましたから、チョット対応に困ることになりました。
取り敢えず居留守を使い続けていますので、領都エルブルグとカボックの治癒師ギルドの支部に居るかなりの勢力を使って何とか私に会おうとしていますが、会うことができないでいるのです。
私は、彼ら支部職員と会員全てにマーカーをつけていますから、その近くには寄らないようにしているんです。
もちろん錬金術・薬師ギルドや商業ギルド、それに冒険者ギルドにも顔を出したりしますけれど、頻繁ではない上に、彼らのいない時を見計らって出入りしますから彼らの目には触れないんです。
尤も、彼らも我が家の周辺に常時4人から5人の監視の目を当てていますけれど、私は監視の目の外に転移しますから、どれほど監視の目があろうと彼らに私が接触することはありません。
そんなことが四月近くも続き、
侯爵様からお手紙が参りました。
会うだけでも良いから会ってやってくれないかとの要請でした。
問題の性質上、会うだけでは済まないから逃げ回っているのですけれど、侯爵や侯爵夫人の腹の内を確認に行きました。
アポも取らずに侯爵邸にお邪魔したのです。
もちろんご両者が邸に滞在していることを確認の上での所業です。
お会いして確かめたところ、侯爵としては、治癒魔法の件はご令嬢のことも王家の王太子についても、その一切を秘密にして差し支えないこと、面談については治癒師ギルドに言質を与えずに世間話をしてやる程度で構わないことの確約を得ました。
要は、彼らがマーガレット嬢やクレストン殿下に関する不確定情報を得ていたにしても、それらに関しては知らぬ存ぜぬで押し通して構わないとのお墨付きなのです。
冒険者ギルドでの縫合手術については、治癒魔法とは関りの無いものですからこちらからは敢えて話題にしませんが、向こうがそれも引き合いに出したなら、縫合手術のことぐらいは話をしてあげても良いでしょうね。
仮にその件で何らかの知識や技術を得ようとしても私からは教えません。
治癒師ギルドも高額な治療報酬を要求する団体なんです。
往々にして金持ちでなければ到底支払えないような報酬システムになっているようですから、その点ではこれまでケアノス正教会と半ばカルテルを結んでいたのかもしれません。
その一角が崩れたので若干の値下がりもあるやにリリーからは聞いていますが、治癒師ギルド自体は高値安定のまま推移させたい意向のようです。
そんな金儲けの団体に私が協力するのは嫌ですから、仮に講習の依頼があっても口実をつけてお断りします。
まぁ、それでも、侯爵からの仲介もありましたので、面会には応じることにしました。
場所はこちらからカボックの錬金術・薬師ギルドを指定しました。
錬金術・薬師ギルドはポーションの
弟子を抱え、王宮魔法師と領軍魔法師を鍛える仕事が入っていますから、おいそれとは暇が作れないほど私も忙しい(??)のですけれど、侯爵の口添えということで面会だけはしてあげることにしました。
会議室で待っていた相手は、治癒師ギルドのエルブルグ支部とカボック支部のギルドマスターです。
それに何やらお付きの人もそれぞれ一人ずつ連れて来ていますけれど、一応事前の申し出では二人になっていたはずですので、二人の付き添いは無視ですね。
こちらは介添え役で錬金術・薬師ギルドのサブマスに一応ついていてもらっています。
まぁ、単純に立会人に過ぎませんので、それ以上のことは期待もしていません。
最初に自己紹介があり、お互いに席について私が黙っていると向こうから話が有りました。
「本日、お会いしていただいた目的は、治癒魔法について何やらエリカさんが我々の知らない治療方法をご存じとのことで、それをお教えいただきたく
どうか世の為人の為、エリカさんがご承知の新たな治癒魔法をお教えいただけないでしょうか?」
「大変失礼ながら、何のことをおっしゃっているのかわかりません。
私は錬金術師であり、薬師でもあります。
また、冒険者ギルドの会員でもありますので、依頼を受けて薬草採取やモンスターを狩ったりすることもあり、場合により魔法を使うこともありますが、治癒魔法の使い手という話は初めて聞きました。
一体どちらかから仕入れた情報にございますか?」
「いや、それは、・・・。
公爵令嬢のマーガレット嬢の難病を治癒されたのはエリカさんとお聞きしたのですけれど、違うのでしょうか?」
「マーガレット様ですか?
マーガレット様がご病気だったのですか?
先日、王都に招かれた一件で侯爵家にご報告に参った際に、お会いしましたが、特段のご病気の様子はありませんでしたが・・・。
お悪いのですか?」
「いや、あの、以前は随分とお加減が悪く、教会の司教様もわれら治癒師も手
匙を投げるほどの重篤でしたが、今は全快しておられます。
それを治したのはエリカさんとお聞きしたのですが・・・。」
「おかしな話ですね。
一体そのような話が何故に?
まぁ、お宅の治癒師の見立てもあったのでしょうから、マーガレットお嬢さんが一時期、ご病気だったのは間違いのないことなのでしょうけれど、そこに何故私の名が出てくるのでしょう。
失礼ながら、どなたかに
「エリカさんは知らぬとおっしゃられますか?」
「もしそのような話が有れば、侯爵様ご夫妻かマーガレット様に、直接確認すれば間違いが無いですよね。
私はこれでも侯爵様に気に入られまして、侯爵家への出入りが比較的簡単にできますのよ。
何でしたなら、事実確認のため、そういたしましょうか?
その場合は、当然に、どなたがあなた方にでたらめな情報を流したのかも調べることにもなるでしょうけれど・・・。
それと、もう一つ、大事なことは、侯爵家の内情に関わることを治癒師の方が外部に漏らしたこともお知らせせねばなりませんね。
私は貴族の習わしについて詳しくは存じ上げませんが、貴族のご家族が重篤であったなどと軽々しく漏らしてはならない秘密なのではありませんか?
特にご令嬢の場合は、大病を患ったなどと風評が流れるだけで縁談に触りがあって、場合により大変な騒ぎになる恐れもございますでしょう?」
そんな話をすると二人は途端に顔色を変え、慌てだしました。
私は前世で長年医師を務めていましたからね、医師は患者の秘密は漏らしてはならないというのが身に染みついています。
そもそも特定の患者の情報を話題として出す方がおかしいのです。
これだけでも治癒師ギルドの程度がわかるというものです。
まぁね、「個人情報の秘匿」なんかは私が生まれる以前は少々希薄だったかもしれません。
でも私が大学に入る頃にはほぼ確立していたように思いますし、医師法はかなり昔から条文に「職務上知りえた秘密」として明記していましたよ。
中世に近いこの世界でも簡単に情報を漏らさないようにしてほしいですよね。
「いや、その・・・。
そのような話を漏れ聞いたという話であって、特段、格別の人から聞いた間違いのない話というわけではございません。
ウン、左様ですな。
先ほど申し上げた話はどうかお忘れください。
私どもが軽々しく口に出してはいけない話だったように存じます。
ほかにもお聞きしたい話も有ったのですが、エリカさんがそもそも知らない話であればこれ以上お聞きすることもままなりません。
本日はお呼び立ていたしましたが、これにて失礼申します。
一方で、これを機会に治癒師ギルドども是非に
エルブルグ支部のギルマスが何とか最後を締めくくり、バタバタと出て行きました。
彼らも、侯爵家のご令嬢の病状を外部に漏らす危険性を今更ながらに気づいたのでしょう。
今後は、無茶をしないでくださいね。
ついでに私のストーカーやら、我が家の張り込みはやめてくださいね。
もしやめないようであれば、該当する人には魔法でちょっと幻覚でも見てもらうことになりますよ。
きっと夜一人では寝られなくなると思いますよ。ウフフッ。
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