第49話 弟子たちの受け入れ準備

 我が家の改装の方は結構遠慮なしにやりましたね。

 接客以外はあまり考えていなかった我が家ですので、結構前世の知識を生かして生活に必要なグッズや魔道具の便利グッズをたくさん作っていたんです。


 電気製品も作れないわけではないのですが、この世界では発電するよりも魔力を利用した魔道具の方が便利なのですよ。

 まぁね、魔導回路を作る段階では電子回路や電気理論が随分と役立ちました。


 例えば洗濯機ですね。

 普通のカボックの住民は洗濯板とたらいで洗濯です。

 

 洗剤も天然ものの「バッセン」の実を小袋に入れて泡立てています。

 バッセンの実は、江戸時代のムクロジの実のようなものですね。


 他には灰汁を使うなどの方法もありますよ。

 でも私は昭和生まれの異世界人。


 幼少の頃に家でもたらいと洗濯板を使って母達が洗濯をしていたのを知っていますけれど、小学校の頃には電気洗濯機が家にもありましたね。

 ですから私には洗濯機の無い生活は考えられません。


 私が便利に使っているものを私が雇うメイドに使わせないというわけには行きませんから、当然に寮にも洗濯機を置くことになります。

 魔導洗濯機は四台、魔導乾燥機も四台、同じくアイロンとアイロン台なども備えた洗濯室を二回と三階にそれぞれ用意しました。


 屋上には物干し場もあるのですけれど、雨季には雨も降ります。

 洗濯物を干せない時には乾燥機を使わざるを得ません。


 弟子や魔法師のプライベートな洗濯物をメイドにさせるのもおかしいので、自分の洗濯物は自分で洗濯するようにさせます。

 ベッドのシーツ、包布、枕カバー、毛布などは、メイドのヴァネッサさんにやってもらいます。


 各個室につけているカーテンなんかも、半年に一度は洗濯してもらいましょう。

 各個室の整理整頓は寮生任せですが、各個室の床掃除、共用室や廊下などはヴァネッサの仕事で、まぁ、ビジネスホテルと考えれば妥当なところでしょう。


 食事はこれまで自炊でやっていましたが、以後は調理方法を教えてマルバレータさんにやってもらうことにします。

 食事は三食にします。


 この世界では朝夕の二食が主流なんですけれど、昼を入れた三食の方がこまめに栄養調整が可能なので体調維持に役立ちます。

 食材はカボックの市場にいろいろなものが揃っていますので、種々料理を工夫して栄養が偏らないようにしてもらいます。


 そのために毎週の献立を考えてもらい、私がチェックして足りないものを作ってもらうようにするのです。

 調理室は二階にありますけれど、ここでも私が使っていたものを全面公開です。


 魔導冷蔵庫、魔導冷凍庫もありますし、魔導レンジや魔導電子レンジもあります。

 特にキッチン周りは、調理に関する便利道具が多いですね。


 食器類も念のため20セット用意してあります。

 生前私の好きだった「ノ○タケ」と「大○陶園」の食器類と、洋物ですけれど「○イセン」の磁器と「バ○ラ」のグラスのデザインを真似した洋食器を揃え、「白○陶器」と「有○焼」のデザインを拝借して作り上げた和食器も準備しました。


 デザインはよく覚えていなかったけれど、カトラリーもラッキーウッドに似た品を用意しました。

 こちらの人が使えるかどうかはわからないけれど、はしも一応用意しましたよ。


 和食を食べるなら箸は欠かせません。

 今のところコック役のマルバレータさんにはこちらの料理に合わせて洋食系の料理を教えていて、和食を教える時間的余裕がありませんから、そのうち適宜の時期に和食の作り方も伝授しようと思います。


 マルバレータさんも一時期は、亡くなった旦那と食堂を経営していたそうですけれど、見たこともない調理器具がたくさんあるので、それらを使い慣れるのに少し時間がかかりそうです。

 そうしてとりあえずは洋食風のレシピもたくさん作ってあげました。


 この世界は塩辛い料理が多いですからね。

 出汁の取り方、種々の香辛料や調味料の使い方などもレクチャーし、レシピにしっかりと残しましたよ。


 マルバレータさん、当分はレシピを見ながら新たな料理に挑むことになりそうです。

 前雨季ハクル二の月12日に錬金術・薬師ギルドから話が有ってから約半月、後雨季ナクル一の月1日には何とか受け入れ準備が整いましたので、錬金術・薬師ギルドや王宮魔法師団とも調整の上、後雨季ナクル二の月1日から、弟子候補と魔法師の研修生を受け入れることをそれぞれ伝えました。


 指導自体は、後雨季ナクル二の月1日からですが、弟子や研修生はそれより前にカボックへ到達してももらって、即日入寮し、生活できる旨を伝えてあります。

 私が作ったカボック市内の略図に我が家の場所を記入して、人数分を印刷して送ってありますので、彼らがいつ来ても大丈夫なんです。


 但し、馬やペットを飼っておくようなスペースはありませんので、その点を注意書きで伝えました。

 コックのマルバレータさんとメイドのヴァネッサさんについては、既に我が家に居ついて三階の個室に入っています。


 私が居ない時でも対応できるように呼び鈴代わりの「打ち物」が軒にぶら下げてあり、木槌で叩くと来訪者の存在がわかります。

 インターホンを設置しても良かったのですけれど、そもそもそれを知らないと役立ちませんし、初めての人が驚くことになりそうなので打ち物を叩いてもらうことにしました。


 いずれにせよ、昔から「おさんどん」と呼ばれる家事はすごく手間がかかりましたけれど、私が前世を参考にいろいろと事前準備をしていたことと、魔道具を使うことにより半分以下に労力が減りました。

 料理については魔導釜や魔導鍋で人がついていなくても自動で料理ができますし、料理素材のカッティング等にも相応の道具を使えば労力が激減します。


 お掃除や洗濯などもそうですね。

 例えばシーツや包布の洗濯だけでも9人分のシーツを手洗いで洗濯するとなれば、二時間で出来るかどうか怪しいものです。


 昔は洗濯だけのために「洗濯女」と呼ばれる専門の下女が存在しましたけれど、魔導洗濯機を使えば半自動で洗濯してくれますから、手間がかかりません。

 ア、そうそう、童話では詳しく出てきませんけれど、「シンデレラ」は、別名「灰かぶり姫」と呼ばれる下女(洗濯女)の扱いだったのですよ。


 中世のヨーロッパでは洗剤に灰汁を使っていたのですね。

 いずれにせよ、適切な魔道具を使うと、乾かしたり、魔導乾燥機に入れ換えたりする手間はかかりますけれど、これまでの洗濯方法から考えると1割程度の労力で済むはずなんです。


 いずれも奴隷身分ながらメイドとコックの雇用で、弟子や魔法師たちも快適な寮生活が送ることができます。

 贅沢をさせる分だけ指導は厳しくするつもりですよ。


 錬金術師と薬師については、できるなら1年で資格を取らせることが当面の目標です。

 駄目なら、冷たいようですけれど三年で放逐ですね。


 候補者も当然適性を持った者が来るはずなので、1年で出来るようにならない方がおかしいと思います。

 錬金術なり、薬師なりの知識技術のすべてを1年で伝承できるとは思いませんけれど、少なくとも三級の資格を取るぐらいならば間違いなくできるはずなのです。


 但し、魔法師の方はどうなんだろう・・・・。

 素質や個人の能力によるところが大きいから今の段階では何とも言えないなぁ。


 魔力操作とイメージの発現が上手くこなせれば、相応の魔法は行使できると思うのだけれど、リリーに言わせると私の能力は規格外のようなので彼らの基準になりそうになく、平均的な魔法師の力量や能力が良くわからないので、実際に魔法師生徒と対面しなければどこまで鍛えられるかがわからないですよね。

 王宮魔法師団の希望としては、氷槍と石の散弾が打ち出せるようになれば最高と考えているようで、領軍魔法師も同レベルに到達するのが期待されている様です。


 このために、どちらも水属性魔法と土属性魔法の能力者を選んでいるみたいです。

 まぁ、来る予定の魔法師の適性を見てから判断しましょう。


 水属性に適性がある者であっても、他に適性がある場合もあるし、特別水(氷?)や土にこだわる必要もないでしょう。

 要するに魔法師団なり、領軍にとって相応の戦力になればよいわけなのです。


 ◇◇◇◇


 王都からの弟子候補二名と王宮魔法師団の若手魔法師二名は、後雨季ナクル一の月27日にカボックに到着しました。

 どうも王都で調整した上で、四人一緒に旅立ってきたようです。


 錬金術の弟子は、レーモン・ビショップ君、18歳の男子です。

 薬師の弟子は、ファラ・モールベック嬢、同じく18歳の女子です。


 魔法師団の方は、一人が土属性魔法師のモール・デビッドソンさん、20歳の男性です。

 もう一人は、水属性魔法師のビアンカ・ロヴェーレさん、19歳の女性ですね。


 領軍の魔法師二名は、その翌日の28日に入寮しました。

 こちらは、王宮魔法師団の魔法師に比べると少し年上になります。


 水属性魔法師のアラン・コルマンさん25歳と、土属性魔法師のクルド・バレンホフさん26歳でいずれも男性です。


 弟子と研修生は、女性が二人に男性が四人になりましたが、コックのマルバレータさんとメイドのヴァネッサさんを含めると、女性四人に男性四人が新たな同居人になりました。

 取り敢えず入寮時の注意事項や研修中の注意事項などの心得を全員に通知し、それぞれの部屋を決めて入寮させました。


 錬金術師と薬師の弟子については最長三年の弟子入りを認めることと、来年には三級の資格を取得することを目標とする旨を伝えました。

 魔法師たちはそもそも一年間の研修ですから、ここにいる間に少なくとも百歩離れた場所にある私の作った特別の標的を破壊できるようになることを目標にするように伝えました。


 標的は、王宮騎士団が盾に使用している魔鋼と青銀ミスリルの合金でできており、直径が約60センチ、高さが二メートルの円柱状の代物です。

 彼らにはそれぞれ二個の標的を作ってあります。


 毎日訓練を続けていれば、いずれは耐久性が減少して壊れる可能性もあります。

 1年以内でも、二個目が壊れたら卒業ですね。


 尤も、素材自体が物理攻撃にモノずごく強い合金ですし、魔法攻撃耐性も強いから、全然壊れない可能性もかなり高いんですよ。

 まぁ、研修生の能力次第でしょうかねぇ。


 全員が揃いましたので、後雨季ナクル二の月1日から予定通り魔法師の訓練と錬金術師・薬師の教育が始められます。

 私の一旬間(10日)のスケジュールは結構込み合ってきましたねぇ。

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