第35話 王宮魔法師団
今日はナブラ二の月14日、王宮魔法師団での面談と実演が予定され、その後夕刻からは王宮魔法師団の公式パーティが予定されています。
王宮魔法師団のニクラウス・ベルデン副師団長が私のエスコート役で宿まで迎えに来てくれました。
王宮魔法師団の本部は、王都の中心部にある二の廓内にあります。
王都の城壁が三の廓、その中心部に二の廓が有って、更に二の廓の中心部に王宮の一の廓が有るんです。
簡単に言うと三重の城壁の最奥に王宮が有るということですね。
いずれにしろ二の廓内に入る者は、王宮へより近づくことになりますので、ゲートで念入りなチェックを受けることになります。
特に二の廓内には
今日は、王宮魔法師団第二中隊副隊長のパルバラ・シュミットバウアーさん、王都商業ギルド受付筆頭のラミアさん、それに王都錬金術・薬師ギルドの受付筆頭のカレンさんも宿に集まって宿から同じ馬車で出発です。
そうしなければ平民であるラミアさんとカレンさんは、二の廓内に簡単に入ることができませんからね。
二の廓内を管理・差配するお役所みたいなものがあって、そこの長官から一応のお墨付きは戴いているようなんですが、このお墨付きを提示してでさえ、このゲートを通過するには平民の場合、普通身ぐるみ剥がれて全身をくまなく検査されるんだそうです。
嫁入り前の女性にとっては堪ったものじゃありませんよね。
例外が王宮騎士団の大隊長以上の職責クラスにある人物が同道した場合に限るということらしいのです。
まぁ、王宮騎士団に限らずそれなりの重職につかれている人と一緒の場合はそう言った酷い検査は避けられるようです。
リリーによれば、これは王宮への直訴を防ぐための
確かに一般の人が王宮や最寄りの役所に簡単に出入りできるようでは困りますもんね。
二の廓の外にはお役所の出先機関が置かれていますので、お役所への申請などは通常そちらで受理されるようです。
但し、高位の人に縁故があれば簡単に入れちゃうということでもあるんですが、ここでも大きな水晶の球が出て来ます。
中に入ろうとするものは、この門前で馬車を降りて、この水晶に触れてから入らなければなりません。
これは国王陛下と王妃殿下を除き、王家の縁者である大公殿下も含めて例外は無いそうです。
尤も王族の方たちが出入りする門は別にあるそうですので、王族の方々は通常はそちらを使われるそうですよ。
いずれにしろ厳重な警戒の中で私たちの乗った馬車は二の廓内に無事入りました。
二の廓内は迷路のように道が入り組んでいて、内部を知らないものは必ず迷うそうです。
攻城戦の際に敵が入ってきても位置を悟られないよう非常にわかりにくくしているようで、建物の高さが皆同じなのです。
道路はまっすぐな道路はなく曲がりくねっている上に、人の眼高で見える壁の色や屋根などを同じ色にすることで迷わせるようです。
因みに王宮魔法師団へ至る道も迷路のごとく行ったり来たりしながらでないと近づけないようです。
このため二の廓内に入ってから半時以上もかかって王宮魔法師団の門前に到達できました。
但し、この迷路の類は、私のように脳内での三次元マップを持っているようなモノには迷路の役割が果たせません。
三次元マップじゃなくって飛行魔法を使える者にも上空から簡単に見破れますので、ザルと同じですけれど、地上しか動けない者にとっては効果があるのでしょうね。
魔法師団到着後は、幹部へのご挨拶です。
リリーの補足説明によれば、王宮魔法師団は四つの大隊に分けられているそうで、第一大隊は遠距離攻撃魔法に特化している部隊、第二大隊は防御魔法に特化している部隊、第三大隊は陣地構築など工作魔法に特化している部隊、第四大隊は原則的に斥候を含む諜報活動に特化する部隊のようです。
概ね第一大隊6,第二大隊4、第三大隊3、第四大隊1乃至2程度の比率で人員の割り振りが為されているそうです。
私が幹部へのご挨拶でお会いした幹部の方々は、昨日の非公式会合でもお会いした方もいらっしゃるのですけれど、王宮魔法師団長のディックマン・ゲバルトさん、王宮魔法師団顧問のレイヤー・マドルカさん、王宮魔法師団監察官のロンベルト・ハウトマンさん、王宮魔法師団事務局長のフォステン・クリュンハルトさん、王宮魔法師団第一大隊長のユッケ・エルンハルトさん、同大隊副長のヒューゲル・フォンダントさん、第二大隊長のシュタルト・ブリングトンさん、同大隊副長のエルマイアー・セグメントさん、第三大隊長のフォウゲン・スタイエストさん、同大隊副長のレンドル・ベルンハルトさん、第四大隊長のクライス・アンダントさんでした。
このほかに王都到着初日の歓迎の懇親会でお会いした王宮魔法師団の事務局次長さんもいらっしゃいましたよ。
人数が多く、会議室のような円形テーブルに着席してのご挨拶でした。
ひとしきりご挨拶が済むと、そこにいらっしゃる方々からの質問が飛び交い、終始私が答えるという光景が続きました。
ウーン、ひょっとしてこれは公聴会かそれとも異端審問か何かなんでしょうか?
まぁ、お上というか官憲幹部の方達なんでしょうけれど、上から目線の高圧的な質問は少々気分が悪いですね。
少なくとも招待した人物に対する応対としては失格です。
そこで、苦言を呈しました。
「大変失礼ながら、皆様にお聞きします。
この場はどのような集まりなのですか?
私は幹部へのご挨拶と伺っていたのですが、一体、私は何の罪に問われているのでしょう?
カボックから五日もかけてこちらに参ったのは、皆さんから異端審問のような扱いを受けるためなのでしょうか?
若しそうであるなら、私はこの場で失礼をしてカボックへ直ぐにも帰りたいと存じますが、宜しいでしょうか?」
サルザーク侯爵からは王宮魔法師団が陰湿で絡まれると面倒だと聞いていましたけれど、失礼にもほどがあります。
私は決別のつもりで言いました。
流石にその場が凍り付いたように雰囲気が変わりました。
慌てて、ニクラウス・ベルデンさんが取りなします。
「いや、この場はあくまで王宮魔法師団幹部との挨拶を交わす場でそれ以上のものではない。
質問の内容が先鋭過ぎたならそれは私からの連絡不足なのでお許し願いたい。」
「大変失礼ながら、最初からあなた方には驕りが認められます。
或いは、王宮魔法師団という組織に属している幹部なのだから何をしても許されると思っていらっしゃるのではありませんか?
私にとっては、王宮魔法師団という肩書は、単なる一つの職場程度の認識にしか過ぎません。
そうして相手を見下すような言葉の端々に露骨な蔑視を感じています。
私はこの国にたまたま流れ着いた者であり、この国にとらわれずに生きることができるものです。
あなた方の蔑視に耐えてまでこの国にとどまる必要は無いと思っていますので、敢えて申し上げます。
あなた方の大部分は、少なくとも遠来の客人を迎える礼儀を知らない方たちのようですね。
ならば、私もそれに呼応して、私を必要として招いた方々への対応とは異にすることにします。
これ以上のご質問は受け付けませんし、午後に予定されていた実演も公式のパーティへの出席予定も全てキャンセルいたします。
ベルデン副師団長様、短い間ですがお世話になりました。
また、パルバラさんを始め、付き添っていただいた女性陣の方々にも厚くお礼を申し上げます。
礼儀知らずには、礼儀知らずで応じるのが私の育った地方の慣行です。
失礼ながら、私は、この場を勝手に去らせていただきます。」
そう言って私はその場から消えた。
単に、空間魔法で宿に転移しただけです。
宿には荷物がありますので、そのまま放置するわけにはいかないからです。
◆◇◆◇◆◇
私は、王宮魔法師団長のディックマン・ゲバルトだ。
よりによって、私の部下たちが遠慮会釈なく遠来の客を相手にぶしつけな質問を繰り返している。
いつも思うのだが、そもそも言葉遣いがなっていない。
この調子で王族の方々に対応などしていたら首がいくつあっても足りん。
そうして同じように侮蔑されたように感じたのだろうエリカ嬢が突然
ある意味不遜とも思える決別の言葉を吐いて、そのすぐ後で、エリカ嬢の姿がその場からかき消えたのだ。
目の前で、突然消え失せたエリカ嬢を目の当たりにして会議室は騒然となった
小娘が小癪な言葉を吐いたことも少々問題だが、それよりも目の前で起きたことが信じられなかった。
私の知識が正しければ、あれは空間転移だろう。
古の大魔法師のみが使えたという特級魔法を超える神級魔法の一つだ。
文献のみでしか知らないが、一瞬の間に別の場所に転移するそんな驚異の魔法である。
しかも、エリカ嬢は何の詠唱も行わなかった。
無詠唱で大魔法を行使するなど、常識的にはありえない話なのだが、目の前で起きたことなのだから、これはもう信じざるを得ない。
もしこれが高じて、エリカ嬢が国外に出るような事態にでもなれば、我が国にとっても大いなる損失となりかねない。
私はすぐにもニクラウス・ベルデンに指示をした。
「ベルデン、すぐにもエリカ嬢を探し出せ。
お前のことだから間違いはすまいが、丁重に扱うのだぞ。
彼女はこの国にとって、重要人物となり得る人材だ。
決して彼女の信頼を裏切るな。
此処にいる阿呆共は俺が十分に説教をしておく。
くれぐれも非礼を詫び、彼女の機嫌を損なわないようにしてくれ。
そうして可能ならば王都滞在を今少し伸ばしてほしいと願ってくれ。
直ぐに動け。」
ベルデンは、にやりと微笑み、それからびしっと敬礼をすると、身を翻して会議室を出て行った。
女性陣三人も若干青い顔をして、ベルデンに続いて出て行った。
今現在、エリカ嬢の機嫌を直す人物がいるとすれば、ベルデンとパルバラ他二名の若い女性しかいないだろう。
俺は心の中で頼むぞと心から願った。
そうして、未だに自分たちのしでかしたことに気づいていないバカ者たちを睨みつけ一喝した。
滅多に出さない俺の威圧で、会議室の中に居た者は震え上がったようだ。
ふむ、事務局の二人は半分失神している様だな。
まぁ、武人でもなく耐性が無いからやむを得ないか。
それから昼時までの長い時間、会議室で異例の叱責が繰り広げられた。
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以後の投稿は、不定期とさせていただきます。
一応の目安としては、水曜日午後八時の投稿を予定しています。
By @Sakura-shougen
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