第34話 13日の非公式パーティ

 今日は王都5日目(ナブラ二の月13日)、日中は、王都の外に出てみたら鬼(強盗殺人犯)を見つけたために、ちょっとした騒ぎになってしまいましたが、夕刻からはお馴染みの引継ぎのための非公式パーティです。

 今回は錬金術・薬師ギルドから王宮魔法師団への引継ぎになります。


 錬金術・薬師ギルドのサブマスのエスコートで会場に向かいましたら、非公式ながらこれまでよりも人がいっぱいいましたね。

 会場に入って直ぐにひな壇に上げられ、ひとしきり挨拶が続きます。


 今回は民間より官の方が多いみたいですけれど、そんな中に民とも官とも判断のつかない組織の方も居ましたね。

 毛色の変わったところでは、調理師ギルドのギルマスとサブマスがわざわざご挨拶に来ていました。


 その挨拶の中でお願いされたのが、昨日の錬金術と創薬の実演の後に披露した料理をできれば再現してほしいとお願いされてしまいました。

 昨日ラミアさんが準備してくれた素材は全て用意してあるそうで、可能であれば百人前をお願いしたいと言われました。


 今日の非公式パーティ出席者はおよそで70人ほどなんですが、よくよく聞いてみると今日の料理を用意した調理師等のスタッフが30人近くいるそうで、その分の数を含んでいる様です。

 その代償として、金銭或いはその他の方法で私の要望を聞くという話でした。


 世の中の料理が美味しくなるならば、別に代償は無くても良いのですけれどせっかくの申し出なので、調理師ギルドへの一つということで調理をすることになりました。

 私の場合、手も衣装も汚れることはありませんから余所行きの衣装のままでも調理はできるのです。


 昨日作った料理の再現でも良かったのですけれど、錬金術・薬師ギルドの方で昨日食べた方も居らっしゃいますし、何より私の世話役の女性三人には別の料理の方が良いでしょう。

 そんなわけで、今日の主催者の二つの組織と今日のパーティの料理を作った調理師の方に了解を貰って、既に会場に出されている料理の一部手直しをすることになりました。


 最初にスープですが、乾燥肉のお出汁(?)と塩味だけのスープはいかにもいただけませんから、最初に雑味ともなりかねない乾燥肉の出汁と塩分を除去、そこに鳥ガラエキスを入れて、他に出されていた料理の野菜を塩抜きして入れ込みました。

 調味料には砂糖少々と塩コショウを入れましたが、醤油モドキは私が自作したもので普及していませんから今回は使いません。


 主食になりそうなものはステーキでしたが、塩味だけですし、お肉が少々硬いので、調理師さんに言ってハチミツを用意してもらいました。

 ハチミツは高級食材なんですけれど調理師ギルドの依頼もあってすぐに用意されました。


 お肉がレア程度に焼かれていましたけれど、ハチミツを魔法で肉に浸透させて柔らかくし、それからミディアム・レア程度に再加熱です。

 フライパンでやっていたら大変なのでこれも魔法で一挙にやってしまいます。


 参列者はおよそ70人なので、ステーキは150グラム程度のものが70人分しかありませんでしたけれど、サイコロステーキにしてしまえば、量は少なくなりますが百人分にでも対応できます。

 このためにトングを錬金術で造って皿の傍に置いておきました。


 トングの柄は庭の枯れ木の枝を使いましたし、掴む部位は土中のシリカゲルからファインセラミックスを作ったものですが、浄化魔法をかけていますので衛生的には問題ありませんよ。

 取り皿やフォーク類は会場に用意されていましたので今回は造る必要もありませんでした。


 ステーキには軽く塩コショウをした上で、バター擬きと肉汁それに果実とワインを使ったソースがミソになります。

 このソースをサイコロステーキにかけて食べてもらいます。


 そうしてデザートは、ケーキでもチーズケーキにします。

 今回は果物にラズベリーらしきものがありましたのでそれを使います。


 鑑定するとちょっと酸味の強いラズベリーのようですけれど、砂糖を加えてジャム状にすればレアチーズに使えます。

 最初にアルパナミルクと油脂を使って、ヨーグルト擬きを作ります。


 このヨーグルト擬きはギリシャヨーグルトに似て凄く粘性が高いんです。

 ゼラチンはここには用意されていませんから、私が動物の皮脂から造った粉ゼラチンを使います。


 レモンは無いんですけれど、レモンと同様の酸味を持ったスダチに近い果実がありますのでそれを使います。

 クリームチーズも無いけれど、アルパナミルクを変性させるとクリームチーズ様のものができましたので代用します。


 これも自宅の工房で一応経験済みなので大丈夫な筈なんです。

① クリームチーズに砂糖を混ぜて、ヨーグルトを混ぜ、ゼラチンを混ぜてレアチーズの元を作ります。


② もう一つ、ラズベリーに砂糖を混ぜてから加熱し、よく練っておきます。

③ レアチーズの元の半量を上記の②のラズベリーに混ぜて、よくこねておきます。


 本当はビスケットで台を作ってもいいのですけれど、今日は容器ごと出すタイプなので台は不要です。

④ 小さな一人分のガラス製容器に、③を四分の一だけ盛って、その上に①を四分の三まで盛ります。


⑤ ④に再度②を盛って出来上がり、後は氷魔法で冷やします。

 一応人数分を用意してデザートは終わりですが、ラズベリーの薄赤が白のレアチーズに良く映えます。


 こんな時、前世では若い子が「バエル」とか言っていましたっけ?

 因みに容器は庭の地中から素材を抽出して作ったガラス製で、ハートマークの形にしました。


 流石に出されたほかの料理すべてに手を加えるのは如何かと思うので、私の作った料理はサイコロステーキ、鶏がら出汁のスープ、それにデザートのレアチーズだけです。


 人数分ができたので早速食べてもらいましたが、評判は上々でした。

 調理場の方へは、給仕係の人が料理を運んで行き、皆さんで食べてもらっているようです。


 後刻、調理場のシェフが出て来てお礼を言われ、是非師匠になっていただきたいとお云われましたけれど、私はカボックに居を定めていますのでそれはできません。

 ですからレシピを書いて調理師ギルドに託すことにしました。


 調理師ギルドではレシピを特許のように扱っており、当該レシピを使う際には特許料を徴収しているようです。

 そうした特許料が高いと拙いのですが、その辺はレシピの保持者の裁量で安くもできるんだそうです。


 因みにレシピは、買取で一件当たり大銅貨一枚から金貨一枚程度が相場なんだそうです。

 中には宮廷料理のように金貨五枚から十枚もするものもあるそうですが、私の作った料理は宮廷料理にも匹敵すると調理師ギルドのギルマスに評価されました。


 お料理はお金持ちが独占すべきものではないと思っていますので、私はレシピで登録するなら大銅貨一枚にするようお願いしておきました。

 取り敢えず、王都に居る間に、昨日の料理のレシピと今日の料理のレシピは造って調理師ギルドに託しておきましょう。


 パーティがお料理教室に変わった一幕は別として、王都騎士団の団長さんには今日の強盗達の捕縛のお礼を言われました。

 この一月程度の間に王都内で三件も連続して起きていた強盗殺人事件だったので王宮からも取り締まり強化を指示されていたにもかかわらず何らの成果もあげられず、騎士団幹部の更迭もささやかれていたようなのです。


 王都の警備自体は騎士団の中でも黒騎士団が受け持っており、青騎士団、白騎士団等は関りが無い筈なのですが、王都騎士団全体の評価が下がっていたそうです。

 流石に王都の内部から外につながる地下通路を秘密裏に造っていたとには気づかなかったようで、今後は城壁外の巡視警戒も怠らないようにすることが決定されたようです。


 もう一人はちょっとお会いしたくなかった人ですね。

 王都にあるケアノス正教会の司教だそうで、彼の上司である枢機卿が是非お会いしたいというメッセージを持ってきました。


 私は異教徒であることを理由にお断りしました。

 取り込まれないためには近づかないのが一番です。


 目の前の司教さんアルメリックさんと仰るおっさんですけれど、教会の職員であるにもかかわらず闇魔法を仕掛けてきました。

 前世で言うならヒュプノという他人の思考を操る超能力みたいな魔法ですね。


 迷わず、ディスペルを発動して、彼の魔法を打ち消しました。

 その上で彼には警告を与えました。


「私は闇ギルドを使って私を拉致しようとした組織は誰であれ許しません。

 それに加えて、貴方は王宮魔法師団の方々がいらっしゃる中で闇魔法の洗脳を使おうとしましたね。

 これはあなた方に対する最終的な警告です。

 私には二度とケアノス正教会の者が近づかないようにしてください。

 もし無理に近づこうとするならば正当防衛で、その者を拘束します。

 お断りしておきますが、あなた方の信ずる神に祈ってもその拘束は絶対に解けないと考えてください。

 ではどうぞお帰りを。」


 私はそう言うと、目の前の不遜な司教に威圧を掛けました。

 色々考えた末に編み出した気に食わない者の撃退方法なんです。


 相手には物理的被害は与えませんが、精神的にはすくみ上って粗相をするぐらいに威力のあるものです。

 武人ならともかく、戦闘に慣れていない聖職者にはとても耐えることはできないでしょう。


 アルメリック司教は真っ蒼になり、倒つ転びつこけつまろびつまではならなかったものの慌てふためいて会場から逃げ去って行きました。

 すると傍に魔法師団のニクラウス・ベルデン副団長が寄ってきて言いました。


「司教を追い払うとは大したもんだ。

 後で厄介ごとにならなければよいが?」


「そうですね、相手がごねるようならば、場合により教会ごと潰します。

 闇組織を使って女一人を攫えば何とでもなると考えているような組織は神の使いではありません。

 まして、今ここにいた司教は、私に闇魔法の洗脳を仕掛けようとしましたのでディスペルで解除しました。」


「はぁ、なるほど・・・。

 何か魔法の発動があったように思ったが、防御のためのディスペルか・・・。

 王宮魔法師団の者が居る中で闇魔法を使おうなどどは、確かにふざけたやつだ。

 しかもウチの賓客に対して?

 これはウチに対する喧嘩状なのか?」


 あれ、ベルデンさんてひょっとして瞬間湯沸かし器なの?

 そこで王宮の偉い人が青筋立てちゃいけません。


「ベルデン副団長、お怒りはわからないでもないですが、少なくとも彼に対するお仕置きは済んでいます。

 彼は生きた心地も無く逃げ帰っていますから今日のところはご勘弁を。

 但し、今の様子であれば、これまでも闇魔法を魔法師団の方に気づかれないように発動していた可能性もございます。

 ケアノス正教会の聖職者が近くにいる場合はどうぞご用心をお願いします。

 少なくとも今ここにいたアルメリック司教は洗脳にかけてはかなりの腕達者と思えます。」


「ほう、エリカ嬢は闇魔法も使えるということか・・・。

 ゴブリン退治の実績から見て土魔法に、水魔法は間違いの無いところだろうだが、探索については風魔法なのかな?

 後、教会関係者が闇魔法まで繰り出してくるとなると・・・。

 お前さん、聖魔法か治癒魔法で何かやらかしたな?

 公爵からはそんな話は聞いていないんだが・・・。」


「あ、それについては深く追及しないようにお願いします。

 さもないと今夜にでも逃げ帰りますよ。」


「おう、そりゃぁ、困るぜ。

 ここまでおぜん立てしておいてお前さんに逃げ帰られたんじゃ俺の立つ瀬がない。

 せめて明日の公式パーティが済むまでは勘弁してくれ。」


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