第33話 錬金術・薬師ギルドの公式パーティとお外巡り

 ナブラ二の月12日の夕刻からは、錬金術・薬師ギルド公式のパーティです。

 昨日のパーティと異なり、格上の錬金術師や薬師の集まるパーティなんですけれど、実は午後の実演を見た方のほとんどがそう云った方たちのようです。


 私にとっては別にどうでも良い人達なのですが、妙に肩ひじ張って、俺は偉いんだぞと威張っているような方が多いようですね。

 その方たちがパ-ティで私の周囲に擦り寄ってくるのは、ひたすら情報収集のためのようです。


 誰かが私に質問をするとビックリするほど近くに寄ってきて耳をそばだてているんです。

 色々訊かれてもねぇ、そうそう秘密は明かしちゃいけないらしいので、私の錬金術の秘密ですとか、私の創薬の秘密ですと言って逃げるしかありません。


 多少のことは教えてやっても良いのですけれど、どちらかというと頭の固いお爺さん(稀にお婆さん)ですからね。

 古い処方は知っていても、経験だけに頼っている人たちで、あまり勉強はなさっていらっしゃらない様子なのです。


 ですから錬金術の魔木まぼくの細工にしても、鏡の素材や加工についても、細かい説明をすると理解できなくなるようなんです。

 例えばハニカム構造にしても構造自体は見ればわかるものの、どうやって作ればいいのかわからないようです。


 その辺はね、ご自分で色々と試して苦労してもらわないといけません。

 彼らの多くは、魔法を使って銅の成分を抽出したり、スズとの溶融で不純物の少ない合金を産み出したりすることがかなり難しいことのようなんです。


 薬師の場合も、そもそも勉強不足なのでしょうかねぇ。

 薬草に含まれる成分の何が薬効になっているかを承知している人は非常に少ないんです。


 一応ここにいらっしゃる方達は、一級薬師の方達なんですけれどね。

 必要な素材は知っているし、薬を生み出すために何をしなければいけないかを知ってはいるんです。


 でもそれは師事した師匠からの教えを忠実に守っているだけで、そこから先の進歩が無いんです。

 薬効成分が何であるかを知って、その成分の抽出ができれば、より効果の高いポーションが作れるはずなのに、それができません。


 一応は上級のHP・MPポーションが作れる人達なんですけれど、どうも上級の並みクラス以下の製品しか作れなさそうです。

 そもそも、上級の製品は高価すぎて需要が少ないんです。


 従って、オーダーメイドがあった場合に必要な分量だけ造るので、作る機会も滅多にないようです。

 それでは弟子たちにも中々引き継げませんよね。


 秘かに鑑定を掛けた結果なのですが、どうやら王都に居る錬金術師や薬師の連中は、金儲けは上手そうですけれど、その技術レベルは低そうだなと思いました。


 パーティに出て来たお料理は、やっぱり美味しくありませんでしたので、今日は特に出席者から手が伸びていません。

 そりゃぁね、パーティ前に美味しい料理を食べちゃったら、それこそ余計にパーティ会場に出された料理が不味いと感じて食べられませんよね。


 あれぇ?ひょっとして、コックさんに悪いことをしちゃったかな?

 こうして12日の公式パーティも無事に済みました。


 但し、この日の料理の件で、後日、調理師ギルドの訪問をうけることになりましたし、別のお断りできない依頼も舞い込んでしまいました。


◇◇◇◇


 今日は王都滞在五日目、ナブラ二の月13日です。

 今日の予定は、夕刻から錬金術・薬師ギルドと王宮魔法師団との非公式パーティだけなんです。


 日没前には、錬金術・薬師ギルドのサブマスが宿まで迎えに来てくれる予定です。

 それまでは自由時間なので前回と同じく王都散策でも良いのですけれど、今日は王都の外へ行こうかと思います。


 可能であれば薬草採取なんかをしたいと考えているんです。

 馬車で来た際に見た風景で見る限り、カボットとは少し植生も違いそうなので、珍しい薬草が見つけられるかもしれません。


 宿で朝食を取り、お昼に食べられそうなものを広場の屋台で購入、近場の東門に向かいます。

 普通の場合、門を出るには身分証明が不要の筈なんですが、今日は提示を求められているようで、出口へ至る列も混み合っています。


 何かあったのかもしれませんね。

 隣にいる商人らしき人に尋ねてみました。


「普段は出るときには身分証明の提示は不要の筈ですけれど、何かあったのでしょうか?」


「あぁ、王都外から来たねえちゃんか・・・。

 滅多には無いんだが、多分、このところ王都内の中堅商人宅が続けて襲われているんでね。

 その為の確認だろうよ。

 だから、身分証明書と一緒に例の水晶玉でチェックもしている。

 そんな場合の水晶玉は少し大きめのモノを使うらしい。」


 その商人さんの言うように入る際に触れた水晶玉よりも大きな水晶玉に手を触れなければいけないようです。

 恐らくは、罪の軽重を問わず詳しくみられるようなものなのかもしれません。


 時折、水晶玉がうっすらと黄色く光った場合は、すぐ脇の衛舎に引っ張り込まれ事情を聴かれているようですが、事情通の商人のおじさん曰く、ああしてうっすら光る程度の罪はお叱り程度で済まされるのだとか。

 そんなので一々牢に入れていたら手間も経費も勿体ないんだそうですよ。


 まぁ、精々が子供の悪戯程度の軽犯罪らしいですね。

 盗みや人を害したりする重罪の場合は、赤黒い色の点滅をするのだとか・・・。


 門の外へ出るのに時間はかかりましたけれど私も無事に門を通過、お外に出られました。

 早速周囲の探索に掛かります。


 危険な魔物等のチェックのために三次元マップを働かせましたら、街道から外れた場所に妙な黄色(橙色に近く危険度中)でブリンクするモノがあるみたいです。

 ブリンクする黄色は5個ですね。


 魔物かも知れませんが、普通都市部に魔物はあまり近づきません。

 そもそも人家が近いとそれだけで獲物になる小動物などのエサが無いことが多いですし、人を襲うような魔物の場合は街道沿いの茂みや林に居る場合が多いんです。


 私の今いる街道の地点から言うと、600レーベくらい離れていますが、そう遠くではありません。

 近くに魔物が居るわけでもないので念のため確認に向かうことにしました。


 勿論、その途中での薬草採取も忘れませんよ。

 その黄色の点が街道に向かって移動を始めましたが、どうやら南東方向に向かっています。


 私は最初にその黄色の点を見つけた地点のほぼ北に向かっているのですけれど、このままだと会合できなくなりそうですので北東方向に進行方向を変えました。

 このまま進めば間にある低めの林が途切れますので、五分後くらいには向こうの姿が確認できるでしょう。


 さてさて、鬼が出るか蛇が出るかですね。

 で、結果から言うと魔物じゃなくって悪人の方でした。


 だって、向こうがこっちの気配を感じた途端に警戒色のオレンジ色になり、お互いの姿が見える距離(200レーベぐらい?)になると5人の内3人が瞬時に赤くなり、次いで残り二人も赤くなりました。

 赤は敵対反応を示し、この赤の色は完全に殺意を抱いていますね。


 おやまぁ、物騒な話ですね。

 カボックではついぞ見かけない人の敵意です。


 ゴブリン退治の折にゴブリンからはこれを感じましたけれど、人が私に敵意を向けてくるのは初めてです。

 さてさて、敵意を向けて来るからって流石に人は殺したくありませんよね。


 可能ならば捕まえて衛兵さんにでも引き渡しましょう。

 そう言えば荷車もインベントリに入っていますから、捕縛できれば運ぶのには苦労しませんよね。


 私も歩みを止めずにゆっくりと進みますが、向こうもそのままかち合うべく進んできます。

 うーん、何処で仕掛けてくるのかな?


 弓は持っていないようだけれど、ナイフをたくさん持っていそうな男が一人、如何にも魔術師が持っていそうな長い杖を持っている者が一人、大剣を背負っている者が一人、残り二人はショートソードですね。

 一見すると冒険者風ですけれど、五人の内3人までもが怪しげな大荷物を背負っています。


 鑑定を掛けましたら、大当たりですね。

 五人ともに「殺人」、「強盗」などの罪人でした。


 細かく見ると何時起した犯罪なのかもわかりますけれど、そこは省きます。

 彼らが出てきたところは実は地下からの出口なんです。


 三次元マップでサーチを掛けると、王都の外壁から500レーベほど離れた林の中に出入り口があって、そこから地下道を通じて王都の中のとある家につながっています。

 城壁に近い場所なんで恐らくは下町なのでしょうけれど、そこがアジトなのでしょうかね。


 そうして背負っている大荷物は、盗品です。

 価値のあるものを王都外に持ち出し、余所で捌こうを言うのでしょう。


 或いは悪徳商人辺りとつながっているのかもしれません。

 私から見れば、何も無くても捕まえるのに十分な証拠がそろっていますが、流石にこのままいきなり捕まえては問題があるかもしれません。


 例の水晶玉に触れさせればすぐにわかる話でしょうけれど・・・。

 10レーベほどにまで近づくと、大剣を背中に担ぐ男がにやけ顔で言いました。


「よぉ、姉ちゃん、こんなところで何してる?

 この辺は魔物も居ねえぞ。」


「そうですね。

 魔物は居ないんですけれど、鬼が居るかもしれないので確認しに来ました。

 ここで何をしているんですか?」


「お、おう・・・。

 俺らはこれから街道に沿ってアルバレンに向かうところだぜ。」


「王都から出て来て、アルバレンに向かうなら東門から出るんですよねぇ。

 それなのになんで、こんなところに居るんですか?」


「何でもいいじゃねえか。

 チョット用事があって街道を外れていたから戻る途中だぜ。」


「おや、そうですか。

 私はまた地下通路を通って不法に王都から脱出して来たと思ったのですけれど、違ってましたか?」


 途端に、男たちの気配が変わりました。

 私の顔形がわかる距離に近づいたら、一旦は警戒色に戻ったのですけれど、今度は真っ赤になりました。


「テメェ、なんでそんなことが・・・。

 おい、っちまえ。

 この女は、生かしておけねぇ。」


 魔術師以外の四人の内、三人が抜刀し、一人はナイフを手に持って私めがけて投げつけて来ました。

 手練の業なんでしょうね。


 わずかの間に両手で4本も投げて来ましたよ。

 私は風魔法で、飛んでくるナイフを吹き飛ばし、次いで雷魔法で五人のうなじに電撃を与えました。


 電圧は多分、10万ボルトぐらいでしょうか。

 前世の護身用のスタンガンで海外では百万ボルトを超えるものもあったようですけれど、実は電圧が高ければ良いというものでもありません。


 それに場合によっては後遺症も相手に与える可能性があります。

 人体の抵抗から考えてこれぐらいなら良いだろうと判断したのが10万ボルトぐらいですし、その人の体格や保水量で電流を調整してかけています。


 ですので、五人は一瞬でその場に昏倒しています。

 全身の筋肉が痙攣して呼吸もままならないぐらいになるんです。


 これが長く続けば死に至るかも。

 ですから植物から成分を抜き出してその場で合成した高張力繊維で手足を拘束し、荷車に積み重ねて載せました。


 五人の手足はそれぞれ高張力繊維でつなげていますから少々暴れようとも余り身動きはできないようになっています。

 それから電撃で痺れている状態異常を解除してヒールを掛けてやります。


 因みに私が作った高張力繊維は太さが7ミリほどですけれど20トンの重さにも耐えられますので、例え筋力強化をしても切れないと思いますよ。

 前世のピアノ線(250~350kg/mm2)よりも強靭じゃないかしら。


 ピアノ線は余り太くはできませんけれど、細くても1本で70キロから80キロの重量を支えられます。

 強度の強いピアノ線ならば1平方ミリメートルの太さでピアノが持ち上がりますけれど、私の作った繊維は7ミリ径(約40平方ミリメートル)で20トン以上ですので、500kg/mm2の引張強さがありますからね。


 この男たちがいくら強くてもこの繊維を切るのは無理です。

 折角出て来た東門ですけれど、私は荷車を曳いて戻ることになりました。


 門に近づくとすぐに門衛が数人近づいてきました。


「何だ?

 一体何があった?」


 そりゃぁそうですよね。

 でかい男を五人もふんじばって荷車に積んでいますし、それを曳いているのが若い女なんですから、不審に思うのも当然です。


 私から事情を説明しましたら、すぐに衛士が10人ほども東門から略北方向にある林に探索に向かいました。

 この男達は捕縛されたまま水晶に触れさせられ、赤黒くブリンクしましたので、罪人であることは確定されました。


 更に、この男たちの荷物を改めることにより最近発生した三件の押し込み強盗で奪われた品物と判明し、男たちが王都内で罪を犯したことが確定しました。

 なお、東門から捜索に出た衛士たちは巧妙に隠されていた地下通路の入り口を発見し、そこにつながる王都内のアジトも抑えて、留守番をしていた男一人も捕縛、一連の事件は解決を見たのです。


 お陰で私の自由時間は半日が潰れましたけれどね。

 まぁ、お役に立てて幸いというところでしょうか。


 結局その日の薬草採取はほんの一刻ほど勤しんだだけになりました。




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