第31話 11日の非公式パーティ

王都の日程

 9日:到着、歓迎パーティ

 10日:商業ギルドでの面談、実演、商業ギルドだけの公式パーティ

 11日:商業ギルドから錬金術・薬師ギルドへの引継ぎの非公式パーティ

 12日:錬金術・薬師ギルドでの面談、実演、

     錬金術・薬師ギルドだけの公式パーティ

 13日:錬金術・薬師ギルドと王宮魔法師団てぇの引継ぎの非公式パーティ

 14日:王宮魔法師団での面談、実演、王宮魔法師団の公式パーティ

 15日:フリー


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 さてさて、その日の夕刻には昨日に引き続いて商業ギルドのサブマスのお出迎えで、非公式パーティの会場に向かっています。

 今夜は、商業ギルドと錬金術・薬師ギルドの引継ぎを含めた非公式パーティなので左程の人数は居ないと思ったのですが、予想に反して結構な人が来ていました。


 10日の公式パーティの際は、商業ギルドの菓子部会がメインであったようで、非公式の今日はそれ以外の部会の方々が沢山いらっしゃいまして、またまた名刺交換ならぬご挨拶が続きました。

 カレンさんのお話では、錬金術師や薬師の方々も格式ばった正式パーティの方は敬遠して非公式の方に参加される方もいらっしゃるのだとか。


 錬金術師や薬師の中では、ある意味で格付けのようなモノがあって、格付けが低いとどうしても見下されるために、そうした格上の人が集まるような場は敬遠されることもあるのだそうです。

 うん、前世の医学界でも似たようなことがありましたねぇ。


 出身校で何かと差別される場合や、派閥ができて人事が固まってしまうケースなど。

 私の場合は都営の病院でしたからそういう弊害は少なかったようですけれど、私立の病院は特にその傾向が強かったようにも聞いています。


 何となく異世界でも世知辛い世の中ですね。

 田舎でのんびり暮らす方が私には向いていると思います、


 錬金術・薬師ギルドのカレンさんには明日の実演の際の参加者のおおよその人数を確認し、その人数を元に明日の手料理で必要な素材の入手をラミアさんにお願いしました。

 ラミアさんはしっかりと請け負ってくれて最高の素材を準備すると言ってくれました。


 費用は依頼主の私持ちですが、やっぱり商業ギルドですね。

 物の依頼ならすぐに何とかしてくれそうです。


 因みにホーンブルは難しいけれどオーク肉は用意できるそうで、他の素材は全て入手可能だそうです。

 三人ともに私の手料理の話を聞いて凄く楽しみにしてくれているようです。


 この非公式パーティには不審者は居ませんでしたけれど、なぜか治癒師ギルドのサブマスが来ていましたね。

 一応ご挨拶はしましたけれど、場所柄をわきまえたのか特段の質問はございませんでした。


 ここもひょっとして私を狙ってる?

 非公式パーティとはいえ、関りの無いギルドのサブマスが参加しているのはとても珍しいことのようで、ラミアさんもカレンさんも首をかしげていましたよ。


 まぁ、害にはならないようですから取り敢えずは放置しておきましょう。

 非公式パーティの方も無事に済んでお宿に戻りました。


 お風呂に入って、パティやマッティとの触れ合いの時間です。

 二匹ともおとなしく私の亜空間で待機してくれていますから、宿で寝る前が二匹とのモフモフタイムなのです。


◆◇◆◇◆◇


 王都滞在四日目、ナブラ二の月12日の今日は、錬金術・薬師ギルドへの訪問です。

 昨日までは、商業ギルドのサブマスさんがお出迎えに来てくれましたが、今日は錬金術・薬師ギルドのサブマスさんがお出迎えして、エスコートしてくれます。


 今日も最初に錬金術・薬師ギルドのギルマス等幹部にご挨拶、その中で色々と根掘り葉掘りと私の素性と経歴を聞かれました。

 錬金術師も薬師も基本的にそれぞれの専門学校で勉強しなくては知識が覚えられないはずの職業です。


 まして昨今は、名のある錬金術師や薬師の元で徒弟として、かなりの期間研鑽を積まねば試験に合格できないと言われているのです。

 私の申請書には、履修専門学校の欄に「無し」、徒弟として師事した錬金術師、薬師の名前の欄に「無し」と堂々と記載してあるのです。


 この申請書については、錬金術・薬師ギルドのカボック支部から、試験結果報告書と共にこのラムアール王国錬金術・薬師ギルド本部へ送られてきているのです。

 ラムアール王国のみならず、コルラゾン大陸のほとんどの地域に錬金術・薬師ギルドが存在し、そのネットワークでどこの地域であっても錬金術師若しくは薬師としての生業を持っている者は、登録されている筈なのでした。


 しかしながら、その登録されている錬金術師及び薬師薬師からの師事を受けた経歴の無い者が、錬金術師としてまた薬師としての試験に見事合格したのですから、本部としては驚愕したものです。

 おまけに、受験時に錬金術の方では手鏡を造り、薬師の方では初級ポーションを作成したのですが、そのいずれの場合も予め用意されていた器具や道具を一切使わずに、ギルド支部で準備していた素材のみを使い、全ての作業を空中で行ったことを事細かにカボック支部は報告して来ていたのでした。


 錬金術師にしろ、薬師にしろ、その成果物を作るにあたっては相応の魔力も必要とするけれど、古今、器具を使わずに成果物を造り上げたとの記録は無いのです。

 いや、二百年程前にカブラン神聖国に存在していたと言われるアルバレフ・ロールなる人物は不思議な方法で錬金術を行使したとされているらしいのですが、その方法については神聖国における秘術とされ、外部には一切の記録が無いのです。


 その人物が居なくなって、神聖国においてもその秘術を使える者はいないとされています。

 錬金術・薬師ギルド本部としては、もし、エリカなる人物がその秘術を知っているならば是非にでも教えてもらいたいと考えていたのでした。


 ◇◇◇◇

 

 エリカですけれど、色々聞かれてもねぇ。

 こんな時も有ろうかと、リリーに相談してつじつまが合うような話だけは造っておきましたから、私がお話しできるのはそれだけなんです。


 コルラゾン大陸西端の島国、シホネ皇国の出身で、千年ほど続く着物屋の娘であり、シホネ皇国には錬金術・薬師ギルドは無かったこと。

 しかしながら、シホネ皇国では古くから伝わる故事として錬金術師が産み出すモノや薬師が作る薬品の類を生み出す手法が色々と伝わっており、興味があったので子供のころから独学で勉強していたこと。


 シホネ皇国では、家業の手伝いで、縫製師という資格は取っていたけれど、それ以外の資格は持っていなかったこと。

 魔法を使う魔力は子供のころから豊富だったので、魔力を使って行う作業は得意だったこと云々・・・。


 作り話の羅列でしかないのですが、神様から能力を与えられましたと言うよりは余程理屈に合っているでしょう。

 なんだかんだと言いながらも、それ以外の説明はできないのでそれで押し切りました。


 こういうときは老人だった時の鉄面皮というか、押しの一手がモノを言いますよね。

 錬金術・薬師ギルドの幹部の方々も不承不承ながらも、その説明で引き下がっていましたからね。


 午後からは例によって実技の披露なんですが、ここでギルマスが少し無茶を言って来ました。

 まぁ、私の想定というか計画予定の範囲内ではあったのですけれどね。


「エリカ嬢が、受験に際して作ったという手鏡とポーションの作成も実演してほしいのだが、実演に当たっては、その他のモノも二つ、三つ作ってはもらえまいか?

 今日の実演を楽しみに来ている者も多いので、別の品が産み出すことができるのであれば、是非とも見てみたいと思っている筈なのだ。

 特にエリカ嬢の場合は、錬金術も創薬も異常に速いと聞いている。

 午後の始業時から六つ時(午後四時頃)前後までの時間の中でできることをお願いできまいか?

 申し訳ないが、特に王都に多く集まる錬金術師と薬師の者達への精進を促すためにも、一つ骨を折ってみてはもらいたのだ。」


 まぁ、作れと言えば作りますよ。

 問題は、その素材が用意してあるかどうかですよね。


 今のところ考えているのは、余分に考えていたのはお料理の実演とそれに必要な食器の作成かな?

 王都で出てくるお料理も塩味主体なので、何かこうインパクトが無いんですよね。


 高級お宿の朝の定食で見る限り、出汁(だし)なんか取っていないんじゃないかと思いますよ。

 ですから、意識改革のために、ここはお料理でも造ってみるのです。

 

 受験時に造ったのは課題が「初級の並みクラス以上のHPポーション」ということで、初級の上クラスのモノを造り上げましたが、今回の実演ではそれに加えてMPポーションの初級の上クラスと、更にHPとMPポーションの中級も作ってみましょうか。

 上級を作るところを見せたりすると、もしかすると抱え込もうとする動きが出てくるかもしれませんので、そこは絶対にやりません。


 魔道具の作成は、受験時に見せたように銅と錫を使った手鏡と、後は懐中電灯の代わりになるような魔道具を作って見せましょう。

 それに加えて実用的な食器を作れば、私の手料理も振る舞えますからね。


 いずれにせよどんな素材が揃えられているのかそれ次第ですね。



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