第28話 王都商業ギルド
王都滞在二日目の翌日はスケジュールに従って、商業ギルドへお出かけです。
今朝のご案内も昨夜エスコート役を務めてくれた王都商業ギルド本部のサブマスであるクルト・ミューラーさんでした。
最初の予定は、商業ギルドのギルマスとの会談です。
但し、ギルマスだけじゃなく、昨日お会いしている王都の商業ギルドの幹部の方たちもご一緒でした。
ギルド幹部の意向としては、砂糖のようにこれまで国内では生産されていなかった商品に大きな関心を寄せているようです。
私に将来的に開発できそうなものは無いかと尋ねられましたけれど、ぶっちゃけ、商業ギルトと錬金術・薬師ギルドの縄張りが今一良くわからないところもあるので、即答は避けておきました。
基本的に錬金術・薬師ギルドを通さなければならないものは、薬関係だけだとリリーに聞いていますけれど、地元のギルドからは例の手鏡の納品をお願いされていますから、商業ギルドとの競争もあるのじゃないかと思います。
もしかすると錬金術・薬師ギルドよりも商業ギルドの方が高く買い取ってくれるかもしれませんが、双方のギルドと良好な関係を築くためには、それぞれ別の品物を納品してツナギを付けておく方が良いのかもしれません。
会談とは言いながら、そのほとんどが私への質問で終始し、私の利益になりそうな話は無かったように思います。
予定の会談が終わると休憩に入りました。
この後で関係者の皆さんの前で砂糖精製の実演をするわけですけれど、予定は午後になっているんです。
この世界、実は一日二食なんですよねぇ。
体力を使う労働者なんかは朝夕の合間に間食をするようですけれど、普通は朝と夕方の二食なんだそうです。
私は前世の習慣で、朝昼晩の三食にしていますけれど、量は少な目のつもりが客観的にみると結構多くなっていますね。
新陳代謝が良くなった所為でカロリー消費が結構大きいんです。
特に体力を使った時や大量の魔力を使ったときはおなかが減ります。
我慢をすると良くないので、そんな時にはインベントリに用意してある食べ物を頂くようにしています。
市場で見つけた果物を購入して、自前でドライフルーツに加工したものが栄養もあってカロリーが高いので重宝しています。
時間になるまでギルドの一室で待っている間に、それをポリポリと食べていたら、お茶を入れてくれたラミアさんが不思議そうな目で見ていました。
「ラミアさん、食べてみますか?」
「美味しいのであれば、是非。」
私が頷いて小皿にちょっとだけドライフルーツを盛りました。
色々な果物の種類が混ざっていますけれど、子供向け、女性向けの優しい味のはずです。
口に入れた途端に、ラミアさんのお目々が真ん丸になりました。
そうして小皿を抱えたまんま、室外に飛び出して行きました。
間もなく三人ほどバタバタと部屋においでになりましたねぇ。
いずれも商業ギルド菓子部会の人達のはずです。
商業ギルドの菓子部会長のエルマー・リーベンさん、同部会副会長のアイリス・フォルナーさん、それに菓子部会名誉顧問のファルク・ベスターさんだったはずです。
代表して部会長さんが小皿のドライフルーツを指さして言いました。
「この菓子はどうやって作るのでしょうか?」
「えと・・・。
大部分は普通の果物を腐らないように乾燥させて作ります。
一部の果物は甘みが足りないので砂糖漬けしてから乾燥させるんです。
割合と簡単にできるんですが、知りませんでした?」
三人がぶんぶんと大きくうなずいていました。
うん、この世界は色々と食文化が遅れているみたいですね。
まぁ、前世で言えば12世紀から15世紀前後の文化程度でしょうから仕方がないかもしれません。
必要に迫られての話か、馬具や馬車なんかは比較的に進んでいますけれど、効きの悪いサスペンションは流石にいただけないですよね。
半日も座っていますと流石にお尻が痛くなってしまいます。
馬車の車輪に潤滑材として獣脂を使っているようですけれど、金属製品の車軸及び軸受けの摩耗が激しいようです。
まぁ、道路が余り良くないのでまともに凹凸の衝撃が車軸にかかりますからね。
金属製といえども変形するのでしょう。
もう少し改善の余地がありそうですけれど、余り口出しすると色々と宿題を出されそうなので今のところは黙っています。
必要があれば、馬車なんかの改造若しくは製造も将来的に検討してみましょう。
ドライフルーツについて、またもや、あれこれと質問を受けましたけれど、とりあえずは納得してもらえたようです。
そんなこんなで予定の時間が来て、午後からの実演です。
王都商業ギルドの広間に案内され、早速に砂糖精製の実演のための準備をお願いされました。
テーブルの上に何やら随分と沢山の機材が用意されていましたけれど、私が実演に使うものは左程ありませんね。
原材料になる
私がそれだけを選びだして他の機材は不要ですと言うと、何やら関係者がびっくりしていました。
ウーン、きっと、ベントから砂糖を精製しようとして色々と試行錯誤した際に使った器具と同じモノがここに置かれていたのでしょう。
そのほとんどが私から不要とダメ出しされたので、いったいどうやって作るのかと驚いたのでしょうね。
私は、魔法を使って、ほとんどの作業を空中で行いますし、加熱、冷却それに結晶抽出まで左程の時間を掛けませんから器具はほとんど必要ないのです。
むしろ作った砂糖を保管する容器や、搾りかすの廃棄が重要な課題になるはずです。
私の工房では残渣は単純に燃やしていましたけれど、皆さんの目があるので搾りかすは搾りかすのままで残しておきましょうか。
これはこれで飼料にしたり、肥料に加工したりできるはずなので、一応そこにも言及しておくつもりです。
資源の有効利用はそれぞれの場面、それぞれの立場で工夫すべきですよね。
私は、普段のとおり、一度にベント四個を使って砂糖を精製しました。
これで作れる砂糖の量は、重量比にして約10%程度です。
ベントがおよそ4キロのもの四個で16キロ、これを加工すると水分は蒸発し、搾りかすが約10キロほど、砂糖1.6キロ近くが残ります。
私は、およそ30名の関係者が見守る中で、いつも通りに、空中で作業を行いました。
ベント四個を同時に宙に浮かせて皮を剝き、風魔法で切り刻み、それを加熱してどろどろに液状化させ、四回の絞り出し工程を経て、減圧蒸留で結晶化を促進させます。
一応口頭で要所・要所で説明はしているのですけれど、分かっているのかいないのか、ほとんどの方はぽかんと口を開けています。
概ね30分で砂糖を抽出して、砂糖をあらかじめ準備した容器に入れ、搾りかすは屑籠に設定した容器に入れました。
加熱等の操作により水分は蒸発しましたけれど、室内の湿度維持のために窓を少し開けてそこから逃がすようにしていました。
一応作業が終わりましたのでその旨を告げたところ、出席者から沢山の質問が飛んで来ました。
仕方がないので、懇切丁寧に説明はしましたけれど、質問の内容から察するに、どうやらどなたも私と同じ作業はできそうにないようです。
私のように魔法で、しかも空中で色々な処理をすることは普通の人にはできないということがわかりました。
あれまぁ、・・・。
私は簡単にできるから、魔法のあるこの世界では、特別なことだとは思っていなかったのですけれど、違ったみたいで、大分チートみたいです。
またもやリリーに指摘されて初めて気づく私でした。
うん、大分やらかしてしまったみたいですね。
でも仕方がないじゃないですか。
ここに用意してある機材を使ってちんたらやっていたら、多分三日かけても終わりませんもの。
そうは言いながらも、魔法を使わなくてもできる作業はありますよね。
勿論それなりに手間暇と時間がかかりますけれど・・・。
仕方がないので残りの時間を使って、魔法を使わずに普通に処理する場合の注意事項を色々と説明することにしました。
最初のベントの刻みは手作業でできるはずです。
私の場合は省いていますけれど、それ以前に泥を落とすための洗浄作業が必要になってくるでしょうね。
煮込んでドロドロの液状化にする作業も、相当量の燃料なり、火属性の魔石若しくは魔法を使えれば大丈夫でしょう。
甘み成分の抽出については、適当なフィルターが必要なんですけれど既存の目の細かい布で代用も可能です。
但し、透析というか
特に減圧蒸留については、特殊な装置が無くては難しいかもしれませんから、普通に根気よくとろ火で蒸留し、かき混ぜてやるしかありません。
これは適当な魔道具が無いと相当に時間がかかることになりそうです。
結晶化の工程は、粉糖を使ってタネにし、ゆっくりと結晶化させれば魔法が無くてもできますがやはり結構な時間がかかります。
特に、温度管理と、加熱中に焦げ付かないようかき混ぜるのが大変かもしれません。
私の場合は、抽出のスキルで溶液から直接糖分を析出していますから面倒が少ないんです。
これを大量生産で生成するにはどうすればよいかと相談を受けましたけれど、魔道具を作れば或いは可能かもしれませんと曖昧に答えておきました。
実は、砂糖が急速にしかも安価に出回ると、絶対にメタボや糖尿病の原因になります。
その防止のためには必要な肥満防止対策や虫歯防止策を広く周知しなければいけないんです。
元医師としては、余り砂糖が流通していないこの世界に、砂糖の大量生産は推奨できないんです。
ですから、砂糖の大量生産方法の試行錯誤については、私が教えるのではなくって、商業ギルドなり菓子部会の自助努力に任せました。
私自身は、自分のできる方法で適切な量の砂糖を出荷するだけに留めます。
因みに私の方で砂糖をもっと増産できないかと聞かれましたので、ベントの確保さえできれば現状の五倍ほどは生産できるだろうと答えておきました。
実際にはもっと精製できますけれど、私は別に砂糖で金儲けをしようとは思っていませんから、砂糖生産だけに縛られたくないんです。
◆◇◆◇◆◇
デモンストレーションとその後の質疑応答を終えた後は、またまたパーティなのです。
商業ギルドと菓子部会の正式なパーティですね。
またまた数多くの人と名刺交換ならぬ挨拶を交わすことになりました。
昨日のパーティでは、それぞれのグループの代表的な人物が来ていたようで、今回は王都で出席できる商業ギルドの関係者が多数集まっているようですね。
世の男どもは本当に飲み会が好きなようです。
私も酒は飲めなくもないですが、無理して飲むものじゃないと思っていますから、前世でも飲酒は本当にお付き合い程度に留めていました。
その点、女というのは便利です。
飲まずとも構わないし、男どもも無理に酒を
出席者で特に目に付くような人物はいなかったように思います。
因みに昨日見かけた不審者は、今日のパーティには来ていませんでした。
例によって、私専属のガイド役になった感じのお三方が私の傍についてくれています。
王宮魔導師団第二中隊副隊長のパルバラ・シュミットバウアーさんや王都商業ギルド受付筆頭のラミアさん、そうして王都錬金術・薬師ギルドの受付筆頭のカレンさんなどの女性が付きっきりで私の面倒を見てくれたので大いに助かりました。
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