第26話 王都訪問第一日目

 遠方から来る客が着いたその日に歓迎パーティだなんて、普通は長旅行で疲れているのだから、遠慮するものじゃないのかしらねぇ?

 それにそんな会合を開く予定があるのなら、最初から招待者には通知しておくべきでしょう。


 8日から宿はとってあると言っても、今日は9日、私が今日の夜遅くとか10日の朝に到着していたらどうするつもりだったのでしょうねぇ。

 普通はそんなに夜遅くや朝早く着くことはありませんけれど、何となく三つの団体の常識をチョット疑っちゃいますよね。


 兎にも角にもその夜七つ時からパーティがありました。

 カボックで揃えたそれなりのドレスを着用して、迎えの馬車が来るまで宿のロビーで待っていましたところ、宿にはちゃんとホスト役の男性が迎えに来てくれました。


 お出迎え役は王都商業ギルド本部のサブマスで、お名前はクルト・ミューラーさん。

 なかなかのイケメンおじ様なんでしょうけれど、生憎とこちとらは百年近くの経験があるババァですから、にデレたりはしませんよ。


 そのクルトさんが案内役兼紹介役でもありました。

 パーティ前にVIP室なのでしょうか、別室に案内されて主要関係者へのご紹介をしていただきました。


 商業ギルドのギルマスは、アルバート・ヘンケルさん。

 商業ギルドの菓子部会長のエルマー・リーベンさん。


 同部会副会長のアイリス・フォルナーさん。

 錬金術・薬師ギルドのギルマスでフォンブラン・エルハートさん。


 同ギルドのサブマスでギュンター・ハインツさん。

 同ギルド錬金術部会長のハインリッヒ・オルマーさん。


 同ギルド錬金術部会副会長のヘルベルト・バッカスさん。

 同ギルド薬師部会長のヨハン・シュトゥルディスさん。


 同ギルド薬師部会副会長のクラウス・ベリングトンさん。

 王宮魔法師団事務局次長のレオンハルト・ブラッセルさん。


 王宮魔法師団副師団長のニクラウス・ベルデンさん。

 この方は確か侯爵様のお友達の方ですよね。


 そうして何故か紅一点の王宮魔法師団第二中隊副隊長のパルバラ・シュミットバウアーさん。

 彼女は、男ばかりのパーティでは、私が困るかもしれないと、わざわざ王宮師団が配慮して参加させてくれた人の様です。


 なお、商業ギルドと錬金術・薬師ギルドからも女性職員は参加しているとのことで、そちらは会場に入ってからの御挨拶になりそうです。

 別室でのご挨拶が済んでから、会場の方に移動しましたが、非公式のパーティの筈なんですけれど、出席者はかなり多いですね。


 広いホールに立食形式で80人余りの参加者が居ました。

 商業ギルドのサブマスの司会進行で、会が始まりました。


 二つのギルドと王宮魔法師団の歓迎の辞の後で乾杯を行い。

 何故か私から一言ご挨拶をと言われて正直なところ困ってしまいましたが、時候の挨拶と共に当たり障りのない自己紹介と王都招請のお礼を一応申し上げました。


 本音を言えば、「王都になんか呼ぶなよオッサン達」なのですけれど、こんなところで本音を吐くわけにも行きませんから、ひたすら笑顔を張り付けて無難な挨拶に終始しました。

 このあと商業ギルド菓子部会長の発声で乾杯を成した後、懇談に移りました。


 料理は可もなく不可もなしですが、正直なところ余り良いお味とは言えないですね。

 多分同じ材料でも、私が造った方がいろどりも良く、美味しいものが出せるのじゃないかと思います。


 念のためインベントリには各種調味料も用意してありますからね。

 それなりの料理は作れるはずです。


 懇談の方では、出席者が、入れ代わり、立ち代わり挨拶に来られました。

 やはり二つのギルドと王宮魔法師団の関係者が多いのですけれど、治癒師ギルドのサブマス、それに王都に在るケアノス正教会の副司教様に聖ディートリンデ修道会の次席修道女様なども挨拶に来られたので、ちょっと要注意です。

 

 そうして、何故か宰相付き補佐官も挨拶に来られていましたね。

 何なんでしょうね?情報収集なのでしょうか?


 他にも冒険者ギルド、工芸ギルド、鉱業ギルド等の関係者もいらっしゃいましたが、いずれもサブマス以下の方たちです。

 概ね一刻の時間で歓迎パーティは終了しました。


 なお、帰りも商業ギルドのサブマスが付き添って宿まで送り届けてくれました。


 ◇◇◇◇


 私は王宮魔法師団副師団長のニクラウス・ベルデンだ。

 兼ねてから親交の厚いサルザーク侯爵がたまたま王都に上京した際に、彼から耳寄りな話を聞いたのだ。


 侯爵領の第二の都市カボック近郊でゴブリンの大量発生があり、冒険者ギルドのカボック支部が中心となって討伐を行ったのだが、その際にゴブリン・キング一体とゴブリン・ジェネラル二体が現れたらしい。

 通常ならば、ジェネラル、キングとも、それぞれ冒険者の上級者が複数で当たらなければ討伐困難なところ、討伐に参加した中に上級者は僅かに三名しかいなかったそうなのだ。


 下手をすれば討伐部隊の全滅もあり得たところ、索敵担当として連れて行った冒険者に成り立ての初心者が、相手に気づかれず遠距離からゴブリンの巣を発見し、なおかつ、中級以上の冒険者達でも攻めあぐねていたソルジャー、メイジ、アーチャー等のゴブリン上位陣20体余りに土魔法で壊滅的な打撃を与え、更には、氷魔法でジェネラル二体に致命的な痛手を負わせ、キングにも甚大な怪我を負わせてそのヘイトを買ったようだ。

 その直後、初心者に向かって来たキングの首を一太刀で撥ねたのもその初心者の冒険者であるそうで、終わってみればその初心者の冒険者が一人で功績をかっさらって行ったようだ。


 ゴブリンでもキングともなれば、例え王宮騎士団が出動したとしても一筋縄では行かない。

 過去には、王宮騎士団の二個中隊(150名×2)がキング率いるゴブリン集団と戦闘になり、二個中隊が半壊しながらもなんとかゴブリンキング以下を討伐したという記録がある。


 但し、その王宮騎士団での戦闘においては、ゴブリンキングの死に様は、無数の切り傷を負わせなければ退治できなかったようであり、少なくともその太い首を一撃で撥ねるなどという事は、王宮騎士団の猛者もさでもかなり難しいはずなのである。

 まぁ、私としてはそんな剣術による武功よりも、その索敵能力と、上位陣を壊滅させたという土魔法、更にはジェネラルやキングにさえ深手を負わせたらしい氷魔法の手法が非常に気になるのだ。


 昔から土属性魔法には攻撃手段が無いとされており、土属性魔法の使い手はもっぱら防御において役立つ魔法師として知られている。

 王宮魔法師団でも陣地構築に際して土属性魔法師を動員するが、正直なところ余り実用性は高くない。


 大規模陣地構築では能力的に魔法師の力が不足することがしばしば発生する。

 従って、陣地構築作業には相当の日数が必要とされるのである。


 私の関心事としては、如何様にすれば土属性魔法で攻撃ができるのかをまず知りたいところだ。

 さらにまた、如何様にすれば氷魔法(?)で三体もの上位魔物を無力化できるのかそれも疑問なのである。


 氷魔法の際たるものはおそらく氷結魔法であって、一定範囲内の気温を下げ、場合によっては氷結できるほどの能力を発揮する者も稀にいるようだ。

 然しながら、敵味方の区別なく範囲内にあるものを氷結させてしまうことから実際には使いどころが非常に難しいのだ。


 氷で槍衾を造るような方法もあるようだが、冬場にしか使えないこと、槍衾の範囲がさほど大きくないこと、固定して使うこと等から戦術的には非常に使いにくい魔法なのである。

 かなり粘って、渋るサルザーク侯爵から聞き出した範囲では、土魔法では小石を多数撃ち出したこと、氷魔法では6本の槍を産み出し、これをゴブリンキング等三体に放ったらしいことがわかった。


 ただし、そんなことができるのかどうかが甚だ疑わしいのである。

 少なくとも我が魔法師団に属する土属性魔法師や氷を産み出せる魔法師に聞いたところでは、そんな途轍もないことはできそうにもないという返事だった。


 そうした武功よりも、侯爵が誇らしげに話していたのは彼女の能力で、錬金術師及び薬師としても史上最年少で資格を得たこと。

 また、その産み出したものが非常にできの良いもので、地元の錬金術・薬師ギルドから手放しで誉められているらしい。


 もう一つは、馬の飼料になっているベントなる大蕪おおかぶから我が国では輸入に頼っている砂糖を産み出し、商業ギルドに定期的に納品していることだった。

 品質の良さもあって高値で取引され、特に王都の商業ギルド菓子部会で話題になっているそうだ。


 侯爵からは、話題の人物が女性だとは聞いていたのだが、今日の歓迎会で初めて挨拶を交わして驚いた。

 初心者とはいえ、ゴブリン多数を討伐した猛者であるから当然にガタイの良い大女を予想していたのだが、大いに外れてしまった。


 淡い紫色をした最近流行はやりのドレスを着たエリカなる冒険者は、スレンダーなボディを有する美女であり、ともすれば貴族令嬢と比べても遜色のない立ち居振る舞いであった。

 全体的にほっそりとしていながら出るところはしっかりと出ているという理想の女性像に見えるから、私が10ほども若ければ、即座に彼女にプロポーズしていても何らおかしい状況では無い。



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