第19話 家探し

 白狐の曲がり宿のお風呂場建築を終えた翌日、私は商業ギルドに砂糖を納めるついでに、借家若しくは売りに出ている中古住宅はないかどうかを尋ねてみました。

 借家については、「面積が狭い物件しか無く、間口の狭い売り場ならともかく、住居とするには適さないものしか無いですよ。」と言われました。


 また、中古住宅の売り物件は無いものの、取り壊し予定の古い家屋がある土地の売り手なら居るのだそうです。

 その売り物件の土地の詳しい話を聞くと、元々鍛冶工房を営んでいたドワーフの親方がこの度店をたたんで王都近辺の町に住む息子さん夫婦の元へ行くことになったのだそうです。


 鍛冶工房自体は、親方の先々代が建てたもので、既に老朽化しているためにそのままでは買い手がつかない建物であるため、これを更地に変えて土地を売ろうとしているそうなのですが、生憎と曰く付きの土地のために買い手がつかないようなのです。

 曰くというのは、臨家が日本で言う香具師やしに近い存在のため、一般の人は何となく忌避してしまう場所なのだそうです。


 商業ギルドの担当者曰く、露店などの縄張りを世話してくれる親分さんの家であって決してヤクザのような破落戸ごろつきの溜まり場ではないのだけれど、一見すると怖い叔父さんやお兄さんがいるので、どうしても一般の人には煙たがられる存在なのだそうな。

 鍛冶工房の親方さんも土地が売れずに随分と困っているそうなのですが、今のところ工房の方も取り壊さずにそのまま住んでいるようです。


 まぁ、そうよねぇ。

 昔、私もテキヤの親分さんに顔見知り元患者がいたのだけれど、確かに強面の叔父さんだったわね。


 だから最初はとってもとっつきにくいのだけれど、話してみるととっても人情味のある良い叔父さんだったわよ。

 残念ながら後継ぎに恵まれず親分さんが亡くなると、組は解散になってしまったけれど、どちらかと言うと地域の安全を守る方の人だったわ。


 ですから、私は、その隣人がどんな人なのか見てからその工房を買うかどうか検討しようと思いました。

 因みに、売値は相場から見ると半値以下にまで下がっているのだけれど、それでも買い手がつかないみたいなのです。


 親方さんも土地が処分できなければ、後々面倒ですからね、息子さんのところへ行けないようです。

 うん、その意味ではその土地を買うと、次に私が土地を売る際にも同じ状況になるのかな?


 まぁ、そのまま不要になっても持っているというのも確かに問題があるわよね。

 その意味では隣の親分さんが買ってあげれば一番いいのだけれど・・・。


 どうなのかしらね。

 結局、お節介焼きのむしが起きてしまって、私は売りに出ている鍛冶工房の臨家へとお邪魔しています。


 向こうは何か妙な女が飛び込んできたというので随分と警戒色を強めていますけれど、別に喧嘩をしに来たわけじゃありませんヨ。

 親分さん宅(組事務所?)には若い衆が6人ほど居ましたね。


 その若い衆さん達、確かに強面なんですけれど、第一印象はとてもまじめっぽい感じに見えます。

 まぁ、向こうが戸惑っているうちに私は親分さんに直談判です。


 隣の鍛冶工房の親方が困っていることは、こちらの親分さんも知っているのだそうです。

 しかしながら、生憎とこの親分さんは金欠病で、臨家の土地を買うだけの余裕がないそうなんです。


 で、私からの提案。

 一つは隣の鍛冶工房を居抜きで私が購入し、古家を修理して私が住むこと。

 二つ目は、私がここを去る時は親分さんがこの土地と家をただで譲り受けてもらいたいこと。

 その二つを言うと親分さんが言いいました。


「そいつは、隣のザイゲンは助かるだろうし、俺もタダで隣の土地が手に入るんなら文句はねぇが、おめえさんには全く得がねぇじゃねぇか。

 そいつは、理不尽というものだろう。

 俺のでぇっ嫌いなものが理不尽だぁな。

 だからそれじゃぁ承服できねぇな。」


「あら、私にも得はあるのですよ。

 ここって広場に近いし、商業ギルドを含めてギルドの建物に便利な場所ですよね。

 そこに比較的安い経費で工房を持てるんですから、それがとても大きいメリットです。

 但し、私はこの街にずっと居続けるわけじゃぁありません。

 多分、いずれかの時点でこの街を出て行くことになると思います。

 そんな時に、この土地を何とか誰かに押し付けないと困りますよね。

 知ってます?

 お隣さんの土地が売れないのは、親分さんの所為も多少はあるんです。

 親分さんが悪い人じゃないことは、それなりの数の人が知っているのでしょうね。

 でも親分さんって外見が怖いからみんな引いちゃうんですよ。

 だから親分さんが責任を取って、私が去るときには受け取ってくださいな。

 そうしていただければ後々を考えずに、お隣を買えますから・・・。」


「おうおう、娘っ子よぉ、随分と言いたい放題だなぁ。

 まぁ、俺の面は、俺自身も良く知ってるが・・・。

 それでも普通は遠慮して言わねぇもんだぜ。

 それをまぁ、ずけずけと遠慮なく・・・。

 わーった。

 これだけ俺を怖がらねぇ女も久しぶりだ。

 おめぇの言い分はわかった。

 おめぇがこの街を出る時は俺が引き受ける。

 だが、ただはねぇな

 そん時に俺が用意できる金で譲ってくれ。」


「わかりましたよ。

 その時は、銅貨一枚でもお譲りします。

 口約束ですけれど、よろしくお願いします。」


「おう、こっちこそよろしくな。

 ところで、ねぇちゃんよ。

 隣に来るんだろうけど、名前を教えてくれるか?

 いつまでも姉ちゃんじゃ、俺らが呼びにくい。」


「あら、ゴメンナサイネ。

 私はエリカといいます。

 青銅の冒険者で、三級錬金術師、ついでに三級薬師もやってます。」


「ほう、おめえさんの若さで青銅か、それに錬金術に薬師って・・・。

 どう見ても成人したばっかりの年頃に見えるが・・・。」


「そうですねぇ。

 17歳ですから、ちょっと若いですかね。」



「まぁ、若く見えてもエルフなんか百を超えてることもあるが・・・。

 エリカ嬢ちゃんは本当に17なのか?」


「はい、正真正銘の17です。」


「何ともはや、凄い17歳もいたもんだな。

 青銅冒険者になるには、少なくとも二年程はかかると聞いたが・・・。」


「ええ、そうかもしれませんね。

 私もちょっと上がるのが早いと思ってるのですけれど、来月には白銅だってギルマスから言われてます。」


「ホゥホゥ、そいつはすげぇな。

 なんかやらかさないとそんなにはならんだろう。

 いってぇ、何やらかした?」


「うーん、ちょっとゴブリン退治を手伝っただけですけど・・・。」


「ウン?

 ゴブリン退治?

 じゃぁ、ひょっとして、おめぇゴブリンキングの件に関わったってか?

 なるほど、それなら話は分かる。

 噂に聞いたキング殺しの綺麗なねぇちゃんてのはエリカ嬢ちゃんの事だったのか。」


「あれま、こんなところまで噂が広まってるんですか?

 嫌ですね。

 世間が狭くて通りが歩けなくなるじゃないですか。」


「別に嬢ちゃんが悪いことしたわけじゃあるめぇ。

 誰に何言われようと、胸張ってりゃぁいい。

 そうか、今日は随分といい縁に出遭ったわけだ。

 本当にこれからもよろしく頼むぜ。

 エリカ嬢ちゃんよ。」


 どうやら私は、親分さんに気に入られたようです。

 親分さんの名は、ジロットさんというのですが、ちょっと訛れば次郎長さんになるかも。


 そんな感じの面倒見のいい親分さんでした。

 何れにしろ、隣家との話し合いも無事済んだので、本家本元の鍛冶屋さんを訪ねました。


 鍛冶屋のザイゲンさんは、キン肉マンのお爺さんでしたね。

 どっちかっていうとプロレスラーを縦に潰した?


 いや、横に広げた?

 どっちにしろ凄い横幅があるんですけれど、身長は私と同じぐらいの多分ドワーフさんなんでしょうねぇ。


 おかみさんはいらっしゃらないので一人住まい。

 30年程前に先立たれたそうですが、元々ドワーフという種族も長命種族なんです。


 人間の4~5倍くらいなら優に長命ですね。

 このザイゲンさんも齢389歳だそうです。


 ヒト族で言えば77歳前後でしょうかねぇ。

 まぁ、一般的には引退時でしょうね。


 私が工房を買い取りたいと申し出るとすぐさま売ってくれました。

 ザイゲンさんは、売却時には工房を撤去するつもりでいたようですが、私がそのまま改造修理をするのでそのまま居抜きでいいと言うと、更に売値を下げてくれました。


 まぁ、解体の手間と費用が節約できたのでその分の割引ということのようですが、結局はザイゲンさんの言い値で買い取りました。

 ザイゲンさんは金を受け取るとその足で旅立って行きました。


 工房の敷地は、概ね間口20m、奥行き25mほどで、敷地としては150坪ほど、そこに340㎡ほどの建坪の工房兼家屋が経っているわけです。

 通りに面したところ(前面)に多少の余地は、あっても庭はありません。


 裏には50坪ほどの庭がありますけれど、ザイゲンさんは資材置き場でしか使っていなかったようです。

 工房には鍛冶道具がそのまま残っており、使うなり廃棄するなり勝手にしてくれと言われています。


 ザイゲンさん自身は、更地にした際に道具も処分して行くつもりだったようですが、ちょっと手入れしてやればそのまま使えますので便利ですよね。

 工房の建屋自体がかなり老朽化していましたので、全面改装することにしました。


 一旦街の外に出て、大量の資材を地下から抽出、それを持ち込んで基礎部分からやり替えました。

 鍛冶工房が概ね100㎡ぐらい、元々居住部分が80㎡、倉庫部分が160㎡ほどの天井の高い平屋造りでしたが、柱を倍の太さにして、数も四倍に増やして、二階部分を増築しました。


 一階部分は、応接室25㎡、鍛冶工房92㎡、錬金工房42㎡、薬剤工房36㎡、倉庫区画160㎡の五つに分け、洗濯場、浴室、トイレを併設しています。

 二階部分は居住区で、浴室、台所、トイレ、LD(居間及び食堂)、寝室、客室、予備室、物置などに分けてあります。


 客室は、余り数は要らないかとは思ったのですが、念のためツインタイプ(約24㎡)を3室作ってあります。

 また、フリールーム48㎡(概ね30畳ほど)一つを造ってあるので予備室或いはたくさんの人を泊めたりする際には便利ですね。


 何しろ元々の造りが平屋で340㎡ほどもありましたので、結構居住区としては広い筈なのです。

 おまけに柱や梁は全て金属製にしましたので、要すれば更に上方に3階、4階の増築も可能です。


 内装は、鍛冶工房と錬金工房を除いて全て木工仕様です。

 特に二階の居住区部分には、この街ではかなり珍しい平ガラスの窓を造りつけています。


 家具などはこれから順次作って行くつもりですが、取り敢えずベッドだけは新たに作りました。

 ザイゲンさんの使っていたベッドも残っていましたが、余り清潔そうには見えず、私には使えそうも無かったので焼却処分にしました。


 ベッドのマットレス、包布、シーツなども、いずれは自分で造るつもりですが、取り敢えずは白狐の曲がり宿に在ったものを複製し、完璧に洗濯、消毒してから使うようにしています。

 取り敢えずは、寝るところだけは確保できたようです。


 そうそう、建て替えの際に地下にも設備を増設していますが、これは外から見えません。

 入口そのものを隠してあり、私以外では地下に降りることができないようにしているのです。


 まぁ、秘密基地代わりですね。

 何となくなんですが空間魔法で転移ができそうですから、そんな場合の転送地点の一つにはなるでしょう。


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