第17話 お受験ですよ その二

 錬金術で鏡を造る素材があるかどうか確認してみました。

 インベントリに素材の用意はあるものの、素材も器材も持ち込みは許されていないから、このテーブル上のもので造るしかないですよね。


 鏡を造る場合、鏡の土台になるのは金属でも構わないのだけれど、重いのはあまりかんばしくありません。

 二酸化ケイ素を探したのですけれど、そんなものは置いていないようです。


 残念ながら軽金属のアルミニウム等も用意されていないようです。

 止むを得ず銅と錫を使うことにしました。


 銅と錫の合金である青銅は、銅が主体であるものの、錫の含有量が増えれば白銀色になるんです。

 但し、そのままでは重いので部材の一部を空洞に加工したうえで、手鏡の形を作ることにしましょう。



 鏡になる部分を鏡面仕上げにするだけでも鏡の効果があるのですけれど、その上に銀分子をラミネートすることにします。

 背面に当たる部分にはやはりいろどりが欲しいので、数種類の鉱石を使って、花の絵柄をつけることにしました。


 全てのイメージを確定した上で、空中に素材を浮かばせ、粉砕し、合金加工し、付着させ、彩色塗布したのです。

 所要時間は作業にかかってから5分程でしょうか?


 空中に浮かぶ手鏡を手に取り、作業台の上に静かに置きました。

 傍で目を見張っていたヴァリスレッド・カークランドさんが叫びました。


「お前、・・・。

 一体、どうやってそれを造ったんだ。」


「え?

 あのう・・・。

 銅と錫で白銀色の青銅を造り、それを土台に鏡面となる部分には銀の薄膜を被せました。

 これだけでは見栄えが良くないかと思い、背面に絵をかいてみたのですけれど・・・。」


「いや、お前・・・。

 本当に器材を使わずに、空中で錬金を行うなんて・・・。

 そんなことする奴を始めてみたぞ。

 ちょっと見せてみろ。」


 そう言って、ヴァリスレッド・カークランドさんがひったくるように手鏡を手に取り、しげしげと見ている。


「これが、鏡なのか?

 青銅を磨いてもこれほど綺麗な像は映らないはず・・・。

 それに、この軽さ。

 何故だ、青銅ならもっと重い筈だろう。」


「あ、青銅ではちょっと重いですから女性が扱うには不向きですよね。

 ですから、土台の部分は6割ほど空洞化しています。

 空洞化した分、強度が落ちますので、エンチャントで固化強化をかけていますから、余程大きな力がかからない限り壊れないと思います。

 課題はこれで成就じょうじゅしたと見てよろしいでしょうか?

 これで合格点が貰えなければ、別の魔道具でも作りますけれど・・・。」


「ン?

 いや、これで十分だ。

 こいつは生活用品の上級クラスに当たる品だろう。

 上級貴族用と言っても差し支えない。」


「ありがとうございます。

 では、薬師の試験も受けて参りますので、これで失礼します。」


 私は、そのまま左側に移り薬草の選別に入りました。

 初級の並みクラス以上ということは、初級の上クラスを造ればいいでしょう。


 私はアキルネ草とシレビン草を手に取り、念のため鑑定を掛けてみました。

 どちらも良ではあるが、優良ではない品質です。


 このままで普通の水を使うと良くて上クラスの+1相当程度になってしまうのじゃないかと思います。

 この素材を使ってより良いポーションを造り上げるのは、かなり難しいのじゃないでしょうか。


 もっと品質の良い素材を使えば比較的簡単に作れるのでじゃないかと思いますけれど、他の受験生が何となく可哀そうですね。

 そうは言いながらも、恐らく工房では、与えられた素材でできるだけ高品質のものを作るのが薬師の仕事になるのでしょう。


 ならば、これも試練の一つ、皆さん頑張って下さいね。

 私は私のやり方でポーションを造らせてもらいます。


 最初に聖水を空中に産み出し、次いでアキルネ草とシレビン草をそのまま放り込み、必要な成分だけを抽出、残りは分離して、そばにあるごみ入れに放り込みました。

 必要成分が混じった聖水を徐々に加熱、必要成分が完全に聖水に溶け込んだ時点で冷却して、用意されていたHPポーション用の瓶に仕分けしました。


 狙い通り6本分のHPポーションの完成です。

 念のため鑑定を掛けると初級ポーションの上クラス(+3)ができていました。


 所要時間は五分弱といったところでしょう。

 で、試験員の方を振り返りましたら、今度はアルザック・フローデンスさんが叫びました。


「お前・・・・。

 どうやってそいつを造った?」


「え?

 あの・・・。

 聖水を造って、その中にアキルネ草とシレビン草を漬け込み、有効成分だけを抽出した後で、やや過熱し、薬効成分が十分に溶け込んだところで冷却して、作りましたけれど・・・。」


「聖水?

 そんなもの、教会でもなければ作れない・・のじゃないのか?

 それに成分の抽出には、薬研を使って摺りつぶさねば無理だろうが・・・。」


「薬研を使って、薬草を摺りつぶせば、不要な成分まで混ざってしまいます。

 それよりは素材そのものから薬効成分だけを抜き出して、不要物を除去した方が間違いないですよ。

 不要成分が混じると薬効が落ちますし・・・。」


「ポーションがこんなに短い時間で出来上がって堪るか。

 確認して基準に達していなければお前は不合格になるがそれでもいいのか?」


「はい、正式に確認していただければ宜しいかと・・・。

 少なくとも初級HPポーションの上クラスにはなっていると思います。」


「ふむ、念のためだが、お前は聖水を造ったと言ったな。

 ではもう一度、この鍋一杯の聖水を作って見せろ。

 聖水が出来ればお前に少なくとも不正が無かったと認めてやろう。

 ポーションの確認はその後だ。」


 アルザック・フローデンスさんが指さしたのは、薬用釜と呼ばれるポーション作成の際に用いられる加熱用釜で概ね1リットル程度の内容量のものですね。

 私が、その鍋一杯の聖水を造ってみせるとそれこそ目をひん剥いていました。


 アルザックさん、その釜から聖水をすくってMP用の瓶に入れ、私が作ったポーション一瓶と共に両手で持って、同僚に「後を頼む」と一言言ってから別室に早足で向かって行きました。

 10分程経ってから戻って来て、仏頂面で私に言いました。


「確かにHP初級ポーションの上クラスの最上品だった。

 聖水の方も間違いが無かった。

 お前は、合格だ。」


 それからヴァリスレッド・カークランドさんの方へ向き直って言った。


「カークランドさん、そちらの試験も済んでいるなら一階にこのお嬢さんを連れて行って資格付与の手続きを行ってはくれまいか。

 儂は、まだ受験生がいるのでこの場を離れられん。」


 ヴァリスレッド・カークランドさんも頷きながら言った。


「承知した。

 念のため確認するが、薬師も合格ということで宜しいのだな?」


「ああ、これほど短時間で合格するとは思ってはいなかったが、技量の方は間違いない。

 不正も無かった。

 必要な署名は、下の職員に書類を持って来させれば、ここでする。」


 カークランドさんが大きく頷いて、私に向かって言った。


「私についてきなさい。

 資格付与のための手続きを下で行う。」



 それから1時間ほど手続きにかかりましたが、私は無事に三級薬師と三級錬金術師の資格を得ることができました。

 受付嬢のマヨルカさんがそっと耳打ちしてくれました。


「エリカさん、薬師も錬金術師も、あなたがこれまでの最年少記録を破りました。

 これはとても凄いことなんですよ。

 場合によっては王都から招請を受けることになるかもしれません。」


「え?

 いえ、あの・・・。

 私、そんなに有名にはなりたい訳ではありませんので、できればそっとしておいてほしいのですが・・・。」


「うーん、私共では如何ともしがたいですね。

 錬金術師や薬師の資格を付与した場合は、すべからく王都のギルド本部に報告され、そこから王宮にも然るべく報告されますので・・・。

 王都に在るギルド本部でも、仮に王宮などから招請でもかかれば拒否はできませんので。」


 アラ、アラ、ここへきて何とも物騒な話が飛び出て来ました。

 一般に王宮を含めて貴族社会などの権力階級というのは囲い込みの度が過ぎますからね。


 放置すれば良い様にこき使われる未来しか見えませんね。

 色々と事前に対策を練っておく必要がありそうです。


 まぁ、最終的に困った時にはトンずらしますけどね。

 前世でもそうでしたけれど、私は権力者の飼い犬になるつもりはありませんので。


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