第16話 お受験ですよ その一

 この世界に転生してから9日目、私は、今、錬金術・薬師ギルドに来ています。

 今日はお約束の錬金術と薬師の受験の日なんです。


 この街へ来た初日に受験申請を出したのが、もう8日も前の事。

 その間にも色々と予期せぬ出来事がありました。


 大部分は常識知らずの私がしでかしたなんですが・・・。

 仕方ないですよね。


 その都度一生懸命やった結果なんですから、今後はできる限り、リリーに相談しながらあまり目立たないように振舞おうとは思っているのですよ。

 錬金術・薬師ギルドの一階には張り紙がしてあり、試験会場は二階のようです。


 その二階に上がって行くと既に二名の受験者が控室の椅子に座っており、二人とも入室した私の方を振り向きます。

 控室の入り口近くにギルド職員が机の前に座っており、受験者確認の受付をしていました。


 私が名前を言い、冒険者ギルドの証明書を見せると、係の男性は頷き、中に入って椅子に座って待っているようにと指示してくれました。

 受験の開始時刻までにはまだ結構な時間があるはずです。


 日の出から1時間ほどは経ちましたが、ギルドは本来「二つ」の鐘以降に開きますけれど、受験日だけはその半刻前に開けられるようです。

 二つ目の鐘が鳴る前に受験場に入らねばなりませんが、その前に入って待機していることができることを受付のマヨルカ嬢が前回来た時に教えてくれていたのです。


 ということで、私は受験場に入って壁際の椅子に座って現在待機中です。

 受験場は縦横15m四方ぐらいの広間ですが、比較的大きなテーブルが縦に3列、横に6列ほど並んでいます。


 真ん中の縦列のテーブル上には薬草を含めて色々な素材が整理されて載っています。

 縦右列には多分錬金用の道具が色々と揃えられていますが、6つのテーブルに一揃えずつ載っている様なので、受験者一人について一つのテーブルが割り振られるのでしょう。


 縦左列のテーブルには、同様に薬師用の器材が揃っており、同じく受験者一人について一つのテーブルが割り当てられているのじゃないかと思います。

 道具は一応使い方もわかりますが、多分初級ポーションを造るのであれば、私は必要としませんね。


 錬金の方も課題が何かにも寄りますが、用意されている魔道具を使うよりも魔法で素材を直接加工した方が早いと思います。

 そんなことを考えている間に、一人、二人と受験者が受験場に入ってきて、少し離れた場所の椅子に順次座って行きます。


 受験生を改めて見た感じで、若い子は居ませんね。

 皆さん結構疲れた顔をしていて元気が無いので余計に年寄に見えます。


 こっそりと鑑定をかけたら、四人がほぼ30歳、一人だけが24歳で、全員男性です。

 適性で言うと、錬金術師が1名、薬師5名ですね。


 私以外に5人なのですけれど、一人だけ錬金術と薬師の両方に適性があるようです。

 但し、その所属を見ると、全員がどこやらの薬師工房に属していますから、おそらくは薬師を受験するのでしょうね。


 因みに皆さん薬師のレベルがLv.1で、+補正が2~3ですね。

 うーん、リリーに言わせると、「初心者に毛が生えた程度」なんだそうで、少なくとも+4以上無いと合格は難しいかもしれないと厳しいことを言ってましたね。


 私の場合は、薬師が錬金術に統合されていますので、Lv.10のMaxです。

 まぁ、他人ひとのことを心配しても仕方がないので放置します。


 十代とか若い方ならちょっとした応援をしてあげてもいいのですけれど、下手な手助けは本人のためにはならないでしょうし・・・。

 そんなことを考えて物思いにふけっていると時間になったようで、試験員が4名揃って受験場に入って来ました。


 うーん、4名というのは・・・、不正防止の監視員というところでしょうか。

 一旦、試験員の方達が私達受験生の前に並びました。


 こういう時は、多分私達受験生は座っていてはいけないだろうと思って立ち上がると、立ち上がったのは私だけで、試験員からはそのまま座っていて宜しいと言われちゃいました。

 前に並んだ四人の試験員のうち3人は白い袖なしのアオザイ若しくは貫頭衣のような衣装を身に着けており、今一人は紺色のマントを身に着け、所謂魔術師のような出で立ちなのです。


 白い衣装の一人が言いました。


「私は、今日の主任試験員を務める二級薬師のアルザック・フローデンスだ。

 他の三級薬師二人と共に、薬師を受験する者の作業確認に当たる。

 薬師を受験する以上承知していると思うが、受験生諸君には本日ここで初級ポーションのなみクラス以上を作ってもらう。

 造るのはMP、HPのいずれでも構わないが、用意してあるポーション瓶五本分の量をつくること。

 素材は中央テーブルに用意されているものを自由に使って宜しい。

 また、ポーション作成に当たり作業台として、受験生一人について左側に並ぶテーブルを一つ使って宜しい。

 テーブルの上の器材も自由に使って宜しいが、器材を破損した場合は状況により弁償してもらうこともあるので注意をするように。

 素材も器材もここにある者以外を使ってはならない。

 持ち込みは禁止されている。

 時間は、二つの鐘がなってから七つの鐘が鳴り終わるまでだ。

 原則として試験中の飲み食いも禁止される。

 念のため言っておくが、受験に際して不正を行ったものは、直ちに不合格とし、以後の受験資格が剝奪される。

 今回の試験に合格すれば三級薬師の資格を与える。

 次いで、錬金術師を受験する者については、カークランド氏から説明をお願いする。」


 アルザック・フローデンスさんの隣にいた黒っぽいマント姿の人物が口を開きました。


「私は二級錬金術師のヴァリスレッド・カークランドだ。

 錬金術師の受験をする者は一名と聞いているが・・・。

 中央のテーブルにある素材を使って、右手にある作業台と器材を使い、初級魔道具の並みクラス以上、若しくは、生活用品の中級クラス以上の物を造れば宜しい。

 素材、器材ともに外からの持ち込みは禁止されている。

 時間は薬師と同じく鐘二つから鐘七つが鳴り終わるまで。

 なお、薬師と錬金術の両方を受験する場合も制限時間は同じだから、二つの課題を時間内にこなせれば宜しい。

 今回の試験に合格すれば三級錬金術師の資格を与える。

 何か質問はあるかね?」


 その目は明らかに私に向けられていました。

 私は一応念のために質問をしました。


「素材は使わねば何もできないのですが、作業台上の器材については使わなくても構いませんか?」


「先ほども言ったように器材の持ち込みは許していない。

 それで課題をこなせると言うならば器材を使わずとも構わない。」


「はい、承知いたしました。

 ご丁寧な説明ありがとうございます。」


 アルザック・フローデンスさんが言った。


「間もなく二つ目の鐘が鳴るだろう。

 鐘が鳴り始めたなら立ち上がってそれぞれ作業にかかって宜しい。

 作業台は人数分あるから取り合いなどせずに、選びなさい。

 用意してある器材に優劣など無い。

 また、それぞれの作業台の前にある素材テーブルに全く同質の素材が載せられているから素材の面でも優劣はない。

 但し、素材についてはきちんと確認して使いなさい。」


 それから1分もしないうちに二つの時を告げる鐘が鳴り始めた。

 受験生は我先にと立ち上がり、作業台の確保のために素材テーブルに向かった。


 勿論五人とも左側通路に向かっている。

 私は、その様子を見ながら右側通路に向かいます。


 五人は座っていた場所から近い順に作業テーブルを決めたようだ。

 私はそれを確認して一番奥の素材テーブルに向かいました。


 一番奥が空いていたから、作業台は錬金術も薬師の方も一番奥を使うことにしたのです。

 まぁ、正直なところ、テーブル自体が不要かもしれないけれど・・・。


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 次回は1月6日で、以後三日おきに投稿します。




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