第15話 商業ギルド

 この世界に転生してから7日目、私は、今商業ギルドに来ています。

 今日は冒険者ギルドの方はお休みですね。


 ベント(前世ではビート?若しくはサトウダイコン?)を使って白砂糖を作り、それを一般に販売する際の制約などを確認するためです。

 砂糖は作れますけれど、勝手に売ると税金の問題とか種々の問題が発生しそうなんです。


 後々問題にならないように事前に確認しておくのが転ばぬ先の杖でしょうね。

 商業ギルドの受付嬢は、ハウリアさんというヒト族のお嬢さんですが、親切に色々教えてくれました。


 モノ作りを行って生産物を売るには、何らかの生産系ギルドに所属することが最初に必要なのだそうです。

 生産系ギルドとは、①鍛冶工房ギルド、②木工工房ギルド、③繊維工房ギルド、④食品工房ギルド、⑤錬金術・薬師ギルドのいずれかであって、それらのいずれにも含まれない新たな業種は、これら五つのギルドと商業ギルドが協議して所属先を決めることになっているのだそうです。


 因みに農産物の加工品は食品工房ギルドに属するのだそうで、ベント生産はこの食品工房ギルドになり、そこから派生する生産品も原則的に食品工房ギルドになるそうです。

 従って、私がベントから白砂糖を精製するならば、この食品工房ギルドに所属してそのノウハウを登録した上で、更に商業ギルドに行商販売登録を行えば、品物を販売することは可能だそうです。


 それぞれに登録費用は掛かりますし、商業ギルドなどは商売の規模により年会費が必要とされています。

 参考までに私が精製した白砂糖をサンプルとして見せたところ、商業ギルド中が大騒ぎになってしまいました。


 ギルドマスターを含めて幹部クラスが集まり、味を確かめた上で、是非にこの品を商業ギルドに卸して欲しいとお願いされてしまいました。

 恐らく宿で生産するならば、1日に4つのベントぐらいが適当でしょうか。


 ベントって大きいですからね。

 持ち運びにちょっと不便なんです。


 インベントリ持ちは秘匿しておきたいですから、自分の部屋に持ち込むのに大量のベントは流石に拙いでしょう。

 大きなものを大量に持ち込んだら、最終的に何処にどうやって処理したのかと問題になりますよね。


 ベント4個で精製できる砂糖は概ね1.2キロぐらい。

 精製した砂糖は、重量も容量もおそらく元のベントの十分の一以下になるはずです。


 こちらの世界の重量単位では600グラムほどで1ケルドと言いますので、1日の生産量は2ケルドぐらいでしょうか。

 これよりも多い砂糖生産を行うとしたなら、どこかに工房を構える必要がありますね。


 私の場合、魔法を駆使して砂糖を抽出しますので、左程広い作業場所は必要としないのですが、主としてベントの保管場所が必要になるんです。

 商業ギルドは1ケルドでも良いから是非にも納品して欲しいと懇願してきました。


 実際に商業ギルドで保管している砂糖というものを見せてもらいましたが、ちょっと黄色くなった蔗糖の感じでしょうか。

 これはきっと精製が不十分なのですね。


 南半球にあるベガルタ大陸産のサクレヒトと言う植物を煮出して抽出した糖分を精製したものだそうですが、海を越えて運んでくるので単価が非常に高いものなのだそうです。

 品質が悪いものでも1ケルド当たり大金貨1枚になるらしく、驚きの価格ですね。


 前世日本で上白糖は1キロで二、三百円だったはずですが、ここではおそらく170万円以上(もしかすると300万円超?)もの価値がある高額商品です。

 まぁ、江戸時代の日本では砂糖も非常に高額だったようですから、ここでも同じなのでしょう。


 結局、話し合いの結果、商業ギルドのサブマスが私に同伴して、食品工房ギルドに赴き、そこで食品加工業者として私が登録した上で、砂糖精製のレシピを登録、その上で商業ギルドとの卸契約も交わしました。

 商業ギルドとしてはカボック支部のみならず、どこの支部に納入しても差し支えないらしく、カボック支部から各支部には通報を為しておくそうです。


 当面、1ケルド当たり金貨2枚で納入することを取り決めました。

 当初、商業ギルドは1ケルド当たり金貨7枚という破格値を付けたのですが、余りに高すぎるので一般に普及しない可能性が高いことから私から申し出て金貨2枚に下方修正してもらいました。


 それでもおよそ600グラムで40万円相当ですよ。

 高すぎて一般の人は絶対に手が出ません。


 因みにギルマスに確認したなら知り合いの宿に直接卸す品は月に2ケルドまでならサービス価格で提供しても良いと言うお墨付きを貰いました。

 但し、モノの販売には税がかかるそうで、カボックの場合は2割の税がかかるようです。


 従って、1ケルドの砂糖は商業ギルドに金貨2枚で生産した分だけ売れますが、手元に残るのは1ケルド当たり金貨1枚と大銀貨6枚になりますね。

 この様子では砂糖だけの生産で大儲けができてしまいそうですが、需要と供給のバランスを見ながら1年ごとに商業ギルドへの卸価格を見直すことにしました。


 砂糖が一般に広がることで、糖尿病などの病気も心配になりますので、どこかで歯止めは必要ですよね。

 それにベガルタ大陸の生産者や商人を圧迫してもいけませんから価格設定はそれなりに気を遣わねばならないでしょう。


 仮にベガルタ大陸の国なり、仲介する商人なりが暴利を貪っているならば、価格破壊にも意味がありますよね。

 いずれにせよ当座の1年は様子見をしましょう。


 ベントも価値があるとわかれば今後売値が上がるかもしれませんしね。

 価格の改定は、適宜に状況により検討しなければなりません。


 まぁ、ベント2個で銀貨5枚にもなったら大変ですが、そうはならないと思います。

 商業ギルドとの契約は卸価格のみの取り決めで生産量を限定していません。


 仮にベントが高騰するようならば白砂糖の生産を抑制するつもりでいるのです。

 需要が無ければ買い占めも値段の高騰も起きないでしょう。


 仮に別の人がレシピ通りの製法で砂糖を精製するとすれば、結構な設備投資が必要になりますし、人件費や経費も必要です。

 私のように一人での操業生産は多分できないだろうと思うのです。


 この日二度市場に行って、ベントを8個購入しました。

 翌日は、朝から三度市場に行ってベントを12個購入、合計で20個のベントから白砂糖10ケルドを精製、商業ギルドに持ち込むと税金を差し引いて金貨16枚に化けました。


 今後週に一度程度は、ベント20個分の白砂糖を精製して定期的に納入しようと思っています。

 このために野菜農家の叔父さんに頼んで、毎日ベント4個を宿に運んでもらうようにお願いしています。


 価格はベント1個について配達料込みで銀貨1枚を払っています。

 叔父さんはホクホク顔でしたね。


 普段ならば大銅貨二枚か三枚程度で売っている品が銀貨一枚に化けるんですからこれほどの儲けは無い筈です。

 後日、食品工房ギルドに登録されたレシピを使って砂糖を精製しようとした業者が現れましたが、思っていたよりも製品の品質が悪く、売る際の値段はかなり叩かれて左程の儲けにならなかったようです。


 まぁ、それでも私の砂糖が1級品で、ベガルタ大陸からの蔗糖が三級品、専業の加工業者の品が二級品と言う格付けで販売は行われたようです。

 因みに登録されたレシピを使う以上、使用する業者はレシピ考案者に一定のレシピ使用料を払わねばなりません。


 食品工房ギルド及び商業ギルドでは、その金額が売値の2割と決められており、業者は更に2割の税金を支払う義務がありますから、売値の6割が手元に残るだけで左程の儲けにならないのです。

 そうは言いながらも大量生産すれば仮に5%の純利益でも大儲けにはなるはずなのですが、大量生産をしようとすると今度はベントの生産量に問題が生じるのです。


 農家もベントだけ生産しているわけではありませんから、急に需要が増えても対応できないのです。

 その後10年近くかかって、ベント生産と砂糖精製の調整がなされ、ベント由来の白砂糖はこの地域の特産になり、徐々に精製方法が大陸中に広がって行ったのは別の話です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る