第13話 ギルドの雰囲気が・・
ゴブリン討伐の翌日、ギルマスの言いつけですのでギルドに行きました。
何かちょっと雰囲気が変わってました。
最初来た時には明らかに好色そうな目つきをしていた者が多かったのに、今日は私の視線を避ける者が多いのです。
それに、何やらひそひそ話をしています。
生前、特に晩年は、寄る年波の所為か、かなり耳が遠くなっていましたけれど、転生した身体は凄く優秀なのです。
筋肉だけでなく聴力も視力も上がって、少々離れたところの内緒話なんて聞こえちゃうんですよ。
「おい、あれが、噂のキング殺しだよ。
登録して五日も経たねぇうちにキングゴブリンを
この間もちょっかい掛けようとしたボルグが
まぁ、赤鉄のボルグが多少酔っては居たにしても、アイツを手玉に取るくらいの女だ。
くれぐれも気をつけろ。
何せ、初心者講習会の実習で最初にゴブリンの集団に鉢合わせした際、参加していた子供三人のうち一人を背負い、二人は小脇に抱えて千レーベを走り切り、先導するミリエルさんを追い越して誰よりも早く東門に辿り着いた化け物だそうだ。
下手に手を出したら、金玉蹴り上げられっぞ。」
うーん、大部分は事実ではあるけれど、私って怖がられているの?
ちゃんと見てよぉ。
可愛い女の子でしょう?
残念な噂が飛び交う中ですが、受付に顔を出すと、ミリエルさんが待ち構えていました。
「昨日はごくろうさま。
冒険者カードを出してネ。」
私が、冒険者カードを渡すと、カードのデータを魔道具で読み取り、新たなカードに転記したようです。
そうして渡してくれたのが、
つまりは赤っぽい銅片から年季の入った緑の銅片に変わったわけです。
渡しながら、ミリエルさんが言いました。
「ハイ、これであなたも初心者から一人前の冒険者になりました。
一応、このランクに見合った依頼は受けられるわよ。」
「え、あのぉ・・・。
私って、まだ、初心者研修を終えていないですけれど・・・。」
「あのね、冒険者ってのは、実力主義なの。
貴方も座学で一応の基礎講習は終わってる。
後は実技だけなんだけど、上級者に伍してハイクラスのゴブリンを殲滅できる力を持った者が初心者なんて言っていたら、このギルド支部が馬鹿にされるわ。
本当は、上級にまで上げてもいいのだけど、流石に登録してからの期間が短すぎるの。
貴方の場合は、今後何もしなくても一月に一度は昇格するから、そのつもりでいてネ。
まぁ、中級に上がるときには試験があるけれど、貴方の力量なら多分問題は無いでしょうね。」
「えーと、中級に上がるときの試験って、確か、盗賊退治でしたっけ?」
「そうよ。
対人戦闘もこなせ、同時に犯罪者を殺せるかどうかの試験なの。
冒険者として生きてゆく上で避けては通れないから、ちゃんと試練には対峙なさい。」
うーん、私の前世の仕事は人を助けることであって殺すことではないのですけれど・・・。
これは何とも拷問に等しい試練ですよね。
でもまぁ、死んだマリスのように目の前で正に殺されかけている無辜の人が居たなら、その命を助けるために緊急避難として盗賊の命を奪うこともせざるを得ないのでしょうね。
その場面になったら考えるより先に身体が動くかもしれません。
後は気の持ち様の問題だと思うのです。
◇◇◇◇
いずれにしろ冒険者として初めてのソロでの依頼を受けることにしました。
これから錬金術や薬師として活動するためにも素材採取や薬草採集は大事なことなのです。
無論、冒険者ギルドに依頼したり、関連するギルドで購入することはできますが、経済的には自分で幾分なりとも採取した方が稼ぎは大きい筈です。
何せ手持ちの金は、200万から400万だったものが半分以下に目減りしていますからね。
錬金術・薬師ギルドに登録するまでは、冒険者稼業が唯一の
青銅クラスの私に許されている依頼はいくつかありますけれど、薬草採取が一番簡単そうですね。
次いで
初級者レベルでも十分討伐可能な魔物ですが稀に上位種の変異体が出るそうで、こちらは初級者では対応できないと言われているようです。
スライムは常設依頼ですが、色の薄いものほど安いので、これ狙いで出かける冒険者はあまり居ません。
色の濃いスライムの魔石はそれなりに高いのですが、討伐の危険度に比べると安いために冒険者からは嫌われています。
草原狼とかゴブリンの魔石も常設の採取素材には指定されていますが、群れを作りやすいので白銅以上でなければ推奨できないようです。
まぁ、ギルドランクに関わらず、採取ができたなら常設依頼なのでギルドで買い取りはしてくれるようですよ。
後は
但し、初級者でも罠などを仕掛けて討伐することは可能で、大鷹蜂の尾っぽの針が素材となるようです。
高額なのは、針と言うより敵に針を刺した時に注入する麻痺毒でしょうか?
従って、採取は、尾っぽの基部ごと
大鷹蜂は大きいんですよ。
全長は60センチを超えるぐらいあるそうです。
そんなのがぶんぶんと高速で飛び回れば確かに対応が難しいですよね。
これが蜂の巣の殲滅ともなると中級-2クラス以上を揃えたパーティでかろうじて制圧できるかどうかと言うところだそうです。
因みに大鷹蜂は花の蜜を餌にしているわけではありません。
彼らの食糧は肉なのです。
従って人が襲われることもままあるのです。
一般的には自分の身体よりも大きな動物には敵対しないそうですが、自分が襲われた場合は攻撃しますし、冒険者で逆に捕食された例もあるそうです。
そうした場合、人肉の味を覚えた大鷹蜂は人間を襲うようになるために、殺人蜂として緊急の討伐依頼がかけられます。
放置すると、場合により人肉に仲間が集まる可能性があり、それが高じると集団で集落を襲うかもしれないからです。
二十年ほど前に、大鷹蜂の群れの襲撃で村が一つ滅び、殺人蜂の集団を殲滅するために侯爵領の騎士団が出動し、かなりの犠牲を払いながら殲滅したことが有ったそうです。
まぁ、そのような話は注意事項として頭の片隅に置いておきましょう。
今日のところはハーベディロンという初級HPポーション用の薬草採取と草原角兎の討伐を目標にします。
どちらも、西側に開けている草原が刈場?狩場?になるそうです。
私が初級HPポーションを作った際には、アキルネ草とシレビン草という二種類が必要だったのですが、ハーベディロンと言う薬草は、この一種類と僅かな食塩で初級HPポーションが造れます。
効果はどちらかと言うとハーベディロンの方が弱めなのですが、初級ポーションの並クラスを作るには便利なのです。
顔馴染みとなったミリエルさんにハーベディロン採取の依頼票を持ち込み、依頼受付を済ませてから西門に向かいました。
西門につながる街道を半時ほど歩き、街道筋から50レーベ程離れるとハーベディロンを見つけることができました。
鑑定を掛けながらの道行きですので、他にも有用そうな薬草は採取して行きますけれど、今日の主目的はハーベディロンですので、それをターゲットに探索範囲を広げて行くと、ありましたねぇ。
私の3Dマップに、多数の表示が出ました。
その中でも群生地を狙って移動し、午前中に三つの群生地を廻ってハーベディロン200把ほどを採取しました。
群生地を狙ったのは枯渇を避けるためで、群生地でも三分の一程度しか採取はしないのです。
そうすれば次の機会に採取できる可能性もありますからね。
その途中に十把程度の他の薬草があれば二把程度を採取しています。
単独で生育している薬草は採りません。
こうしてハーベディロン以外にも6種類ほどの薬草を採取しましたが、これはギルドには納品しません。
自分で試験的に使うためのモノです。
休憩しながら昼食(屋台で買った串焼きと亜空間で自作した野菜炒め)を食べていると、数匹の魔物の気配を感知しました。
でも300レーベ程も離れていますので取り敢えずの危険性は低いです。
万が一、これから急速に接近してくるようならば討伐も考えなければなりません。
食事を終えて、仮に出会うことが有れば討伐目的にしようと思っていた草原角兎ですが、今のところ出会っていませんので、次回廻しですね。
そもそもが常時依頼ですので次回廻しにしても問題がありませんし、魔物であったにしても命を奪うことについては未だに若干の抵抗はあるのです。
昼食を終えて、草原の様子見をしながらぶらぶら西門方向へと帰路につきました。
でも、残念ながら、予定外のことが起きました。
500レーベ程北北西方向から魔物の群れが近づいてきたのです。
マップで見ると二つの薄い緑色の表示を十数個の赤い表示が追いかけているように見えます。
薄い緑色の表示は多分味方に該当するものだと思うのですが、移動速度が速いので人とは思われません。
或いは獣人族なのでしょうか?
リリーに聞いてみても、よくわからないという返事でした。
Unknownと恐らくは魔物の群れが近づいているわけですが、さて私は逃げるべきか否かですが、・・・。
迷っている間にもう一つの問題が生じました。
私から200レーベ程北西方向に明らかに冒険者と思われる四人が存在するのです。
そうしてこの冒険者チームと魔物の群れはこのままでは数分後には遭遇してしまいます。
まるで薄緑色の表示がトレインしているような状態で、この冒険者チームが強ければよいのですが、リリー曰く、仮に群れが草原狼ならば中級以上のパーティでなければ撃退は難しいようです。
ただでさえ、逃げようかどうしようかと迷っていたのに、別の命の危機が生じるとなると別です。
余り目立ちたくはありませんが、可能ならば助けてやらねばなりません。
私は冒険者チームと思われる方向に向かって走り出しました。
私が50レーベ先に確認した時は、4人組のパーティがけなげにも草原狼の群れに立ち向かおうとしている直前でした。
草原狼は足が速いので遭遇してから逃げるのは悪手なのです。
四人組のパーティは、まだ若く多分初級クラスで赤銅か青銅ぐらいでしょう。
ですから彼らとてこれだけの草原狼に立ち向かうのは無謀とは承知している筈です。
しかしながら、生き延びるためには戦わざるを得ないのです。
何れにしろ、時間を置いては助けられる者も助けられなくなります。
私はウォーター・バレットを多重展開し、草原狼めがけて一斉に放ちました。
当然のことながら脳内の3Dマップと連動させていますので、草原狼の多少の回避行動は、バレットの飛翔方向を変えることで対応させていますので、百発百中です。
「「「「ギャン、ギャン」」」」と言う悲鳴と共にあっという間に、草原狼の群れは一掃されました。
重傷を負っても未だ死に切れていないものが約半数いましたので、速やかにとどめを刺して回りました。
呆然としている冒険者四人に向かって言いました。
「大丈夫?
貴方方では対応できないかなと思って手を出したのだけれど、余計なことだったかしら?」
リーダーらしき子が言いました。
「いや、とんでもない。
赤銅の俺らでは草原狼の群れにはとても太刀打ちできないよ。
正直言って助かった。
傍にいた三人が揃って頷いていた。
よく見ると、全員が未だに震えている。
「そう、なら、良かった。
普通なら、この辺までは草原狼の群れは来ないらしいけれど例外もある。
今回は、獲物を追いかけてここまで進出してきたみたい。
こういうこともあるから用心してね。
ここは、草原狼の血の匂いが拡散しているから、出来れば早く移動しなさい。
私は、後処理をしてから帰るわ。」
「あ、それなら俺たちも手伝うけど・・・。」
私は首を振って否定した。
「魔物の血はより強い魔物を呼び寄せる可能性があるって、研修で教えて貰ったでしょう。
申し出はありがたいけれど、貴方方が居ると万が一の場合、逆に足手まといになりかねないかも。
だから早めにここから離れて欲しいの。」
そこまで言われると、彼らも引かざるを得ない。
「わかった。
俺たちは引き上げる。
俺たちは、カボットの
できれば
「私は、エリカよ。
貴方達はカボットの旋風ね。
覚えておくわ。」
彼らは、駆け足で西門の方角へ向かって行った。
3Dマップで見る限り途中に危険はない。
さて、この狼をどうしようか?
討伐証拠の部位は牙なんだけれど、この毛皮もお金になるのよね。
流石に二十匹は担いで行けないだろうし・・・。
色々と考えた挙句に、死体を凍らせるほど冷却し、錬金術で
凍らせてしまえば血の臭いは消えますし、大八車の材料は、林の中で魔法の練習中に切り倒してしまった樹木、それに地下にある鉱石です。
正直なところ詳細な構造は覚えていませんでしたが、ボールベアリングで軸受けを造り、板バネやいくつかの支柱を添えることで、一応それなりのモノができました。
獲物をインベントリに入れれば簡単なのだけれど、インベントリ持ちと言うのはできるだけ隠しておきたいのです。
リリーから聞いたマジックバックがあれば、いずれ調達したいと考えているのです。
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2022年も大晦日です。
来年は良いことがありますように。
By @Sakura-shougen
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