第12話 ゴブリン討伐

 本日より正月3日までは連荘で投稿する予定です。

 どうぞお楽しみに。

      By @Sakura-shougen


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 四の時、予定していた人達が東門に集まり終え、ゴブリン討伐隊は出発しました。

 全員をいくつかのチームに分けての出発ですが、パーティを組んでいる者は単独若しくは二つで一チームを、ソロは特別のチーム編成なのですが、私の場合は索敵要員なので特別に後衛部隊に組入れられました。


 当該後衛部隊のチームリーダーは、ケンドリックさんと言う中年のオジさんですね。

 取り敢えずは、東の街道筋に向かうということで特段の当てがあるわけではなさそうです。


 出発直後から索敵を始めると、やっぱり昨日より広範囲で索敵ができることがわかりました。

 多分500mから600mの間ぐらいでしょうか、比較するモノが無いのではっきりとはわかりません。


 でも魔物の反応はあってもゴブリンの反応はありません。

 歩き始めて半刻ほど、索敵範囲の端っこでゴブリンらしきモノが引っかかりました。


 チームリーダーのケンドリックさんに言うと、全体が立ち止まり、その方向に向かうことになりました。

 で、道から外れて間もなく間違いなくゴブリンと思われる反応がありました。


 北北東方向300レーベ足らずに百匹以上の密集地があります。

 その旨をチームリーダーとギルマスに言いました。


「300レーベ先って、随分と先じゃぁねぇか。

 間違いないのか?」


「はい、昨日の件で随分と索敵範囲が広がったようです。

 北や北東方向にも他の魔物の反応はありますけれど、そちらはゴブリンではないのは断言できます。」


「よし、頼りになるのが嬢ちゃんの情報しかないんだから、今はそれに頼ろう。

 敵は近い。

 できるだけ音は立てないで動け。」


 ギルマスを先頭に慎重に進むのですが、最寄のゴブリンまで100レーベを切った時点で、木立の切れ間から切り立った崖の様なモノが見えました。

 そうしてゴブリン集団は明らかにその崖の中に居るようです。


 地形の状況からして洞窟か何かだろうと思うのです

 それらの集団からやや離れて三匹ほどがいるのです。


 或いは見張りかもしれません。

 ギルマスとチームリーダーにその旨を伝え、正確な位置を伝えました。


 すぐに三人の弓を持った冒険者がギルマスと共に匍匐ほふく前進。

 目標を確認したのか木陰から弓で三匹のゴブリンを射殺したようです。


 ついでギルマスの合図で、全員が崖の方に静かに近づきます。

 確かに大きな割れ目の様な洞窟がありました。


 入口から大きく左方向にカーブしており、奥まった内部は見えません。

 ギルマスが私に尋ねました。


「この洞窟の奥がどこかにつながっているかどうかわかるか?」


 空間認識は試したことがないのですけれど、索敵と同じように試してみるとできちゃいました。

 洞窟は大きく湾曲しながら概ね200レーベ程の奥行きがあり、その先は水が溜まった貯水池のようになっていて行き止まりになっていました。


 何なんでしょう、この3Dセンサー。

 見えない位置にある水溜りがわかってしまうのですよ。


 私がその状況を伝えると、ギルマスが言いました。


「よぉし、ならば煙で燻し出してやろうじゃないか。

 入口に火を焚いて出られないようにする一方で生木を放り込んで煙を充満させるんだ。

 堪らなくなって出てきたやつから片付ける。

 ジェネラルかキングが居れば、より統率された動きをしてくるから要注意だ。」


 ギルマスの指示により一斉に皆が動き出しました。

 私も近くにあった枯れ木を拾い、煙の出そうな生木をたくさん切り出して準備を手伝いました。


 洞窟に少し入り込んだところに乾いた木を大量に置き、それに火がつけられました。

 すぐに盛大に炎が上がるようになってから、順次生木が放り込まれ大量の煙が出始めます。


 近くに寄るだけで凄い熱気と煙ですから、中にいるゴブリンはいずれ堪らなくなるだろうと思います。

 すぐには動きは無いけれど、念のため洞窟の内外の索敵は続けていました。


 四半時もしないうちに効果が現れました。

 奥まったところで固まっていたゴブリンどもがわらわらと火の近くに寄ってきたのです。


 そ奴らが、皆皮袋に水を携えてきて、盛んに放水しているようなのですが、火勢に比べて明らかに水量が少ないようです。

 一方でこちらは燃えそうな薪をさらに追加して火勢を強めており、出てきたゴブリンは弓で狙い撃ちにしています。


 そのうちに数十体もの屍ができると、今度はゴブリンたちがその屍を盾にして前に進んできました。

 そうして火の上に仲間を放り投げて行くのです。


 ある意味でえぐいやり方ですが、効果的ですね。

 生身の身体はゴブリンであっても燃えにくいのです。


 その部分の火勢が弱まってくると、今度はゴブリンどもがその遺体を足場に外へと突撃してきました。

 たちまちのうちに焚火の前面が修羅場に変わりました。


 焚火の前に出てきたゴブリンどもは50匹ほど。

 ギルマス率いる冒険者は総勢で30名強。


 通常ならば負けは無いのですが、何事にも絶対はありません。

 彼らの背後にガタイの大きなゴブリンが三体、そうしてその取り巻きが出てきたのです。


 ゴブリンソルジャー10匹、ゴブリンアーチャー6匹、ゴブリンメイジ3匹を引き連れたゴブリンキングにジェネラル二匹です。


 この22匹の集団は強いです。

 ソルジャー10匹の集団だけでも、中級者5名では対応できないかもしれません。


 厄介なのは、アーチャーが弓の名手だし、メイジは魔法を使うことです。

 ジェネラルは、最低限上級者でなければ対応できないし、キングともなれば上級者が複数で当たらねばなりません。


 私はすぐに鑑定結果をギルマスに伝えました。

 冒険者のレンジャーが、メイジとアーチャーを弓で狙うもメイジの魔法で阻止されてしまいました。


 シールドの様なもので、矢が弾かれているのです。

 これはちょっとこっちが危ないかもしれないですね。


 できるだけ手を出すまいかとは思っていたのですけれど、こうなれば止むを得ないでしょう。

 先ずはショットガンもどきで試してみましょう。


 私のすぐ脇にあった直径一メートルぐらいの大岩を宙に浮かせ、1センチ角ぐらいに細分化しました。

 それを空間魔法と圧縮空気を併用して前方に勢いよく打ち出すのです。


 目標はこちら側から見ると未だ焚火の向こう側にいる二十匹強のゴブリン集団。

 私が無詠唱でショットガン擬きを発射すると、無数にも思える散弾が勢いよくキングを含む集団に襲い掛かって行きました。


 目標のゴブリンのほぼ全てが岩礫を受け、中でもソルジャー、メイジ、アーチャーがほぼ壊滅状態になったようです。

 未だ死んでは居なくてもほぼ戦闘力は無くなったと見て良い程の被害を受けているように思います。


 但し、ジェネラルとキングは流石ですね。

 傷だらけになりながらも、咆哮しつつ、凄い勢いで焚火の上を飛び越えてきました。


 そうして戦っていた冒険者たちを蹂躙し始めたのです。

 尤も、それまでに先陣を切っていた普通のゴブリンのほとんどは壊滅していました。


 キングたちの参戦で、すぐにギルマスの指示が出され、中級者以下の冒険者を戦線から引かせたのですが、居合わせている上級者は三名のみ。

 上級者三名で戦い始めたものの、死に物狂いで暴れるジェネラル二体とキングの対応は少々キツイようで押されています。


 止む無くここでも応援をせざるを得ませんでした。

 アイスランスを6本空中に出現させ、それを三体に向けて撃ち出したのです。


 ジェネラル一体は、頭部と胸部にまともにアイスランスを受けて倒れ伏し、動かなくなりました。

 もう一匹のジェネラルは、下腹部と胸部をアイスランスに貫かれ、両ひざをついたところを上級者の大剣で首を撥ねられました。


 キングは、胸部に二発のアイスランスを受けながら、再度咆哮し、相手をしていたギルマスの剣を跳ね返すと、私の方へと向かって来ました。

 ありゃ、まぁ。これは困ったことになったけれど、逃げる?


 いや、傍の冒険者が私を庇おうとしているから、このまま放置はできないよね。

 やむを得ませんから私も剣を抜いて、キングに向かって突進しました。


 キングの横薙ぎの剣を見切ってすれすれでかわしつつ、すれ違いざまに薙いだ私の剣は、一撃でぶっといキングの首を綺麗にねていました。

 そうして唖然とした顔のギルマスが私の目の前に居ました。


 私は苦笑いしながら言いました。


「ゴブリン退治、ほぼ終わりましたね。

 洞窟の中にゴブリンが後8匹いますけれど、多分、メスと子供じゃないかと思います。

 あれも残しては拙いのでしょう?」


 ギルマスは、何だか声を抑えながら吐き出すように言いました。


「ああ、処分はする。

 そして、お前には、後で話がある。

 待っていろ。」


 そう言ってギルマスは上級者二人を連れて洞窟内に入って行きました。

 それから左程の時間を置かずに戻ってきました。


「掃討は済んだ。

 死体を集めて魔石を取り出せ、証拠の耳は・・・、要らんな。

 俺が証人になる。

 魔石を取った死体は、穴の中に集めて火をつける。

 終わったら穴埋めだ。

 全員でかかるぞ。」


 それから夕刻までかかってゴブリンの後片付けを終えた私たちは、結構な負傷者は出たものの無事に東門へと戻って来ました。

 時間外ではあったけれど、東門は凱旋してきた私たちのために開けてくれたのです。


 で、ようやく解放されるかと思っていたら、ギルマスにつかまって問答無用で執務室に連れて行かれました。

 私は、何も悪い事はしていないと思うのですが、周囲を五人ものいかつい男とミリエルさんが居て、私をにらんでいるのです。


「さて、さっきの掃討戦のことだが、魔法を使ったのはお前か?」


 嘘をつくわけには行きませんし、とぼけるのもできませんよねぇ。

 何せ、皆さん要所、要所で見てらっしゃったから


「えーと、えーと、・・・。

 はい、そうですね。

 ちょっとだけ使いました。」


 ここでギルマスが切れたように怒鳴りました。


「ちょっとだけーっ?

 そんな訳ねぇだろうが。

 何かわからんが大岩が砕けてばらまかれたと思えば、二十匹近くも居たメイジ、アーチャー、ソルジャーが一瞬でほぼ壊滅だぞ。

 それにジェネラルやキングだって結構な深手を負っていた。

一体あれは何なんだ?」


 ギルマスさん、ただでさえ怖い顔なんですから、そんなに睨まないでくださいよ。

 普通の女の子なら怒鳴り声だけで、お漏らしてしまうかもしれませんよ。


 残念ながら見かけに関わらず、私の中身はトウの立った老女だった所為で、あんまり脅しは効きませんけれどね。


「えー、そうですねぇ。

 どういう説明をすればいいのかわかりませんが。

 つぶてを一つ一つ投げていたのでは相手に避けられてしまいますよね。

 で、避けられないように礫を一度にたくさん相手に向かって撃ち出すんです。

 そうしたら相手のどこかに当たってダメージを与えられます。

 急所に当たれば致命傷にもなり得ますよね。

 そういう魔法です。」


「そういう魔法って、・・・。

 お前なぁ。

 そもそもが、小石の礫じゃなくって、傍にあった大石だろうが。

 なんで、あれがたくさんの礫になっちまったんだ?

 それにメイジが防御魔法を使っていたのに何で礫が貫通できるんだ?」


 魔法で小さく切りましたとか防御魔法をキャンセルしたなんて説明したら、またまたギルマスが切れそうです。

 だからここは説明抜きで誤魔化します。


「えー、魔法でそうなるようにしたからですね。

 それしか言いようがありません。」


「ムーっ、・・・。

 他にも、俺やヘンドリックやヴァイラスが苦戦しているところに何やら氷でできた槍の様なものをお前がキングとジェネラル二体にぶち込んだだろう。

 あれは一体何なんだ?」


 ははぁ、ギルマス以外の上級者のお二人は、ヘンドリックさんとヴァイラスさんですね。

 どっちがどっちか、現時点では顔と名前が一致しませんが覚えておくことにいたしましょう。


「何だと言われても、アイスランスと言う魔法です。」


「アイスランス?

 聞いたことも無いが、そういう魔法があるのか?」


「そう思いますけれど?

 無いんですか?」


「俺に訊くなぁっ‼

 俺は魔法使いじゃねぇ。

 それに、普通、ああ云う大技は一発だけしか撃てねぇのじゃないのか?」


「え?

 それもわかりません。

 そんな決まりがあるんですか?」


「魔法に決まりがあるかどうかは俺は知らん。

 だが俺が今まで見たことがあるのは、ファイアー・ランスって、どでかい火の槍が一発だけだったな。

 一発撃って、その魔法使いはブッ倒れちまったから、二発目がそもそも撃てるのかどうかすらわかりゃしねぇ。

 それを、お前は全部で6本も、しかも同時に撃ちやがって、平然としてやがるし、それが全部命中したこともさりながら、キングがお前を強敵と見做して向かって行ったら、・・・。

 お前、ただの一振りでキングの首を刈りやがったじゃねぇか。

 そんなことが数日前に登録したばかりの初心者ヒヨッコにできて堪るかぁ‼。

 お前どこかの超上級者じゃねえのか?」


「いえ、本当に冒険者登録は初めてですよ。

 そもそもゴブリン狩りだって初めてですし・・・。」


「ムムム、俺が何を言っても動揺すらしやがらねぇ。

 お前、本当に何者だ。

 領主様に報告しなけりゃならねぇんだが、お前のことをどう報告していいのかわからん。

 全く頭が痛いよ。」


「あの、無理して私のことは報告しなくても、いいのじゃないでしょうか。

 たまたま索敵担当で潜り込んだ単なる初心者の一人ですし・・・。」


「馬鹿垂れぇっ!!

 お前がいなかったら下手すりゃ全滅もありえたんだぞぉっ。

 俺もジェネラルの存在はあり得るとは思っていたが、流石にキングにジェネラル二匹とは予想していなかった。

 あの勢力にまともにぶつかっていたら間違いなく俺たちの負けだ。

 たまたま相手が洞窟内で油断していたところを急襲できたから序盤はうまくいったんだ。

 だが、アーチャーとメイジ、それにソルジャーがあの数で無傷で残っていたら、上級者以外はまず全滅だし、俺たち三人もジェネラル以上が三匹じゃ歯が立たねぇとこだった。

 現実にかなりの怪我を負ったジェネラルやキングでさえ俺たちは押されていたからな。

 本来ならジェネラル一匹に上級者二名か三名が順当なとこなんだよ。

 全く、今回の討伐は俺らが前座であって、殆どお前一人で仕上げたようなもんだぞ。」


 それからも、ねちねちとギルマスの愚痴の様な説教が続きましたが、こういう時は馬耳東風ばじとうふう、適当に口裏を合わせて嵐をひたすら避けるのが一番です。

 これ老人の知恵。


 私にとっては錬金術・薬師ギルドの試験が無事受けられそうなことが一番なのです。

 でもようやく解放されて帰るという間際に、「青銅BBに上げるから明日にはカード持って出て来い。」と言われちゃいました。


 別に急いで冒険者ランクを上げなくってもいいのに・・・。

 本音を言うと、身分証明だけのために冒険者ギルドに登録したのであって、私は元医者ですから冒険者をメインのジョブにするつもりはないんですよ。


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