第9話 お料理?と研修

 お昼の時間は少々過ぎているのですが、宿に戻って早速実験です。

 女将さんにお願いして厨房を少しの間だけお借りすることにしました。


 かまどや一部の調理器具を使うので大銀貨一枚を使用料として払いました。

 厨房は夕食の準備までにはまだ時間もあり空いている状態でしたから貸していただけたのですが、女将さんも流石に大銀貨1枚の賃料は予想していなかったようで、ホクホク顔でした。


 で、早速色々やってみたのですが最初に砂糖の抽出です。

 ビートと思しきものの皮をむき、魔法で粉砕です。


 それから魔法で若干加熱し、糖分のみを抽出、余剰の廃棄物は通常飼料に使うこともできるので、取り敢えずは自作のかめ(鉄分を多く含んだ素焼き粘土にうわぐすりを掛けた常滑焼擬きです。)に収めてインベントリに保管です。

 私の場合、普通の粘土に鉄分を分子的に混ぜ合わせ、魔法で加熱して素焼きにし、釉をかけて再度焼結させるので、錬金術では意外と簡単に陶器はできちゃうのです。


 釉はガラス質ですからね、瓶を作るのと同様に合成できちゃいます。

 環境を守るためにも、できるだけ廃棄物は少なくして再利用しなければいけませんよね。


 3キロぐらいの重量のビートからとれた砂糖は多分300グラムぐらいでしょうか。

 コップで二杯分に足りません。


 本来のビートの糖分量から言うとこっちのベントはちょっと少なめですが、近代のビートは品種改良で糖分が増えていると聞いたことが有ります。

 原種ならばこの程度の糖分なのかもしれません。


 でも不純物の無い真っ白な砂糖ができました。

 これは早速ガラス瓶に保管です。


 次いで、香辛料の類を同じく魔法で粉砕し、粉状にしてガラス瓶に保管です。

 一応現地語での名前をガラス瓶の上から書いておきました。


 この世界で香辛料を料理に使わないのはどうしてなんでしょうねぇ?

 まぁ、肉の保存用として使っているのは中世でも一緒でしたけれど・・・。


 普通のお水を使って、鳥(骨付き肉のガラの部分)のダシと、昆布のダシを取ってみました。

 乾物屋さんに有ったお塩は日本に比べると結構高いモノでしたね。


 真っ白ではないので、多分岩塩だと思いますが、屋台に海のモノは昆布ぐらいしかなかったので、きっとここから海までは遠いのでしょう。

 海水から塩が取れるともう少し安いような気がするのですがどうなんでしょうね?


 鳥ガラのダシにトマトと鶏肉を入れて、塩、砂糖、香辛料各少量を入れてスープにしてみました。

 一方で、昆布だしの方には、カボチャを入れて煮込みます。


 単なるかぼちゃの煮物ですが若干の塩と砂糖を入れるだけで美味しく出来上がったはずです。

 きゅうりは塩もみして、浅漬け擬きです。


 30分ほどで私の昼食おひるが出来上がり、結構な量が有ったので、女将さんとコックをしている旦那さん、それにコーデリアも誘って試食会です。

 

 三人とも美味しいと言ってくれましたので大成功ですね。

 旦那さんが美味しさの秘密を知りたがったので、昆布だしと鶏ガラでダシを取る方法を教えました。

 

 旦那さん、それを聞いて早速市場に出かけて、コンダナ昆布と鶏ガラを仕入れて来たようです。

 私が気づかなかっただけで、市場には鶏ガラを売っている別の店があったようです。


 何でもペットに与える飼料として鶏ガラをミキサーなどで粉砕したものが使われるのだそうで、これまでヒト様の食糧としては扱われていなかったようですね。

 私が料理に使ったもので砂糖だけは、入手も作るのも難しいので、私が保管している分の半分ほどを分けてあげました。


 また別の日にでもビートベントを仕入れて砂糖を作れば済むことですし、逆に旦那さんと女将さんが賃料の大銀貨1枚を返してきて、今後砂糖を宿に卸してほしいと頼まれてしまいました。

 これは商業ギルド若しくは錬金術・薬師ギルド辺りにそうした自作の品を卸す際の制約などを確認しておかなければならないようです。


 無償で渡す程度なら問題ないと思うのですが、売るとなると商売になりますからね。

 今日の砂糖の試作に要した時間は精々10分ほどじゃなかったかと思います。


 多分、量が増えてもあまり時間はかからないような気がしますね。

 因みにその翌日の夕食から美味しいスープと野菜の煮込みが宿で出るようになりました。

 

 ダシづくりは魔法を使わないと結構手間暇がかかりますものね。

 でもそれさえいとわなければ美味しい食事を作ることができるんです。


 ◇◇◇◇

 

 翌日、二つ目の鐘の鳴る少し前に合わせて、私は冒険者ギルドの二階にある研修室に入りました。

 実はリリーが正確な時計代わりをしてくれるので、不正確な教会の鐘よりも余程当てになるのです。


 ほとんどのギルドが二つ目の鐘から始業とするのに、冒険者ギルドだけは、一つ目の鐘から一部の業務を始めており、七つ目の鐘で一応の終了をするようですが、最後に駆け込みがあったりしてギルド自体のお仕事は七つ目の鐘が鳴ってももう少し続くようです。

 いずれにせよ朝一番のクエスト受注に際しては、大勢の冒険者が集まるそうなのですが、二つ目の鐘の際には既に朝の喧噪は収まっていました。


 研修室には私と同じぐらいかそれよりも若い年齢の者が十数名ほど集まっていました。

 どうみても小学生ぐらいの子も三人ほどいるのですが、そんな子でも冒険者をできるのでしょうか?


 まぁ、ギルドの方針に内情を知らぬ者が口を挟む余地は無いですよね。

 前世ならば年少者の労働制限に引っかかる問題ではありますヨネ。


 日本では小学生は勿論、中学生でも就労には結構厳しい制限があったのです。

 しかしながら開発途上国ではそんな余裕は無いので、10歳以下の子供ですら家族のために働いているケースが多々あります。


 産業革命真っ盛りの時代のイギリスでは、炭鉱労働者として体格の小さい少年が働かされていたことはとても有名な話です。

 この世界も中世と言うある意味開発途上の世界ですから、年少の者が働く環境が有ってもおかしくはないのです。


 でも本音を言えば、こんな子供たちが危険な場所に行くのはとても賛成できないですよね。

 間もなく講師役の人が入室して研修が始まりました。


 座学は基本的にギルドのルールの説明と注意事項がほとんどでした。

 例えばギルドのボードに張り出されているクエスト受注のやり方、成功或いは不成功の場合のギルド内での取り扱いなどです。


 やってはいけないことの説明も当然にありました。

 例えば、「トレイン」といって獲物を引き付けて他の冒険者に擦り付ける行為、他の冒険者を害して獲物を奪う行為などです。


 仮にそうした禁止事項に反した場合は、街の門を通過する際に触れる魔水晶が不活性となって罪を犯したものであることを周囲に知らせる可能性があるそうで、そうした者は門衛に捕らえられ、ギルド資格、武器、金子を取り上げられた上で、街から放り出されることになっているようです。

 無論、そうした者は他の町への出入りも当然の様に禁止されます。


 一体どうやってその罪状を魔水晶が把握できるのかが不思議ですが、まぁ、そうしたことも含めてファンタジーな世界だと割り切るしかありません。

 何せ、ガイド役のリリーでさえそのシステムの詳細は知りませんでしたから・・・。


 世の中には知らなくても良いことが多々あると言うことでしょうか。

 午前中いっぱいを使っての研修ですが、私はともかく15歳以上の新人冒険者は殆どが知っているのかもしれないのですけれど、講師の話を結構おざなりに聞いている人が多かったですネ。


 獲物の解体や素材の集め方など買い取り額に影響するような大事な話なんですが、居眠りをしている者も居ましたね。

 それに比べておチビちゃんたちはしっかりと聞いていました。


 子供はまじめですね。そのまますくすくとまっすぐに育ってほしいものです。

 午後からは半刻(1時間)ほどの休憩を挟んで、実地訓練のために西門の外に出るようです。


 休憩後にギルド前に再び集合してそこから出発のようです。

 市場のある広場に行って、お昼代わりに串焼き肉と少々のお野菜を買い求め、お野菜は工夫して亜空間の中で魔法を使って調理しました。


 そのお昼ご飯を広場の噴水の縁に腰を下ろして食べました。


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 本日はもう一話投稿します。



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