第7話 異世界のお宿
私が急場しのぎで造った鏡なんですが、日本製の大量生産品の鏡よりも綺麗かもしれません。
で、鏡に映った私の顔なんですけれど、80年近く前になる高校時代の私の顔をイメージしていたのに少し違いましたね。
テレビのアイドルさんかと思う様な顔立ちのハーフ顔の美人が映ってました。
一応私自身の面影は何となくありますよ。
でも、眼窩が少しくぼんで鼻が高くなっているようだし、顔の輪郭も平板から立体的になってちょっと違っているような気がします。
まぁ、80年も前の記憶ですから曖昧で左程確かとは言えないのですが・・・。
多分、女神さまがやらかしてくれたんじゃないかと思います。
まぁ、美人になって別に悪くはないのですけれど、何か「これで、どうじゃい。」と格差を見せつけられたような感じがしますよねぇ。
因みにリリーはと言えば、私の若い頃は勿論、生前の姿は全く知りませんから、別に不思議には思っていないようなんです。
それからふと思ったのは、この鏡の作成が錬金術の試験に使えるかもと思い、二酸化ケイ素、銅及び錫、それに酸化アルミニウムをインベントリに収容しておきました。
色々別の素材で代用はできますけれど、材料が足りないと作りにくいですからねぇ。
薬師の場合は、やっぱり薬を造るのでしょうか?
命題を出されないと素材も用意できないけれど・・・。
まぁ、特に指示もなされなかったから出たとこ勝負で行きましょうか。
試験に落第したからと言ってもすぐに困るわけじゃなし。
それよりも明日から三日間の冒険者ギルドの講習会の方はどうすればいいのかです。
こっちも事前情報は無かったですヨネ。
まぁ、案ずるよりも生むが易しと言うし、百年近くを生きた私だもの、特にビビったりしないわよ。
まぁ、こちらも出たとこ勝負よね。
あ、リリーなら何か知っているかも。
『リリー、明日からの冒険者ギルドの講習について特段の準備が必要かしら?』
『いいえ、基本的に講習会は初心者に対する注意事項の確認のために行うものですから準備は不要ですヨ。
おそらく実地訓練のみ武器の携帯を義務付けられる程度の筈です。』
『じゃぁ、8日後の錬金術師・薬師ギルドの試験の方はどう?』
『錬金術師と薬師の試験は、一般的に別々に受験する者が多いようですね。
一応、専門学校で両方の勉強はしてくるのですが、能力的にどちらか一つに絞る人が多いようです。
稀に二つの資格を取る人もいますが、そうした人も例えば一回目は錬金術師、二回目は薬師という具合に二回に分けて受験しているようですね。
と言うのも、午前・午後の陽の有る時間帯で錬金術による生成物と初級ポーションなどを作り出すのは時間的に難しいからだと思います。』
『あら、私、二つとも受験するようにしちゃったけれど間違ったかしら?』
『まぁ、余り目立たないことを望むならば同時受験は避けた方が良かったかも知れませんが、エリカ様の能力からすれば、多分、午前中にも二つの課題を終えてしまうと思いますから、問題はないと思いますよ。
どうしますか?
一方は無駄に棄権しておきますか?』
『うーん、
だから、二つとも合格を目指します。』
『わかりました。
試験の方は、あらかじめギルドで用意した素材からモノを作ると言うのが課題のようです。
錬金術師の方は、初級クラスの魔道具若しくは生活用品で中程度以上のモノを時間内に造ることが求められています。
薬師の方は同じくHP回復、MP回復、創傷治癒の初級ポーションで並程度以上のモノを作ることが求められます。
いずれのポーションについても、エリカ様の錬金術・薬師スキルの知識の中に造り方が入っていますので、すぐにわかるはずです。
特に時間を要するのが、素材の変性とか抽出なのですが、エリカ様の場合ほとんどが魔法でできてしまうので
ですから極めて短時間で造ることが可能になるはずです。』
言われてみれば、確かに色々な知識がデータバンク的に頭の中に集積されているんです。
だから意識すればそれがすぐに脳裏に浮かぶ状態なのです。
うん、これは正しくチートとか言うやつですよねぇ。
何だか、一生懸命に努力している人には申し訳ないなぁ。
でも、私もこの世界で生きて行かねばならないのだからゴメンしてね。
そんなこんなで先行きの不安も余り無さそうなので、部屋の中で魔法を練る訓練を始めてみました。
私のステータスは、殆どがカンストしているみたいなのですけれど、リリーが言うには、レベルやら、HP、MPとやらはまだまだ上げられるそうなのです。
それにレベルがカンストしているとはいっても経験値が不足しているので、このままではカンスト値の十分な効果までは発揮できないそうです。
まぁ、使用していれば経験値が上がり、例えば火属性魔法の威力が上がるというようなことになるそうです。
特に魔力の方は、鍛錬すればするほど数値が上がるようなんです。
今のところは、初期値50万でしたが、街道でのちょっとした訓練でもMPは上がりましたね。
現在は502,687で、半日足らずの訓練で2500以上も魔力が増えました。
これはやっぱりアリシア神の加護の影響なんでしょうか。
レベルも234から235と一つ上がりました。
これを半年も続けたら、レベルは400超え、MPは60万超えになりそうですが、ひょっとしたら数値が高いと上がりにくくなるのかな?
無制限に上がるというのも何かおかしいでしょうからね。
リリーにその疑問をぶつけたら、普通はある程度数値が高くなった時点で非常に上がりにくくなるものだけれど、エリカの場合は最初から数値が異常すぎるので予想がつかないという返事でした。
まぁ、これも様子を見ながら徐々に確認して行きましょう。
何れにしろ、これでもう上がりしろが無いわけではないのですし、そもそも人として向上心を持って何事にも臨むべきだというのが私の信条なんです。
宿にお風呂がないというのはちょっと困りました。
リリーによれば、生活魔法の一つで
元日本人の私としては、お風呂には何とかして入りたいですよね。
温泉でも掘ってお風呂屋さんでも始めようかなっても考えたりします。
リリーに聞いてみると、カボックに
温泉は火山地帯にあるそうですが、
魔法の弊害なんでしょうかねぇ。
お湯を沸かして入るなんて贅沢はどうやら
だから王侯貴族とか大商人ぐらいにしか許されていない贅沢なんでしょう。
でも入浴は衛生上も勧められるものなのですよ。
入浴で温められることで血行も良くなりますからね。
それに入浴で得られるストレス解放感がとてもいいのです。
リリーに聞いてみると、地下深くまで掘ればここでも温泉を掘り当てることはできそうなんです。
この宿か、若しくは、別の適当な場所で温泉を掘り当てるのもアリかもしれません。
この宿は庭も広いので、その一部を使って風呂場を造ることは決して不可能ではないと思うのです。
一度女将さんに相談してみようと思うエリカでした。
◇◇◇◇
部屋でのんびりしているとケモミミさんの少女コーデリアがやってきてお食事ができましたと知らせてくれました。
食事は食堂で食べるようです。
さてさて、異世界ではどんな食事が出るんでしょうね。
食べられないものは出てこないとは思いますけれど、念のため食事前に出された料理には鑑定を掛けることにします。
食堂の席には二人ほど先客がいて食べ始めていました。
一人は男性、一人は女性でいずれも武器を携えているので冒険者の様な気がします。
向かい合って座っていますので或いは知り合いでしょうか。
私が席に座ると間もなくコーデリアがお盆で食事を持ってきて食卓の上に並べてくれました。
パンに、スープに、メインは焼き肉の様ですね
野菜はスープの中に浮いていますが、焼き肉の付け合わせは無いようです。
ある意味で豪快な感じではありますが、栄養的にはどうなんでしょう?
バランスが少し悪いかもしれません。
見た感じでは野菜の量が決定的に不足しています。
その代わりたんぱく質が多すぎですね。
鑑定してみました。
パンは「食用可、ダイ麦の黒パン、固い、やや不味い」と出ましたが、ダイ麦と言うのは前世ではライ麦あたりでしょうかネ?
黒パンも左程不味くはない筈なんですが、前世では随分と食文化が進んでいましたからねぇ、帝政ロシアの農奴が居た時代の黒パンとはかなり違っていたはずです。
まぁ、食用可であってもそんな時代の黒パンのつもりでいた方がいいかもしれません。
だって、触った感触が柔らかいパンではなくまるで木材の様な感じがしますもの。
果たして
スープは、「食用可、コハブ野菜入り乾燥肉ダシの塩スープ、やや辛目、普通」と出ています。
一応のダシを取っているようですね。
でも乾燥肉のダシって前世では知りませんでしたけれど、有りそうで無さそうな気がします。
辛目というのは、きっと塩辛いという意味なのでしょうね。
韓国料理の様な唐辛子たっぷりの料理にはとても見えません。
でも余り塩辛いのは高血圧の原因になり、万病の元ですよ。
次いでお肉さんなんだけれど、「食用可、小オークのモモ肉のステーキ、塩味、油にやや難あり」と出ました。
小オークって何だろう?
リリーに聞くと、魔物の一種だそうです。
体高1.8mから2.3mほど、豚顔で二足歩行の無毛ゴリラをイメージすればいいそうです。
体高が2.5mを超えるオークはグランドオークと呼ばれるそうで、グランドオークの方が肉質も味も良いとのことです。
で、いずれも食用可なので、食べることにします。
先ずは黒パン。
ん、固いですね。
でも私の場合、体力も顎も強化されてますからね。
齧るには問題がありませんが、・・・。
でもこれはやっぱり美味しくは無いですねェ。
完璧に干からびた味のないせんべいを齧っている感じです。
パンを食べているようにはとても思えません。
止むを得ず、スープを飲んでみます。
ン、やっぱり、ちょっと塩分濃い目です。
ダシの味は良くわかりませんが、薄いコンソメに似た色だけはついています。
これがダシによるものか、コハブ野菜という黄色っぽい
菜っ葉も一応食べてみましたが味はほとんどありませんね。
次いでステーキです。
ナイフと言うには少し大きめの刃物が添えられているので、それで肉片を切り、木製のフォークらしきもので突き刺して口に入れてみました。
ほんのり塩味、胡椒があればまだましなのでしょうけれど、少なくとも前世のレストランで食べたステーキに比べると大変にがっかりな味でしょうか。
でも口の中で噛みしめていると肉汁が出てきてそれなりの味になりました。
凄く美味しいとは言えないけれど、まぁまぁ、普通なんでしょうね。
そこまで食べて、黒パンをスープに着けて、肉片と一緒に口に放り込むことにしました。
口の中で塩味と黒パンと肉汁が混在となり、それなりの味になっています。
私が本格的に食べ始めた頃に、先客の二人連れの前に更に二人の冒険者風の男女が座りました。
どちらもまだ若そう。
10代後半から20代前半あたりだろうと思うけれど、所謂外人さんだから年齢は良くわかりません。
「遅かったのね?」
先に居た女性が二人に向かって言いました。
後から来た男が答えた。
「ああ、ギルドが混んでいたからなぁ。
それに今日使ったポーションも補給しなければならなかった。」
先に居た男が尋ねた。
「で、いくらで売れた?」
後から来た男が答える。
「全部で金貨2枚、大銀貨4枚だった。
ポーション補充で大銀貨2枚を使ったからな。
一人当たり大銀貨5枚に銀貨5枚だ。」
先に居た女が言う。
「うーん、じり貧だねぇ。
これじゃ、新しい防具を買えないじゃん。」
後から来た男が言う。
「しょうがねぇだろう。
あれだけ獲物に瑕がつきゃぁ、買い取り額も下がるぜ。」
四人が一様に暗い顔になる。
どうやら冒険者も必ずしも儲かる商売ではなさそうです。
まぁ、
冒険者稼業にしろ、錬金術・薬師稼業にしろ、私のできることでこの世界を生き抜いて行くしかないでしょう。
取り敢えずは、この夕食、何とか完食するよう努力しましょう。
四人が割と深刻な顔をしながらも、何かと私の方をちらちらと見ているのには気づきませんでした。
食事を終えて部屋に戻ると、外は夕焼けも終わって暗くなり始めていました。
部屋の窓の鎧戸を閉め、私は木製のベッドに横になりました。
まぁ、小学校の就学旅行で出会った昔のせんべい布団がこんな感じだったかもしれません。
寒くはないのですが、寝巻も無いので着の身着のままで、念のため薄い毛布をおなかに掛けて寝ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます