第5話 冒険者ギルドの手続き
次いで登録しやすいのは魔導士ギルドだそうで、ここで必要なのは種族、年齢、名前に、魔力量の計測と魔法の実地試験だけですが、魔力量が桁外れのエリカは若干不安要素もありそうです。
カボックの魔導士ギルドにはレベル15までの魔力測定用水晶しかありませんが、ラムアール国魔導士ギルド本部にはレベル25の水晶があるため、そこでは数値は読めずとも隠蔽そのものがばれる可能性があるようです。
仮にそのような高機能の水晶にエリカが触れると多分名前、年齢、種族以外の表示が「?」マークのオンパレードになるとのこと。
君子危うきに近寄らずで、魔導士ギルドは避けることにしました。
商人ギルドは基本的に商人に関わるギルドなので、実際に小売業などを営むことを前提にしないといけないのですが、一方で別のギルドに所属していて商人との取引に応ずる場合にも登録ができるようです。
例えば、冒険者ギルドに所属して魔物等の有用物を売却する場合、モノによっては買い叩かれる場合もありますが、品物により商業ギルドや商人の方が冒険者ギルドに収めるよりも高く購入してくれることもあるようです。
また、錬金術・薬師ギルドに所属する者が、製造した魔道具などを売るような場合は予め商人ギルドでの商業登録が必要なのです。
薬師が製作したポーションの類は、自己消費以外の販売は、錬金術・薬師ギルド一択で他に譲渡又は売却ができません。
但し、人の命がかかっているような場合は緊急的に使用することも許されていますが、往々にして代価が請求されることを前提として使用されることが多く、そのために借金を抱えることになってしまう者も少なくないのが現状のようです。
この錬金術・薬師ギルドへの登録は、錬金術師若しくは薬師の素質が必要とされ、専門学校の卒業生か高名な錬金術師又は薬師の徒弟がギルドの試験を受けて登録することになります。
医療経験者のエリカが最もふさわしいのは、医療に携わることなのですが、リリーによれば体系的な医療技術はこのイスガルドでは無いようです。
薬師の作ったポーション以外で普遍的な治癒行為を行うのは聖グライン教会の神官又は巫女でなければならないという慣例があるのです。
罰則があるわけではないのですが、基本的に聖魔法を使える者が聖グライン教会に独占されているのが現状で、「聖」属性の治癒魔法を他所に教えないのです。
一方で冒険者の「光」、「水」属性の魔法保有者で治癒を行えるものが稀にいますが、彼らの場合は負傷治癒に特化していて、病気や毒物、それに呪法には対応できません。
「聖」属性魔法の場合は、病気、毒物、呪術にも対応できるとされているのですが、実際にはその人物の力量によるところが非常に大きいようで、冒険者の治癒魔法にも劣る力量しか持たない神官や巫女も多数存在しているようなのです。
しかもお布施が無ければそもそも患者を
エリカがそんな金儲けの権化のような教会に属することは勿論嫌ですから、取り敢えずここは冒険者ギルトと錬金術・薬師ギルドに登録して糧を得ることにしました。
ということで最初に向かったのはすぐに証明書が発行してもらえそうな冒険者ギルドのカボック支部です。
西部劇に出て来そうなスイングドアを押し開けると、そこはアルコール臭と汗の臭いなどが溜まっている一種独特な雰囲気の場所でした。
正面にはカウンターがあり、左手には上階に上がる階段があり、右手はカウンターやテーブル席がある食堂の様な雰囲気ですが、ひげもじゃの男たちが昼日中から酒を飲んでいました。
一目で周囲の状況を確認し、気配察知をしながら正面のカウンターに向かいました。
カウンターには3人の女性が居り、内二人は客に対応中、一人が空いている様なのでその前に進み、目が合うと、相手がにっこりと微笑んで挨拶をしてくれました。
「冒険者ギルド、カボック支部へようこそ。
私は受付のミリエルと申します。
本日のご用向きは何でしょうか?」
十代ではないかと思われる相手の女性には所謂ケモミミがありましたね。
一瞬慌てましたが、こういう時には相手を見下したり、逆に自分を卑下したりしてもいけません。
驚きも嬉しさも全て覆い隠して、普通に話せたのは多分「年功のなせる業」でしょうね。
「初めて冒険者として登録したいのですが、こちらでよろしいでしょうか?」
「はい、こちらでできます。
念のため種族と年齢それにお名前を確認しますのでこの水晶に手を触れてください。」
エリカが手を触れると、ミリエル嬢が何かの操作をして僅かに赤みがかった金属片をカウンターの下から取り出した。
「はい、種族、年齢、お名前を確認できました。
これがRC(赤銅)ランクの登録証です。
初心者用ですので半年以内に所定以上のクエストをこなしていただければ、初級冒険者のBC(青銅)ランクになれますが、一定以上の成果が無ければ半年で登録は失効しますのでご注意ください。
それと二年前から始まった制度なのですが、赤銅ランクの方々には三日間の研修を受けていただくようになっています。
それを終了しないとクエストは受けられません。
研修は明後日から連続三日間、このギルドと屋外で実施されますので、初日の二つ目の鐘にはこのギルド二階の研修室に集まってください。
半日は座学が、残り二日半は実技訓練が行われます。
ギルドカード自体は、只今から有効ですから宿泊その他にもこのカードを身分証代わりで使えます。
冒険者としての心構えその他は、明後日の二つ目の鐘から始まる研修でご確認ください。
集合場所は、このギルドの受付前になりますので遅れないようにお願いします。
何か質問はございましょうか?」
リリーの説明では、この世界の時刻は、1日を12分してそれぞれを一刻と言うようです。
江戸時代の時刻と同様で、日の出・日の入りを基準としており、地軸の傾きがほとんど無いために、日の出日の入りの時刻は一年を通じてほぼ変わらないみたいです。
備えられている水時計により計った時間で、地域の教会が一刻ごとに時の鐘を鳴らしているのです。
日の出に一つ、それから一刻経つと二つ、概ね日没まで一つずつ増えて、七つまでの鐘が鳴るのですが、水時計の精度がさほど正確ではないために、日没時に正確に七つ目の時が鳴るという訳ではないようです。
教会にある水時計の精度により、地域によっては若干の誤差を生じるのは仕方が無いようですね。
江戸時代と同じように通常の生活時間は、一つ目の鐘が鳴る前から始まるのですが、ギルドは原則としてどこでも二つ目の鐘で就業開始となるようです。
尤も、冒険者ギルドの受付業務だけは一つ目の鐘から仕事を始めるそうです。
エリカには、特段の質問もありませんでした。
「いいえ、質問はありません。
丁寧な応対ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。」
「はい、今後とも私どもの支部をどうぞ
冒険者としてご活躍できるよう願っております。」
受付で登録を終えたエリカが振り返って出口に向かって数歩を踏み出したところ、大男がエリカの前に立ちはだかりました。
大男は身長が2m近くもありそうだし、横幅も大きいんです。
アルコール焼けなのか少し赤ら顔であり酒の臭いと体臭もキツイ。
エリカは脇によけて通ろうとしたけれど、にやつきながら大男も動いてなおも進路を塞ぐのです。
こういう男に絡まれるとろくなことはないですよね。
で、エリカはフェイントをかけました。
右に動いて、相手がそれに対応しようとしたところを数倍の速さで反対方向に移動し、相手の脇を通り抜けたのです。
相手が慌てて振り向いて追いかけて来たところを、絵里香が通り抜けたスイングドアが襲いました。
「バカン」と大きな音がし、男が倒れ、周囲の男たちの笑い声が外まで聞こえてきました。
大男がスイングドアの急襲にもめげず、すぐに起き上がってエリカを追いかけようと外に跳び出てきたのですが、その時既にエリカは人ごみの中に紛れて冒険者ギルドから離れていました。
エリカが次に向かうのは、錬金術・薬師ギルドです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます