第3話 変化

 LINKのトークを開くと、そこには【西原さいはら朱音あかね】からのメッセージが送られてきていた。


 なんだこいつかよ、期待させやがって!

 こいつは数少ない俺の友達の中の1人、俺と同い年でとても気分屋なやつだ。

 最近は車を持ってからより活発に動くようになり、俺と話す機会も減っていたが、突然なにごとだ?

 もしかして、何かピンチだから助けてとか!すぐに助けなければ!

【おい武、暇だろ?暇だよね?夜ご飯食べに行くぞ】

 ……俺の期待を返せ。

 てか、なんでこんなに俺を暇人確定扱いしてんの?いや暇ですけど?

 朱音には悪気はないんだろうけど、少しぐらい俺に用事があるかもと思わないわけ?

【ごめんちょっと世界救ってくるから忙しいかも】

【どうせゲームだろ、本当だとしても安心しろ、お前に世界を救う力はない】

 前言撤回悪気100%の純悪だこいつは。

【え、ひどすぎない?】

【ゲームできるぐらい暇ってことね、後で迎え行くから用意しとけよ、あ、拒否権なんてないからね】

 こうなったらこいつは話を聞かない、断る理由はないが、ここまで言われると断りたくなってしまう。

【俺、いまから彼女とデート行くから今日は無理なんだ、ごめんよ】

【それ美優ちゃんに言っとくね】

【俺が悪かったです準備します】

 ……まぁ、退屈だったのには変わらないから別にいいんだけどさ。

 朱音の運転は荒い、普通にすぐに速度を上げようとするし、信号も赤になった瞬間ならそのまま突っ込む、免許取り立てとは思えない運転によくヒヤヒヤさせられる。

 だからあんまり乗りたくはないけど、これも一つの非現実的といえば、まぁ悪くないか。

 俺は自分を納得させ、準備にとりかかる。

 現在の時刻は16時を少し過ぎたところ、まだ少し時間はあるだろうから、ゲームでもして時間を潰そう。

 そう思い、俺はソファに寝転んでスマホのゲームアプリを開いた……。


「何か言い残すことは?」

「やっちゃったze☆」

「ふざけんなー!」

「イッテェ!!」

 朱音の強烈な右ストレートが肩に叩き込まれた。

 はい、寝落ちしてしまいました。

 目が覚めてスマホを見ると、いくつものメッセージと着信履歴が入っていた。

 あ、やべ、やっちゃった☆

 どうしようかと考えた俺の脳は、考えるのをやめた。

 ここは必死に弁解をしなければ!

「いやー、横になってゲームをしてたら誰だって眠くなるだろ!!お前は寝ないのか!!」

「それは私だって寝てしまうかも?」

「だろー?だからこれは人間の生理的なものであってな、決して俺が悪いわけじゃna」

「100%テメーが悪い!」

「グハッ!」

 弁解の余地なく拳を叩き込まれてしまった。

 まぁ悪いのは俺だな、今度アイスでも買って謝るとしよう。


 時刻は20時20分、お腹も空いてきた頃だ。

 俺は迎えにきてくれた朱音の車に乗り込む。

 車は軽のAT、逆に今の車でMTに乗っているやつを見たことがない。

 全てATでいいじゃん、MTややこしくない?

 そう思う俺は、無免許です。


「で、どこに行くの?」

「ラーメン食いに行く」

「え?ラーメン?」

 女が男を連れてラーメン?

「なに?なんか文句あるわけ?」

「いや、特にないですけど……」

「じゃあ早くシートベルトしめてくんない?」

「はい……」


 車のエンジンがかかり、目的地のラーメン屋に、徐々に車が動き出す。

 朱音といて俺は悟った、自分は絶対に尻に敷かれるタイプの男だと言うことを。

 だが!美優ちゃんが尻に敷いてくれると言うのなら俺は喜んで敷かれよう!もちろん!二つの意味でな!。

 言ってなかったかもしれないが、俺は変態だ!


「ふふふ」

「きも」

「え、ひどくね?」

 いきなり言葉のナイフが俺の心臓にクリーンヒットしてびっくりしたわ。

 そうゆう関係にはならないとわかっていても、女の子からキモなんて言われたら落ち込むんだけど……え?今からでも入れる保険はないんですか?


「またバカなこと考えてるんでしょ」

「いやそんなことはないけど」

「じゃあ何考えてたの?いきなりニヤつきやがって」

「それは……世界平和について?」

「きも」


 どうやらこいつは、俺が何を言ってもきもと言わないといけない呪いにかかっているようだ。

 いや、そんなことよりもラーメンだ!

 最近食べてなかったからな。

 袋麺やインスタントを食べることはあっても、なかなか食べに行くことがないんだよな。

 ラーメンにうるさい人とは分かり合える気がしない、好きに食べればいいと思うのは俺だけだろうか?ちなみ俺は味噌派です。


「……まだ美優ちゃんのことが好きなの?」

「え?超好きだけど?」

 何だ急に?当たり前のこと聞いてきやがって。

「……そっか」

「何?」

「いや、ただ気になっただけ」

「そうなん?」

「……あのさ、美優ちゃんはやめといた方が良いと思うよ」

「え?何だよいきなり」

「ほら、美優ちゃんのこと好きな男多いしさ、たぶん武じゃ無理だと思うし、このまま続けても武が傷つくだけだと思うよ」

「……わかってるよ……そんなこと」

 そうだ、俺は絶対に美優ちゃんとは付き合えない。

 この世に絶対なんて言葉はない、努力次第で何とでもなると、よく偉い人や先生から教わるが、そんなことはないと俺は思う。

 努力すれば報われるなんて、報われた奴だけが言えるセリフであり、いつだって報われなかった奴には発言権はないのだから。


 考えないようにしてても、いつも考えてしまう。

 俺は美優ちゃんとは絶対に付き合えない。

 何度も告白してきたから、わかりたくなくてもわかってしまうのだ。

 でも俺は本当に、この恋を諦めてしまっても良いのだろうか。

 頭では、早く諦めた方がいいとわかっている、でも心の奥から、諦めたくないという気持ちが溢れてくる。

 諦めることが正解なのか、諦めないことが正解なのか。

 誰しも悩む、人生を変える身近な決断、俺はまだ、決めれずにいた。


 車内に何ともいえない空気が漂う。

 どちらが先に声を出そうかと考える、この間さえも、とても長く感じた。


「……まぁ、武が好きなようにしたら良いと思うよ、どれが正しいのかなんて、本人にしかわからないと思うし」

「ああ……そうだな……」

「私は美優ちゃんを絶対にお勧めしないけどね!」

「お前ら仲良しなのにひどくね?」


 そう、朱音と美優ちゃんはとても仲が良い、初めて美優ちゃんと会えたのも、こいつのおかげではある。

 よく遊びに行っていて仲はいいのだが、朱音は美優ちゃんのあざとい部分がとても嫌いらしい。

 よく男と一緒に遊びに行っても、美優ちゃんにとられてしまうようだ。

 けしからん、美優ちゃんは俺のなのに、他の男連れで遊びに行くなんて、え?泣いてないよ?(泣)


「てか、美優ちゃんと男も乗せてドライブ連れて行くのやめてくんない?onstagramオンスタグラムのストーリー見ると泣きそうになるんだけど!」


 好きな人が他の男と撮ってる写真を見せられたら誰だって病んでしまうだろ!


「え、彼氏でもない奴が何言ってんの?」

「…………」

 もうね、死にたい。

 現実教えるとか辛すぎない?


「てか、さっきから速度早すぎない?」

「え?まだ全然出てないと思うけど?」

 メーターを見るとすでに80kmに針が伸びていた。

「いやお前だしすぎだろ!高速じゃないんだぞ!」

「早くつきたいじゃん、大丈夫だって!」

 こいつはいつも飛ばしすぎで怖い、よく今まで事故にならなかったの思うほどだ、初心者マークついてんだぞ?

「お前これ、赤信号に切り替わったらすぐ止まれないだろ」

「大丈夫大丈夫、心配しすぎなんよ、武は」

「いや俺お前と死にたくないからな、死ぬならせめて美優ちゃんの股の間でって決めてるんだ!」

「きしょい……」

 あれ?きもが進化した?攻撃力が上がった気がする。


 俺が注意をしていると、次の信号が黄色に変わったが、まだ少し距離がある。

「おいおいちゃんと止まれよ?」

「わかってるって、……あ、止まらないからそのまま突っ込むわ」

「え?お前危ないって!」

 俺はこいつのこうゆうところが好きではない、安全速度は大事です、ちゃんと守りましょう。


 その瞬間、右から左折しようとしていた車が、車が来ないと思い曲がってきて……曲がってきている?


「「あ」」


 もう一度言おう、安全速度、大事です。


 ゆっくりと流れる意識の中で、すごい衝撃と共に、爆音がなったのを俺は感じた。









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