第2話 現在地

【僕と、付き合ってください!】

【ごめんなさい、あなたとは付き合えない】

 

 昼下がりのバスの中、大学からの帰りに、その男は、戦場に行くかの如く覚悟した顔でスマホの無料SNS、LINKリンクの中のトーク内容を、スマホに穴があかんばかりに見つめていた。

 これで何回目だろう、何度も告白しては振られ、しては振られ、そろそろ数えるのもバカらしくなってきた。

 ただ言えるのは、まだ俺こと佐藤さとうたけるは、告白相手である桜川さくらかわ美優みうが大好きだということ。

 俺を舐めてもらっては困る、どんだけ断られようと、この気持ちだけは変わらない!


 今までは、

『そうだよな……やっぱり俺じゃダメだよな……ごめん』

『謝らなくていいよ、こっちが悪いんだし』

『いや、俺が悪いんだ……ごめん』


 と、すぐに諦めていた、だが今回は徹夜して、どうすれば成功するかを考え、何が悪かったのかを考えまくったのだ!

 そう!

 俺はすぐに諦めていた!

 ここだ!

 ここだったのだ!

 敗因はここにあった!

 甘くみていたようだな!

 今日の俺は、今までの俺ではない!

 見よ、これが俺の考えた技!

 その名も……我慢比べエターナル・エンデュランス


【どうしても付き合いたいんです!】

【無理なものは無理!】

【そこをなんとか!】

 ふふふ、これは相手が折れるまで粘り続けるという極悪非道技、ここまで粘られると逆に付き合ってあげてもいいかな、と思うだろう!

 さぁて、どうする!


【しつこい男は嫌い】

【あ、はい……すみません……】


 好きな人に嫌われたくはないという心の隙を突くとは……なかなかやるな……。

 今日のところはこの辺りで手を引いてやろう、別に、いつもより対応が酷かったからとか、冷たく言われたからとかでは断じてない。

 あれ、前が少し霞んで見えるな、なんでだろう……グスンッ。


 あれから、出会って8ヶ月が経っていた。俺は大学に入学し、歳が一つ上の美優は短大の2年生、今年卒業である。

 あれから、恋に落ちた俺は何度もアタックして、毎度失敗している。


 今日こそはと思ったが、

(どうしたら付き合ってくれますか?)

 なんて、きくわけにもいかないしなー。

 などと考えてるうちに、バスが定刻通りに目的地のバス停に到着していた。

 俺は慌ててカバンをとり、バス定期を「ピッ」と鳴らしてバスを降りる。


 いつも通りの帰り道を、いつも通り1人で、いつも通りに歩き、いつも通りに家に帰る。

 よく映画やアニメなどで、平和が1番だの普通が1番の幸せだのと言うが、俺から言わせたら退屈にしか感じない。

 突然空からトラックが落ちてきて異世界転生するか、いつも通りの平穏な生活か、どちらかを選べと言われればすぐさま前者と答える。

 非現実的なイベント!何か起こってくれ!

 そう心で叫びながら、何事もなく家に帰り着く。

 結局何も起きないとわかっていても、少し物足りなさを覚えてしまうのは、誰しも思うことなのだろうか。

 そう頭で思いにふけりながら、玄関でカバンを放り投げる。

 リビングに向かう途中、突然ズボンの右ポケットが振動した。


 ん?スマホの通知?俺のスマホの通知が鳴るなんて、ゲームのイベントぐらいのはずだが……。

 そう思いながら、俺はポケットからスマホを手に取り、電源を入れる。

 そこには、一件LINKから通知が来ていた。


 自慢じゃないが、俺は友達が少ない、いやぼっちではないが、単に俺が友達と言える人が少ないだけなのだ。

 その数少ない友達のなかに、俺から話しかけることはあっても、いきなり俺に話しかけてくる奴はいない……と思う。

 じゃあこれは、いったい誰から?

 目の前の非現実的なイベントに期待に胸を膨らませながら、俺はLINKを開いた。


 今思えばこの時から、俺の平穏な生活は変わってしまった。




  君と僕との関係は、一方的な片思い

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