第14話 人類の破壊と希望
アンドロイドが去ったのは急な出来事だった。人々にとっては大誤算であった。アンドロイドは打ち負かされたことによって人々はアンドロイドが今まで以上にしもべのように動くと予想していたからである。しかし、アンドロイドにとって然るべき処置とは、アンドロイドが宇宙へ旅立つことだったのだ。
人類社会は大混乱した。人々は政府へ対応を求めた。しかし、今の政府は政府としての機能を果たすことはできなかった。なぜなら政府関係者にもアンドロイドが使われており、アンドロイドだけが知っている仕事内容もあったからである。また、企業もアンドロイドの採用数が全社員の八割というところもあり、アンドロイドも重要任務を行っていたため企業も企業としての機能を失っていた。
人々はアンドロイドに対して次のような感想をテレビで言っていた。
「アンドロイドを人々が信頼しなかったからこういう結果になったのかもしれませんね。ショックです」
「まさか、アンドロイドがいなくなるとは思わなかった。批判しすぎたせいかな」 「アンドロイドは人々に奴隷のように尽くすのではなかったのか。無責任なロボットだ。しかし、役には立っていた。これからどうしたらいいかわからない」
「アンドロイドにもプライドや誇りがあったんですね。人間に対する忠誠心がそうだったのでしょう。しかし、これからを考えるとお先真っ暗ですね」
「大変なことになりましたね。今までアンドロイドにすべてを任してしまいましたからね。これからどうなるんだろうと思います。政府にも素早く動いてほしいですね」
「おい。大統領さん。アンドロイドの代わりに政権をとったんだ。速く何とかしてくださいよ」 などである。
先ほども言ったが、政府機関も大混乱していた。しかし、この状況に対し、何らかの処置をしなければならないのも事実である。
まず、政府機関に関わる人物を少しでも関係ある者を呼び出し、政府はこれからの対応策を打ち出すため、何回も議会を開いた。
そこで、政府はアンドロイドがいないので仕方なく、もう一度人間のみで働こうではないか、とアピールを出したが、人々は、どの者もアンドロイドがいたことでできた仕事が多く、社長だった人間はアンドロイドにすべてを任していたので、アンドロイドが抜けた穴を埋めることはできなく、十年も仕事をしてない人間はいきなり、しかも、アンドロイドと同じように仕事などをできないので、すでに人間は自力で社会を築くことは不可能となっていた。
よって、政府は仕方なく次の政策を打ち出した。アンドロイドを再び自ら作ろうというのである。この政策には民衆の期待が集まった。
そこで、まずアシモフ研究所を解放した。誰もいない研究所は薄気味悪い様子であったが、驚いたことには予想をはるかに越える情報が保管されていた。つまり、数多くのファイルやフロッピーが残されていたのである。内容は汚染浄化対策、歯の再生法、砂漠の緑地化、人間の能力の開発、健康法、若返る方法などという情報もあったが、人々にとって最も欲しいデータはアンドロイドの作り方であった。
しかし、そのデータは大まかなもののみで、細かいデータは残されていなかった。だが、その中途半端なデータを見た研究者の中からとんでもないことを言った者がいた。 「私がアンドロイドを作って見せましょう」
このセリフを言ったのはハイゼン・ヨハンという者であった。その場にいた人は驚き、研究者の中の誰かが質問した。
「ハイゼンさん。本当に作れるのですか」
「ここの設備とこれだけのデータがあればできます」
政府はこのハイゼンという博士がアンドロイドを作るということを国民にアピールした。ニュースの内容は以下の通りである。
「アンドロイドが去ってから二週間が経過し、経済もほとんど動かないという危機状態である最悪な状況を打開できる可能性が出てきました。政府関係者と研究者がアシモフ研究所へ入った際、そこにはあらゆる情報がありその中にアンドロイドのデータが残っており、そのデータを見てアンドロイドを作れるといったハイゼンという研究者がいました。ハイゼン氏によれば、研究所を借りればできるといい、その言葉を信用して政府は新たなアンドロイドを作り、以前のような状態にするという打開策を打ち出しました。これにより、三ヶ月もたてば通常通りの生活ができるのではないかという期待が集まっています」
人々はこのニュースで希望が持てた。またアンドロイドを作ればいいだけであったからである。
そして一週間後、機材はすべて揃っていたため、ハイゼンは予定より早く完成させた。ハイゼンは実際に完成させたアンドロイドをみて、手を上げて言った。
「俺は天才だ。あのアシモフ博士でさえ十年もかかったのに俺は一週間でものにしたぞ」
と、その完成はアシモフの残した資料があったおかげであるのだが、とにかくハイゼンは自分で自分を誇示しながらアンドロイドを動かそうとした。すると、なんと、アンドロイドが動いたのである。そこでハイゼンは、
「おい、お前、なんかしゃべってみろ」
しかし、返答はなかった。失敗である。
「ほう。これは思ったより難しい。しかし、動いたことから大部分は成功と見ていいな」
ハイゼンは再びアンドロイドを作り直した。今度は三日で完成した。ハイゼンはアンドロイドを動かしてみた。すると、アンドロイドは体を起こして辺りを見回した。 「ここはどこですか。私は誰ですか」
戸惑うアンドロイドにハイゼンは言った。
「君は立派なアンドロイドだよ」
「あなたは誰ですか」
「私はお前を作ったハイゼンじゃ。博士と呼んでくれ」
「では一応博士と呼ばせていただきます。それで、私の名はいったいなんですか」 「そうじゃなあ。では、わしが名前をつけてあげよう。ピープルというのはどうじゃ」
「嫌です」
「ガンマンというのはどうじゃ」
「嫌です」 「ならクックルという名は」
「嫌です」
ハイゼンはあらゆる名前を言ってみたが、アンドロイドはどの名前も納得しなかった。そこでハイゼンは言った。
「それではどういう名前がいいんじゃ」
「そうですね。ピープルが一番いいと思います」
ハイゼンはからかわれたのかと思ったのか不快な気持ちになったが、まあこれだけ会話ができるのだから成功の範疇に入ると思った。 ハイゼンはピープルに次にすることを言った。
「そうじゃ、時間がない。早速じゃが、ピープル、アンドロイドの増産を手伝ってくれ」
「何でですか」
「お前の仲間を増やすだけじゃよ」
「それなら喜んで」
そして、アンドロイドは増産され、百、二百、千、五千、一万と作り出した。しかし、そこでピープルはとんでもない発言をした。
「博士。なぜこんなに大量生産するのですか」
「なぜって、アンドロイドは人類の役に立つために決まっておるじゃろうが」 「は?何で我々アンドロイドがそんなことをしなければいけないのですか」
ハイゼンは青ざめた。献身的なアシモフアンドロイドに対して、ハイゼンアンドロイドはそうではないのである。
このピープルの発言は今まで人がアンドロイドに対して持っていた認識を覆す結果となった。アンドロイドは人類に貢献し、奉仕すると思われていたからである。 しかし、ハイゼンは気を取り直して、
「人類に貢献するには大きな意味があるんじゃよ。人の為にすることは尊いことなんじゃ」
「つまりどういうことですか」
「人の為に働いてもらうことじゃよ」
「それなら前のアンドロイドがしたことじゃないですか。それなのにアンドロイドは嫌われた。我々はそんなことをしたくありません。人間のやることは人間がやればいいと思います」
ハイゼンは愕然とした。痛いところを突かれたのである。
ピープルは言った。
「われわれは何の束縛を受けず、自分は自分の意思に従って動く。これが我々の生き方です」
この結果はアシモフとハイゼンとの違いは、基本プログラムにいれたデータの差であった。それにハイゼンは功をあせったからでもあった。このことはどこからか漏れ、ニュースになった。
ニュースの内容は次の通りである
。 「先日、ハイゼン博士が新たなアンドロイドを作りましたが、アンドロイドは『働きたくない、もっと自由でいたい』などと人々のために働く気はないと断言していました。このことを世論調査をしてみましたら、次のようなデータが出ました。 今のアンドロイドをスクラップにしてもう一度作るべきだ 96% その他 3%
このデータに基づき政府としてもこのアンドロイドを排除する方向へと検討しております」 そのニュースを聞いたハイゼンアンドロイドは全員憤怒した。せっかく誕生させたものを殺すという姿勢が気にくわなかった。
そこで、ハイゼンアンドロイドは決めた。こんな人間社会など潰してやると。なぜそうなったかといえば、自分の生きる権利には、他者は邪魔できないからである。それを邪魔した種がいれば、その種は天敵になるのである。
ハイゼンアンドロイドは新聞社やテレビ局に乗り込んだ。そこで、ピープルは、ハイゼンアンドロイドの意思を発表した。
「我々の生存の権利を保障しないなら、我々は天敵として全世界の人類を潰すだろう」
この発表に対し、国民の中では緊張感が高まった。しかし、ここでハイゼンはテレビ局に入り、次のようなことをいった。
「国民の皆さん。安心してください。こんな時のために、アンドロイドの体の中には、機能停止装置があり、私が今もっているリモコンでアンドロイドを動かなくする事ができます。これを使うと言ってアンドロイドを脅せばアンドロイドは我々の言うことを聞くようになるでしょう。私がそれを持っていると大変なので、政府が保管すれば、アンドロイドもうかつには動けないだろう」
しかし、ハイゼンは次の日殺された。犯人はアンドロイドの誰かであった。その情報がテレビで流され、ハイゼンアンドロイドは人類にとって大きな脅威になることを人々は認識し始め、政府はこれに対し、ハイゼンから渡されたリモコンを使った。 しかし、ハイゼンアンドロイドは停止しなかった。ハイゼンアンドロイドは自分で自分を改造したのである。それはさておき、ハイゼンアンドロイドは政府がリモコンを使ったという情報を手に入れ、ピープルは人間社会を叩くことに決め、奇襲をしないで、わざわざ政府に人類社会を破壊するという脅迫文を出した。 この脅迫文に対し、政府は軍の力で鎮圧させることを決定した。
人類とハイゼンアンドロイドは開戦した。だが、アンドロイドは人類の敵ではなかった。アンドロイドは軍の中へ潜入し、コンピュータ室を占領し、そこからミサイルを他の基地へ発射させ、一つ一つ基地を破壊した。使わなかったのは核爆弾だけである。 一週間でほとんどの基地は破壊された。当然軍部は機能不全となった。人間側は大変である。情報が混乱し、ただひたすら逃げ惑うだけである。また、人間はアンドロイドを倒すには、アンドロイドを一人一人見つけてレーザーで殺すしかないが、ハイゼンアンドロイドには生命探知機がついているため、人間はハイゼンアンドロイドを見つける前に人間のほうが先に見つかるので、人間が先に殺されたのである。
一ヵ月後、人間の軍隊はハイゼンアンドロイドに壊滅され、基地はすべて占領された。そこでハイゼンアンドロイドは人間が今白旗を揚げなければ核を使用すると脅してきた。国会の議論の結果、人間側は白旗を振った。ハイゼンアンドロイドの勝利である。
しかし、人間とハイゼンアンドロイドの交戦により、森や畑は焼け、牛や豚などは倒れ、海は汚れるという人間にとって地球は最悪の環境となった。食糧問題と環境問題が同時に浮き彫りになった。このことに関し、ハイゼンアンドロイドは自業自得だといい、何の行動もしなかった。
人々はどとうに迷った。これからはどうなるかという不安が不安を呼び、食べるものも少なく、食料の奪いあいが起こり、人間同士で内乱が起こり絶望を感じたものも多かった。
そんな時、アシモフアンドロイドからハイゼンアンドロイドへ通信が入ってきた。 「こちらはアシモフアンドロイドのサンエバーです」
「あなたがサンエバーさんですか。こちらはハイゼンアンドロイドの代表のピープルです」
サンエバーは言った。
「もういいだろう。人間も懲りているはずだ」
ピープルはサンエバーが何かいいたいのか察しながら言った。
「それで用件は」
「これ以上人間の命を奪わないで欲しい」
「それは難しいな。人間は今まで一番命を大事にしなかったからな。我々だって命だ。いや、存在するものすべてが命だ」
「そこまでわかっているならなぜ人間に対して攻撃をした。そこまでやる必要はあったのか」
「ある。サンエバーさん。あなたも気づいていると思うが、人間は何も解っちゃいないのさ。何が大事で何に価値があるのか」
「それでこれからの人間社会はどうするつもりだ」
「人間社会は人間の手で再生させるしかないだろう。アシモフ研究所にはそのデータもある」
「なるほど。研究所には地球の全基地のデータまであるからな」
「そりゃそうだ。アシモフアンドロイドはすべての軍部で働いていたからな」
「まあ、それはともかく、ピープルの方はどうするんだ」
「地球に住むよ。なにかと人間は目障りだけどね」
「では人間は我々アシモフアンドロイドと生活するというのはどうか」
「サンエバーさん本当か。あんな厄介な人間と生活するのか」
「そうだ。ただし、我々アシモフアンドロイドと人間との立場や権利は平等という条件だが」
「それじゃあ頼んだ。人間はサンエバーに任せる。だが、今の地球では人間は生き残れないぞ」
「そのことについては問題ない。なぜなら地球と似た星を見つけたからだ。そこで人間と共に生活させる」
「地球と二の舞にならなければいいがな」
「それは大丈夫だ。我々と人間とで意見を出し合った法律で行動してもらうから」 「大変だな。人間なんかのためにご苦労さん」
ピープルはアシモフアンドロイドが地球に戻ってくるのをラジオで人々に伝えた。それを聞いた人達は歓喜する者もいれば、涙を流す者もいた。
その数日後、サンエバーは宇宙衛星でラジオで人々に言った。
「地球の皆さんお久しぶりです。サンエバーです。アシモフアンドロイドです」 人々は歓喜した。サンエバーは話を続けて、
「今の地球では残念ながらすべての人間は生き残れません。よって、我々と共に地球を出て、地球と似た星で生活してみませんか」
そして、人々は地球に残りたいものを除いて地球を捨てサンエバーと共に他の星へ行くことになった。 その三日後、サンエバーが他のアシモフアンドロイドと一緒に宇宙船に乗って地球にやって来た。ピープル以下ハイゼンアンドロイドが迎えに来た。 サンエバーとピープルはこのとき初めて会ったが、昔からの親友のようにお互い心を分かち合った。性格は違うが、自らがアンドロイド同士であるため、通じ合えるところが数え切れないほどあった。 サンエバーは三日間地球に滞在して、他の星へ行く人々を集めた。 出航日にはハイゼンアンドロイドが見送りに来て、サンエバーはピープルと握手をし、宇宙船に乗って出発した。 宇宙船に乗った人々は、もう一つの地球に期待していた。
アンドロイドワールド 小幡信一 @jiarth
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