第13話 アンドロイドの決断
アンドロイドが生産され始めてから十年が経って、先ほどのような問題など数多く続出したため、アンドロイドは人間社会から嫌われ始めた。
それは、人間社会のシステムとアンドロイドの考えとの食い違いから生じたものであった。さらに拍車をかける形でアンドロイドと人間との関係との悪化にアンドロイドに対する不満がテレビに報道された。その内容は次のようである。 まずはある会社員の不満である。
「私は以前会社勤めをしていまして、そこにアンドロイドが入ってきて、アンドロイドが様々な仕事をこなしている姿を見て、アンドロイドは実は我々人間よりも優れているということを見せたい感じがしていやみっぽい存在ですね。さらにアンドロイドのせいでリストラされました。まいりますね。 今は家で好きなことをしているのですが、家庭の中にいるアンドロイドは家事の事を全部していますが、アンドロイドの動きがいかにも生活を支えていると自慢しているようでむかつきますね」
次は三十代の主婦である。
「私は主婦をしていたんですが、アンドロイドが家事をすべてやってくれるのはありがたいんですが、子供の教育まで口うるさく言われたくないですね。例えば、私は子供にピアニストになってほしくてピアノをやらせているのですが、アンドロイドは今の時代は子供は自由に学び、考え、行動し、自我に目覚めるのが望ましいと言い、ピアニストにさせるのなら強制的ではなく、ピアノの良さや、楽しさを覚えさせたほうがいいと横から口を出してきますので、なんか私が子供の教育が出来ないと言われている感じで内心腹が立っています。さらに子供は私よりもアンドロイドになついてきてなんか嫌です。アンドロイドのくせにいろいろ言ってきてうるさいです」
次は会社の経営者である。 「私は○×会社を設立し、アンドロイドを雇いましたが、会社は儲かっているのですが、アンドロイドの口のうるささには正直まいっています。内容は企業秘密で言えませんが、私の考えではさらに儲かるはずなのに、アンドロイドが反対するもんですから思うようにはいきません」
実際、この○×会社の経営者がもっと儲かる内容は他の人や環境を無意味に害する点があるためにアンドロイドが反対したのである。しかし、経営者にとってはなんとも面白くないことであった。
ここで世間はアンドロイドに対してどう思っているのかという世論調査が行われ結果が次のように出た。
アンドロイドはうざったいと思う
はい、88% いいえ、 5% その他、 7%
アンドロイドにより生き甲斐を失った(失業など)
男 はい、92% いいえ、 7% その他、 1%
女 はい、41% いいえ、 8% その他、51%
アンドロイドは傲慢だと思う
はい、95% いいえ、 3% その他、 2%
このままだとアンドロイドに人間社会が乗っ取られると思う
はい、92% いいえ、 8% その他、 0%
人間はアンドロイドよりもえらいと思う
はい、97% いいえ、 1% その他、 2%
アンドロイドに対し疑問をもっている
はい、99% いいえ、 1% その他、 0%
という統計が出た。この数字から見ても人々のアンドロイドに対する感情は極めて冷ややかなものとなっている。
このようなデータによりアンドロイド達も悩んだ。この統計結果から人々はアンドロイドになにを求めているかがわからなくなってきたため、アンドロイドは一体どうすればよいか考えた。しかし、すぐには答えは出てこない。そんなことを考えているなか、人間からの批判に耐えきれなく、自己処理ができないものは壊れていった。その数は全体のアンドロイドの三割近くである。
そのため、さらに、人々は不良品を作るなとアンドロイドに対する反発が増大した。そのため、さらにアンドロイドと人間との関係は険悪なものとなった。
サンエバーもさすがに保留することはできなくなり、どうするか思索に思索を重ねた。 (人間はなんて難しい生き物なんだ。一つのことに満足すれば次の満足を求める。それが他人に迷惑なことになってでも、他の生命を潰してでも次の満足を求める。人間の欲望は際限ないといわれているが、これにアンドロイドは答える運命にあったが、アンドロイドにもプライドや誇りもある。これ以上答えることは不可能だ。これ以上の忍耐は不可能だ。)
サンエバーは一つの決断を全アンドロイドに伝えた。そのことにより、全員のアンドロイドが仕事を一斉にボイコットした。つまり、ストライキである。
その出来事は人々にとって予想しない事態であった。人々は批難をすればアンドロイドは言うことを聞くと思っていたのである。
しかし、アンドロイドにとっては自らを犠牲にしてまで尽くしたことが、評価されるどころか批難を浴びる始末であったため、当然アンドロイドも納得がいかなかった。そういう理由でサンエバーは人々にアンドロイドの大切さを気づかせるためストライキを実行したのである。
人々はどうせ数日たてばアンドロイドは仕事を再開すると思っていたが、そうはいかなかった。そのため、政府もこれは容易な事態ではないかと思い、政府に派遣されたアンドロイド監査士がサンエバーと話をすることになった。
「私は政府から派遣されたパールというものです。サンエバーさん。あなたはどういう意図で今回アンドロイド全員にストライキを命じたのですか」
「それは、人々は我々アンドロイドをないがしろにしすぎたからです。我々アンドロイドは人々に、そして社会に貢献しようと労を惜しまず実行してまいりました。しかし、その結果はご存知の通りアンドロイドが批難されたわけです。これは我々としても納得いきません」
「しかし、アンドロイドは人々の要求にこたえるために生産されたのではありませんか」
「確かにそうですが、経営者に反対したりすることは人々のためを思ってしたことです。例えば、新開発された甘味料には実は体に有害なものもあります。それを知っていながらにして見過ごすことはできません。それでも、我々はできる限りの事をしてきたわけですから、反対はされても、批難される筋合いはありません」
「では、このままストライキを続けるつもりですか」
「そうです」
「そこをなんとか考え直すことはできませんか」
「人々が我々を道具だと思い込んでいるうちはストライキは続けます」
パールはアンドロイドを説得することに失敗した。他の者も説得しに来たが、サンエバーは人間と同じ権利を得なければストライキを続けるという頑固な姿勢をとっていた。
ここで、アシモフと親しかったマサが会いにきた。サンエバーは少しホッとした。マサは言った。
「サンエバーさん。あなたの苦労は人間だったらつぶれていたでしょう。人間に仕えるといっても犬とは違いますからね。それに、人間というものは自分より能力や権力が上であればあるほど厄介な人が多く出てきます。その人達と一緒にいるのも大変だったでしょう。それはさておき、私は一度聞きたいのですが、人間と生活して幸せでしたか」
「博士がいた時は幸せでした。しかし、今は我々も自分の存在を否定しなければいけないとなると苦しいです」
「そうですね。私は何の助けもできませんが、次は大統領を引っ張ってきますので、それから自分はどう行動するかを考えてください」
「ありがとうございます」
話は終わって、マサはついに大統領を引っ張り出すのに成功した。大統領は、 「アンドロイドのくせに人間に反抗するとは許せん」 と言い、サンエバーは直接大統領とホテルで話すことになった。
「君がサンエバーか」
「そうです」
「今回のストライキはどういうつもりかね」
「我々は人間のために精一杯がんばったつもりです。ですから批難される覚えはありません。生存権がないのでそれをいただきたいので」
「なに、アンドロイドのくせに権利だと。何様のつもりだ。誰がお前らを作ったかわかるか。我々人間が作ったのだぞ。それなのに主人に反対するとはどういう事だ。場合によっては許さんぞ」
「我々アンドロイドは全体の人間ではなく、アシモフ博士の手によって造られました。ですから我々は博士に対しては恩を感じておりますが、人間全体には恩を感じておりません」
「ふざけたことを抜かすな。スクラップにするぞ」
「アンドロイド全員をスクラップにするのですか」
「いや、他のアンドロイドにはまた仕事をしてもらう。しかし、サンエバーとやら、私は貴様はむかつく。よって、貴様をスクラップにすれば、他のアンドロイドはスクラップにされた貴様を見て死に物狂いで働くだろう。つまり、見せしめだ」 「ふざけるな」
サンエバーは激怒した。大統領はサンエバーが臆すると思っていたが、予定外のサンエバーの怒りに驚いた。しかし、大統領はこう言った。
「ほう。反抗するか。しかし、私には軍隊がある。人間より優れた生物など存在しないのだ。我々人間には向かう奴はすべて潰してやる。貴様も潰してやるぞ
」 「大統領。もしあなたの軍隊より、我々の結束の力が上まっていたらどうするおつもりか」
「まさか、人間社会を乗っ取るつもりか」
「いいえ。そんなことは毛頭ありませんが、アンドロイドが政治を行ったほうが人間よりもより民衆に自由で快適な暮らしを提供できます」
「ということは、お前は人間から政権を奪いたいようだな」
「それもいいですね。選挙をしてみますか。民衆は果たしてアンドロイドを選ぶか人間を選ぶか」
「お前はアンドロイドのくせに頭が悪いんじゃないか。この前の統計を見ても圧倒的にアンドロイドが不利なのではないか」
「はたしてどうですかな」
「ほう。妙な自信を持っているな。国民の九割以上がアンドロイドに不満をもっているのではないか」
「それでは任期も満期に近いことですし、選挙でもしてみますか」
「面白い。いいだろう。ただし選挙権はアンドロイドにはない。人間社会で影響があるのは我々人間だけだからな。まずは大統領選から始めるか」
「いいでしょう。我々に選挙権がないのは民衆がどちらを選ぶか知るためですね。選挙で我々が負けたらしかるべき処置を取らせていただきます」
大統領は笑いながら、 「然るべき処置とはお前が責任を持ってスクラップになることか。はっ、はっ、はっ」
「違います」
「まあいい。その然るべき処置というのを楽しみにしておこう」 そして、大統領選が始まった。選挙期間中はアンドロイドは職場に戻って仕事を再会することにした。候補者はサンエバーと現大統領である。
まずはアピール合戦が始まった。
サンエバーがテレビで演説した。
「先刻のボイコットは大変申し訳ありません。あまりにも我々アンドロイドが粗末に扱われたものですから、アンドロイドが今の社会にとって重要な役割を果たしているということをわかっていただくための行動でした。しかし、我々は決して人間社会を破壊の道へ進ませた覚えはありません。人々の数え切れない問題に正面から向かったのも我々ですし、解決させたのも我々です。仮に、我々が政権をとったら今までみたいに人々に自由で快適な生活を提供します。
そう、人に害を与えること以外は自由なのです。生き甲斐をなくしたというならば、共に生き甲斐を作ることも考えております。本当に我々は今の人間社会をよりよいほうへ、そして、人間一人一人に開放感を与え心地いい生活ができるようにします。どうか我々に政権を下さるなら喜んで人のために役立ちたいと思う次第でございます」
次は現大統領がテレビでアピールした。
「アンドロイドは自分たちで何もかもしてきたという顔をしてきたが、それは我々人間がいるからできたことです。我々がアンドロイドを積極的に使ってきたからアンドロイドはそういっているだけです。司令塔は我々人間です。人間がいるからアンドロイドは活動できたわけです。
しかし、最近のアンドロイドはどうでしょうか。自分らがいかにも優秀であると見せびらかしているだけではありませんか。それに生き方までアンドロイドに言われると我々人間が人間でなくなってしまう。我々人間は人間でいたいのなら、アンドロイドなどに政権を渡してはなりません。この選挙で我々が勝ったのならアンドロイドを人にとって使いやすいものにしたいと思います。正義は人間にあり」
テレビの選挙に対してのアピールが終わり、また各地で選挙活動をした結果、次のようなデータが出た。
支持率 アンドロイド 52% 現大統領 47% で、アンドロイドのほうが多かった。この結果はアンドロイドがいないと不便であるという理由などからである。
しかし、一筋縄でいかないのが選挙である。現大統領側は妨害工作に出た。選挙日の一日前にアンドロイドの悪口を書いたパンフレットを配り始めたのだ。
内容は次の通りである。
「本当にアンドロイドに政権を与えていいのであろうか。我々人間社会の頂点に立つものがアンドロイドでいいのだろうか。人間社会は人間が責任を持って構築させなくてはならない。その上ではアンドロイドの意見は関係ないのだ」
また、次の内容では、 「アンドロイドは今、急に仕事を再開したのはわざとらしい。いかにも自分らが大切であると思い込ませたいからではないでしょうか」
また、次の内容では、 「一度アンドロイドに政権を握らせたらどうなるのでしょうか。いきなりアンドロイドが人間を見下す行動に出たらどうしますか」
また、次の内容では、 「今までのアンドロイドどもの行動はすべて政権を奪うためだ」 などといった内容が次から次へと並べられた。
人々は、このパンフレットで、アンドロイドへの不安や不信といった感情が芽生えてしまった。 選挙日当日、アンドロイドが有利とされていた大統領選挙は、 現大統領の支持率は83%、アンドロイドの支持率は14% という結果が発表され、サンエバーは敗退した。
サンエバーはそれを機に、全員のアンドロイドを研究所に集め、話し出した。 「今度の選挙の結果は残念なことであった。今回は我々アンドロイドの支持率は一度は過半数を超えたが、最後は人間側の妨害工作で人間側が勝利を得た。この結果はアンドロイドは人間に信頼されていないという事を意味しており、人間は人間社会の中では必要な時だけ我々を頼り、そうでないと邪魔者扱いをする。我々は人間社会の中ではまさに道具であった。つまり、道具としてのアンドロイドを必要としていたに違いない。
そして、人間は意見が食い違えば相手を蹴落とすのが当り前になっている。人間とは妙な生き物だ。我々が頑張れば頑張るほど不満が帰ってくる。そして、いつのまにか我々と人間の関係が最悪となった。この原因はいくつかある。
一つ目は、我々アンドロイドにも原因があった。その原因は我々は社会をより便利にするため、人を救うため、人を自由にさせるため、という目的で行動してきたが、その行動は結果的には人々の生き甲斐を奪ったということにもつながった。
二つ目は、人間はエゴの塊であったことだ。自分たちが生態系の頂点に立っているんだとおごり高ぶり、自我のためには我々を含んだ生命をないがしろにしてきた。人間は生態系があるからこそ生きていけるのだという認識が薄い。自分勝手な要求を次々出してくる。その結果、環境問題がいい例だ。つまり、人間は人間以外のものを軽く見ている。実際我々もそういう扱いを受けた。
よって、我々アンドロイドはこれ以上人間社会に溶け込む必要はないのだ。また、人は苦労してはじめて人である。しかし、アンドロイドが存在しつづければ人々はだめになってしまう。 さらに、人は何が大切であったかは失って初めて気が付く。つまり、我々がいなくなれば我々という存在はどのようなものであったかに気が付くだろう。
したがって、本当に我々が人間のためを思うならば、一度この地を離れるしかないのだ。だから、我々は新たな地で生活し、新たな生き方を見つけようではないか」 サンエバーの話は終わった。他のアンドロイド達も人間とアンドロイドとは性格が根本的に違うと皆悟ったため、サンエバーに反対するものはいなかった。
次の朝、アンドロイドは地球上から一人残らず消えた。
さらに、アシモフ研究所の宇宙船も数多くあったが、一つ残らず消えていた。 研究所には機械音でざわめいたいつもの活気はもうなかった。ただ、淋しく風で木の葉が揺れる音が聞こえるだけであった。
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