第12話 アンドロイドの苦悩
しかし、アンドロイドとの生活はいいものだけではなかった。まずは教育である。
人間嫌いや学校が嫌いなものは学校へ行かなくなったのである。なぜなら、勉学は家庭のアンドロイドに教わればよいからである。さらに問題なのは勉強すらしない子ができたのである。つまり、大人になっても仕事をしなくてもいいからである。自由というものにはこんな弱点があった。
次は、男女関係のトラブルである。恋人同士の二人は最初はアンドロイドによって仲良くなったのだが、その女性は急にアンドロイドのほうがいいと言い、男性型アンドロイドとくっついてしまった。アンドロイドといると心が和むのである。さらにアンドロイドと結婚したいという女性も出てきたり、アンドロイドとくっつくために離婚までする者も多かった。
その結果、当然アンドロイドに恨みを持つ男性が多くなった。これは重大な問題である。
サンエバーはそのような問題を解決させるため、男性のところへ女性型アンドロイドを派遣させてなんとかしのごうと思い実行した。しかし、効果は薄かった。
次は経営者とアンドロイドとのトラブルが起こった。最初はゴルフ場の開発である。なぜゴルフ場が問題となったかというと、遊ぶ人が多くなったため、レジャー産業が儲かるということである。しかし、ゴルフ場は膨大な環境を破壊するため、アンドロイドは自然は貴重でむやみに破壊するのはよくないと主張したからである。レジャー産業をするなら、遊園地をアンドロイドは勧めたが、経営者は納得がいかない顔色をしていた。その理由は、道具と思っていたアンドロイドに反対されたからである。
さらに、他の企業でも、アンドロイドが自分の意志で行動する時もあるので、社長の意思がすべてとおるわけではないので、アンドロイドはだんだん煙たがれるようになった。
次はクリスが働いている病院内の出来事である。クリスは今まで見てきた患者の中で、九割九分以上の患者を完治させていたため、患者だった人は、お礼の品として、粗品や金銭を渡そうとするが、クリスは自分がしたことは当り前であると言い、自分自身は金は使い道がないので、御礼の品は拒みつづけていた。
アンドロイドとは対照的に、人間の医者は、粗品はもらって当然であると考えているため、人間の医者はもらっていた。
そのせいで、患者は人間の医者より、アンドロイドの医者を選ぶようになり、その状況を知った人間の医者はアンドロイドに嫉妬し、なんとか足を引っぱろうとしていた。
その結果、あるアンドロイドが担当している患者の中で点滴をしていたものがいたが、その点滴の中にトリカブトが入っていたため、その患者はなくなってしまったという問題が起きた。その患者を担当していたアンドロイドはすぐさま解雇されスクラップにされた。そのトリカブトはアンドロイドに嫉妬した医者が仕組んだことであるが、アンドロイドが責任を取られたことになった。
次は遺産の問題である。ある男性の老人がなくなり、その老人には妻も子供もいないため、今まで尽くしてくれたアンドロイドに遺言により遺産が相続されてしまったことである。
そのことにより、その老人の親族は怒っていた。自分たちには遺産が少しも配られなかったからである。アンドロイドへの遺産は法律的には正当であるが、その親族はアンドロイドに遺産を奪われたとマスコミに発表したため、マスコミはアンドロイドは遺産を狙っていると警告した。アンドロイドは思ってもいないことを言われたため、遺産を全額国に寄付した。そのことによりアンドロイドに対する批難の目は避けられたが、疑問の目までは避けられなかった。さらに親族はこの処置をされたため自分たちに財産がまわらなかったので、アンドロイドに対して激怒して収まることはなかった。
その次は経営者が政治家に賄賂を送ることに、秘書のアンドロイドに反対されたことである。経営者は賄賂は企業では当り前だというが、アンドロイドは不正は不正であると主張し、さらに不正行為をしなくても金銭は入るのだから必要ないと主張した。
このような事が様々なところで生じたため、経営者にとってアンドロイドが不快な存在となってきた。特に、大手企業にとってはそうである。しかし、社員の大部分はアンドロイドで占められているため、経営者にとっては自分の都合通りの経営ができなかった。
さらに、議員の秘書をアンドロイドが行っているところでも当然賄賂が問題となってきた。アンドロイドが議員に賄賂をさせないのである。
では、アンドロイドが経営者の社長になればいいのではと考える者も多いかもしれないが、基本的には、アンドロイドは経営者のトップにはなれないのである。なぜなら、アンドロイドが中心の会社ができれば、人間の会社より業績が爆発的にいいため、人間が儲かることができないからである。だから、アンドロイドはあくまでも人間社会の中で人間を盛り立てる役であるため、補佐役がアンドロイドにとっては転職である。ただ、アンドロイドを製造するアシモフ研究所だけが特別なのである。
それはさておき、このようにアンドロイドにとって大変な事件がおきている中、さらに大変なことが起こった。ある三流会社の出版社が次のような見出しを出したのである。
“我々人間社会がアンドロイドに乗っ取られる”
というものである。記事の内容は、アンドロイドが社会進出し、人間社会を征服しようとしているという内容である。
アンドロイドにとっては冗談ではないという思いにかられても、実際は相当な数が社会進出をしているため、確かにアンドロイドが人間社会をコントロールしている部分は数多くあった。しかし、アンドロイドはあくまでも人間のためや、大事なもののために動いており、決して私利私欲に走っているわけではないのだが、人々はそう思っていないのが現実であった。
そして、その記事は反響を呼び、アンドロイドに対する批判が高まった。アンドロイドはもっと人間の言うことを聞くべきだとか、人間社会を征服するのが目的なアンドロイドは社会から追い出せとかなど、人々はアンドロイドによって自由を手に入れながらも文句を言っていた。
そして、アンドロイド批判を記事にして成功したその三流出版会社は、調子に乗ってさらに批判をした記事を載せた。内容は、例えばアンドロイドは老人や子供をマインドコントロールしているとか、なんでも自分が正しいと思っているとか、経営者に賄賂を進めたなどと、でたらめな現実にないことまでも平気で記事になった。
アンドロイドが今まで一生懸命に人に尽くした結果がこれであった。
このでたらめな記事が広まったことにより、全体の一割ほどのアンドロイドが、壊れた。アンドロイドにとってこの辛い記事による社会の反応を処理できないアンドロイドは回路に異常が生じ、心臓とも言える基本プログラムが破壊されたのである。
そして、所有していたアンドロイドが壊れた所からも不良品を渡すなという苦情が出た。
さすがにサンエバーを含め、アンドロイドたちは悩みに悩んだ。このまま耐えるべきか、反論するべきか、人に尽くすのをやめるべきかと。
サンエバーは状況把握をするため、アンドロイド全員の話を端から聞きそのアンドロイドたちはそれぞれ次のようなことを報告した。
「サンエバーさん報告します。うちの会社では我々は社長を盛り立てていますので、社長は不満を言っていません。しかし、その職場の人間からは嫉妬され、あの記事によって批難されています」
「サンエバーさん報告します。うちの家庭では子供たちは親よりもアンドロイドの私に好意を持っているので、その親から厳しい目線で見られ、あの記事により、親は私と子供の仲を切り裂こうとしています」
「サンエバーさん報告します。うちの家庭では私が来るまでは喧嘩が夫婦間でも親子間でもありましたが、私が全員のフォローをしたため、今は仲のいい家庭になりました。しかし、あの記事のせいで、家庭全員から私の事を白目で見ています。私の努力は何だったのでしょうか」
「サンエバーさん報告します。私が配属している家庭では私の事を単なる機械だと思われています。ですから、家庭の中からは人間の事に関して口を出すなといわれています。でも、私はこの家庭では口を出していませんし、アンドロイドは便利で役に立つと思われていますのでさほどたいした問題は起こっていません」
「サンエバーさん報告します。うちの会社ではあの記事の影響はありません。うちの社長はアンドロイドの存在を認めてくださっていますので、私は不自由な思いをしていません」
「サンエバーさん報告します。うちの会社は一流新聞社ですが、あの記事に関しての意見が様々でして、アンドロイドはそこでかなりの人数が活躍しているため、新聞には変な記事は出ませんが、ただ、アンドロイドに対しての人の態度が以前より冷たくなっているのを感じます。警戒されているのでしょうか」
「サンエバーさん報告します。うちは福祉施設で働いていますが、我々アンドロイドの献身的な行動に初めは感謝されていたんですが、だんだん当り前だというふうに思われ、あの記事により、我々に対して、風当たりが強くなってきた感じがします」
「サンエバーさん報告します。我々アンドロイドは人間の人生を自由にしましたが、本当にそれで良かったのかはわかりません。ただ、遊んでいる者にとっては、あの記事はどうでもいいと思われています」
などという情報がサンエバーのほうへ電波で入ってきた。
今の状態ではアンドロイドの行動範囲が狭くなるわけではないが、疑問を持ち始めた人もかなりできたようで、とにかく厳しい状況になり、アンドロイドにとってはまったく油断ができない状況になっていた。 しかし、サンエバーは人類への奉仕をやめたら、今までの自分たちの行動や、自分たちの存在が無意味なものとなってしまうと思ったため、しばらく保留することにした。
しかし、次もアンドロイドにとって大変な事が起こった。あの三流出版社が次のようなことを記事にしたのである。
“アンドロイド同士の格闘の観覧近し。”
というみだしで、通常の人間の格闘家の試合よりもさらにすさまじい試合になるだろうという評論まで出ていた。
この記事はアンドロイドの承認は得ていないものであったが、民衆の九割以上がアンドロイドの格闘試合を見たいと思っており、一流の新聞にまで記事にされて、サンエバーは冗談じゃないと思ったが、マスコミの力は凄まじく、アンドロイドは人々の要求にはできるだけ答えなければならない運命にあり、なおかつ汚名の返上を行うにはこの機会しかないとサンエバーは思ったため、これを行わざるを得なかった。
そこで、サンエバーは考えた。
(格闘試合に出場させるアンドロイドの命の保障はどうすべきか。我々は人間のように権利があるわけではない。・・・・・・そうだいい事を思いついた。)
そして、サンエバーはある考えを秘めながら、一番条件がよかったポット企画会社と共同で格闘試合を開くことを決断した。
その後、サンエバーは、自分が選んだ二人のアンドロイドと打ち合わせ、試合当日を迎えた。
“アンドロイド格闘試合開催” と、マスコミにも報道され、会場は超満員であった。観客は興味深々で迫力ある試合を期待していた。
ついに始まった。最初は人間の格闘試合を前座でやって、観客の興奮が冷めないままメインイベントが始まった。二体のアンドロイドはゴングと同時に戦闘を開始した。
二人は体の重心を素早く動かせながらパンチやキックを応酬し、その動きは人間の目でははっきりと見えないぐらいの速さであり、二人の体がぶつかる衝撃音も、「がしゃ」とか「ぐしゃ」と言うような音が鳴り響き、また、攻撃をかわした時の空を切る音も寒気がするぐらいに伝わってきた。観客はこの光景や音に興奮し、殺気立っていた。
アンドロイドの試合はインターバルはなく、時間も決まっていないため、どちらかが再起不能になるまで闘うことになっていた。そのため、時間は、十分、二十分、三十分、一時間、二時間、三時間と永遠に続いた。それでも二体のアンドロイドの戦闘は、スピードもあれば音の迫力も衰えない。しかし、この時間の長さに観客も疲れてきた。
さらに時間が経過した。戦いは十時間を越えた。観客の中で疲れて倒れこんだものや、眠ってしまうものが大勢でたので、試合は中断され引き分けとなった。客はさすがに疲れたのか文句を言うものはいなかった。客の感想は試合が長すぎて疲れたということであった。
この結果はサンエバーの計算通りであった。二人の生命を守りつつ、客に文句を言わせないようにするため、サンエバーは二人のアンドロイドに八百長試合をさせたのである。つまり、二人のアンドロイドは手を抜いて戦っても、人間には迫力は伝わるので、観客は文句を言わず、さらに客の中で試合を十時間以上も集中して見れるものもそれほどいないので、長時間戦闘をさせ引き分けに持ち込めば、二人のアンドロイドの命も助かるというわけである。
とりあえず、今回はなんとか難を逃れた。また、これを繰り返せばアンドロイドの格闘試合は勝負がつかないため、観客はこの引き分けに対し面白さが半減するため、この企画はつぶれ、アンドロイドは格闘をしなくてもするだろうと予測していた。 しかし、ポット企画会社はとんでもない情報とアイデアを持ってきたのである。ポット企画会社の営業部長が電話をしてきた。
「私はポット企画の部長のタリタンといいますが、サンエバーさんはいらっしゃいますか」
ジースは電話に出て、 「少々お待ちください」 と言い、サンエバーと変わって、 「もしもし、ただいま変わりましたが」
「サンエバーさんですね。この前の格闘試合はなかなかのものでしたよ」
「ありがとうございます」
「しかし、決着がつかなったところが残念な点なのですが」
「そうですか。しかし、アンドロイドは体力は減りませんし、回路が壊れない限りダメージはありませんから」
「そうですか。そこでですね、私によいアイデアが浮かびましたので連絡した次第でございますが」
「どういうアイデアですか」
「武器を使うという事です」
このセリフを聞いてサンエバーは嫌な予感がした。タリタンは話を続けた。 「その武器とは、レーザーソードです。故アシモフ博士がさらわれた時に、ブラックシャドウが開発したものです。あなたも博士救出のために特別参加で警察に助力したと聞いています。そのレーザーソードはアンドロイドの体に傷を作るという優れものだそうです。それを使って勝負させたらいいと思いますがどうでしょうか」
「しばらく考えさせてください」
サンエバーにとって、このことは難題であった。レーザーソードの切れ味は体を傷つけるだけでなく、アンドロイドを死に至らしめるほどの破壊力を持っているのである。肉体同士の戦いなら問題はないが、レーザーソードを使うとなると、ちょっとした計算違いの動きでアンドロイドの体に傷がつくのみでなく、場所によっては回路が切断されたり、基本プログラムの破壊につながるのである。よって八百長試合といってもアンドロイドが無事である確率は低いのだ。
サンエバーは考えに考えた末、答えた。
「その企画はできるならば破棄できませんか」
「なぜですか。面白い企画と思いますが」
「それは人間は面白いと感じるかもしれませんが、アンドロイドは違うのです。自分の仲間を死なすことはできません」
「そうですか。しかし、アンドロイドが大量に生産され続けるわけですから、少しぐらい減っても問題はないのではありませんか」
「それもできません。アンドロイド一体に費やす労力と資源は並大抵のものではありませんから」
「では、私どもの企画には協力できないという事ですか」
「そうです」
「わかりました。それならあなたの会社との交渉は中断しましょう。代わりにわが社で働いているアンドロイドに協力してもらいますので、それなら問題ありますまい」 「それも納得できません」
「なぜです」
「そのアンドロイドも仲間ですから」
「そのような私的感情を持たれると営業はできないじゃありませんか。それに、わが社で働いているアンドロイドは、わが社で働いているから我々の営業方針にサンエバーさんは反対できませんよ」
「私が反対しなくても、あなたの会社のアンドロイドが反対するでしょう」
「ということは、我々のアンドロイドが反対しなければ試合をすることをサンエバーさんは認め、さらに我々のすることに関与しないという事ですね」
「そうです」
「わかりました。では、我々はそのような方針で企画を進めます」
そして、ポット企画会社は自分のアンドロイドの社員を戦闘させようとしたが、数十人中全員が辞退した。そこで、ポット会社はとんでもない企画を打ち出した。次のようなことを発表したのである。
“アンドロイド格闘トーナメント出場参加者大募集中” 問いうみだしで、記事内容は次のようなものである。
『各家庭のアンドロイドの参加を募集しています。優勝賞金は百万ギルです。このチャンスを逃すべからず』
ポット企画会社はなにがなんでもアンドロイド格闘試合を実現させつづけたいようであった。
そして、その企画により、アンドロイドがいる全家庭がもめた。出場し、優勝すればまさに一攫千金という話である。しかも苦労はない。よって、九割以上のほとんどの家庭がアンドロイドに参加しろと言ったが、参加すると答えたアンドロイドは一人もいなかった。死ぬまでやるというデスマッチのため、参加したら生き残るのは優勝者のみだという事もアンドロイドは知っていた。
このアンドロイド格闘試合の件で、人間とアンドロイドとの関係がさらに悪化していった。
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