第11話 アンドロイドとの家庭生活

 人々は自由になったことにより、様々な社会現象が起こった。

 まず一つは、強盗による犯罪が減少したことである。自然に生きるだけで金銭が手に入るからである。

 二つ目は、人は仕事などのストレスから解放されたことにより、精神に関するうつ病や不眠症などの患者が減ったことである。当然がん患者も減った。

 しかし、いいことばかりでなかったのも事実だが、人々はその自由をどう使うか戸惑っている人々も多かった。

 ここで、アンドロイドが関わったいくつかの家庭を覗いてみる事にする。

 ある二十代の若夫婦の家庭に男性型アンドロイドが入ってきた。そのアンドロイドは自己紹介をした。

「私はジョニーです。よろしくお願いします」

 ジョニーは早速この家でやって欲しい事をその若夫婦に聞いてみた。その妻が答えた。

「そうね。掃除・洗濯は毎日やってちょうだい。できれば料理もお願い。後はその時に言うから」

「わかりました。後、夜のご主人様と奥様の共同ベッドの部屋の明かりは暗めにしておき、香水もかけて起きますので、夜のお仕事がんばってください」

 主人はアンドロイドの気遣いに大声で笑った。

「なかなか気が利いているなお前。それもよろしく頼むよ」

 この家族は特に仕事をしているわけではないので、一日中遊んでいた。晴れの日はデートをしたり、雨の日は家の中でゲームをやるといった毎日であり、そろそろ子供が欲しいといっている二人であった。また、家の仕事はアンドロイドがやるため妻が夫に責められるわけでもなく、夫は、金が自然に入るため仕事をする必要がないどころか、お金が余るため遊んでいても妻に責められないのである。この夫婦は今のところはたいした喧嘩もなく、幸せであった。

 次の家庭は、また二十代の夫婦だが、今度の夫婦は喧嘩が絶えない毎日を送っていた。お互い不倫をしたとかしてないだとか、好みが違うだとかが原因である。そこに男性型アンドロイドが入ってきた。

 そのアンドロイドはこの光景を見て仲裁に入り、こんな夫婦にこういった。

「何十億という人々がこの世にいる中で、縁逢って二人は結ばれました。ですから、お互いが尊重し、分かり合おうとすれば、あなた方二人は素晴らしい夫婦になると思います。意地の張りすぎです。奥さんはいつも不倫とか言って御主人を困らせているのは、ご主人が自由になっても会社で働いているから淋しいのでしょう。もっとご主人を信じてあげてください。好みが合わないことに関してはある時はご主人様が引き、またある時は奥様が引く。それでもだめならじゃんけんをするということが一番いいと思います。まず、意地の張り合いや、相手を突っ込むことはやめましょう。せっかく愛し合った二人なのですから喧嘩を毎日するよりも、お互いを誉めて抱き合っているのが一番いいのではないでしょうか」

 この夫婦はアンドロイドが説得することによりお互いを理解しようとする傾向が見られるようになり、最後には喧嘩は消えた。

 次の家庭は、三十代の夫婦で子供は男の子一人である。ここではまた違う問題が起きていた。そこに男性型アンドロイドが入って順調だったが、子供が急に小学校を行かなくなったのである。その子供本人は学校でいじめられて学校嫌いになり、勉強はアンドロイドが教えるから学校なんかテストの時だけ通学すればいいというケースになっていた。

このケースはかなりの家庭で起こっており、社会問題の一つとなっていた。アンドロイドのいる学校にはアンドロイドを通して話をつけやすいが、アンドロイドがいない学校はなかなか話がとおらない場合が多かった。

その親はとりあえずその親とアンドロイドは担任の先生と話すことにした。

 担任の教員は、

「イジメも勉強のうちです。自分自身の身を守るには自分自身の力で守らなければなりません」といい、主人は頭に来たのを抑えて言った。

「それは自分がいじめに関わりたくないという逃げですね」

「しかし、イジメといっても私が見ている限りでは、ただのじゃれあいにしか見えませんよ」

 これを聞いてアンドロイドが言った。

「いじめる側は先生に見つかったらまずいから先生の前ではただのじゃれあいに見せているだけです。あなたはいじめの実態を知らないんですか。金を巻き上げたり、脅されたり、トイレ中で蹴られたりされるんですよ。これがじゃれあいと言うんですか」

 教員は少し青筋を立てて言った。

「アンドロイドのくせしてわかったような事を言うんじゃない」

 そこで、主人は完全に切れて、怒鳴り声で、

「ふざけるな」と言い、教員の胸元の服をつかんでガンを飛ばして、

「アンドロイドの言ったことは正論だ。あんたはそれでよく教員になれたね。教育の信念などまったく感じない。お前は何のために教員になったんだ」

「そんなことを言ってもいいんですか。内申書に響きますよ」

 すると、アンドロイドが冷静に迫力のあるゆっくりとした声で言った。

「文部省にいるアンドロイドに連絡して、あなたを退職させることもできます。それでもいいんですね」

 これを聞いた教師はあわてて、

「いや、それだけはご勘弁いただきたい」

 アンドロイドはすかさず言った。

「ではいじめの件は何とかしますね」

「はい。私なりに努力してみます」

 しかし、まったく改善されなかったため、文部省からもクレームがつき、その学校にもアンドロイドが勤務することになり、そのアンドロイドによっていじめは解決された。

 次の家庭は、三十代後半の夫婦と女の子供が二人であった。そこに男性アンドロイドが生活の中に入り込んだ。

 ここの家族はお互いさめていた。主人は今まで働いていたのが今になって家でごろごろするようになり、妻はそんな亭主の扱いがめんどくさくなっており、子供はやる気のない親を見て離れた目で見たため、一家離散の危機であった。

 しかし、アンドロイドが入ってこの一家の状態が変わった。アンドロイドは親と子供を集めて毎日話をし始めた。冗談話から始まって、哲学的なことを加えながら物語まで話し始めた。

 それを毎日続けていたら、家族が徐々に打ち解けあい、家族で一緒にいることが多くなり、自分のことを家族がしゃべりだしたため、家族の中にあった境界線はなくなった。その後、いろんな事にめんどくさがっていた父親が、家族を誘って旅行をするという場面まであった。

 この家族にほのかな光が芽生えてきた。

 次の家庭は、四十代で、子供は高校生の男子が人いた。しかし、その高校生には親もまったく手出しができないぐらいの荒れようで、学校には行かず、いつもゲームセンターで遊んだり、他の人と暴力を使ったけんかをしている状態であった。

 その家庭の親は子供の将来が心配でアンドロイドを入手して何とかしようと考えていた。そして、そこに来たのは女性型のアンドロイドで、名前はマリーといった。親がマリーに息子のことをお願いすると、マリーは、

「わかりました。何とかがんばってみます」と言った。

 すると、そこに高校生の問題児がやってきて、その問題児は女性型のアンドロイドを目にして言った。

「そこにいるのはアンドロイドか。なんか人間っぽいな」

そこでマリーは自己紹介をした。

「私はマリーといいます。ちょっぴりお茶目なかわいい女性型のアンドロイドです。あなたは?」

「マナブというけど、お袋、これは一体どういう事だ」

「別にたいしたことじゃないわよ。うちもアンドロイドが欲しかったから」

 マリーは学ぶに言った。

「これからもよろしくお願いします」

 マナブは戸惑いながら、

「お、おう、よろしく。なんか調子狂うな」

 そのあと、マナブが自分の部屋へ歩き、マリーもついていき、言った。

「ここがあなたの部屋ね」

「勝手についてくるなよ」

「なんで。・・・あ、わかった。学君って照れ屋なんだね」

「そうじゃねえよ。人の許可なく人の部屋に入り込むんじゃねえ」

「ところでさあ。何か話そうよ」

「話を変えるんじゃねえ」

「いいじゃん。そんなこと。君って女の子と同じ部屋に入るの初めてでしょ」

「お前はアンドロイドだろ。人間になった気でいるんじゃなえよ」

「ま、それは置いといて」

「置くなよ。一体お前は何なんだよ」

「アンドロイドだよ。プリティータイプの」

「自分でプリティーって言うなよ。それにそんなことはわかっている」

「この部屋を見回したら女性ポスターだらけだね」

「勝手に見回すな」

「女性に優しくされたいんでしょ」

「うるさい」

「私でよかったら練習してみる」

「余計なお世話だ。しかもアンドロイドは本物と違うし」

「まあ、今日は許してあげる」

「俺は何もしてないぞ」

「じゃあ下で晩御飯を作ってくるね」

「おい、ちょっと待て」

 その夜は、マリーが晩飯を作り、マリーはマナブにまた話しかけた。

「ねえ、マナブ君。おいしいでしょ」

「う、うん、まあな。それより、親父、お袋、何とかしてくれよ。このアンドロイドはいつまでまとわり続けるんだ」

母親が答えた。

「ずっとよ」

 マナブは驚いていった。

「ずっとだと。親父、何とか言ってくれよ」

「いいじゃないか。いいコンビだぞ」

「よくねえよ。なんか今までの自分のペースが崩れてくる」

 マリーは言った。

「それなら自分のペースを新しく変えたら」

 マナブはマリーに激怒して言った。

「全部お前のせいだぞ」

「じゃあ、今までの自分のペースは本当に良かったわけ。そのペースならかっこいいわけ」

「うるせえ」

 マナブは机に手のひらで叩いて、自分の部屋へ帰った。

 マリーはあわてて学ぶの所へ行って、

「さっきはごめんなさい」

「もういいよ。図星だったから頭にきただけだ。そう、今の自分ってかっこ悪いから。」

「マナブくんって優しいんだね。もっと怒鳴られるのかと思った。けど一人で考え込まないで、何か辛いことがあったら私に言って、なんでも相談に乗るから。愚痴でもいい」

「ありがとう」

 マナブはマリーによって、荒っぽい性格が消えていった。それからのマナブは学校にも行くようになり、行事にも積極的に活動し、彼女もできた。そのことにより性格は明るくなり、親もこのことには感謝していた。

 と、このようにアンドロイドは各家庭の中へも溶け込んでいった。

 次は息子と別居している七十代の老夫婦の中に女性タイプのアンドロイドが入ってきた。

「今度おせわになりますミーコです」

 老夫は言った。

「お世話なんてとんでもない。お世話になるのはこっちのほうです。まあ、とにかくよろしく」

 老母は寝たきり状態で老夫が看病しているところだった。その老夫も、看病するのも限界があったので、アンドロイドに看病を手伝ってもらった。

 老母はゆっくりと喋った。

「あんたがアンドロイドかい。よろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

 ミーコは一日中老母のところに付き添った。話を聞いたり、体を洗ってあげたりした。さらにリハビリにも挑戦した。

 老母は言った。

「あんたはいい人だねえ。いろんな事をしてくれて」

「いえ、これが私の使命ですから」

 老夫はミーコに言った。

「ミーコちゃん。わしの妻も元気が出てきたし、わしも休憩を取ることができる。助かったよ。毎日大変だけど、がんばってくれや」

 ミーコは老夫婦との絆ができた。

と、このようにアンドロイドは各家庭の中へも溶け込んでいった。


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