第10話 アンドロイド問題

 アシモフが他界した事により遺産相続の件が問題になった。アンドロイド派兼業による利益は国家予算の一割に相当する金額なのである。遺言書ではすべての財産はアンドロイドのサンエバーが引き継ぐ事になった。このことにより、サンエバーは教員を辞め、アンドロイドの生産及び派兼業の社長になった。しかし、世間ではアンドロイドが財産を持つ事に関して議論されていた。

 過去では、ペットが遺産を相続した例はあるが、今回は財産の規模がまるで違うのである。そこで、マスコミはアンドロイドにはそんな莫大な財産が必要なのかという事を突っ込んだ。

 サンエバーにとっては遺言通りであるため、文句を言われる筋合いはないのだが、人類に奉仕するはずのアンドロイドが財産を牛耳るのはおかしいと回りの人間は騒いでいた。

確かにサンエバーにとっても財産は余りに余っているので、マスコミにこう言った。

「我々アンドロイドは、あくまでも人類に奉仕する姿勢でいますので、財産の大部分を福祉や人類問題に関わる事にまわしたいと思います」

 福祉に関しては、老人ホーム、介護サービスや、年金の増加、という内容であり、人類問題では、二酸化炭素を固定化して温暖化対策に打ち込む機関を作り、また、無料のゴミ処理機関の設置をしたりした。食料問題に対しては、栽培会館という何重にもなる構造の建物の中で、ソーラーパワーを利用して、各階ごとに様々な野菜や果物の栽培が行われるという施設を設置したりした。

 アンドロイドはこのような活動を自らの資金で行うため、財産に関しての問題は回避できた。

 しかし、アンドロイドによる社会問題がここにきて浮き彫りになってきた。

 アンドロイドを大量生産することによって、一つの職場にはアンドロイドが二体三体ぐらい入ったことにより、人が失業するという大問題が生じた。

 アンドロイドは仕事に対して意欲的で、他の人より合理的に行い、能力があって要領がいい。そのためか、人間三人より、アンドロイド一体のほうが会社にとってはいいと、経営者が判断したため失業になったものは多数出てきた。

 このような事件が起こった頃は、ハンスはある会社の事務・経理を終えて、与党のホルンという政治家の秘書になっていた。ホルンは、この事態をどのようにするかをハンスに問うた。

「おい、ハンス。この失業問題に対しどういう処置をとったらいいと思うか」

「失業保険を大幅に上げるしかないですね」

「その資金はどこから手に入れるのかね」

「アンドロイド税というのはどうですか」

「アンドロイド税?」

「そうです。アンドロイドを所有している企業から税金を取り、アンドロイドの収入からも税金を取るということです」

「なるほど、とにかくこの政策に穴はないかね」

「大丈夫だと思います」

 そして、ハンスはサンエバーに電波を飛ばした。

「サンエバー、失業問題についてだが、このような政策でいいか。そちらのほうも損をするのだが」

「金の心配なら問題はないが、あまりいい予感がしない」

「そうだが、でも、今の事態を乗り切るにはこれしかないだろう」

 そして、失業者には失業保険により金銭が与えられた。しかし、一筋縄ではいかない。国民の中でいろんな批判が出た。

「失業保険が少ない」

「どの人にもアンドロイドを手に入れられないのは不公平だ」

と、いった類の文句であった。

 これに関して、ホルンはハンスに問いただした。

「一般庶民がアンドロイドを扱いたがっていることはどうすればいいんだ」

「そうですね。時が来ればすべての家庭にアンドロイドを格安の値段で派遣するというのはどうです」

「それでは企業からのアンドロイド税と家庭からのアンドロイド税に差ができてしまってまずいのではないか」

「大丈夫です。アンドロイド税の負担については、アンドロイドをビジネスなど利益を生むことに使用した場合、利益の程度により税の負担額が決まるというふうに明確にしとけば大丈夫だと思います」

「そうか。あと、失業保険の増額について採算は合うのか」

「採算は合います。普通の生活ができる水準まで持っていっても大丈夫です」

 ハンスは、ホルンとの話が終わり、サンエバーにこのことを話し、意見を求めた。

「なるほど、わかった。しかし、ハンス。アンドロイドを格安の値段で派遣するという事は、失業保険により収入を得た人々がアンドロイドを借りるために金を出すということは、アンドロイドが稼いだ金を保険という形で住民はもらい、その金でアンドロイドを借りるために金を払うのだから、アンドロイドを無料で提供するのと同じではないか」

「いや、少なくともアンドロイドが欲しい人だけアンドロイドを手に入れればいいし、そのシステムなら経済の循環がとまることもあるまい」

「それはそうだが、一般の人は我々アンドロイドを保有するには資格が必要なはずだ。それはどうするんだ」

「資格なら、資格試験を作ればいい」

「試験形式にするのか」

「そうだ」

「なるほど」

 そして、失業した者に対し、失業保険が増額された。しかし、しばらくして、また問題が起こった。失業保険の額と実際に働いているものの給料がさほど変わらないのである。よって、仕事をしたくないものは苦労もせずに金銭が入る失業保険を当てにして会社を辞めるものが続出し、働きたい者は、一生懸命に働いた結果が、働いていないものと得られる金額の差がないため、働いた意味がないという不満が発生した。

 ホルンはハンスに問い掛けた。

「おい、ハンス、この問題でまず会社を辞めて遊ぶものが続出したことにより、完全雇用達成率は激減する。この点についてはどうすればいい?」

「完全雇用の達成というのは全家庭が仕事により金銭が手に入り、生活ができるようにという考え方から生まれたものです。仕事がなくても生活ができるならば、完全雇用の達成という目的はいらなくなるのではありませんか」

「なるほど。仕事をしたものとしない者との手に入れる金銭の差があまりないということについてはどうだ。また、仕事をしたものの税が、仕事をしないものへの保険に当てられるというのも問題ではないか」

「所得税の大幅減税しかありません」

「それで本当に採算が合うのかね」

「アンドロイド税がありますので問題ありません」

 そして、ハンスの言ったこの政策はホルンの政策として採用され、実行された。さらに同時に、アンドロイドをどの家庭でも利用できるようにするため、アンドロイドの使用にかかる費用が格安となった。激減した人間の労働力は、アンドロイドにより補う形となった。このことにより、人々の生活様式が変わり始めた。

 どのように生活様式が変わったかというと、人々は好きなことをし始めるようになった。絵画や音楽などの芸術分野をしたり、スポーツやゲームなどをしたりなど、自分の趣味や遊びを行ったりするようになった。また、仕事をしたい者はアンドロイドを社員にして営業するものもいた。家庭では、アンドロイドが掃除、洗濯、料理などをすべて行うため、主婦は自由な時間をもてるようになった。

 そう。まさしく人々はアンドロイドによって自由を持つようになった。


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