第8話 アシモフさらわれる
アンドロイドフェスティバルから五年半がたち、ノーベル賞受賞からは一年半が経った。アシモフはアンドロイドの需要が後を絶たないため、自分の敷地内に工場を設け、大量に生産していた。この頃にはアンドロイドはすでに五十五万体を超えた生産がなされていた。
アンドロイド派遣業は軌道に乗り、アンドロイドが稼いだ金はアシモフが受け取り、アンドロイド生産の資金として使われていた。今日のアシモフもいつもどおりコーヒーを飲みながら面会人と会う用意をしていたが、事件が起こった。
アシモフはいつものようにサンエバーたち出勤するのを見送り、ジースから面会人が来たという連絡を受け玄関まで行った。外の様子をモニターで見ると玄関の前に男が四人立っていた。その男たちの身なりは黒いスーツできちんとした格好をしていた。怪しい様子もないので外の玄関を開けた。
「用件はなんでしょうか」
面会人の一人が答えた。
「ロボット工学の権威であられるアシモフ博士に直接お話を伺いにまいりました」
「今日はあなた方と会う予定はありませんが」
「今日は直接会って、今後話す機会を持ちたいと思いまして、博士の都合をお聞きしにまいった次第ですが」
「そうですか、今はちょうど三十分ぐらい空いていますので、それでいいでしょうか。」
「ありがとうございます」
「では中へどうぞ」
面会人の四人が部屋に招かれた。その時、突然、アシモフは急に意識を失い倒れた。面会人の一人が、アシモフの首に麻酔針を打ち込んだからである。中にいるジースは慌てた。
「博士。どうしたんですか博士」
ジースがアシモフの体をゆすってもアシモフは反応しなかった。面会人の一人は言った。
「今すぐ我々の車で病院へ運びましょうか」
ジースは答えた。
「いいえ、何が起こるかわからないので博士は我々アンドロイドが運びます」
すると、その四人の中の一人が、レーザーソードという熱と摩擦力で切る剣でジースに切りつけてきた。ジースは、アシモフの事で頭がいっぱいだったので、相手がレーザーソードで攻撃に対し反応が遅れ、両足を切断された。その後、その四人はアシモフを強引に連れて、車でどっかにいってしまった。ジースは、すぐサンエバーに発信した。
「サンエバー、大変だ。博士がさらわれた」
サンエバーは内心動揺しながらも冷静を保つように自分に言い聞かせながら言った。
「本当か。ジースはどうしたんだ」
「油断してレーザーソードで両足を切断された」
「わかった。今すぐ帰る。受信機で博士の居場所を確認してくれ」
応接室で動きが取れなくなっているジースは、すぐに研究所にいる他のアンドロイドに両足をなおしてもらい、受信機で、アシモフの居場所を確認した。場所はとんでもないところであった。
ジースはモグリにも連絡した。モグリは答えた。
「何、それは本当か。ちょっと待っててくれ」
数分後、モグリは、ジースに言った。
「すまん。さっきは会議中だったので、それで、場所はわかったか」
「わかった」
「こんなときのために博士に発信機をいつも身につけさせておいてよかったなあ」
「そんな悠長な事は言ってられないぞ。発信機の位置は最悪のところだ。ブラックシャドウの本拠地だ」
「なに!」
ブラックシャドウは過激派テロリストの名前であった。
「博士に何かあったら大変だ。マーク警部に連絡して、出動するぞ。ジースも来てくれ」
ちょうどその時サンエバーが帰ってきた。
「モグリ、このサンエバーも行くぞ。行ってもいいか」
「もちろんだ」
そして、夜、モグリと待ち合わせをした場所にジースとサンエバーが到着した。警察から出動するメンバーは、マーク警部を中心に警察官百人と、サンエバー、ジース、モグリを含めたアンドロイド部隊十二体である。
マーク警部は勇んでいった。
「これからアシモフ博士を救出し、ブラックシャドウの親玉を逮捕する。心の準備いいか」
「オー」
すぐさまサンエバーたちは車でブラックシャドウの本拠地まで行った。
一方、アシモフはブラックシャドウのボスのところに連れてこられていた。ボスは言った。
「アシモフ博士。ようこそ来て下さった」
「わしは来たくてここに来たわけではない。なぜわしをここに連れてきた」
「それは、そこにあるアンドロイド三体を、我々の下僕として扱う事ができるようにしてほしいからだ」
「そんな事できるわけなかろう。アンドロイドを使って、何をたくらんでおるんだ。世界征服でもたくらんでいるのか」
「それは、博士には関係ないことだ。言われた通りにしていればいいんだ」
「断る」
「そう言うと思った。それではあなたを洗脳させていただこう」
再び、麻酔針がアシモフの首に打たれ、一人の男が倒れないように担ぎ、ベッドに寝かせ、洗脳するためバイオチップというものをアシモフの頭に埋め込まれた。アシモフは、しばらく眠った後起き上がって、そのアンドロイド三体のプログラミングを変えた。
アシモフは一つの疑問が浮かび上がった。なぜここにアンドロイドが三体あるのか。通常ならアンドロイド監査士の許可をえなければならないはずである。アシモフはボスにその事を聞いた。ボスは答えた。
「アンドロイドを持っている者から高額な金で買ったんだよ」
アシモフはそれ以上言えなかった。言おうとすると頭痛がし、元の自分に戻ろうとすると精神が引き裂かれそうな気分になるのである。ボスは、アシモフの様子からして、まだ正気なところがあると思ったため、部下にもう一つバイオチップを脳に埋め込ませた。
アシモフがそんな事になっているとは全く知らないサンエバーたちはブラックシャドウの入り口の門に辿り着いた。その頃には朝になっていた。
早速警察側がブラックシャドウと交渉に入った。まずは門にあるテレビ電話で交渉を始めた。
「こちらは警察のマーク警部だが、そちらにアシモフ氏が拉致されたとの事で一刻も早くアシモフ氏の身柄を我々の元へ返してもらいたいのだが」
ブラックシャドウの部下が返答した。
「いや、ここにはアシモフなどという者はいない」
マークはそれに答えて、
「いや、いるはずだ。アシモフ氏には発信機がついている。受信機で捕らえた場所はここしかない」
「そうか。調べてみるから少し時間をくれ」
それから数分が経ち、ブラックシャドウの幹部が出てきた。
「警部さん。確かにアシモフ氏は来ています。しかし、それはアシモフ氏の意志で我々のところに来ただけだ」
そこにモグリが口を割ってはいってきた。
「いや、博士がそこにいるのは博士の意志ではない」
さらにジースも割り込んで、
「私の目の前で博士をさらったではないか」
ブラックシャドウの幹部はこう答えた。
「それは我々の部下が勝手にそういう行動を起こしただけだ。私は部下にはアシモフ博士にぜひお会いしたいという意図で、丁重に着てもらうつもりだった。きちんと話せばアシモフ氏も我々に協力を惜しまなかっただろう。まあ、どちらにしろアシモフ氏は、今は我々のところで満足していることは確かだ」
モグリが、その返答に対し、激怒した。
「ふざけるな。そのような言い訳をしても強引に貴様らが拉致した事には変わりはない。とにかく、まずアシモフ博士と話をさせろ」
その幹部は、
「それはできない。博士は忙しい」
モグリが切り返して、
「それは、博士を使って何か狡猾な意図があるから会えないという訳だな」
マーク警部は言った。
「アシモフ氏を出さないということは拉致したのと同じだ。強制捜査させて頂く」
相手は過激派のテロリストのため、戦闘になる事は明らかだった。アシモフの知能を悪用されたら大変な事になる。事態は緊迫し、即効に突入部隊を編成した。部隊は警察の武装兵と、モグリ、サンエバー、ジースを含めたアンドロイド部隊とに別れて、警察はボスの逮捕、アンドロイドはアシモフの救出というふうに目的を分けて突入した。
アジトは広く敷地内になんの変哲もない建物に庭園がある感じで、建物の表向きは単なる豪邸のようなもので、テロ集団のアジトとは思わせない雰囲気を漂わせていた。
モグリ達はアジトの建物の入り口である玄関まで何の攻撃を受けることなく辿り着いた。
マークは再び玄関のモニターを通してブラックシャドウの幹部と話した。
「これで最後だ。アシモフ博士の身柄を我々に渡す気はないのか」
「ない。本人は帰りたくないと言っているのでな」
「どうしても渡す気はないのか」
「ない」
「アシモフ本人とは連絡は取れないのか」
「それはできない」
「では力づくでもアシモフ氏を取り返す。おとなしく待ってろ」
モグリは正面玄関の扉を壊した。すると、その瞬間に建物全体にブザーが鳴った。アンドロイド部隊が先に潜入し真っ先にアシモフのところまで走り出した。途中の廊下で待機していたブラックシャドウの攻撃部隊が、アンドロイドに対して攻撃態勢をとった。アンドロイドは人間を殺すわけにはいかないので、睡眠ガスが出る缶を出して、相手を即座に眠らせた。アンドロイドは、最短距離を通ろうとするため、壁を壊して進んでいった。
マーク警部とその他の武装兵もアンドロイド部隊の後から中へ突入した。睡眠ガスで眠っている兵を一人一人逮捕し先に進んだ。
ボス直属の部隊には、A班、B班、C班とがあり、各班の数は百人である。警察の武装兵はそのA班と衝突した。武装兵は手持ちの銃で、A班に攻撃を仕掛けた。しかし、なぜだかA班の者は、弾をうけても倒れず向かってきたので、警察側は動揺し、そんな状態でいるときに、すかさずA班は肉弾戦を仕掛けられ、警察側は、滅多打ちに合い、一時退却した。
一方、アンドロイドは順調に壁を壊しながらアシモフの所へと向かっていった。その途中で、ボスの部隊のB班と、C班とのはさみ討ちにあった。合計二百人である。しかし、アンドロイドの敵ではなかった。アンドロイドには、銃は効かなく、スピードやパワーなど総合力ではアンドロイドのほうがはるかに上であったので、B班、C班の者は手足の骨を砕かれて、あっという間に壊滅状態になった。
再びアンドロイド達は壁を壊し、着々とアシモフのところまで近づいてきた。すると、今度はレーザーソードを持ったA班と衝突した。レーザーソードの威力は、振り回せば空を裂き風を切り、この世に斬れないものはないといった代物である。アンドロイドも例外ではない。しかし、いくら武器が強力でも、当たらなければ意味はなく、技はアンドロイドのほうが上回っていたため、A班は全員急所を狙われたので、最終的に動けるものは一人もいなかった。
アンドロイド部隊はさらに進み、ついに、壁一つ向こうにアシモフがいるところまで辿り着いた。
「いよいよだな。この壁の向こうには博士がいるはず。油断するなよ。いくぞ」
サンエバーはこう言って、壁を壊した。その向こうにはアシモフと三体のアンドロイドがそこにいた。サンエバーはその光景を見てアシモフがいたので、ホッとしてアシモフに声をかけた。
「博士。助けに来ました。ご無事で何よりです」
すると、アシモフからとんでもない答えが帰ってきた。
「誰じゃ、お前たちは」
サンエバー達はびっくりした、
「博士。私です。サンエバーです」
「そんなロボットは知らん。私が造ったのは、ここにいる三体だけじゃ」
サンエバー達は愕然とした。
「博士。どうしたんです。目を覚ましてください」
するとアシモフは言った。
「おい、一号、二号、三号、この目障りなロボットの侵入者を蹴散らせ」
アシモフのそばにいた三体のアンドロイドが、レーザーソードを持って、サンエバーたちに襲い掛かった。サンエバー達は途方にくれる暇もなく、仕方なしに応戦した。するといきなりサンエバー側のアンドロイドの一体が胴を真っ二つにされ、首を刎ねられた。
この光景を見て、サンエバー達は危機感を感じ本気になった。武器もないので不利のまま攻防を続け、サンエバーたちのアンドロイドは、一体、また一体と、レーザーソードで、手足を斬られ、首を刎ねられた。さらに違うアンドロイドも頭の真ん中から真っ二つに一刀両断された。
「とにかく、厄介な武器を奪う。協力してくれ」
と、サンエバーは言い、一号、二号、三号の手足を他のアンドロイドがそれぞれ二人で抑え、サンエバーは三号からレーザーソードを奪い、そのレーザーソードで三号を斬った。そしてそのまま、両手両足を抑えられている二号、一号も斬った。
そのとき、モニターからボスの映像が現れた。
「そこにいるアンドロイドの諸君。見事だ。素晴らしい。どうだ、私の部下にならないか」
サンエバーは答えた。
「誰がやるか」
「そうか。まあいい。しかし、発信機を取ったのによくその位置がわかったな」
「二つあるんだよ」
「二つあるようには見えなかった。服はすべて着替えさせたはずだ。理由を答えろ」
「歯に発信機がついているだけだ」
「なるほど」
「そんな事より博士の様子がおかしい。何かしたか」
「洗脳しただけだ。私の言う事しか聞かないことになっている」
「博士を拉致した目的は何だ」
「アンドロイドの能力を使い世界征服をすることだ。我々が一番優れた人種だと認めさせるためだ」
「ふざけるな。生命はみな平等に与えられている。生命にはどれが上でどれが下だというものはない。それに、武力でしか征服できないお前は愚かだ。大切なものを失うだけだからだ。私はお前を絶対許さない」
ボスはアシモフに命令した。
「アシモフ。このような目障りなアンドロイドはすぐに破壊してしまえ」
「はい。ボス」
アシモフはレーザーソードを持ってサンエバーの方へ近づいてきた。
サンエバーたちは動揺した。
「博士。やめてください」
アシモフには、サンエバーの声は聞こえていない様だった。サンエバーは、痛切な思いで言った。
「博士。私です。サンエバーです。忘れてしまったのですか。思い出してください。一緒に笑ったり、考えたり、楽しんだりした事を思い出してください」
アシモフは、サンエバーの声を聞いて、反応して言った。
「うるさい」
その光景を見て、ボスは上機嫌になって、サンエバーに言った。
「ハッハッハッハッ。いくら言っても無駄だ。私の声の言う事しか聞かない。残念だったな」
アシモフは、サンエバーの目の前にきて、レーザーソードを振りかぶった。そのとき、サンエバーには良い方法が浮かんだ。声色を変えて、こう言った。
「博士。ストップしてください」
アシモフは止まった。サンエバーは、ボスの声を真似したのである。つまり、ボスの言った声ならアシモフが言う事を聞くので、サンエバーはボスの声と同じ声ならアシモフは耳を貸すと判断したのである。ボスは、この結果に驚いて、
「違う。アシモフ、こいつらを始末しろ」
といい、サンエバーも言った。
「博士。これ以上動かないで下さい」
アシモフは、この対称的な二つの行動命令を聞いているうちにパニックになり、そのまま、頭を抱えて倒れた。サンエバー達はアシモフのもとまで駆けつけた。サンエバーは、アシモフの体を揺するが、アシモフは目を閉じているだけでピクリとも動かない。この状況を見てモグリは言った。
「サンエバーは早く博士を病院へ連れて行ってくれ。クリスの病院がいい」
「モグリはどうするつもりだ」
「マーク警部と連絡を取り合ってボスを逮捕する」
「わかった。博士を苦しめたボスを絶対逮捕してくれ」
モグリは無線でマーク警部と連絡し、事の次第を告げた。
ボスの周りには強力な戦力は皆出動し、アンドロイド部隊により倒されたため、ほとんど残っていなかったたので、ボスを捕らえるいい機会であった。マーク警部は応援部隊を呼び出していたため、戦力を補充して、アジトを完全に包囲し、ついにボスと、その手下は逮捕された。
ボスの逮捕によりこのテロ集団の壊滅はできたが、問題はアシモフの容態である。
アシモフはとりあえず近くの病院に運ばれ、検査の結果では、アシモフの脳に洗脳させるためのバイオチップが埋め込まれている事がわかった。そのバイオチップを取り出す技術はこの病院にはないため、クリスが勤務している大学病院へ運ばれた。
アシモフは緊急手術を受けることになり、脳外科はクリスの分野でもあるため、クリスも手術班に加わった。
手術は難航を極めた。脳細胞をできるだけ破壊せずに脳からバイオチップを取り出すのである。クリスはアシモフの脳を少し開き、神経にできるだけ影響のない手法で、完全にバイオチップを取り出した。手術は一応成功し、アシモフは傷口が縫われ、ベッドに寝かされ、クリスはアシモフが目覚めるの待った。
手術から三日後、サンエバー達はそれぞれの職場で働いている中、アシモフが目覚めた。看病はクリスがすべて行っていた。アシモフは目を開いたらそばにクリスがいるのに気づいて、小さな声で言った。
「クリス。ここはどこじゃ」
「フトウ大学病院です」
「なぜか頭が痛い。わしに一体何があったか教えてくれんか」
「実は、博士はブラックシャドウという過激派のテロリストに拉致されていましたが、サンエバーたちが救出しました」
「というと、わしが今まで夢だと思っていたことは現実じゃったということか。なんてことをしてしまったんだ」
「洗脳されていたんです。どうしようもなかったと思います」
「そうか。サンエバーたちには苦労させたか」
「でも安心して下さい。ジースは博士が二度と拉致されないようにこれからは気をつけるといっていましたし」
「それで、わしはいつ退院できるのじゃ」
「そうですね。特に検査では以上が出ていませんので薬を飲めば三日後には退院できますよ」
「そうか」
と、気を緩めたとたんアシモフは頭が割れるような感じがし、思わず発狂しそうになった。アシモフは不安な様子でクリスに言った。
「クリスよ。本当にわしは大丈夫なのか。精神コントロールができない。わしの意志の中にわしの思い通りに成らない意志がある」
「博士。今はバイオチップが脳に埋め込まれていたため、後遺症が残っているだけです。しかし、薬でなんとかなりますので安心して下さい」
そしてアシモフは三日後に退院した。
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