第7話 アシモフ最盛期
アンドロイド派遣業によりアシモフに予想をはるかに越える収入が入った。その額は国家予算の一パーセントに近いものであった。アシモフはこの結果に満足し、さらにアンドロイド増産に踏み切った。
アシモフの生活は朝は体操で始まり、アンドロイドが作った朝食を食べ、仕事をしにいくサンエバーたちを見送るといったものであった。その後は、訪問客が毎日のようにくるためアンドロイドの生産はジースに任せ、自分は応接室でその訪問客と対応していた。
今日の訪問客の内容も凄いものからどうでもいいものまであった。
ある訪問者は言った。
「博士、あなたの技術は大変素晴らしく、人類社会に貢献しています」
今回話をしているものは国家最高機関で働いている中の一人である。アシモフは答えた。
「そうですか。それでご用件は」
「国家からぜひアシモフ氏にノーベル化学賞を受け取ってもらいたいという事です」
「そうですか、大変光栄です。私のこの市民への思いをアンドロイドが忠実に行動し、この結果がノーベル賞とはこんな嬉しい事はありません」
「博士。おめでとうございます。また日を改めて迎えに行きますのでご了承ください」
また違う訪問客が訪れた。
「博士。あなたの偉大なる技術を宇宙でも本格的に生かしたいと思いまして」
「私が宇宙開発組織の一員に入る事ですか」
「そうです」
「それは私も望んでいた事です」
「そうですか。では、どういう理由でお望みになられたのかを私に話していただけますか」
「私は人類問題を解決するには宇宙への開発は絶対必要だと思います。今の地球の資源の量は限界を超えています。では、資源不足をどうやって解消するのか。私には他の星から資源を持ってくるという方法の他には思いつきません。さらに、人口が増えつづけると、食糧問題がさらに深刻になってきます。増えた人口は人が他の星に行ってそこで生活することで解消できるでしょう」
「そこで、宇宙船の確保ですが、・・・今の宇宙船ではまだ人類が宇宙に進出するだけの技術はありません」
「それでは人類が進出する事ができる宇宙船を私の敷地内で造りましょう」
その訪問客は驚いて、
「え、博士の敷地内で造るんですか。公共の場を使わないのですか」
「宇宙への旅路も私の夢でして、技術はアンドロイドにも身につけているので造ることは可能です」
「どうやって技術を身につけているんですか」
「それは企業秘密です」
「しかし、資金は博士の負担になりますよ」
「公共の場で開発するならば多大な税金を消費させてしまいます。しかし、私個人の研究とした方が税金もかからなくて良いのでは」
「ですが」
「資金なら余りあるほどあります。金は使うべきときに使うことが最大の価値があるんですよ。それに、この計画を私の人生の集大成としていきたいので」
「恐れ入りました。私も博士のなすことにできるだけ力を注ぎましょう」
「ありがとうございます」
その訪問客はコーヒーを飲んで去っていった。
次はアンドロイドの格闘試合の事業を行いたいというポット社の社員が訪問しにきた。
「ご用件は何ですか」
「実はアンドロイドに格闘させ試合を行ってみてはどうですか。アンドロイドの身体能力からいって面白い試合が見られると思いますが」
「申し訳ありませんが、それをする気は全くございません」
「なぜです。儲かりますよ」
「アンドロイドを一体作るだけでどれだけ大変か解かりますか。私は最初の一つを作るのに人生七十年の蓄積の中の十年を使って作り上げてきた。この苦労があってこその今なんですよ」
「その気持ちはわかりますが、今は大量生産しているからその中のたった数体だけでいいんですよ」
「私は非暴力主義ですので・・・・・・。それに、私のアンドロイド一人一人はみな私を父と思っており、私はアンドロイド一人一人を子供と見ているんですよ。だから私は一体もアンドロイドを壊すまねはできません。どうかお引取りを」
「しかしですね。私からみれば壊れた部分は治せばいいのではないんですか」
「私はアンドロイドには暴力主義になってほしくありませんので」
「暴力主義になったアンドロイドはアンのロイド監査士に見てもらい、だめになったものは壊して新しいのを造ればいいのでは」
「壊すために造るなどという事ほどバカらしいものはありません。どうかお引取りを」
「そうですか。やはりあなたは噂どおりの人物でいらっしゃいます。あなたみたいな人格がアンドロイド達一体一体に浸透しているのを感じました。だから今のアンドロイドは活躍できたんだと思いました。少ない時間でしたが有意義に過ごせました。ありがとうございます」
次は教授依頼を頼みにやって来た者がいた。
「アシモフはかせ。ノーベル賞おめでとうございます。私はサムと言います」
「ありがとうございます。アシモフです。ご用件は」
「わがゼロチン大学の工学教授になっていただきたいのですが」
「ご好意は大変嬉しいのですが、なぜ私ごときに教授を?」
「ノーベル賞をとられる方ですので」
「左様でございますか。しかし、私は毎日訪問者と対話をしていまして、この場所から動けません」
「そうですか。それでは名誉教授ということでよろしくお願いします。わが大学も誇り高く見えますので」
「それでは謹んでお受けします」
次は唯一の親友のマサというアンドロイド監査士が、アシモフと話をしていた。
「マサさん。わしはもう七十になりました。長くは生きられないでしょう。そこで、わしが亡くなった後マサさんにアンドロイドの面倒を見てもらいたいのじゃが」
「しかし、私も六十を過ぎました。私にできることは限られてます。具体的に何をすればいいんですか」
「アンドロイドが安心して生活できるようにアンドロイド監査士を育ててください」
「わかりました。それなら自分にもできます」
「よろしく頼みます」
といった感じで、今日もアシモフは様々な人と面会した。多いときには三十人ぐらいのときもあった。
しかし、今日はいつもどおりアンドロイドが帰ってくるはずだが、どのアンドロイドもなかなか帰ってこない。何か様子がおかしいとアシモフは思いジースを呼んだ。
「おーいジース。他のアンドロイドが帰って来んのじゃがどうしたのか」
「他のアンドロイドなら体育館で集まっていますよ。私もそろそろ行こうと思っていますので、博士も私といっしょに行きますか」
「そうじゃなあ。で、何でわしに内緒で」
「それは体育館へ行ってのお楽しみです」
アシモフはジースと研究室から体育館へつながる廊下を歩いていた。アシモフは廊下から体育館の方向を見て、
「なんか、体育館が暗いぞ」
「それでいいんです」
アシモフは何が始まるのか疑問を持ちながら、体育館の入り口に入った。すると、急に明かりが放たれ、曲が流れ始めた。ステージを見ると、そこの壁には【アシモフ博士。ノーベル賞おめでとうございます】とかいてある垂れ幕があり、垂れ幕の周りには色とりどりの紙の花が飾ってあった。曲はアシモフの好きなものをアンドロイドがステージで弾いていた。アシモフはこの光景を見て涙があふれてきた。中にいる残りのアンドロイドが全員アシモフのほうをむいてクラッカーを鳴らした。
アシモフにとってこんな嬉しい事はなかった。人に妬まれることはあっても祝福されることはめったにない事であった。
ここでサンエバーが祝辞を述べた。
「博士。ノーベル賞おめでとうございます。ここにいる者もいない者も、みな、博士の出世を喜んでおります。今日は博士のために盛大にパーティを行いますのでよろしくお願いします」
アンドロイド達はアシモフのために演奏や、手品などの演技や曲技を披露した。
アシモフの顔は嬉しさのあまり涙でいっぱいでくしゃくしゃな状態になっていた。そして、忘れられないこの光景を胸に心は喜びで満ち溢れていた。
アシモフのための会は夜遅くまで続いた。
ノーベル賞をもらったのはこの日から一ヵ月後であった。
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