第4話 アンドロイド社会進出

 アンドロイドフェスティバルをマスコミが取り上げたことから、アンドロイドの存在は世間に知れ渡った。アンドロイドを使ってみたいという依頼が研究所に殺到した。アンドロイドを社会進出させようと思っていたアシモフは、まずアンドロイドによる人材派遣会社を設立した。つまり、なんでも屋である。しかし、アシモフはアンドロイドが数体だけでは対応しきれないため、さらにアンドロイドを増産することにした。

 派遣業の仕事は、サンエバーを中心として行われる事になった。彼らの勤務先は、サンエバーは教員、アナンは消防署の派出所、クリスは医師の助手、ハンスはある会社の事務・経理、モグリは警察である。ジースはアシモフの研究の助手を行うことになった。

 仕事の初日は、アンドロイドたちはやる気満々でアシモフの研究所を出て行った。

 サンエバーは今川学園という高校の副担任ということになっていた。職員室での挨拶を終え、朝礼で紹介された。

「この人、いや、このアンドロイドさんは、今日からわが学園の教師として赴任される事になりました。サンエバー先生といいます。これから自己紹介をしていただきます」

 初めて目の当たりにする生徒も、そうでない生徒もアンドロイドの姿を見て、興味を示していた。そんな生徒たちの視線の中でサンエバーは挨拶した。

「今日からこの学校でお世話になりますサンエバーと言います。皆様方のために精一杯働きたいと思います。何かあったらどんな小さいことでも、どんな悩みでも、できる限りのことは協力しますので、私のところへ来て下さい。それではどうかよろしくお願いします」

 サンエバーが淀みなくこう話すと生徒たちはどよめいた。その後、サンエバーは一年C組の教室へ入り、改めて自己紹介し、担当科目である数学の授業を始めようとしたところに、いきなり男子生徒が質問した。

「先生。先生は男なんですか。それとも女なんですか」

「そうですね。アンドロイドには基本的には男も女もありませんが、男性タイプと女性タイプがあります。私はダンディーな男性タイプです」

 さらに生徒から次々に質問攻めにあったため、とうとう初日は授業ができなかった。サンエバーは時間を見つけては生徒個人と接し、様々な話をしていた。こうしてサンエバーの一日目が過ぎた。

 アナンはA~0038地区の消防署の派出所に勤務した。この地区は非常に災害が多い地区である。アナンは署内での自己紹介を終え、自分の仕事の確認をしていた。その時に、早速災害が起きたという通報が入った。そのため、第一、第二、第三班と出動した。アナンは第四出動班にわった。

 その場所は、何者かにより爆破されたデパートの残骸が山となっていた。瓦礫の下には人が大勢埋まっているはずであるので、人命救助が先決である。まずは瓦礫の除去を始めた。

 アナンは自分の体に内蔵している生命探知機を使って人がいる地点を探知し、10トンもある瓦礫を軽く動かし、救助に当たった。

 簡単に救助できるところは人間が行い、困難な場所はアナンのチームが行った。

 通常は何十トンにも及ぶ瓦礫処理は困難な場合は十日近く時間がかかるとこだが、この日は半日で終わった。アナンの活躍により、被害を最小限に食い止めることができた。こうして、アナンの一日が終わった。

 モグリはC~5088地区の本署に勤務した。さっそく初日から事件が起こった。住民からこの地区に銀行強盗があったという知らせが入り、モグリも部長と何人かの署員と共に出勤した。

 犯人は二人で、銃を持っており、人質を一人連れて車で逃走していた。逃走した車は静止衛星により監視されているので、犯人の逃走経路は予測できた。

 パトカーで追跡してはいるものの、人質がいるため、車同士をクラッシュさせてとめるわけには行かなかった。人質が怪我する恐れがあるからである。よって、犯人を捕らえるには車をとめることと人質を保護することがポイントとなる。そこで、モグリは応援部隊を呼んで、ある作戦を部長に提案し、それが採用され、実行することになった。

 まず、犯人の車を後ろからパトカーが一台追跡した。犯人の車はしばらく直線を走った後に、Y字型の二方向に分かれた道に遭遇し、右前方の道はパトカーがサイレンを鳴らしてきたため、左の道を通過した。その先は十字路になっており、前と左からパトカーがきたため、減速して右に曲がった。すると、T字路に突き当たり、左からパトカーが来たため、減速して右に曲がった。また十字路があり、そこでも前と左にパトカーが待機していたため、右に曲がった。その先にT字路があり、左にパトカーが待機していたため、右に曲がった。犯人は見慣れた道路に出た。犯人の逃走経路は全部右であり、四角形をなぞるように逃げてきたため、一周したのと同じであった。そのため、パトカーが、すぐ先で待機していた。

 犯人がとると予想される手段は二つで、先に待機しているパトカーに突っ込み強引に突破するか、車を止めて人質を連れて近くの建物へ逃げ込むかのどちらかである。

 犯人は強引突破を避けた。自分らが無事である可能性は低く、また車はカーブで減速しているため、パトカーと衝突すれば車は止まってしまう恐れが大であるからである。

 よって、犯人はパトカーが待機しているところへ行く前に車を降りて、近くの建物に入ろうとした。犯人がぱっと見回すと、周りに人がいなく、走る車もなかった。そこには、アパート、マンション、一軒家、店などがあった。アパートの門は閉まっており、マンションはカードがないとは入れないようになっており、店はシャッターが閉まっていた。

 周りに人はいなく、店も閉まっているのは、犯人が一周して同じ道を通るとよんだ警察が、その間にこの通りの住民に呼びかけたためである。

 しかし、一軒だけドアが開きっぱなしの家があった。犯人はその家に眼をつけ、その家に盗んだ金を持ち、人質を連れて急いで玄関に入った。ドアを閉め、家の中に人が居るかどうか確かめるため、声を放った。

「宅急便です。誰か居ますか」

 この言葉の狙いは家の人を警戒させず呼び出し、あわよくばさらに人質を取ろうという目論見であった。

 すると、奥の居間から男の声がした。

「すいません。今、家のものは、私一人しか居ないのですが、両足を骨折して動けませんので部屋まで持ってきてもらえませんか」

「わかりました。ちょっと待ってください」

 犯人の一人は、その声がした方へ警戒しながら歩を進め、もう一人は銃を人質に突きつけながら後に続いた。すると、犯人二人は急に動けなくなりその場に倒れこんだ。体がしびれ、麻痺していた。どこからか麻酔針が飛んできたのである。

 人質は無事保護され、犯人を逮捕できた。

 この犯人逮捕の作戦はモグリの進言によったものである。

 こうして、モグリの一日は終わった。

 ハンスはある中小企業の経理・事務を担当し、人の十倍から二十倍、いや、それ以上の仕事をこなしていた。計算や、ワープロは、コンピュータと自分の体との間に端子をつけて、データーを一瞬で入力したため、山ほどある書類を凄まじい速さで処理していた。社員はみな唖然とした。精一杯ワープロで時間をかけて入力するところを、ハンスは一瞬でやるのである。

「仕事は忙しい方はできることは何でも手伝いますので私に言ってください」

 このハンスの申し出に社員たちは喜んだ。

 ハンスの一日もぶじ終わった。

 クリスはその地区で一、ニを争う有名な大学病院の外科の病棟に勤務した。最初は講習を受け、手術の様子を見ているだけだったが、災害で負傷した者が百人ほど運ばれたところでクリスの活躍が始まった。三十人ほどの怪我の応急処置を行った。クリスの的確で手早い処置には、病院の教授らも驚いた。

 こうしてクリスの一日は終わった。


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