第3話 アンドロイドフェスティバル
アンドロイドについて雑誌や新聞、テレビ等で宣伝されたため、人々の中にはアンドロイドに関しての興味や関心が高まった。
そこで、アシモフは人々にアンドロイドとはどういうものかを知ってもらうために、アンドロイドフェスティバルを企画した。フェスティバルを行うにあたり、アシモフは一体のアンドロイドでは不十分であると考え、サンエバーのほかにアンドロイドを数体完成させていた。
名前はジース、アナン、クリス、ハンス、モグリで、全部男性型である。彼らは人体には影響のない電波を発し、お互い自由に意思の疎通ができるようになっている。
フェスティバルには五百から六百ぐらいのアルバイト生が雇われ、十数社の企業も参加し、全体はアシモフはじめ、六体のアンドロイドによって運営された。会場はマスコミの宣伝により、初日から大勢の客で賑わっていた。
受付はジースが担当をしており、
「ようこそアンドロイドフェスティバルへ。パンフレットもどうぞ」
と言い、バイトの者と一緒にパンフレットを配っていた。
来場者の人々は受付にいるジースを目の当たりにして、面白そうだとか、人間どこが違うんだろうなどという印象をもった。
パンフレットでは、会場で行われるアンドロイドによるパフォーマンスや、展示品、今までのロボットとの違いや、発達した人工知能、センサーの性能などについて紹介されていた。
会場はいくつかに分かれており、第二会場でアシモフはこう挨拶した。
「今回のフェスティバルにご来場された皆様方には熱く感謝する次第でございます。私は十年前に定年退職するまでは、専門ロボットを造るという研究に専念しており、ある行動のみを行うというロボットを造っておりました。その後、退社した私は、今までの夢であったアンドロイドの研究に没頭してまいりました。失敗を繰り返しながらも全知全能を尽くし、十年間かけてようやくアンドロイドを完成する事ができました。私が造ったアンドロイドが社会に貢献できれば光栄でございます。これから、そのアンドロイドがパフォーマンスを行いますので、どうぞご覧になって下さい」
アンドロイドのパフォーマンスは、五つの会場で行われた。
第一会場はアナンが自分の芸を披露していた。二階建てと、五階建てのビルの屋上に五十メートルほどの縄を一本張り、その縄の上で観客の注文に答えていた。
「縄の上をダッシュで走ってください」
アナンは早速ダッシュした。それは時速四十キロぐらいのスピードであった。次のは、
「バク転しながら渡ってください」
アナンはバク転しながら渡った。
「後ろ向きで渡ってください」
アナンは渡った。
「お手玉をしながら渡ってください」
アナンはテニスボールを十個持ってお手玉しながら渡った。次は、
「リフティングをしながら渡ってください」
アナンはそれをなんとかのりきった。さらに、いろんな注文が出た。
「逆立ちで渡って下さい」とか、「トラックを持ちながら渡ってください」「一輪車に乗りながら、お手玉をして渡って下さい」などである。
注文がハイレベルになるに従ってアナンはどんどんアンドロイドの能力を発揮していった。
第二会場では、アシモフの講演が終わり、サンエバーの講義が始まっていた。講義の内容は永遠とあるので、その中のサンエバーの『幸福について』を抜粋する。
「次は、幸福と利益について述べてみたいと思います。目に見えないものや見えるものといった何かが手に入る、何かを得るということがなければ幸福とはいえません。何かが手に入る、得られるということを利益と考えるならば、利益がなければ幸福とはいえないことになります。それならば利益とは何かということについて述べてみますと、利益は大きく分けると三つに分けられます。それは、経済的利益、向上的利益、生命的利益です。
経済的利益とは、物や、金銭が得られる事です。この利益がなければ生活することが不可能で、自分がしたいことでもできないという点では、この利益は重要です。しかし、この利益のみを重視すると、自らの欲望だけに走りやすく、ある程度の満足は得られても、最終的には幸福とはいえない場合が多いと思います。簡単にいえば、金銭で真の友情や愛情と言ったものが買えないということです。角度を変えてみますと、金銭による絆は金銭を失えばその絆も消えるということです。
向上的利益とは、あらゆる経験から、理解、発見、鍛錬などにより自己の活動能力が上昇することです。また、この利益はさらにいくつかに分けられます。それは、機能的向上・情報的向上・精神的向上です。
機能的向上とは、機能が迅速化することで、効率的な思考や行動をとる、つまり、賢く動く事により時間が短縮したり、大きな仕事をやり遂げる事ができるということです。
情報的向上とは、情報量が上昇することです。つまり、知識があったほうが向上しやすいということです。
精神的向上とは、自信がつくことにより行動力が上昇したり、支えができることにより、活発な活動ができるということです。
生命的利益とは、生命力が上がることです。言い換えれば、心が満たされることです。つまり、安心感、楽しさ、嬉しさ、感動、快さ、充実感、等を得られることです。例を挙げれば、人の愛情を得ることができた、何かを達成した、借金が返せた、今までできなかったことができた、などといったものです。当然のことながら、生命的利益は、他の二つにつながります。これらの三大利益を得られることが幸福につながりますが、人は最終的には、生命的利益を求めている傾向があります。しかし、本当に重要なのは自分自身が幸せだと思えるかどうかなのです」
これが、サンエバーの『幸福について』の一部分である。その他に、サンエバーは『楽しい生活』『生きるとは何か』などといったことも述べていた。
第三会場では、クイズが行われていた。そこはハンスが担当していた。ここでは一対一の対決で、ハンスに勝てば賞金が一億ギルという大金が与えられるといったものである。クイズの内容は聞いている人には面白く飽きないものである。勝負は早押しで先に五問正解したほうに軍配が上がり、解答権は一問につき一回である。クイズの参加者は抽選で参加希望者の中から毎回一人選ばれることになっている。参加希望者はどの人間もつわものぞろいで、一般のクイズ大会で何度も優勝しているという実績を持っているものもおり、中には、世界一のクイズ王といわれる者までいた。しかし、予想通りではあるが、ハンスは強かった。九十九人抜きをしたのである。そして、ちょうど百人目で世界一のクイズ王が登場した。
「これより、百戦目を行いたいと思います。次のハンスの対戦相手は、あの世界一のクイズ王です」
司会がこのように言うと、会場はさらに盛り上がった。クイズ王は着席し、ハンスと挨拶を交わし、真剣なまなざしで挑んだ。
「それでは第一問。世界的に有名なパンドン劇場で、舞台『眠れる森の美少女と金太郎』で美少女役がセリフを忘れてしまい・・・・・・」
クイズ王はボタンの押し、「ポーン」と、クイズに答えるという合図の音が鳴った。
「クイズ王」
「美少女役は手のひらを見た」
「ブブー」
クイズ王は間違えた。
「えー。問題を続けます。美小女役がセリフを忘れてしまい、そこで彼女がとった行動は手のひらを見ましたが、セリフが出てきませんでした。それはなぜでしょうか」
「ポーン」
「ハンス」
「手の平にセリフをあらかじめ書いていたが、水性ペンで書いたため、汗でセリフが消えてしまった。」
「正解です。それでは第二問。二十一世紀の世界的モデルであるキャッシー・パールを迎えた『イージー・アンド・クレイジー』という番組で、司会者のイージーブラウンが女性のモデルに対して最初に言った言葉は。」
「ポーン」
「ハンス」
「『キャッシーさんのスリーサイズは上から八十七、五十八、八十五ですね。』と言った。」
「ブブー」
「ポーン」
「クイズ王」
「『キャッシーさんのスリーサイズは全部合計すると二百三十ですね。』といった。」
「正解です」
会場はどよめいた。さすがクイズ王という声もあった。
「第三問.小説『犬のいる家福来る』の中で、主人公の家には犬が十三匹いました。主人公・・・・・・」
「ポーン」
「クイズ」
「ロンサン」
「ブブー」
「ロンサンは主人公の名前です。問題を続けます。主人公の家には犬が十三匹いました。ロンサンはある友人にこの犬の自己紹介をしました。『今から自分の犬の自己紹介をするから聞いてくれ。右から一郎、二郎、三郎、四郎、五郎、六郎、七郎、八郎、九郎、十郎、十一郎、十二郎、十三郎。どうだ。トレビアンな名前だろ。』これ聞いた友人が頭を抱えていったセリフは何?」
「ポーン」
「ハンス」
「浪人生の自分が聞くと落ち込む。」
「正解です。それでは第四問。彫刻家のピエール三世が、小学校の頃精根を尽くして作った木の作品は」
「ポーン」
「ハンス」
「まな板」
「正解です。それでは第五問。恋愛小説『恋から愛へオーバーヒート』の主人公とその彼女の物語の中で、彼女が主人公に、『私の足を見て鼻血でた?』といったことに対し、主人公はなんと答え・・・」
「ポーン」
「ハンス」
「『耳からも血が出た』と答えた」
「正解です。えーと、クイズ王は後がないようですが大丈夫でしょうか。」
「大丈夫です」
「それでは第六問。とある学校で女装大会をしている最中に男子生徒が数人いきなりステージにいる一人の女装している生徒を襲い上着を脱がして退散しました。そして、司会は脱がされた男性に『何か一言。』と言ったらその生徒はなんと答えたのでしょうか」
「ポーン」
「ハンス」
「お嫁にいけない」
「正解です。なんとクイズ王が敗北してしまいました。それでは次の挑戦者どうぞ。」
次の挑戦者が選ばれ、クイズはまだ続いた。
第四会場では、モグリがジャンケン大会を行った。ジャンケンは一対一で三回先に勝った方が勝ちである。モグリに勝ったら一年分のビールが賞品としてもらえることになっている。
しかし、勝つ確率は五割であるはずが、モグリに勝った者はいなかった。モグリは、相手の心理状態をセンサーで感知してジャンケンをしていたので、相手が何を出すかわかっているため、勝率は十割であった。(はっきり言って詐欺である。)
第五会場は、クリスが担当していた。ここではフェスティバルで実演されてないものがビデオで紹介されていた。ビデオの中ではアンドロイドが、ある町のミニチュアの設計・組み立てをしている場面や、ドミノ倒しや、けが人の応急処置をしているところなどを流して、器用さをアピールする内容だった。
さらに、展示場では、ロボットの歴史、これから期待されるアンドロイドの活躍等が公開されていた。
フェスティバルは一ヶ月にもわたって続けられた。来場者の感想は、「アンドロイドって面白いですね」「社会の中で使ったらいいかもしれませんね」などといった好感的な声が多かった。
この企画はアンドロイドの宣伝効果という面では、とりあえず成功を収めた。
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