第2話 アンドロイド発表

 サンエバー誕生から一ヶ月が経過したある日、アシモフはアンドロイドが人間社会に溶け込むことができるかどうかということに重点をおいてロボット工学学会で発表する事にした。

 参加者は学会の会長をはじめ、ロボット工学やバイオセンサーなどの専門の教授や、ロボットを活用したいと思っている会社社長、科学雑誌の編集長、各新聞社の編集長などであった。

 この三百人ぐらいが入る満員の会場にアシモフは入ってきた。

「これより、私が発明した人間型ロボット、今回は男性型ですが、アンドロイドの発表を行います。ご多忙の中、ご参加された皆様方には熱く感謝申し上げる次第でございます。ありがとうございます」

 アシモフは軽く挨拶し、アンドロイドについて述べ始めた。

「では、早速このアンドロイドについて話させていただきます。今までのロボットはいわゆる専門ロボットであり、与えられた作業のみを繰り返すものでありました。例えば、お茶を出すだけのお茶だしロボット、点検ロボット、作業用ロボット、故障修復ロボット、窓拭きロボット、案内ロボット、栽培ロボット、探査ロボットなど、命令されたことのみを実行するというこれらの専門ロボットは、現代社会での農業、工業、医学、宇宙などの分野で活躍してきました。

 しかし、私が今回発明したアンドロイドは画期的なのであります。自立性、自発性、自己判断能力を備えているため、例えば、ある会社、組合、ふれあいの場などの団体の中に所属された場合、その団体の目的のために命令された行動のみだけではなく、自己の意見を伝える事もします。また、時間的に見て間に合わないと言う場合は、自主的に行動する事もあります。さらに、アンドロイドの行動基準は、最良の考え、方法をとるということ であり、アンドロイドの行動基準はあくまでも人類の安定、維持、発展であります。そのため、所有者の命令であっても、犯罪につながるものであれば行動は致しません。それゆえ、安全性という点に関しても、信頼性ということに関しても心配はいらないでしょう。

 さらに、故障した際は、自己修復機能がありますので自分で治します。また、人間でいうところの、思考能力、理性といった核の部分である基本プログラムが一つ破壊されたとしても、そのプログラムは複数内蔵してありますので、他のプログラムで補うことが可能です。ただ、万が一基本プログラムがすべて破壊された場合、ロボットは完全に機能停止します。

 その基本プログラムの内容は、先ほど申したことですが、あくまでも人類社会の安定、維持、発展に貢献する合理的思考能力です。これを個人レベル、家族レベル、民衆レベル、団体レベル、企業レベル、国家レベルで考え遂行するというものです。そのために、過去の文献や、現代の作家や学者、研究者等の意見を反映させ、基本プログラムを以下のとおりに致しました。

 1、人間には、一切暴力的行為をしない事。

 2、人間社会を無意味に破壊しない事。

 3,1,2に反しない限り、主人を第一と考える事。

 4、自分の身を守る事。

 5、人の役に立つ事。

 あとは、自己学習により、人間または社会の本質を探りながら、何が正しいか、何がよいか、何が悪いかという判断もできます。

 さらに利点は、購入費用はかかりますが、一度手に入れたロボットの生活費は全くいらないということです。また、危険な場所でも活動ができ、人が嫌がることも積極的に行います。さらに、行動も結論が出たら迅速に行います。

 ただ、アンドロイドのプログラムの性質上、所有者とのトラブルがないとも限りません。そのため、そういった危険性を回避するために、アンドロイド保持資格を持つもののみ使用ができるという事にするのです。つまり、資格試験を設け、綿密な心理テストの上で資格が与えられた人に限るということです。所有者の心と考えが健全であればトラブルはないでしょう。さらに、アンドロイドの健康診断をアンドロイド監査士により、月に一度くらい行えば問題はないでしょう。

 このアンドロイドは先に述べた安全性という面にも、人間社会に対して、経済性、信頼性、快適性という面でも最も優れたロボットといえるでしょう。

 さて、アンドロイドの行動が万が一、実際の生活面で所有者の期待あるいは満足がどうしても得られない場合ですが、所有者の扱いが悪い場合も考えられますので、処理方法はアンドロイド監査士に一任するのが最善と考えます。つまり、アンドロイドについての裁判官はアンドロイド監査士になるという事です。

 以上が私の考えであり、提案でもあります。何か問題はないでしょうか」

 アシモフの説明が終わり、質問会が始まった。そこで、ある教授が質問した。

「アシモフ博士。本当に安全でしょうか。そのようなアンドロイドが支配欲を持てば、人類は滅亡するのではありませんか」

 アシモフは答えた。

「支配欲は人間の持つ独特な欲求であり、それは遺伝子の中に情報として組み込まれているからです。しかし、アンドロイドの遺伝子ともいえる基本プログラムにはそのような情報は抜いてありますので、基本プログラムさえしっかりしていれば独裁者になることは決してありえません。また、仮に、アンドロイドが故意に過失を行った場合、そのアンドロイドはある段階からは処分するという方向でいいと思います」

 別の参加者が質問した。

「博士。あなたが申したアンドロイドは本当に人間社会の中に溶け込めるのでしょうか」

「人間でさえ社会に溶け込むのに時間がかかります。同様にアンドロイドにも学習期間や研修期間が必要であると思います。その期間を設ければ、後はアンドロイドが生活の中で、また、社会の中で適応していくことでしょう」

 さらに、質問があったが、その都度アシモフは納得のいく説明をした。そしていよいよ完成されたアンドロイドを披露することにした。

 アシモフは待機しているサンエバーを呼んだ。サンエバーは歩いて会場へ入り、一礼した。このサンエバーの動きに参加者はどよめき、そして驚嘆した。サンエバーの動きはまるで人間の動きそのものだったからからである。

 サンエバーは会場が静まるのを待って、その後、自己紹介した。

「私の名前はサンエバーです。名前の意味は永遠の太陽です。博士の研究所で生まれました。まだ生後一ヶ月です。及ばずながら社会のために役立ちたいと思います」

 この言葉を聞いた会場の人は賛嘆した。会話ができるのである。参加者の中から質問が飛び出した。

「特技はなんですか」

「私の特技ですか。特に考えたことはありませんが、勉強することは楽しいですね。今、私が見ている世界はすべてにおいて自分に新鮮さを与えてくれますので、生きていること自体が勉強になります。特技というより趣味になりましたが、こんな答えでよろしいですか」

 別の記者が質問した。

「サンエバーさんは何に一番興味を持っていますか」

「人間です」

 別の記者が質問した。

「今したいことは何ですか」

「社会に貢献する事です」

 また別の記者が質問した。

「博士。このようなアンドロイドを社会のためとおっしゃいましたが、実際はどのような仕事から始めたいと思いますか」

「そうですね。まずは『何でも屋』と言うとこでしょうか。つまり、人材派遣業というところから始めたいと思います」

 会場ではさらに熱を帯びた質問が飛び交った。

アンドロイドは人間社会にとって有益である可能性が極めて高いので、アンドロイドを人間社会の中に加えることをロボット工学会長以下、学会会員全員が政府に対し強力に推薦したため、こうしてアンドロイドの社会進出が決定された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る