アンドロイドワールド
小幡信一
第1話 アンドロイド誕生
現代からしばらく時が経った未来のことである。自称アインシュタインの生まれ変わりと言っているある科学者が人類の夢である人間型アンドロイドを完成させようとしていた。
そのアンドロイドは本来性別はないのだが、外見上は男性タイプと女性タイプとに分かれている。そして、成人男性の平均ぐらいの身長、体格をしており、皮膚は柔軟性かつ伸縮性に富んでおり、耐久力のある素材を使い、関節はほぼ人間と同じ動きをし、頭には髪の毛があり、顔には、眉毛、目、耳、鼻、口があり、人間と似たような役割を果たす。表情も工夫されており、人間と同じくらいの種類がある。さらに、このアンドロイドには人間にはない機能もついていた。例えば、温度を感知でき、時計が内蔵されており、生物探知も可能であり、方位も解かるといったものなどがある。動力は水素と酸素であり、したがって排泄物は水である。よって、環境にも優しいロボットなのでもある。
そんなアンドロイドはその科学者の手により完成されようとしていた。
「よし、あとはこの部品を外すだけじゃ」
彼はこう呟きながら、胸を膨らませて、完成間近の一体のアンドロイドから、停止機能を司っている部品を外した。
すると、三秒後に、アンドロイドは永い眠りから覚めたように目が光り、まるで自分の目にする光景を不思議に思っているかのように辺りを見回して、一人の白髪の痩せた男を見つけ、独特な機械音の声を発した。
「あなたは誰ですか」
その男は何度も失敗した苦労も忘れて、歓喜の表情でアンドロイドに答えた。
「お前を造った博士じゃよ。わしの名はエドワード・アシモフ。これからお前はわしのことを博士と呼んでおくれ」
「はい、博士」
この会話を聞いて、アシモフはさらに喜んだ。このアンドロイドは会話ができるのである。
アシモフが喜びに耽っている最中、アンドロイドは声を発した。
「博士」
「なんじゃ」
「私の名前はなんですか」
「そうじゃなー」
アシモフはアンドロイドの完成に夢中で、名前のことは考えていなかった。その時、アンドロイドは閃いた様子でしゃべった。
「博士。私は自分の名前を考えました」
「ほう。そうか。たいしたもんじゃな。なかなか賢いのう。では、思いついたのを言ってみるのじゃ」
「名づけて『ルーシー・D・マラリア・ローリング・ザ・ゴエモンマル・やまもと・パンサー』」
「・・・・・・ちょっと長すぎるのう。もっと短くできんか」
「それでは、私の名前は『ヴァ』」
「・・・・・・かなり短すぎる。それに何かセンスが悪いのう。名前というもんは何か意味があるのじゃからのう」
「どんな意味です」
「例えば、良いイメージとか、親しみやすいとか、特徴を表すとか、まあ、親が子供に将来の願いをこめてつけるのが普通じゃがのう」
「それでは、博士が私の生みの親ですから、博士が決めてください」
「そうじゃな、そなたはアンドロイドだから、その能力を生かして、人のために役だってもらうことがわしの希望じゃが」
アシモフはしばらく考えて決めた。
「そうじゃ。永遠の太陽と言う意味で『サンエバー』というのはどうじゃ」
「ありがとうございます博士。私の名前は『サンエバー』ですか。いい名前ですね」
「まあな」
「それで、私はこれからどうしたらよいのでしょうか」
「そうじゃなあ。まずはうまく完成したかどうかわしと生活してみよう」
こうして、アシモフとサンエバーはテスト期間として共同生活することになった。
アシモフは、四百ヘクタールほどの敷地の中に自宅も兼ねた巨大な研究所を構えており、そこにたった一人で住んでいた。家族はなく、七十代の老人である。彼の孤独な生活も、アンドロイドとの生活により、寂しい晩年ではなかった。
彼は、今回製作したサンエバーをできるだけ万能型に近づけるために、あらゆる学問を身につけさせ、読書をさせ、テレビや、ビデオなどを見させた。
その学問は、社会学、心理学、宗教学、医学、文学、哲学、芸術、歴史、科学、技術、国際協力、経済学、法律、経営、語学などといった分野にまたがり、読書は、推理小説、歴史小説、文学小説、SF小説などと、幅広く、ジャンルを問わないものであった。
さらに雑誌や新聞も読ませた。サンエバーは文字を一度に画像処理し、内容把握するため、書物を読むのは一瞬であった。
また、最も重要なことは、体験させることだと考え、アシモフは自分との生活の中で、様々な体験をさせた。
まず、アシモフはサンエバーに最初は何も言わずに料理をさせてみたが、時間が経過しても出来なかった。時間があまりにも経ったため、アシモフはサンエバーに言った。
「ちょっと遅いぞ。どうしたんじゃ」
「それが、なかなかこの材料の重さが予定と合わないんです」
「どういうことじゃ」
「このひき肉を二百グラム分を取り出したいのですが、秤で取ったひき肉が二百一グラムになったり、百九十九グラムになったりします。どうしましょうか」
アシモフはまるで子供に教えるように丁寧に言った。
「料理するときは正確じゃなくていいんじゃよ。要するに美味しければいいんじゃ。だから、量に多少の誤差があってもかまうことはないぞ」
アンドロイドは行動の正確さを要求するように造られているので、このようなことがしばしばおこった。また、アンドロイドは料理したものは食べるわけではないので、様々なバラエティーをもつ料理は苦手であった。しかし、舌の代わりに匂いにはセンサー機能が働き、砂糖、塩、味の素など調味料は結晶の形で区別しており、水と酒の違いはアルコール反応で見分けることができるといったあらゆる機能を使って、何度か失敗を重ねながらもサンエバーはなんとか料理は作れるようになった。
次は掃除である。サンエバーは掃除をするため、たんすや本棚などの家具を全部どかそうとしていたので、アシモフは慌てて言った。
「サンエバー。ちょっと待つのじゃ。タンスなどを動かすのは大掃除のときだけでいいんじゃ。わしの言った所だけ掃除しておくれ。それと、掃除機を使うときには、大きいゴミは手で取って捨て、重要なものがあったら保管しておくれ」
サンエバーは子供のように、とにかく言われるままに行動した。料理、掃除、洗濯の他に、植木の手入れや、片付け、研究の手伝いなどもこなしていた。
サンエバーにとっては初めての経験である。失敗もするが、すべてに面白さを感じているようだった。また、アシモフにとってサンエバーは、今までの孤独感を吹き飛ばしてくれる存在となっていた。
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