第39話 密約
悪役令嬢世界を担当する女神ランは、上司であるロキに呼び出されていた。
まず間違いなく勝手にマリアを生き返らせた事へのお叱りだろう。
女神だって上司に叱られるのは嫌に決まっている。それどころか、今回は事が事だ。何らかの懲罰すらあるかもしれない。
「はぁー」
ため息をつき、憂鬱な気持ちでロキの神殿に入るラン。
しかし……
「やぁ。よく来てくれたね」
意外にも上司のロキは満面の笑みでランを迎えた。
拍子抜けしたランだったが、すぐに気を引き締めロキに尋ねる。
「それで、今日はどういったご要件で?」
「いやー、ランくんはいつもよくやってくれているから、ちょっとねぎらっておこうと思ってね。あ、もちろん君がマリアくんを生き返らせたのもちゃーんと見てたよ。おかげで色々後処理やら何やら、貴重な体験をさせてもらったから」
ランはバツが悪そうに顔をしかめる。
そう言えばロキはこういう奴だった。
直接怒ったりはせずに、ネチネチ嫌味ったらしく逃げ場を奪ってくる。
もう腹を括るしかないと、ランは覚悟を決めた。
「それで、私はどんな罰を受ければ?」
そう言っても相変わらずロキはニコニコとしている。
「嫌だなー、罰なんて。僕がランくんにそんな酷いことするわけないじゃないか。そうじゃなくてさ……君に特別な仕事を頼みたかっただけなんだよ」
「仕事……ですか?」
ランは意外な申し出に頭をフル回転させた。
なるほど、面倒な仕事を失敗の代償にやらせるということか。
多分仕事をこなせばマリアを生き返らせた件についてはお咎めなしとなるわけだ。
気は進まなかったが、ランはやるしかないと結論した。
「どんな仕事ですか?教えてください」
ランの返事を聞きロキは満足そうに頷く。
「僕はね、あの面白い高校生、鈴木修と直接話がしたいんだ。3人の女神で争うはずが、結局彼の一人勝ち。本当に面白い結果だよ。君たち3人には悪いが、今回の勝者はどう考えても彼だ。僕は彼に会って今回の件の勝利を直接告げるつもりなんだ。その時にチート勇者、スローライフ、悪役令嬢ものの三つのジャンルも完全にこの世から消し去る」
「えっ?」
「ん?元からその約束だったよね。勝ち以外の世界は消えるって。……でもさ、それじゃ3人には悪いなぁって。結局3人のうちの誰も勝者にならなかった。結果は完全な部外者である謎の高校生だ。誰の神格も上がらない。しかしそれではあまりにも可哀想だよね。だから今回一番頑張ってくれたランくんの神格を特別に上げてあげようって思って」
「わ、私の神格を上げてもらえるんですか!?」
ランが食いついてきた事に、ロキはニヤリと笑う。
「うん、でも問題が一つある。たぶん僕が鈴木と会って世界を消すのを、ティアとシヴァは勘づいてくる。彼らが邪魔しにくると思うんだよね。あれで実力のある二人だからね、流石に二人一緒だと僕でも面倒だ。だからランくんにはそれを阻止してほしい」
「で、でも、私に2人を抑える力なんて」
「足止めだけでいいんだよ。ほんの少しの間」
足止め、それなら策を練ればできないこともない。
それで神格を上げてもらえるなんて、こんな美味しい話はない。
「……わかりました」
「ふふふ。お利口だ」
こうして、ロキとランの密約が密かに交わされたのであった。
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