第36話 キャンプとは……

キャンプに行こうとは言ったが…


結局マリアが企画したのは、近所の河原での日帰りバーベキューだった。

しかも、

「奥さんも子供さんも誘ってください!」

そうキラキラとした目で言うマリアの言葉を断りきれず、クニミツは渋々了承した。


そしてバーベキュー当日……


これは……どう考えてもキャンプと呼べるようなものではない。


キャッキャと楽しそうに駆け回るクニミツの息子、その後ろを、

「まーてー」

とマリアがニコニコ追いかける。


クニミツとヨシヒコは買ったばかりの焚き火台に網を敷き、肉を焼こうと四苦八苦しているのを、クニミツの奥さんがなんとも言えない表情で見ている。


そうしてついに、


「や、やった!火がついた!」


そう言って子供のようにガッツポーズして笑うクニミツとヨシヒコを見て、クニミツの妻はついに我慢できなくなって吹き出す。


「ぷ。ふふふふ。急にキャンプしようなんて言い出して河原に連れてこられた時はどうしようかと思ったけど、あなたのそんな顔、久しぶりに見たわ。ああーおかしい」


そう言って笑う妻を見て、クニミツはポリポリと頬をかき照れ臭そうにした。


「なんかごめん。君の都合も考えずに連れ出したりして」


そう言ったクニミツに奥さんは驚いた顔をする。


「本当にどうしたの?なんだかいつものあなたじゃないみたい」


「……考えたんだ。俺はずっと家族のために仕事をしてきたと思っていたんだ。だけど、いつしか家族から逃げるために仕事してたんだって気づいた。家のこと、みんな君に押し付けて、すまなかった……だから、今度はちゃんと向き合いたい。君にも、息子にも……」


クニミツは頭を掻く。

クニミツの妻も夫の言葉を聞き、神妙な面持ちになる。


「……何急に…………私もごめん。あなたの仕事が大変だって分かってたのに、なんかイライラして当たっちゃったりして。……こう言うの、いいね!またやろうよ!」


妻の言葉を聞いて、クニミツはびっくりしたが、すぐに満面の笑みになる。


「……そうだな。今度は本当に家族みんなで山に行こう!たまには……仕事だって休んでさ」


「ふふ……期待しないで待ってるね」


そんないい感じの2人を見てヨシヒコはほっと胸を撫で下ろした。

プッシュ

クーラーボックスで冷えていたビールを開けて先にちびりとやる。


「ああー家族ってのも悪くないね」


なんだか望んでいた展開とは違う。

スローライフ担当から友人を外すのは無理だった。

しかしそれよりも、友人が元気になって良かったとヨシヒコは思った。


ずっと走っていたマリアは「はぁはぁ」と息を切らせながら、鈴木の隣に座った。


「はぁ、走りすぎたー。ちょっと休憩!」


鈴木は今回の企画をしたマリアに質問する。


「なぁ、これはキャンプとは違うんじゃないのか?」


「うーんそう言われればそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


とおかしな返しをするマリア。


「……どう言うことだ?」


「うーんクニミツさんが求めていたのは本当にキャンプだったのかってことですね」


とアゴに手をあて、探偵のようなポーズをして鈴木に言う。


「……いやキャンプしたいってあんなに言ってたし」


「……私はさ、クニミツさんが本当に欲しかったのは、疲れた時に安らげる場所だったんじゃないかって思うの。だったらさ、それがキャンプ場である必要はないよね、毎日帰って来る家で安らげて、幸せな気持ちになるならそれが一番!」


「……なるほど……よくわからん」


「もー鈴木くんは鈍感だなー。まぁそこも良いところなんだけどね」


鈴木は楽しそうに笑っているクニミツ家族を見つめた。


「……まぁクニミツさんが、何か良い方向に進めるようになったのは、なんとなくわかるよ……」


「そう!クニミツさんが進むべき道を、大自然とこの私、優しくて可愛いマリアちゃんが気づかせてあげたって訳ですよ!」


そう言ってマリアは土手に咲いていた花を頭に刺してウインクしてみせた。

それを見て鈴木が無言でじーっと見つめていると、マリアはゆでだこの様に顔をカーッと赤くした。


「鈴木くん。そこはツッコんでくれなきゃ恥ずかしいよ!」


「あっ、すまん」


「もう」


そう言ってマリアは一瞬膨れっ面を作ったが、、すぐに我慢できなくなり吹き出して笑った。


「おねいちゃーん。もっと遊ぼうよー」


そう言ってクニミツの息子がマリアを呼んだ。


「はーい、今いくー!ほら鈴木くんも行こう」


「俺も、行っていいのか?」


「もちろん」


鈴木はマリアに手を引かれながら、今日の分のトレーニングがまだ終わっていないのをふと思い出した。


しかし……まぁこう言うのも悪くないと思い、マリアに続いた。


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